「せ、聖魔剣だと…!? あ、ありえん! 聖と魔は本来、反発し合うものだ! 混ざり合う事は絶対にありえんのだというのに…!!」
バルパーは声を震わせながら言った。こいつを斃さない限り、祐斗の同志たちの無念を晴らすことはできない。
「……そうか! 成程、魔王が死んでいるのなら、神も既にぃっ!?」
ズンっ
「なっ…!」
バルパーの胸部に光の槍が刺さっていたのだ! …光の槍を創れるのはここにはたった一人しかいない。
「バルパー・ガリレイ。お前はとても優秀だ。優秀だからこそ、この事実まで辿り着いたのだな。それは褒めよう。だが、貴様は知りすぎた。……これは後々まで伏せていた方が楽しめるからな」
コカビエルはバルパーを嘲笑っていた。
俺はコカビエルがバルパーを殺害したことよりも、バルパーの考察のほうが気になっていた。
……バルパーは本来、聖と魔が混ざり合うことは絶対にないと言っていた。
だが、聖と魔は混ざり合った。いくら、ここが混沌としている空間とはいえ反発し合うものが混ざり合うのはおかしい。
聖と魔…光と闇…天使と悪魔…神と魔王。
部長が言っていた。先代の魔王は前回の大戦で、死んでしまったと。
仮に、魔王だけではなく神も大戦で亡くなっていたとしたら…?
聖を司る神が亡くなり、魔を司る魔王が亡くなって聖と魔の境界線が曖昧になっているとしたら…?
それなら、聖魔剣ができてもおかしくない。
【成程ね。それなら辻褄があう。いや、むしろそれが真実じゃないかな?】
―俺もこれが的を得ていると確信できる。間違っていたとしてもこれに近い答えになるはずだ。
【ふぅん。あの科学者の言葉からここまで推測するなんてね…。恐ろしいよ、クリスは】
まぁ、凄いのはHSS状態の俺だけどな。
【ほらほら、グレモリーが力を溜めているよ。目の前の戦闘に意識をむけないと!】
エリスに言われた通りに目の前に意識を向けると、
「はあぁぁぁ……!」
『Boost!』
『赤龍帝の籠手』の音声と部長の魔力を溜める声が聞こえた。
「イッセー!」
「部長! 行きますよ!!」
『Transfer!!』
一誠が部長に譲渡し、部長の魔力が膨れ上がる!。
「この波動…! いいぞ、魔王の妹、サーゼクスの妹! お前も兄に負けず劣らずの才覚があるようだな!」
心底嬉しそうな笑みを浮かべるコカビエル。狂喜に彩られている表情をしていた。
「消し飛べぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
コカビエルの数倍はある滅びの魔力が、コカビエルに向かっていく。
コカビエルはそれを真正面から受け止めた。
「ぬぅぅぅぅんッッ!!」
だが、コカビエルのローブは所々破れ、コカビエルの足元には血が垂れていた。
……いずれ、部長の魔力は消えるだろう。あの強大な魔力は易々と撃てるものじゃない。部長も肩で息をしているほどだしな。
一誠も譲渡は無理だろう。あのケルベロス戦で譲渡を使い、後は自分の分しか残っていないはずだ。
「雷よ!」
コカビエルが部長の魔力を受け止めている隙に朱乃さんが雷を放つ!
直撃したが、コカビエルは全くの無傷だった!
「この程度か! バラキエルの娘よ! 貴様の父はもっと威力があったぞ!」
「……私をあの者と一緒にするなっ!!」
朱乃さんは何度も雷を連発するが、すべてコカビエルの纏っているオーラで弾かれている。
バラキエル……堕天使の幹部であり、「雷光」の二つ名をもつ雷の使い手。
そして…朱乃さんの父親。
いや、忘れよう。今は目の前のことに集中だ!
「全然足りんぞ! 貴様らが対峙しているのは悪魔の長年の敵! このチャンスを好機と思わねば、貴様らの底が知れるぞ!」
「だったら、お前もそんな隙を見せないほうがいいんじゃないか?」
「ッ!?」
コカビエルの背後には、仁が十拳剣を振り下ろしていた。
仁が放った不可視の斬撃はコカビエルに向かっていく。
「フンッ!」
しかし、コカビエルは斬撃を翼の一薙ぎで逸らした。
「……まぁ、その未来は見えていたけどな」
「さすが私の兄さんです。後でキスしましょう」
「なっ!?」
翼を薙ぎ払い、少しだけコカビエルの視界が見えなくなったほんの数瞬の間に愛華の妖刀がコカビエル周りに出現していた。
「これで串刺しです」
愛華は手をグッと握りしめると、妖刀がコカビエルに向かっていく!
