トリニティ総合学園──お嬢様方が集う花園。
ゲヘナ、ミレニアムに並ぶキヴォトス三大校の一つ。学園名から察せられる通り、複数の学園が統合して出来た有数のマンモス校である。
ゲヘナを『自由と混沌』とするなら、トリニティはその対となるよう『規律と調和』と言うべきだろうか。
そして、トリニティの一番の特色は生徒会にある。通称『ティーパーティー』と呼ばれる生徒会では生徒会長が複数いる。トリニティが統合される際、主要だった三つの学園。その派閥の代表が現在も学園を統治しています。
フィリウス派代表──桐藤ナギサ様
サンクトゥス派代表──百合園セイア様
パテル派代表──聖園ミカ様
トリニティの中でも所謂『高嶺の花』と称されるような少女三人がトリニティの地を治めていた。
そして、BDによる一日の学業も終わった放課後。トリニティの生徒が部活に委員会、友達と遊びに行く等それぞれの青春を謳歌する中、『ティーパーティー』は今日も優雅に議論を進めていく────。
「だからさー。セイアちゃんにはまだビキニは早いと思うんだよね。あっ、でも歳を考えたらもう成長は見込めないから手遅れかもね☆」
「どうやら機能美というものを理解していないようだね。水に浮くだけに特化した身体じゃあ理解は難しいだろうがね」
「……ミカさん、セイアさん。これ以上話が逸れるようでしたらロールケーキを詰め込みますよ?」
「あはははは………」
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はじめまして、私は灰崎エラです。『ティーパーティー』の専属メイドとして働かせて頂いています。
少々脱線した部分はあったものの、ひとまず落ちついて現在は会議を中断してティータイムです。
私は各方々の空いたカップに紅茶を注いでいきます。
「やはり、エラさんの淹れた紅茶は美味しいですね」
「お〜っと? ナギちゃんのお役御免かな〜☆」
「ミカさん。人をティーポットみたいな扱いをするのはやめて下さい」
「しかし、こうしてナギサがこうしてエラに任せているんだ。ナギサのお墨付きを貰ったことには違いないだろう」
「はい、私もナギサ様のお陰でこうして上達することが出来ました。ですが、まだ道半ば。ティーパーティーに仕えているという栄誉と共にこれからもお嬢様方に最高の給仕をしていきます」
お褒めの言葉を胸に留め、私はそう誓った。
「……ところで、さっきの話なんだけどさ」
何かを思い出したのか、唐突にミカ様が話を切り出した。
「先程……というと議題の内容ではなく、休暇のことですか?」
「そうそう! 結局、夏休みどこに行こうかなーって話」
「はぁ……ミカさんももう少しエデン条約の方に耳を傾けてくださいませんか?」
ため息を吐くナギサ様ですが、ティータイム中の会話だからかミカ様を咎めるつもりはないみたいです。
「だって、今は私がホストじゃないんだし、むしろナギちゃんもセイアちゃんも私が口に出さなきゃ考えようともしなかったでしょ?」
「私が口に出すよりも先に君が我儘を言うのは分かっていたことだからね。わざわざ私から発言することはない」
「あの、今のホストはセイアさんですからね。本来今の案件主導するべきはセイアさんなのですから、ミカさんと一緒に悪ノリするのは謹んでください」
「ナギサには悪いが、私もミカ程にはないにせよエデン条約にはあまり関心がなくてね。連邦生徒会長──彼女からの打診がなければ我々も、無論ゲヘナからも今になって過去の遺物を掘り起こそうとはしなかっただろう」
エデン条約……聞いた話によるとトリニティとゲヘナによる軍事条約。あらゆる事に関して対極的である二校が手を取り合うことを可能とする、まさに夢のような取り決め。
だけど現実は甘くはなく、トリニティでは好意的な反応は多くはない。それはティーパーティーも例外はなく、特にミカ様が属するパテル派閥では表には出さないものの反対の傾向が強い。
