本日は以前の埋め合わせの日。再びミカ様の買い物の付き添いをすることになりました。
とは言っても、前回と違って手当たり次第に買っていくのではなく、ウインドウショッピングがメインのようです。場所もモールではなく、トリニティの街を散策するように色々な店を見て回っています。
普段は入らないような店にも足を止め、服を眺めるだけですが新たな発見があったりして意外と楽しい。
……その筈なのですが。
「…………ツーン」
今日一日、ミカ様のご機嫌がずっと悪い。
待ち合わせの場所で合流してからずっと口数も少なく、私の方をあまり見ようとしない。
普段なら街でミカ様が歩けば褒め称えるような歓声や、挨拶をしに近付く生徒がやって来る。だけど、周りもミカ様が纏う雰囲気を察しているのか寄ってくる人はいない。
「わ、わあ〜。この服なんか今の時期にピッタリですね〜。ミカ様にお似合いかと……」
「…………ふーん」
ショーケースに飾られた服の感想を言ってみるが、ミカ様は一瞥をくれただけで足を止めることなく別の場所に向かっていく。
このやり取りがかれこれ一時間以上。休みなく歩き続けるミカ様の目的が私には分からない。
でも流石にそろそろ足を休めたい。何かミカ様の気を引けるものが──。
「あっ! 見て下さいミカ様! アクセサリーショップがありますよ!」
大通りから外れた場所にアクセサリーショップらしき看板が見えた。
確かあの辺りに開いている店は以前は無かった筈。新しく出来たのでしょうか。
「……あ、本当だ」
よし。ミカ様も興味を持ってくれた。
ミカ様はアクセサリー集めを趣味にしている。そして恐らく、あの店はミカ様の情報網に掛かっていなかった筈。見知らぬお店への探究心は、きっと今のミカ様にもある筈です。
「ミカ様、少し寄っていきましょうか」
「まあ、エラがそこまで言うなら」
やった! 後はそこの店がミカ様のお眼鏡に適うかどうか。
期待と不安を胸に、店の扉を開けた。
「わあ〜!」
新しく出来た店に反して、その内装は歴史を感じさせるようなアンティーク調の仕上がりでした。商品も店の雰囲気に合わせた木製の小物や花柄のアクセサリーと、興味が唆られるものばかりです。
「あっ、これとかいいかも」
ミカ様も商品の一つ一つをじっくりと鑑賞して回っている。本来のミカ様の好みとは少し外れているけれど、それでも手に取ってみたりするくらいには気に入って頂けたようです。
かく言う私も、ここの商品は凄く気に入っています。デザインもそうですが、一つ一つが手作業なのでしょうか、同じ品でも表情が違ったりしてお気に入りの物を見つけたくなってきます。
折角ですので、私も何が買ってみようかな。そう思って物色していると気になるものを見つけた。
「これは……インテリアでしょうか?」
目に入ったのは止まり木の形をした雑貨。具体的な用途は書かれてはいませんが、恐らくアクセサリーを掛けるために使うものでしょう。
ですが、ちゃんと止まり木の用途に使っても良い質です。サイズも小ぶりでセイア様のシマエナガさんに合いそうです。
「……セイア様に送ってみようかな」
ポツリと思考が口から漏れ出た。
その時でした。
「ツーーーーーーン!!」
ミカ様のご機嫌が急に悪くなった。
──え? なんで?
