ガリオン生徒概念 作:哲学の階司書補見習い
「万魔殿の議長に強く推されて来たけど、本当にただのお茶会とはね。場所以外は、だけど」
マコトとのお茶会から少し経った頃。もうひとりの生徒がガリオンのもとを訪れた。
鬼方カヨコ、後の便利屋68に所属する生徒だ。
彼女は対面してすぐ、ガリオンの異質さに気がつく。
この世のものならざる様な、その内に惹き込まれれば帰って来られない黒への忌避感。ずっと喉元を触れられているような圧。雷帝でさえ感じることのなかった『死』の一文字が脳裏に浮かぶ。
見えてしまったが為に、手の震えを抑え平静を装おうとも、瞳の奥に怯えを隠せない。
それを誤魔化すように目を閉じてカップを口に運ぶ。どこで知ったのかカヨコ好みの香りと甘さの紅茶に、つい美味しい、と言葉が零れる。
「気に入って呉れたかな。茶もまた良いものだろう?」
「そうね、好みに合わせてくれたのは嬉しいけど……」
誰かと話すこともなかった自分の紅茶の好みを把握されている薄気味悪さに苦笑するカヨコ。
そんな会話もアイスブレイクにはなったのか、ガリオンへの恐怖心が多少和らぐ。警戒は留めたままに。
「お前の眼は私の姿を正しく映しているな。不安や怯えは人として在るべき揺らぎ。それを確固たる意志で表出させないで居る」
「議長がほとんどの生徒じゃまともに会話にもならないって言ってたのがよく分かった。はぁ、面倒事押し付けられっちゃったかな……」
鎮ガリオン。ひとりで雷帝を打ち倒したと噂される生徒。側近をものともしなかったことが推察され圧倒的強者であること伺える。力の弱い生徒では対面するだけで精一杯、彼女曰く抑えてはいるらしい。紅茶を大変よく嗜む。比喩や遠回しな表現を好んで使う。自分にとって面白そうなことには協力的。気に入った相手にはかなり甘い。
議長から聞いたプロフィール通りの厄介な人物。もし敵対したら間違いなく面倒なことになる。カヨコはそんなことを考えなら様子を見ていると、ガリオンが口を開く。
「時に鬼方カヨコよ、お前に今のゲヘナはどう見える。稲妻に焼かれた荒野、其れとも渾沌を閉じ込める為の檻か。今のお前の見る景色を教えて御覧」
カヨコはその問いに思考を巡らせる。
雷帝の爪痕は確かに残っているが、打ち倒されたことで起こった変化は大きい。鉄と血によって閉ざされていた暗いゲヘナのままでは無いだろう。
「……私は、草原だと思う。これから朝日が昇る、オレンジに照らされた草原。雷帝が遺した物は確かにある。だけどきっと今までより明るいと思う」
荒廃した暗闇でも苦痛だけの地獄でもない。これからこの学園にやってくる後輩達は、自由にのびのびとしていて欲しい。そんな想いを込めて。
その為に苦しみを伴いながら歩いてきたのだから。
「善い答えだね、お前の内にある世界はきっとそうなのだろう。力の限り足掻いて御覧。全てを呑み込まんとする濁流から砂粒を掬い上げる様な苦難に見舞われようと、求むる先を手繰る様労くのであれば、お前を扶くことも在るかもしれないね」
「それは、どうも……あなたは、ガリオンはゲヘナをどう思ってるの?」
「遺された玩具の行く先、幼子は私を此処に留める楔。私がひとつを崩した箱庭で、流れ込む者を唯眺めている。私が記した物語は既知のもので在るから、混沌を受け入れお前達が刻む時の行方を知りたい。幼子には私の持てる物を一部託したが故に、其れが齎す頁を開く事は私の欲を満たすだろう」
カヨコはガリオンが語り出して数秒で若干の後悔を抱いた。雰囲気で情報を抽出しようにも、曖昧かつ彼女のみが知っていることを織り交ぜているせいで、余計に何を言っているのかが分かりにくい。
雷帝がゲヘナに遺した、ある意味での真の遺産。それについてガリオンは見守る、と最期の時に発言した。これを知っているのは消えた雷帝とその側近。情報は彼女の神秘によって痕跡を残していない。
カヨコが解釈に頭を悩ませていると、気付けばカップは空になっていた。するとガリオンは懐から水筒を取り出しカヨコのカップへと紅茶を注ぐ。
「随分と疲労を溜めているようだね、蜂蜜を落とした甘めの紅茶も此処に在るが、如何かな?」
「気が利くね……出来れば疲れるほど頭を使わなくて済むようにして欲しかったけど」
差し出されたカップに口をつけると、くどくないまろやかな甘みが流れ込む。林檎のフレーバーが鼻腔をくすぐり、頭がスッキリとしてくる。これもカヨコの好みから外れておらず、改めて不気味さを感じることとなった。
それからガリオンから質問が飛ぶこともなく、お互い紅茶と茶菓子に舌鼓をうち、その日はお開きとなった。
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お茶会からの帰り道、カヨコはばったり現万魔殿の議長と遭遇した。いつも通り疲れた様子の議長に、持ち帰るといい、と持たされた茶菓子の残りであるクッキーを差し入れる。
「すまないな、鬼方。そっちこそ鎮とのお茶会で疲れてるだろ?」
「楽では無かったけど……雷帝への抵抗を続けるよりはずっとマシ」
「そりゃ違いない、同感だな」
カラカラと笑う議長に口元を緩めるカヨコ。
なんでもないゲヘナの日常は、たしかに戻りつつあった。
遅くなって本当にすみません。
体調崩したり忙しくしたりしてました。
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