「何故彼女がこの条約を復活させようとしているのかは検討もつかないが、しかし彼女が仲介となってくれれば悪い方向にはいかないだろう……ところでエラ、次のゲヘナへの訪問の予定はどうなっていたかな?」
「はい、六日後の午後から──その日は風紀委員会の視察となっていますが、その時にツルギさんも交えて風紀委員長との話し合いの場を設ける予定です」
「ほう……理由を聞いてもいいかな」
「エデン条約が締結された後、条約に沿って動く事になるのはトリニティの正義実現委員会とゲヘナの風紀委員会です。エデン条約が成立する為の条件の一つが両校の戦力が均一なことです。なので、交流も踏まえ対抗戦、又は合同演習を設ける機会を作るべきと提言します」
「悪くはないね。ナギサはどう思う?」
「ええ、確かに懸念していた事項ではあります。ゲヘナの最高戦力も把握しておく必要がありましたので。エラさん、その件はそのまま進めて頂いて結構です」
「かしこまりました。では次に────」
「──って、ちょっと待ったーー!!」
ダンッ! とテーブルを叩いた勢いでミカ様が立ち上がった。
「……ミカ、また学園の備品を破壊しようとするのはやめたまえ。君による被害総額で新しい学園でも建てるつもりかい?」
「そんなに壊した覚えは無いよ!? じゃなくて! どうして三人ともしれっと仕事に戻っているの! エラに関しては新しい仕事のもの出そうとしているし!」
「も、申し訳ありません! つい流れで……」
「いえ、エラさんは悪くありません。今の時間は先程の流れをリセットする目的もありますので。そもそもミカさん達が話を遮るようなことをしなければ今日の業務は終了していた筈でした」
「うっ……で、でも! ティータイム中なのは変わりないよね! ちゃんとメリハリはつけていかないと!」
「君がそれを言うかね…….」
「──っ! し、しかしながらミカ様のお言葉も正しいです。流石に長期休暇は夏からとしても、偶にはミカ様達三人で羽を伸ばす機会を近い内に立てておくことは良いかもしれません」
締結の日が近づくにつれて忙しくなることはわかっている。だからこそ一度羽を休めることは必要だと、なんとかスケジュールの調整を進めてきた。
ミカ様達は派閥は違えど昔からの幼馴染だと聞いた。一度立場をなくして話をすれば、今のティーパーティーの少しピリついた雰囲気も緩和出来るのではないだろうか。
……と、思っていたのですが、何故か三人とも私の方を向いていた。
「あ、あの〜……私の顔に何かついているでしょうか?」
「……何、今の言い方だとまるで私達の休暇にエラが入っていないようじゃないか」
「……? はい! 充実した休暇を送って貰う為に粉骨砕身、不在中の業務は任せて下さい!」
「あの、エラさんは私達の休暇中も仕事をする気のようですが、エラさんも羽を伸ばすべきです。いつもティーパーティーの補佐をして貰っているのですから、エラさんもご一緒に私達の休暇に参加するべきです」
「それとも、意地悪な義姉三人にいじめられてる悲劇のヒロインにでもなったつもりなのかな?」
「い、いえ!? そのようなことは!?」
「ふふ、何、少し揶揄ってみただけさ。あの話の彼女らとは違って、私達はエラには感謝してもしきれない程君の存在を大事にしている──ところでだが、エラ?」
「はい、如何しましたか?」
ふと、セイア様が何かを思い出したかのように私に尋ねだした。
「いや、実に些細なことなのだが、君はトリニティの制服は持っているのか?」
「制服ですか?」
「ああ。そう言えば君の服装はそのメイド服しか見たことがなかった筈だ。君がトリニティに転校のは春──丁度学年が変わる時に合わせてだった。キヴォトスには学園は多くあれど、転校する生徒は珍しいからね。転校した君に支給をしたのかどうか覚えていないんだ」
ああ、そのことでしたか。確かに私の今の服装は所謂メイド服というものだ。
トリニティはお嬢様が集うが、意外にも従者に属する生徒は見たことが無く、メイド服を着ているのもトリニティでは私くらいだろう。
ミレニアムにはC&Cという組織がメイドに扮しているそうだが、勿論私はそこの出身ではない。
