少し騎士のアリスにキャラ崩壊が見られます、ご了承ください。
どうして、どうしてこんな事になっているんだ。
「こら、動くんじゃありません!」
「だ、だってなんかこそばゆいし…」
「もうすぐ終わるので我慢なさい」
駄々を捏ねる子に向けるような叱責。そんな叱責を飛ばしたアリスはその割に機嫌が非常に良いのだ。
鼻歌混じりにサラサラとした艶のある長い黒髪に指を通し、手に束ね、編みこんでいく。
そんなアリスの玩具と化している長い黒髪の主は何を隠そう、この俺。真っ赤な顔を両手で覆い隠す俺を椅子に腰かけさせ、背もたれに掛けるように流した黒髪をアリスは後ろで楽しそうに弄っている。
「どうしてこんな事に…」
「まあまあキリト、綺麗だし良いじゃないか」
「綺麗ってお前…」
ユージオめ、自分は関係無いからって呑気にしやがって。元はと言えばお前が…───
──家で皆とどこかしらの帝国のよく分からないけど美味い紅茶を楽しむまったりとした昼下がり。
「んくっ…はぐっ………」
口に含むとふんわり広がり鼻腔を抜けていく、柑橘系を連想させる様な爽やかな香り。そして舌に残る仄かな茶葉の渋みには蜂蜜をたっぷりかけたアリスお手製のふんわりとしたパンケーキの味がよく合う。
「ん…………あ~………幸せだなぁ…」
「本当に…ツーベルクの腕は流石ね」
「サーちゃんは焼く時に熱素で炙って時短しようとするの早くやめなさいよね…」
「善処します…」
どこかでアリスに料理教室もしてもらうのもアリかもな…、なんて笑い合いつつ流れていく心地の良い時間。
全員が背もたれに寄りかかって力を抜いていると、ユージオは「あ、そうだ」と思い出した様に体を軽く起こして俺に聞く。
「なあキリト、今更かもしれないんだけど…、あの時に君がいつの間にか羽織っていた黒い服はなんだったんだい?」
「黒い服…?」
ズズズ…。と背筋を曲げてだらしなく紅茶を啜っていたところに、ユージオからいきなり投げかけられた問い。
外からは家に程よく陽光が差し込み、暖かい空気を醸し出している。そこから誘われる眠気によって、頭の中はふわふわしてているからいきなりそれに答えろというのも正直無理な話だ。
「ほら、元老長と最高司祭の時のアレ…。ぼんやりだけど僕も見てたんだ、キリトの服が変わって裾が靡いていたのを」
「ん…あぁ、あれか」
よっこらせ…、と俺も身体を起こし手にした茶器を机の上に優しく置く。
ユージオの言いたいのは恐らく、俺の心意の力によって呼び起こされたSAOの時の装備だろう。
アレは俺が魂を賭けて戦ったあの天空城での正装であり…世界は違えど、同じく魂を賭けて戦う機会によって無意識下で呼び起こされた物が現実になった為だろう。
「…俺は昔、ここじゃない世界で2年ほどずっと命懸けの戦いをしてたんだ」
「前言ってたアレかい?
「うーん、またそれとは違うかな」
ユージオとアリスには細かい事やここがリアルによって造られた世界である事を一部隠してはいるが、予め俺が現実世界から来ていることは伝えてある。だからリアルワールドについて一部理解はしている。
ただアインクラッドに関してはまたリアルワールドの仮想世界の一部という別の世界だ。
仮想世界だなんて概念を0から説明するには拗れて難しく、俺は腕を組んで唸るしかない。
「………あー、そうだ。俺は旅をしてたんだよ」
「旅?君がこの世界を離れていた間にかい?」
「そう…いうことにしとくか。んで、俺は最後にまたここへ帰ってきたって事だな」
「お調子者のキリトが一人で旅ねぇ…なんか色々やらかしちゃってそうで不安な感じしちゃうわよ」
「うるさいな…俺だってやれる時はやれるんだよ」
よいしょ、と椅子から立ち上がり俺はユージオ達に向き直る。
そうして手短に始まるのは、俺の巡ってきた世界の数々とその世界での
戦いの記憶を辿ると、キラキラとした光が今来ている黒いシャツと薄めの軽い半ズボンを覆い隠していく。気付くとさっきまで付けていなかった指抜きと《ブラックウィルム・コート》と呼ばれていた、とあるプレイヤー製作の思い出深いコートに身を包んでおり、2人からはおおー…と言った声があがる。
