深夜のトリニティ総合学園。静寂で包まれた時間帯だけど、今は異様な慌しさが覆っている。
「学園全域に警戒線を張れ!!」
「セイア様を襲撃した首謀者はそう遠くには行っていない筈だ!!」
「絶対に逃すな!!」
正義実現委員会の方々が学園中を駆け回り、一人一人が臨戦態勢に入っている。
理由は明白だ。ティーパーティーの現ホストであるセイア様の部屋が爆発したのだから。
だけど、あの侵入者は既に学園を離れているでしょう。今晩のパトロールは数名で行われていました。緊急事態で全委員が招集されたとしても、その間に包囲網を抜けることは容易だ。
そして、同じくパトロールしていた私はと言うと……。
「フフフ、彼女達を相手にかくれんぼとは……中々スリルがあるじゃないか」
「すみませんセイア様。もう少し静かにお願いします」
セイア様を背中に乗せ、巡回する正義実現委員会の方々の目を盗んで学園からの脱出を図ろうとしています。
本来なら私もあちら側に居るべき……ですが、セイア様の命により、彼女達から身を潜めなければなりません。
「時期にツルギやハスミも来るだろう。その前にここからでなくてはいけない」
「ええ、そのつもりです」
恐らくどこかに侵入者が使用した経路がある筈。そこを使えば簡単に出られると思うけど、探す余裕はない。
そして、今は入り口の近くに居るけれど、見張りが一人居て動けそうにない。
私だけなら姿を現せばいいだけ。けどセイア様と一緒には無理だ。
何か気を惹かせるものがあればいいのだけれど……パッと見た感じ見当たらない。彼女を気絶させるのも手だけど、いくらなんでも申し訳が立たない。
「──チュン」
どうすればいいか悩んでいると、見張りの前にセイア様のシマエナガさんが降り立った。
「この子は──セイア様の鳥!?」
「チュン」
「あっ!? 待って!?」
シマエナガさんが飛び去っていくと、見張りの人は追いかけていった。
「よし、今だ」
「え……あっ、はい」
困惑を隠せないまま、私はトリニティを後にした。
誰にも見つからないまま、何とか自宅に戻ってきた。
私は急いでセイア様をベッドに寝かせて額に手を当てる。
「──やっぱり。熱がある」
おぶった時から違和感はあった。あの爆発の影響でしょうか。でも私には異変はない。
本当はもう少し早く自宅に着きたかったけど、人気のない道を選ばざるを得なかった以上、どうしても時間がかかってしまった。
「セイア様、少々お待ちください」
私はキッチンに行き、氷枕と濡れたタオルの用意をする。市販の薬はあるけれど、今のセイア様の症状に適したものかが分からない。
こういう時、すぐに処置出来る知識があればと、自分の不甲斐なさを痛感する。
「……そうか。ここは、エラの部屋なのか」
セイア様の元に戻ると、セイア様はベッドから身体を起こして辺りを見渡していた。
「──ッ!? セイア様!? まだ安静にしないといけません!」
「……ああ、心配をかけたようだね。でも少し休んだおかげで今は楽になっている。それに君に話さなくてはいけないこともあるからね」
「話は翌日でも構いません。今はゆっくりとお休み下さい」
私は枕を入れ替えてセイア様を寝かせようとしますが、セイア様は私の手を押し返して首を横に振った。
「すまないが、今話させてくれ──正直、今眠りに着くのは……怖いんだ」
「……それは、予知夢に関することでしょうか」
「察しが良くて助かるよ……」
私はセイア様の手を元の位置に戻すと、その場で正座する。
少なくともセイア様の話を聞かないとセイア様は休んでくださらない。それに、私も今回の件はすぐに知りたいのは事実だ。
「そうだな……まず予知夢の結末を言うなら、今夜──いや、昨夜と言っておこうか。どちらにせよ、あの時私はあの部屋で死ぬ筈だった」
セイア様から告げられた予知夢の内容に、私は言葉を失った。
けど、普段通りの調子で話すセイア様を見て、私は何とか口を動かして質問を投げかける。
「…………それは、あの侵入者の方にでしょうか……?」
「ああ、そう捉えていい」
「ですが、殺そうとするなんて一体どうやって……?」
「確かに、私達はそう簡単には死なない。君は例外としても、もし今私が頭に銃を突き付けて発砲したとしても、精々気絶が関の山だ」