「セイア様が私の制服を見たことがないのは仕方のないことだと思います。私も転校した当初は制服を身に纏っていましたが、ティーパーティーの補佐を務めるに当たってより相応しい姿になるべきと考え、今の服装をしています」
「なるほど……いや、別にそんな決まりはないが、今の今迄エラの見た目に違和感を持たなかった」
「確かに……言われてみれば、そこまでしなくても良いと言ってしまいそうですが、初めてお会いした時から凄く似合っていて気にした事がありませんでした」
「ははは……」
「で? セイアちゃんはどうしていきなりそんなことを聞いたの?」
確かに。さっきの流れからどうして私の服装の話になったのでしょうか。
「何、エラに着せる水着について考えたらふと、ね」
「─────ッ!!???」
「どうしましたエラさん!? 急に頭をテーブルに叩きつけて」
「い、いえ……なんでもありません……そ、それで、何故私の水着のことを考えていたのでしょうか?」
「ん? エラは聞いていなかったのか? さっきまでどっちがエラに合う水着を着せられるか口論していたのたが。最も、その後私達自身の話になって話は逸れてしまったが」
あの話ってそういうことだったの!?
あの時の私は書類の整理をしていてセイア様達の話は聞き流していましたけども!
「はあ……セイアさんは大人路線。ミカさんは可愛い路線。変に方向性を考えなくてもエラさんは普通でいいんです。ヒフミさんが着る水着を特定して同じようなものを着せるのが一番じゃないですか」
……あの、ナギサ様? いつの間にセイア様達の会話に入っているのですか? それにナギサ様の内容が一番いけないような気がしますよ。
「こうなったらもう、エラを連れ出してどの水着が良いか試着しに行くじゃんね」
えっ!? そ、それはまずい!
「あの、盛り上がっている所申し訳ないのですが、私は水着になることは出来ません」
「エラさん? それはどういう事ですか?」
「はい。私は肌が弱く、露出の多い服は健康上達控えています。それに……背中にき、傷が残っていまして。ナギサ様らへお見苦しいものを見せてしまうことになります」
「あまりご自身を卑下なさらないで下さい。ですが、そのような事情があるのでしたら無理強いはいけませんね。ミカさん達も、この話題はここで終わりにしましょう」
「……むぅ。仕方ないなぁ」
「ああ。脆弱な身体の辛さは分かっているつもりだ。かく言う私も夏の日差しは流石に堪えてね。海に行ったとしても、与えられた時間の大半はコテージに籠ることになるだろう──なあに、ミカとナギサは私に気を使う必要はない。ところでエラ、君はボードゲームは得意かな?」
「ちょっとセイアちゃん? 何勝手にエラを独占しようとしているのかな? エラにはパラソルを立てたり色々とやることがいっぱいなんだから」
「所詮は雑用の範疇にすぎないじゃないか。それも事前に準備しておけるもので、エラを付きっきりにする程でもないだろう」
「付きっきりどころか介護みたいになっているのは誰のことなんだろうね〜☆」
あっ……いけない。また雰囲気がわるく────。
「ハァ……これ以上長引かせても意味はないですね。皆さん、今日はここでお開きにします。エラさん、片付けの方はお願いしますね」
「──! は、はいっ! かしこまりました」
ナギサ様の一言により、ミカ様とセイア様は不完全燃焼ながらもナギサ様に従いそれぞれの自室へと戻っていった。
──これは後で足を運んで発散させないといけない。
「エラさん、後はよろしくお願いしますね」
ナギサ様も分かっているのだろうか、申し訳無さそうに言葉を残していった。
ナギサ様も退席し、テラスには私一人となった。さっきまであんなに輝いていたテラスがやけに暗く感じる。
「────ッ、ハァ〜〜」
緊張が解け、大きく息を吐いた。
今回はかなり危なかった。次からはなるべく水着の話は避けないといけない。絶対に
「言える訳ないよね。本当は男なんだって」
片付けを進めながら、僕はぼやいた。