「ま、これがアインクラッドって天空城で命を賭けて戦ってた時の服装だな…剣だけで神聖術の無い世界、ここが1番俺の人生に影響を与えたんだ」
「あ、アインクラッドって…!そこがキリトの使う《アインクラッド流》の総本山という訳かい!?」
「そうそう、そこで俺達は剣技を磨いてたんだ」
まあ、剣術を考えたのは全部茅場だけどな。でもアイツが師匠か…う、チートでアイツに負けた挙句血盟騎士団入りさせられた嫌な思い出が……
「キリト!?コートの色が変わってるよ!?」
「あっ、やべ…」
ユージオの焦った様な声にコートを確認すると、いつの間にかコートが赤と白を基調にした《血盟騎士団》時代の色になっており、急いで心意を働かせて色を戻す。
「似合ってはいたけど、キリトには黒の方が良いね」
「どの道中々様になってますよ…。戦いの際はずっとそれで良いのでは?」
「見た目だけで防御力はアレだけど、鎧は動きにくて苦手だしそうさせてもらうよ」
「それにしてもキリト、真っ黒すぎない?ダークテリトリーの暗黒騎士みたいよ」
「当時はブラッキーとか黒の剣士とか変な異名もついてたしな…」
今あの頃を振り返るとちょっと思春期ならではの恥ずかしい黒歴史みたいな物も混じっててこそばゆい。だが、悪いこともあったし良いこともあった、忘れられない良い思い出だ。
「んで…そこから俺はまた別の世界に移ったんだ、妖精郷って所にな」
そして俺は心意により衣替えをする。大剣を背負っていたのが懐かしい記憶である、引き継いだばかりのオールバック髪と黒の初期装備スプリガンの姿。そしてもう一度衣替えを挟み、少しボサつきの残る頭にSAOの頃よりかは幾分か簡素な見た目をした黒のコート姿に。
そして何より特徴的なのは、背中の薄い黒い羽根だ。
「羽!?キリトって虫なの!?」
なんてこと言うんだアリス。という言葉を飲み込み、俺は説明を続ける。
「ここは凄かったな、背中の羽根で空を自由に飛べたんだ」
「へえ…!それは雨縁みたいに飛ぶのか?」
「翼じゃあるまいしそんな雄大じゃないって、でもそれくらい速いぞ」
だが残念ながらこの世界では羽根だけでは飛べない、羽根に風素を纏わせて擬似的に飛ぶので神聖力がないと駄目なのだ。
「…それにしても曲芸の様な心意の使い方をしますね」
「それぞれ思い出深いから意外と簡単だぜ?最高司祭から受け継いだ心意の力は強大だしな」
「強大とはいえ疲れるだろ?」
「余裕余裕!こんな姿を変える程度なんて一日中いられるぜ」
「心意を私的に利用するなんて贅沢な輩は貴方くらいですよ」
実際心意は便利だ、風呂掃除も洗濯も皿洗いだってこれ1つで出来る!ちなみにアリスとユージオからはズルいから手でやれと言われて怒られているので今はやってない。
「んで、この世界に帰る前に行ってた世界が……………………」
《GGO》こと、《ガンゲイル・オンライン》。
そこは剣と魔法で戦うファンシーな妖精たちの世界から一変、銃と銃でお互い最後の1人になるまで殺し合うような血みどろの泥臭い世界。
いや別にこの世界に存在しない銃の説明は良いのだ、仕組みは簡単だからすぐ出来る。
問題は…俺の見た目にある。
ああ、嫌という程覚えておりますとも。あの時ムキムキなソルジャーを夢見てコンバートして、街中のガラスで初めて自分の姿を見た時の衝撃を。
銃撃戦を舐めてるのか?と言いたくなるくらいに艶めき靡く黒長い髪。戦いを知らなさそうな白く透き通った肌。気迫もへったくれも無いぱちくりとしたつぶらな瞳にきゅるんと伸びるまつ毛。銃撃ったら反動で折れるだろとツッコミたくなる細長い手足と指。
なんならSAOの次かそれと同じくらいに鮮明に覚えている迄ある、あの時の姿は。
うーん、無理だ。俺は見せたくない。恥ずかしい。からかわれる。
「キリト、まだ?」
「水臭いぞキリト、どんな世界なんだ?」
「…焦らさないで教えてください、お前の旅を」
俺のそんな葛藤も知らずに急かす若者共。
こうなったら、俺の最終手段を見せるしかない!