「ぬぅぅん……はぁッ!!」
しかし、コカビエルはオーラを全方向に放ち、妖刀を消し飛ばした!
「不意打ちとは…いいぞ、荒神兄妹! だがまだ温い!」
「うるさいですね…私は早く兄さんとイチャイチャしたいんです。だから早く死んでください!」
愛華が妖刀創り、コカビエルに投げる動作をしたと同時に俺は愛華の反対側に向かって走り出す。
俺の後ろには裕斗とゼノヴィアも走ってきている。
―俺に合わせろ。
というアイコンタクトを裕斗に送り、裕斗が頷いたのを確認したと同時に妖刀が飛んでくる位置に向かって跳ぶ!
「せいっ!」
愛華が妖刀を投げた。
「こんなもの…」
コカビエルが俺の予想通り妖刀を避けた。
俺は妖刀を取り、コカビエルの背中を斬る!
「なっ!? ぐあっ!?」
奴の反応が早かったのか、背中ではなく翼を斬ったのは誤算だったが…
バランスが取れなくなったコカビエルがフラフラと地上へ降りてくる。
「行くよ、ゼノヴィア!」
「あぁ、同時攻撃だ!」
ゼノヴィアのデュランダルと裕斗の聖魔剣がコカビエルを襲う!
「…不意をつかれたのは意外だったが、こう直線的に向かって来るとは…!」
コカビエルは光の剣を創り、デュランダルと聖魔剣と切り結ぶ!
「おいおい、こんなもんか? デュランダル使い。前の使い手は常軌を逸脱した強さだったぞ?」
コカビエルは二人の剣士相手に難なく捌いていく。
このままじゃあ、二人ともやられる…!
「……先輩」
「なんだ、小猫」
「……私達も裕斗先輩のように、同時攻撃をしかけましょう。いけますか?」
小猫が真剣な表情をしながら、俺に訊いてきた。
…同居してからわかったが、こういう表情をした小猫は頑固だ。
正直いかせたくないが…、ここは小猫の気持ちを尊重すべきだ。
「……大丈夫だ。いこう」
「…はい!」
俺はメリケンサックを創り、小猫とともに駆け出す!
「ほう、今度はちっこいのと来るか。 面白い! そうこなくてはつまらんからな!」
コカビエルは衝撃波で裕斗とゼノヴィアを退け、俺たちに向かってくる。
「はぁぁぁああぁぁぁッッ!!」
「…せい! やぁ!」
「いいぞ! 息の合った攻撃! 楽しいなぁクリスよっ!!」
楽しくないね、全然。と、内心で思いつつ、攻撃を続ける。
「くっ!!」
「………」
上段が俺、下段が小猫という身長を生かした攻撃をしているが…、少しずつ俺たちはおされはじめていた。
「どうしたどうしたどうしたッ!!? 攻撃の数が減ってきているぞッ!!」
ここまで強いとは…、正直思わなかったぜ。
せめて小猫だけでも逃がさないといけない…!
「これで終わりだッ!!」
コカビエルは翼を刃に変え、俺たちに振るってくる!
「小猫ッ!」
咄嗟にコカビエルに背を向け、斬撃耐性をつけ小猫を守るように抱きしめる。
ザシュッ!!
「ぐはッ!!」
思っていた以上にダメージが入った…!
「…せ、先輩ッ!!」
「……小猫。無事でよかった。…早く、みんなの所へ」
小猫は無言で頷き、部長たちのところへ走っていく。
「………」
なんだこの感覚は…? 普段のHSSとは違い、しかもベルセとも違う。この感じ
トクン、トクンと心臓の音も弱まっているような気がする。
なるほど、俺はさっきの攻撃で死に際までいったのか。
斬撃耐性をつけていなかったら、即死だったんだな。危ない危ない。
「ほう、あの攻撃を耐え切ったか。だが、瀕死のようだな?」
「………」
見抜かれていた、か。歴戦の強者ともなれば、ここまでわかるものなのかよ?
