「ひーひー……」
「はぁはぁはぁ」
一誠と俺はひーひーはぁはぁしながら、尋常じゃない量の荷物を背負っていた。
一体、何が入っているんだ? 俺なんて着替えと暇つぶしようの小説が数十冊しかないっていないぞ。
「ほら、イッセーにクリス。早くしなさい」
遥か前方から部長の激励。んなのいらんから、自分のは自分で持てよ。
「部長、山菜を積んできました。夜の食材にしましょう」
「…お先に」
涼しい顔をした祐斗と俺達以上の荷物を持った小猫が通り過ぎていく。
てかおい。何で自分の身長よりでかい荷物を持っているんだ。怪力とはいえ、恐ろしい奴だよ。
「ていうか、負けてられねぇ! うおぉぉりゃぁぁぁぁッッ!!」
「一誠が大声をあげながらどんどん上っていく。
「……ケガだけはするんじゃないぞ?」
◇◇
目的地にある木造の別荘は、グレモリー家の所有物らしい。
普段は魔力で風景に隠れ、人前には現れない仕組みらしいが、今日は使用するので姿を
現している。リビングにいったん荷物を置き、水を飲んでから、深呼吸をした。
ここはとてもいいところだ。心が落ち着く。
祐斗も着替えたようだしな。俺も着替えてこうかな。
あ、その前にーー
「一誠、覗くなよ」
「お前もかッ! 野郎の覗いて誰が得するんだよッ!」
と冗談を言うと、一誠は全力でツッコミをしてきた。
それをスルーしつつ、空いていた部屋で着替え始めた。
◇◇◇
【レッスン1 祐斗との剣術修行】
「はっ!」
「よっと」
祐斗の動きを先読みし、木刀を振り下ろす。
だが、それも祐斗には当たらない。
「強いなぁ、祐斗は」
「本気でやっているのに、動きを目で追っているクリスには言われたくないよ。それに、HSS …だっけ? その状態になったら勝てる気なんてないよ」
「まだその状態で闘ったことはないからわからない」
と言っても、なんだかんだで拮抗しそうだけどな。
一誠は、大の字で倒れていた。俺より先にやって体力切れを起こしていた。
「いくよクリス!」
俺は何度目かの木刀での打ち合いを始めた。
【レッスン2 朱乃さんとの魔力修行】
「魔力は体全体を覆うオーラから流れるように集めるのです。意識を集中させて、魔力の波動を感じるのですよ」
黒いジャージ姿の朱乃さんから丁寧に説明してもらった通りにやってみる。
目を閉じて集中し、魔力を手のひらに集めるように意識する。
すると、手のひらに少しだけ違和感を感じた。
「できました!」
アーシアの声で目を開けると、掌には水色の魔力が現れていた。
アーシアのは緑色だ。その色に合っていると思うぞ、アーシア。
一誠は…米粒並の大きさだ。魔力もないのか、あいつは。
「では、その魔力を炎や水、雷に変化させます。これはイメージから生み出すこともできますが、初心者は実際の火や水を魔力で動かすほうが上手くいくでしょう」
朱乃さんが目の前にあるペットボトルに魔力を送る。
ザシュ!
水が鋭い棘と化して、ペットボトルを破った。
「アーシアちゃんとクリスくんはつぎにこれを真似してくださいね。イッセーくんさ引き続き魔力を集中させる練習をするんですよ。魔力の源流はイメージ。とにかく頭に思い浮かんだものを具現化させることこそが大事なのです」
確か、俺はあの堕天使を氷づけにし、秋水で粉々にしたんだっけ。
あの頃の感覚を思い出しながらやってみるとしよう。
◇◇◇
【レッスン3 小猫との組み手】
「はっ!」
「…甘いですよ、先輩」
小猫に向けて放った拳を避けられ、脇腹を殴られる。
「ッ!?」
おもいっきり殴ってきたのだろう。結構ふきとばされ、一誠と熱い抱擁を何度もかわしていた巨木に衝突した。
「痛いな…。これはさすがに効いた」
「……部長や祐斗先輩には"クリスには本気でやって"と言われたので」
おい、それはないだろう。俺だってHSS を抜けば、少しだけ強い高校生なんだぞ。
小猫は立ち技、寝技、その他諸々の格闘技が得意な悪魔少女(決して幼女ではない)。『
それが何度かあり、あっちこっちに殴り飛ばされているので、ずっと気の抜けない状態になっている。
因みに、俺は一度も小猫に当てていない。当てようとしても避けられ、殴り飛ばされている。
わずかに隙ができると攻撃しているが、避けられる。
「……さ、もう1回やりましょう」
……今日が命日にならないことを祈ろう。魔王様に
◇◇◇
夜。俺は別荘の周りを散歩していた。
一誠は部長と特訓中。頑張れ、一誠。
それぞれのノルマがあったが、速攻で終わらして今に至る。
「……レーティングゲーム、か」
思わずでた言葉。散歩しながら考えていた。
このゲームは部長にとても不利だ。相手は実際にゲームをやっている経験者だ
部長に訊いたが、あの焼き鳥は1回しか負けておらず、いい成績を残している。
「でも、やるしかないよな」
勝つ、ただそれだけだ。
「そろそろ戻るか」
別荘に向けて歩き出したときだった。
ゾクッ!
