ガリオン生徒概念 作:哲学の階司書補見習い
お茶会はそれからも定期的に行われた。
組織の長以外を招待したこともあったが、名無しにとってガリオンの神秘はあまりにも強大すぎた。
「茶の薫りを楽しみながら話に花を咲かせたいだけというのに、この力は面倒な物だ」
ガクガクと怯え震える風紀委員行政官と万魔殿書記を見て呟くガリオン。
力の差から来るものなのか、それともガリオンの内にあるなにかへの根源的な戦慄か。
蛇に睨まれた蛙のようになった2人を眺めながらふと思い起こす。
彼女がこの世界に生まれ落ちたときには、自身が透き通る青春にとっての不純物であると理解していた。それと同時にこの世界における力というものが何なのかも。
彼女はその時己を呑み込んでしまった。最初にして最悪の悪行。
彼女は"恐怖"を受け入れない。
好奇心の対価を支払うことを良しとしなかった。
故に彼女はどこまでも残忍であり、強大であることが出来る。
そして、それを受け入れないがために、本来猛毒であろうとも手に取り弄び、己の力の一端として振るうことが出来る。
この世界の生徒であると同時に、その名前には調律者としての資格があるから。
カップが1つ空になってなお、2人の目の前にはなみなみと紅が揺らめいている。
ガリオンはティーセットから茶葉を小瓶へと取り分けると、2人に差し出した。
「今日はもう帰るといい。安心できる処でその薫を楽しみなさい」
彼女なりの優しさなのは確かだが、心臓を掴まれたような威圧感と紅茶の香りが結びつきつつある2人にとっては、少し酷なことだろう。
絞り出すようなか細い感謝の言葉を受け取ると、2人が去るのをただただ眺めていた。
それからガリオンが高等部に進学するまで、お茶会に招待されるのはそれぞれのトップだった。
ある時風紀委員長が多忙なため代役を立てたが、例によって軽いトラウマを植え付けられていた。
そんな経緯もあって、万魔殿と風紀委員にはお茶会の招待を受けた者は最優先で参加すること、という決まりが出来た。
風紀委員に関しては最高戦力が鎮圧に参加出来なくなることによる問題が発生するかと思われたが、どうしても手が回らない時にガリオンが協力することをなんとか取り付けることで、損害を減らしている。
気に入った力無き者が知恵をこらしてなお、自身に助けを求めることを選んだという事実に、ガリオンはかなり満足していた。
一部の委員からは恐怖の対象とも取れるような相手であり、素性もよく分かっていないにも関わらず、それを最善手として選択した判断に風紀委員長の強さを感じ取ったからだ。
議長はお茶会でのガリオンの発言を気にとめており、自身にできる限りの備えを努めていた。
特に『過ぎ去った入道に盲従する嵐』を雷雲、つまり雷帝と解釈し、反雷帝派閥に遺産の捜索及び解体を要請した。
それをきっかけに、ある生徒がお茶会の招待を受けることになる。
それが後の万魔殿議長である羽沼マコトだ。
─────
「お前が鎮ガリオンか、雷帝をやったのはお前なのではないかとこちらでは噂されている」
ガリオンに恐れをなさないどころか強い意志を持って鋭い目を向けるマコト。
他の生徒と全く異なる振る舞い、雷帝に歯向かうだけはある、感心するガリオン。
「さてどうだろうね。私は此処に在るが為に、お前達の流れ往く先に惹かれたのだよ」
「それだけの力があるのならこのゲヘナの頂点に座る事も出来ただろう。雷帝を打ち倒してなお今の位置に拘るんだ」
「言った通りだよ。それとも、お前が其れを望むかい」
「お断りだ、そんなもの。自由で個を持ってこそのゲヘナだ、少なくとも私はそう思っている」
「故に、苦痛を伴ってなお雷帝に抗い続けた」
紡がれる言葉の応酬、紅茶の香り、意志のこもった視線。その全てがガリオンの心を踊らせる。
「お前が作る流れの行き着く先を、私はひどく楽しみにしているよ」
「キキッ。良いだろう、この私が真なるゲヘナを作る所を特等席で魅せてやる」