「しかし、お前らも仕える主がいなくても、よく戦う」
「――どういうこと?」
部長がコカビエルに訊く。
部長の反応にコカビエルはいきなり笑い始めた。
「フハハハハハ! そうだったな、あれの真相は貴様ら下々まで伝わっていなかったのか!」
コカビエルの言おうとしている事ってまさか…!
「おい、やめろ!
神が死んでいることをこのタイミングで言われたら、こちら側が大幅な戦力低下してしまう…!!
「どうやら、クリスは気づいているらしいが今になってはどうでもいい。そう! 前回の戦争で魔王だけではなく、神もしんだのさ!!」
『ッ!!??』
あぁ…言われてしまった。
信じられない様子の部長たちを見て、さらに笑みを深めるコカビエル。
「信じられなくて当然だ。この真実を知っているのは各勢力のトップと一部の者たちだけだ。バルパーとクリスは気づいていたのだがな?」
チラリと俺を見て、ふっと笑んだ。
馬鹿にしやがって…!!
「嘘だ……、嘘だ……」
「そんな…主は死んでいるのですか? なら私達に与えられる愛は…?」
現役の信仰者に悪魔になってなお、神に祈る聖女。
存在すると信じて信仰してきた彼女らの、心中察するに余りある。
裕斗も複雑な様子だった。
この傷、アーシアに癒してもらおうと思ったが、あの様子では無理。
俺たちは戦いでは重要な回復役を失ったのだ。
「……一誠。アーシアをどこか安全なところへ」
「クリスッ! 傷の手当はしなくていいのか!?」
「神器は持ち主の思いで強弱が決まる。今のアーシアは神器を扱えない」
「…そうか。確かにそうだな」
「でもまぁ、なんとかなる。いってくる」
一誠に背を向け、コカビエルの目の前に立つ。
武器は…小猫の武器をイメージして作った奴。
耐性は…死に際だから今更だな。いらね
「この絶望的な状況でこの瞳。エリスの相棒ということだけはあるな」
「だからどうした。こっちは時間が無いんだ。決着を決めようぜ」
「武器は何も持たないでか? 笑わせてくれる。だが高まらせてくれるなぁ! クリスッ!!」
ブオンッ!!
コカビエルの拳が俺の体に向かってくる!
それを避け、亜音速の秋水でコカビエルの拳を狙う!
ゴッ!!
「つぅ…!!」
「ッ!?」
コカビエルの拳と俺の拳から鮮血がほとばしる。
「まさか俺の拳を狙うとはな。だが、俺の拳が使えなくなったがお前もそうだろう」
「………」
相手の拳を割るつもりで亜音速での秋水を使ったが、まさか俺の奴も壊れるとは。
「ふんッ!!」
バキッ!!
「ぐッ!?!」
ヤバイ、みぞうちに入った…!
「俺は貴様とボクシングしている暇はない」
ドンッ!!
「ぐふッ!!?」
コカビエルに思いっきり蹴り上げられた…!
体が…動かない…!!
「はっ!!」
ドンッ!!
「ぐッ!?」
背中に衝撃が走り、地面にたたきつけられた。
意識が…朦朧して…いる。
「…クリス先輩!!」
小猫がこちらへ走ってくるのを最後に意識が途切れた。
◇◆◇
―ん…ここは?
目が覚め、起き上がると周りは見たことが…ある部屋だった。
―ていうかここって
「そう。ここはクリスの神器のなかだよ」
そういって現れたのはやはりエリスだった。
―何で俺はここに…。確か俺は、コカビエルにやられたはずだ
「そだよ。ほら」
エリスが指を鳴らしたら、外の風景が現れた。
『先輩、起きてください! 嘘ですよね? 先輩が死んでしまうなんて』
小猫の声が聞こえる。
―小猫…!
「まぁ、これくらいにして」
エリスが風景を消した。
「キミには二つの道がある。このまま無になるか、
―禁手にだと…! 確か、禁手って――
「劇的な変化を起こす程の想いがなければ至ることのできない。神器の領域だ。だけど、この神器は特別でね。劇的な変化を加えた三つの条件をクリアしなければならない」
―三つの条件?