セイア様はそう言って、手で銃の形を作って発砲する仕草を見せてくれる。
「……だが、方法がない訳ではない。例えば、有りったけの弾薬を撃ち込み続ける。人によって程度は変わるが、私ならそこまで時間は掛からず限界を迎えるだろう。後は水没、首締め等により呼吸を断つ。当然だろう。呼吸無しで生きてられる生物はいない」
「でも、それは可能性の話です」
「ああ、そうだ。今のは一般的な推論だ。流石にそこまですれば死ぬだろうという憶測に過ぎない。何故なら私達は死を知らない。ヘイローが砕ければ命を失うことを分かっているだけで実際に試した者はいない。案外、私達は自身について知らないことだらけだ。だからこそ、今の銃社会が出来上がったのだろう──だが、もしヘイローの破壊に特化した武器があるとしたら?」
「それってまさか──あの爆弾ですか!?」
私はセイア様の部屋で起きた爆発を思い出す。実際に爆発物をみた訳ではない。でも部屋一体を吹き飛ばす威力なら手榴弾と同等のものと見ていた。
確かに至近距離で受けたらタダでは済まない。でもそれは暫く入院が必要になる程度で、命を奪う程ではない筈。私ならともかく。
セイア様が出した例を参考にするなら、最低でも建物全体を吹き飛ばすくらいの威力は必要になるけれど、手持ちサイズでその威力を出すのは今の技術では不可能だ。
「彼女は"ヘイローを破壊する爆弾"と言っていた」
「ヘイローを……」
「そんな代物を作る技術がどこから生えてきたかは知らないが、私の予知夢には彼女が銃を向けてきた景色は無かった。だから自然と彼女の話に嘘が無いと理解出来たよ」
「…………話は分かりました。ですが、一つだけお聞かせ下さい」
セイア様の話はまだ途中だ。
話は最後まで聞かないといけない。でも、どうしても我慢できなかった。
「どうして、助けを呼ばなかったのですか?」
そもそも、今回の事件は未然に防げた筈だ。セイア様の周りの警護を強める。そうするだけでも誰かがより早く侵入者の存在に気付けたと思う。
でもそうはしなかった。むしろ、侵入者の話を聞く為にわざとやったとも思ってしまう。
あの部屋の中で、自分を殺しに来た相手を招くような真似を何故したのか。私は知りたい。
「……意味が無いからだよ」
セイア様は普段通りの調子で答えた。
「私はあの光景を何度も見てきた。その度に私はうなされていたよ。私が未来を変えようと試さなかったと思うかい? 私なりに出来ることはしてきたつもりだ。だが、予知夢の内容は変わらなかった。だから私はあの夜を終着点なんだと悟った。どうせあそこで終わるなら、私を殺しに来た彼女と話をしてみたかっただけだ。護衛がいては、二人きりで話せないからね」
「……あの方とどのような話を」
「別に……人を殺しに来る心境はどんなものか尋ねただけだ。最も、私には理解出来ないものだったがね」
「……それは、少し違うと思います」
「…………何?」
セイア様の話に違和感があった。予知夢に関することは間違いではないと思う。
だけど、侵入者に関して私は少し対峙しただけだったけど、セイア様が話すような人ではないと感じた。
「確かに、セイア様があの方と話をしたかったのは本当なのでしょう。でしが、話の内容は違っているのではないでしょうか」
「…………何故、そう思う」
「私はあの方をセイア様に危害を加える侵入者として敵対しました。ですが、彼女はセイア様を人質には取らなかった。最初はただ単にその行動を取れなかったと考えましたが、例の爆弾の存在を示唆すれば十分抑止力にはなった筈です。それに爆発の前、あの方は私達の身を案じる発言をしました──これは私の思い込みかもしれませんが、あの方はセイア様を殺しに来た訳ではなかったんじゃないですか?」
セイア様は目を閉じて私の問いには答えてはくれなかった。
だけど、暫くして観念したようにため息を吐いた。
「……君は探偵にでもなった方がいいんじゃないか」
「人より夢見がちなだけです。ただそうだったら良いなと」
「……私も、そういう風に夢を見れたら良かったのにな」
セイア様は再び目を閉じた。
「わかった。君の推理力に免じて、本当のことを話そう」
「本当のことですか?」
「ああ。まず、私を襲った侵入者。彼女のことを話そう。侵入者の正体──名は白洲アズサ。アリウスの生徒だ」