「ッ!?」
後ろから殺気を感じた。明らかに格上とわかってしまった。
すぐさまベレッタを呼び出し、殺気を放っている者に発砲した。
ギィィンッ!
かん高い音が聞こえた。信じられないが、弾丸は斬られたのだろう。
パァンッ
山に発砲音が響く。俺に向かってきた弾丸は頬にかすって後ろの木に命中した。
「………」
俺は深呼吸をして、集中する。
部長やライザーですら怖れるグレイフィアさんの威圧。
それほどの実力者での近接攻撃ならばヤバいが、相手は銃を使って俺を狙っている。
ならば、手段はある。
目の前にいるであろう、敵を見る。
パァンッ!
銃声が響き、亜音速でこっちに向かってくる弾丸。
それと同時に刀を目の前に持ってくる。
ギィィンッ!
かん高い音が山に響く。両耳に空気が振動する音が聞こえた。
「いい加減、出てきたらどうだ。俺に銃弾は効かない」
「………」
森の中から現れた人を見て驚愕した。
「せ、先生…!」
「びっくりしたよ。まさか、俺と同じように銃弾を斬るなんてな」
冥界の指名手配者、SSS級のはぐれ悪魔の
「何しに来たんだ、先生」
「そうだな…お前を殺りにきた」
「ッ!?」
驚く俺を見て、ニヤリとする先生。
「冗談だよ。…まだ、な」
最後の方はよく聞き取れなかったが、冗談らしい。
「お前たち、あの焼き鳥とレーティングゲームをするらしいな」
「…どこでそれを知った?」
「企業秘密だ」
笑いながら言う先生。
「まぁ、それはいいとして。俺はお前に神器の使い方を教えにきた」
「教えに…?」
何が目的なんだ、先生は
「お前はまだ、『
「ッ!?」
神器を…扱いきれていない?
「ど、どういうことだっ! 」
動揺を抑えつつ、先生に訊く。
「お前の神器は本来、武器と防具を創造する能力を持つ。だが、お前は武器しか創造出来ていない。理解力のあるお前には解るだろう?」
「………」
先生の言いたいことはわかる。先生の言うことが本当であれば、俺は自分の神器を扱いきれていない。
「……わかった。だけど、どうすればいいんだ?」
「そうだな……、まず座禅を組んで目を閉じ、集中するんだ。神器の中へ入る感じでな」
先生の言うとおりに、座禅を組み、集中する。
「それでいい。これを修行の休憩時間や寝る前に必ずやるんだ。この合宿の最終日の前日の夜、またここに来い。その成果を見せてみろ。これは先生からの課題だ。――おっと、グレモリーたちがこっちに来るな。じゃな、また来る」
それだけ言うと、先生の気配が消えていくのを感じた。
それと同時に俺の意識も沈んでいった。
◇◆◇
「ここは…?」
目を開くと、俺は武器庫のような場所にいた。
んん? あれは……爪楊枝、か? 木刀まで置いているぞ!
周りを見渡すと、爪楊枝から刀、銃、鈍器系に鞭や弓までもあった。
ていうか、爪楊枝って武器なのか? …あぁ、刺すのか。
奥には扉があった。…まだ部屋があるのかよ。
その扉まで歩き、ドアノブを握る。
バチィッ!!