「………いやぁ!忘れちゃったなぁ!どんな世界だったかこれっぽっちも思い出せないぞ?」
頬を掻いて爽やかな笑顔で誤魔化す。これが最終手段であり一番の正解であるのだ。
「サーちゃん、頬をかきながら苦笑いしてるのはキリトが嘘ついてる時の顔よ。昔の私たちアレで何回か騙されたの」
「剣の腹で頭を叩いたら言うかしら、少し待ってて」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
「キリト、お前変わらないな…」
無理だった。細かいことの記憶は流石に思い出せないが、アリスとユージオの反応からして幼い頃の俺は相当やってたらしい。
仕方ない、世界観と銃の説明だけして姿を誤魔化す方針で行くか…
「分かったよ説明するから…まず銃ってやつの説明から──」
俺は鋼素で作った筒の中に風素やら熱素をぶち込んで…などと適当にそれっぽい説明をしつつ、命をかけたやり取りを続けた事も語る。
知り合いは1キロル以上先から敵に気付かれることなく一方的に射抜けると話すと3人は流石に驚いた様子だった。
「ちなみにそんなとんでもなく速い死を纏う鋼素が飛び交う戦場の中で、キリトはどのような戦い方を?」
「え?剣だけど」
「はい?」
「えっ?」
「こう、来そうだなって所をある程度予想しといて、食らったら死ぬ!ってやつだけ上手く弾いて近づいてズバッと…。いやでもある程度分かるんだよ!こう赤い予測線ってやつを辿ってくるから、でもその予測線から法則とか勘で見えなくてもなんとか弾いたり避けて…」
「ちなみに切れなかったら…?」
「そりゃ死ぬやつだけ切ってるから切れなかったら死ぬだろ」
「「「?」」」
残念ながら俺の戦い方は理解されなかったが。
「まあそんな世界を経て、俺はここにまた帰ってきたって訳さ」
「ところでキリト、お前いつの間にか服が普段着に戻ってますが先程の世界ではどの様な見た目を?」
上手く話を流し終えて安心していたが、アリスには俺が話の中で心意を解いて普段着に戻っていたことはしっかり気づかれていた。
「キリト、諦めなよ…。そこで何があったか知らないけど、僕達はどんなキリトでも受け止めるから信じて話してくれないか?」
「え?」
「そうよ!別にキリトがどんな見た目をしてても私達は別にあんたの事嫌いになる訳ないでしょ?」
「ちっ、違………いやそんな別に重い理由は………」
「キリト…お前がそんなに言いたくないことを私は脅して無理やり聞こうとしてしまって…………」
あー痛い!心が痛い!そんなんじゃないのに!
「あーもう!お前ら、笑うなよ!?絶対に俺の姿見て笑うなよ!?」
「笑う訳ないだろ、僕達は相棒なん……だ………」
「笑わないわよ、キリトはキリトだ……か………」
「………キ…キリト?」
俺の全身が光に包まれ、見知らぬ少女の姿が顕になった瞬間に真面目な顔をして話していた口と目を大きく開けて黙りこくったアリスとユージオ。
長い髪はあの世界とは異なり、俺の頭を重量通りに押さえつけてくるため少しどころか結構重い。
視線を下に落として白く細い手指を見るだけであの頃を思い返す。
装備もこれまでのコート調とは違う、胸部に金属プレートのある動きやすさ重視の服装。
鏡を見なくとも分かる。しっかりあの頃の姿は完璧に再現されているだろう。
「わ、笑うなよ………」
「…き、キリト、だよな?」
「そうだよ、お前の相棒だよ」
指先で長く伸びる横髪をクルクルと巻き付けながら困惑する様子のユージオに対してぶっきらぼうに答える。
STLのおかげか髪はあの頃よりもサラサラで細かくなっており、色々諸々綺麗さに拍車がかかっていそうなのが尚更腹立たしい。
「き、キレ~………キリト、女の子になったの?」
「男だよ!見た目が女なだけで!」
「ほ、本当に?女の私から見てもこんな可愛い女の子見た事ないわよ…?」
「死ぬほど嬉しくない…」
「てかサーちゃんがさっきから反応無いんだけど…」
「俺の変化に驚き過ぎて気絶したか?」
「さあ…あ、起きっ」
「すっごくかわいい!!!!」
ツーベルクに割り込むように覚醒したサーちゃんの方のアリスが目を輝かせて放ったそんな言葉。
どうやらその声量は家中に響くどころか外まで届いたようで、バサバサと一斉に小鳥が外で飛び立つ音が聞こえたのだった。
──んで今。
俺はアリスとお揃いと三つ編みの髪型を結われているのだった。
「出来たわよキリト。うん、とっても似合ってて可愛いわ」
「こ、殺してくれぇ…」
「ううん、守るわ。こんなに綺麗なキリトは絶対に私が守るから、顔に掠り傷一つも付けさせない」
「綺麗じゃないってぇ…」
「何言ってるの!そもそもここまで綺麗な長髪は珍しいっていうのに…そうそう貴方の顔もその綺麗さを引き立てるような───」
赤くなりすぎて茹でダコと化している俺を差し置き、俺の容姿を頭を撫でて一生褒めちぎって来るアリス。
これが何度目の可愛いか。アリスは髪を結っている間ずっと俺に可愛い、綺麗、素敵と嘘偽りなく真っ直ぐに褒めてくるので、男としてのプライドが非常にズタズタである。
「──でもキリトの事だしその『がんげいるおんらいん』って世界でその見た目悪用して男の人揶揄ってそうよね」
「うっ」
サーティは満足したのかずっと持ってかれていた人格が帰ってきたツーベルク。
そして戻って来て早々大正解である。
流石にもうメンタルが限界だし心意解いて元の姿に…
「キリト、折角結って貰ったんだし心意を解くなよ?姿を変える程度一日中余裕なんだろ」
「はい」
流石相棒、誰よりも俺のことを分かってるじゃないか…じゃなくて。すみません、調子乗った過去の俺に首を絞められてます。
「そうだ!ねぇキリト、セルカにもその素敵な姿見てもらいましょう?私達だけで楽しむだなんて勿体無いくらいに綺麗なんだもの」
「えっ」
アリス?何を言ってるんだ?