「いいんじゃないの? エラに選んでもらったものならセイアちゃんも喜ぶんじゃない? ここに居ない子のことを考えられるなんて、エラってやっさしー」
「い、いえ!? そのようなことは──」
「あーあ! そういえば、エラになーんにも貰ったことないなー!」
「あー! 見て下さいミカ様! この星型のブローチなんてピッタリじゃないですか!」
「……もう似たようなの持ってるし。いらない」
おーぅ。完全に失敗しました。
確かにこの頃、セイア様と行動することが多くてミカ様の相手をする時間が少なくなっていました。
今回のお出かけもミカ様が時間を空けてくださって出来た機会だ。今はティーパーティーではなくミカ様個人のメイドとして振る舞わなくては。
「申し訳ございません。ミカ様。私の為に作っていただいた時間なのに、他の事を考えてばかりいました」
「別にエラの為じゃないし……それにセイアちゃんも最近エラを使いすぎなんだよね。私の話は聞かないくせに。エラもそう思わない?」
「えっ!? い、いえ。私は別に……」
「もー! 少しはこっちの話に合わせてよ!」
パン! と肩を叩かれた。
車と衝突したような衝撃。咄嗟に膝を抜いて衝撃を和らげようとしますが、あくまでそれも気持ち程度。何とか商品棚にぶつからないように吹っ飛ばされます。
「あ、ごめん……」
ミカ様もやってしまったと思っているのか、バツが悪そうに駆け寄ってくれる。
「い、いえ……大丈夫、です……!」
嘘です。打たれた所が焼けるように痛いです。服越しで見えていないけど間違いなく腫れている。下手したらヒビもいってる。
だけどミカ様に罪悪感を持たせないために腕を回して平気だとアピールします。
「本当? もー驚かさないでよ──驚かす?」
「ミカ様?」
ミカ様がご自身の言葉を反芻して何やら考え始めた。
何か引っかかることがあったのでしょうか。嫌な予感がありつつも、ミカ様の言葉を待つ。
「そうだ! ねえ、エラ。ちょっと協力してくれない?」
「……えっと、何にでしょうか?」
「セイアちゃんをビックリさせるの!」
私は天を仰いだ。これは、どうするべきか。
「エラがセイアちゃんの気を引いてる間に、私が背後から驚かすの! エラのつまんないギャグに、セイアちゃんはどうしてか笑ってたから上手くいくと思う!」
「あれは忘れてください!!」
セイア様との夜の会合があった日の翌日。私はセイア様に宣言した通りに渾身のギャグを披露しました。
結果は大滑り。ナギサ様とミカ様が信じられないような目で私を見たことが忘れられません。事情を知っているセイア様だけが顔を俯かせ肩を震わせていました。
「セイアちゃんって何でも知ってますよ、みたいな態度でいるからね。ちょっとしたサプライズだよ」
セイア様って予知夢があるからサプライズ系って通じないような……。
「いーっつも上から物を言ってきてさ。たまには痛い目を見ないとね☆」
………………。
「セイアちゃんも弱っちいから配慮してたけど、エラが大丈夫ならもう少し強めに叩いてもいいかな?」
………………。
「後は演出かなー? 後ろから叩くだけならただの不意打ちだし。驚かすなら派手な方がいいよね! だからさ、エラ。貴女も何かいい案を──」
「それはいけません。ミカ様」
ミカ様の手を強く握り、ゆっくりと首を横に振る。
「サプライズやドッキリ。そのことに異論を唱えるつもりはございません。ですが、人を傷つけてしまう方法をとってはいけません」
「……なにさ。エラはセイアちゃんの味方な訳?」
「いいえ。そうではありません。傷ついてしまうのはセイア様だけではありません。むしろ、より傷ついてしまうのはミカ様の方です」
「私が……?」
「はい。ミカ様は少し驚かしたいだけだと思いますが、予想外の出来事というものがあります。ミカ様が想定してないことが起こってセイア様に何かあった場合、一番にショックを受けるのはミカ様です。"こんなつもりじゃなかった" ''ただ驚かせたかっただけ"と。自責の念に押し潰されてしまいます──そんなことはセイア様もきっと望んではいません」
「…………なんか、やけに言葉に力が篭っているね。もしかして、実体験?」
「…………はい」
実際には
罪の意識に囚われた人は赦しの言葉では解放されない。心の何処で意識がまだ残っていて、次第に相手との距離間がわからなくなってしまう。
ミカ様とセイア様にそのようなことが起きてほしくない。
「……あーあ。何かやる気が削がれちゃった。いいよ、もうエラには頼まないから」
怒らせてしまった。でも、こればっかりは譲れない。
ミカ様に私の思いが届いているといいけれど。そう願いながら、私は店から出て行ったミカ様を追いかけた。
sideミカ
「何さ。やっぱりセイアちゃんの肩を持ってるじゃん」
夜。部屋に戻ってベッドに身を投げる。バタバタと足を動かしながら、今日のことを思い出す。
「だいたい、エラも大袈裟なんだよね。ちょっと驚かしたいだけって話にのに」
でもエラの言い分も一理ある。うっかり私が力加減を間違えちゃったら目も当てられない。
どっちにしろ、エラを使うことは出来なくなっちゃった。私一人じゃセイアちゃんにすぐ気付かれるだろうし、誰か協力してくれそうな人なんて──。
「────あ」
いた。
セイアちゃんが知らない。いや、ナギちゃんもエラだって知らない。私の秘密のお友達。あの子達に任せれば。
それに上手くいけば私の望んだことが実現するかもしれない。
「──よーし!」
私は早速電話をかける。もう遅い時間だけど、彼女なら。
「────私だ」
「あっ、こんな時間にごめんね☆ ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
私はドッキリの内容を説明する。彼女は何の反応もないけれど、興味は持ってくれている筈だ。
「だからさ、お願いできるかな──サオリ」