「ッ!?」
反射的にドアノブから手を離す。
まだ、入れないって事か。
「そうだよ。キミはまだ、その部屋に入る資格がないってこと」
「ッ!? だ、誰だ!?」
声のした方へ向き直ると、そこには十代ぐらいの男性がいた。
「僕の名前はエリス。よろしくね、今代の所有者くん」
「…俺の名前は神矢クリスだ。――何でこんな所にいる?」
警戒しながら訊くと、エリスは苦笑を浮かべた。
「ははっ。面白い事をいうなぁ、キミは。ここは神器の中で、僕は神器の中に封印されている魂って奴なのさ」
「…そうか」
「……そんな悲しそうな顔をしないでよ。――壊したくなる」
さっきまでの笑顔と違って、狂気が混じった笑みを浮かべる。
「同情っていうのはいらないよね。まぁ僕は大昔の三すくみの戦争で、大量に天使達とかドラゴンも殺ったよ。あのときは楽しかったよ」
こいつ…狂っていやがる!
「でも、前の宿主は普通の人間だったから何もせず、寿命で亡くなったけどね」
楽しくなかったなぁ…、と呟くエリス。
「でも今回の宿主は楽しそうだね。悪魔になるし、特異体質も持っているし。ホントにこの神器にぴったりの人が選ばれたね。僕は嬉しいよ」
木製の椅子に座り、ドコからか取り出しかわからないが、紅茶を飲み始めた。
「…どうすれば、あそこの扉を開けるんだ?」
「そうだね…、キミはもう条件を満たしているよ。後は時を待つだけ」
時間が解決する、て言いたいのか。
「条件とはなんだ? エリス」
「キミが初めて神器を呼び出したときがあるだろう? あのときのキミは武器を選んだ。だけど、あの時に防具を選んでいたら今の反対の事が起きていたってことさ」
俺が防具を選んでいたら、武器は自由に呼び出すことはできなかったってわけか 。
「そのときには条件を満たしていた。簡単に言うと、どちらを選んでも条件を満たしていた。ただ、開花が速いか遅いかの違いだけさ」
「そうなのか…。ありがとう、助かった」
お礼を述べると、エリスはきょとんとした顔になった。
「――お礼を言われるとは、思ってもみなかったよ」
ふふっと笑むと、天井を指差した。
「さて、楽しい時間はすぐに過ぎていくね。お仲間達がキミの元へ駆けつけているよ。そろそろ現実に戻ろうか。さ、こっちに来たようにしたら帰れるよ」
座禅を組み、目を瞑って集中する。
「次に来たときにはもう防具も使えるはずだから、試してみて」
エリスの声がどこか遠く感じたとき、意識が途切れた。
◆◇◆
一誠SIDE
部長達と共に銃声が聞こえた場所へ向かうと、そこには座禅を組んでいるクリスがいた。
「クリス! おい、クリス!」
名前を呼んでも返事がない。体を揺すっても起きる気配はなし。
…まさか!?
「返事をしてくれ、クリスッ!」
頭に過ぎる最悪の事を振り払いながらクリスを揺する。
「…どいてください」
「こ、小猫ちゃん…」
小猫ちゃんは拳を握るとはぁ、といきを吐いた。
「小猫…まさか…!?」
部長は小猫ちゃんが何をするかわかったようだ。
「…はぁ!」
ドンッ!
小猫が思いっきりクリスの腹を殴り飛ばした。
「――っはぁ! な、何だ今の衝撃は!? 」
パンチの衝撃でクリスが目を覚ました。
「…あれ? 何で皆勢ぞろいしているんだ? 何かあったのか?」
「銃声が聞こえて、その場所へ向かったらクリスがいたから。…やられたと思った
んだ」
とクリスに事情を説明した。
「何で銃声なんてしたのかしら? もしかして、クリスが射撃訓練でもしていたの?」
「……はい、してましたよ。腕が鈍ってはいけないですから」
そうなんだ、よかった。
「うふふ、でもよかったですわ。何事もなくて」
朱乃さんが小猫ちゃんを見ながら言う。小猫ちゃんは気まずそうに視線を逸らした。
「……そ、そうですね。それより先輩、立てますか?」
「ちょっと待て。……あれ? 力が入らない。一誠と祐斗、少し肩借りてもいいか?」
「うん、いいよ」
「わかった」
俺と木場で、クリスに肩を貸す。
「それじゃ、戻りましょうか」
「そうですね。――済まないな、二人とも」
「いいってことよ、ダチ公」
「僕も友達で仲間だからね」
「…ありがとな」
二人の言葉に思わず言ってしまった。