恐らく今話している人格はサーティのハズなのだが、声色が聞いた事が無いくらい明るく浮ついているのでツーベルクにも聞こえてくる。
本当にお前は整合騎士なのか?
「心配しなくても大丈夫よ、セルカもキリトの変化には気付かないだろうし!それに、セルカがどんな反応するか私気になるもの!」
「いいわねサーちゃん!そうとなれば行こう!」
気付くだろ。セルカ賢いんだから。
そんな言葉を遮るようにアリスの賛同の声があがると同時に背中を大量に伝い始める冷や汗。
──おい、助けろよユージオ!
──アリスが一度決断したらもう無理だよ…
ユージオに助け舟を求めるが、残念ながらユージオはアリスに甘い。こうなったら俺が1人で何とかするしか…。
考えを巡らせるために落とした視線の先にあるのは、無骨な胸部の金属プレート。
「………そうだ!俺の服が明らかにおかしいだろ!?こんな浮いた服してたらセルカも気づくって!」
「よいしょ」
ぶちり。
皮で出来た丈夫な紐が無理やり引きちぎられるような音の後、金属が床に落ちる音がする。
床に目線だけ落とすと、さっきまで俺の胸部をプロテクトしていたはずのプレートが床に落下している。
そのまま俺の服から剥がされ心意の対象外となった装甲は、そのままキラキラと光を放ち虚空へ消えていった。
「なんだ、服脱げるではありませんか。お前に似合う素敵な着替えを貸すから着替えなさい」
「………はい」
アリスがどうやら軽いノリで俺の心意で作られた装甲を膂力で引きちぎったらしい。
疑って申し訳ない、アリスは整合騎士でした。
──コンコン。
日も程々に傾き、少し涼しくなってきた時間帯。
ルーリッドの村にある教会の扉を優しくノックすると扉の向こうから「はーい!」と言う可愛らしい声と共にパタパタと駆け寄る音が聞こえてくる。
「どなたです………お姉さま!」
「セルカ、元気?」
「お姉さまこそ!……あっ!?す、すすすみません…!」
セルカは玄関を開けた先に立つ愛しい姉に抱きつくが、そのアリスの後ろに立つ人影を見て顔を赤く染めながらその手を解き、姿勢よく直立をする。
「ふふ、気にしないで良いのに…」
謎の人物は、手の甲で優しく微笑みを隠しつつ前に出る。
セルカの目に映るのは優しい夜空の様な深い紺色の何も飾り気が無いシンプルなワンピースを纏う、美人より可憐という言葉の似合う長髪の若者。
シンプルで暗色系のドレスの様な印象だからこそ映える、華奢な容姿にアリスにも近いハリと透明感を持った素肌。
陽光を受けて輝くドレスにかけられた黒髪の艶はまるで夜空に浮かぶ月のようで、ため息が出るように美しい。
「す、凄い綺麗………!」
「初めまして!実はこの度こちらのアリスさんとお友達になりまして、是非とも妹さんをご紹介…」
「え?初めましてじゃないでしょ、
悪気の一切ないセルカの一言に、その人物は綺麗に膝から崩れ落ちる。
「キリトは女性の声の模倣も上手いのですね、可愛かったです」
トドメのアリスの一言に、俺は顔を抑えてさめざめと泣くしか無かったのだった。
投資:1250
回収:21330
勝率:(2/2)
夜空埋まってたので仕方なしで199の閃光打ったら凄かったです。
これからこんな感じの緩いコメディ調の話を続けていく予定です。
また、仕事の都合で2週間パチは打てないので勝つか負けるかも含めて色々ある為しばらく更新止まります。
次回はアインクラッド流を2人に指導してドン引きされる話です。
いつも読んでくださる読者様方、本当にありがとうございます。