「そ。でもキミは三つの内、二つはクリアしているんだよ。それはね、気配察知と武器の創造と防具の創造の両方を会得することなんだよ。キミは気配察知も武器、防具の創造はできるでしょ?」
―おう。
「後は劇的な変化のみってわけさ。ほら、ここを見てごらん?」
エリスの後ろにある扉には三重の錠がされていたが、そのうちの二つが消えて行った。
「そういや、クリスは死に際にHSSを発動させていたよね。どうしてかな?」
―動物は死に際になると、自分の子を作ろうとするんだ。HSSは元はそういうものだから、発動したんだろう。
「なるほど、じゃあこれはヒステリア・アゴニザンテと呼ぼう」
死に際だからか。いいと思うぞ
「さて、気になっていたことは訊いたし。後は至るだけだね」
―そう、だな。
ふと出てきたのが、小猫だった。
最初会ったのは、堕天使ドーナシークを退けたときだったな。
無表情で最初は何を考えているのかわからなかったが、意外と熱い性格で毒舌家。
甘いものが好きでエロい事が嫌い。
小柄な割には力持ちでよく買い物に付き合ってもらったなぁ。
そしてこれは意外だったけど、嫉妬深いんだよなぁ
朱乃さんやアーシアと話しているときに、よく蹴られる。
たまに、遠い目をして誰かを心配している表情をする。
まぁはたから見たら無表情だけどね。
だからこそ……さっきの泣き顔を見たら、こいつを守って行かなきゃなって思ってしまう。
なんだよ、簡単なことだったな。
俺の場合は劇的な変化なんていらなかったんだ。
ただ、守っていきたいと願うだけで――
パキン、と錠が壊れる音が聞こえた。
「クリスっ! やった、一体どうやって――」
―それは後で教える。だから今は、な?
「わかった。すべて癒し終えているから、全力でコカビエルを斃してね」
―おう。まかしとけ
封印されていた扉を開くと、光に包まれていった。
◆◇◆
裕斗side
クリスが目を覚まさない。このとこで、小猫ちゃんはずっとクリスから離れていない。
コカビエルはクリスを傷つけたとき、神が死んだと知らせ、アーシアさんを封じた。
アーシアさんは今、部長の横で眠っているが、ゼノヴィアも今のままでは戦えないだろう。
小猫ちゃんはクリス先輩から離れようとしない。クリス先輩は絶対に死にませんといっていながらも、離れたくはないのだろう。
朱乃さんはコカビエルに雷を降り注いでいる。
普段怒らない朱乃さんが、さっきの威力の数倍の強さの雷をコカビエルに降り注いでいるからコカビエルはこちらに近づけない。
だけど、朱乃さんの魔力も尽きてしまうだろう。
イッセーくんは、赤のオーラを迸らせながらコカビエルと真正面から闘っている。
朱乃さんの雷を避けながら、コカビエルと闘う。
それは悪魔暦の浅いイッセーくんではつらいだろう。だけど、イッセーくんは言っていた。
「俺は完全にキレた。温存していたけど、それも使い切ってクリスの仇をとる!」
彼はたった十秒しかない禁手を使いながら、闘っているがそろそろ十秒たつ。
彼の代わりは僕しかいない!
「イッセーくん! 今すぐ加勢にいく!」
聖魔剣を強く握り、コカビエルに向かって駆け出す!
「よくも……よくもクリスを…!!」
「いいぞ! 赤龍帝! この殺気、貴様もいいじゃあないか!」
「うるせぇッ!!」
『BoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』
「うぉぉおおおおおぉおぉぉおおおッ!!」
イッセーくんの拳がコカビエルのオーラを貫き、コカビエルを殴り飛ばした。
「ぐぉぉおぉッ!!?」
コカビエルは空中で体勢を整えたが、今のすきを逃す程、甘くない!
「はぁあぁあぁぁあぁッ!!」
僕も聖魔剣でコカビエルを斬る……が、オーラが邪魔で本体に当たらない…!
「赤龍帝のような威力のある攻撃でなければこれを貫通できんよ。まだ貴様は、速さだけのようだからな?」
「――なら、こいつに貫通の能力をつければお前に攻撃があたるんだよな?」
聞き覚えのある声がしたと思った刹那、コカビエルがいきなり後ろへ吹き飛んだ。
「なにぃっ!? 何でクリス、ここにいる!? 貴様は俺を攻撃で――」
「あぁ、痛かったぜ? でも、感謝はしている。コカビエル、お前のおかげで俺は次の段階へ進むことができた」
振り向くと、そこには――
「心配かけたな。さて、ここから反撃といこうか」
傷が癒えたクリスが立っていた。