今現在の戦場は完全に混沌と化していた。
「くっそ、ぞろぞろ湧いて出てくる…!」
「ウルラート様、牽制して一か所にまとめられるだけまとめて下さい、一気に浄化します!」
ウルラートを始めとする勇者一行は、魔物の一団に囲まれていた。
「まとめるも何も魔物だらけじゃねぇかよ…!」
唸りながらも、ウルラートはピスティの言うとおりに細かく動いてある程度の数をまとめていく。
「空より来る女神の慈悲と大地をめぐる女神の涙、彼の者たちに安寧を」
ピスティの願いの詠唱に合わせるようにペルルが小さな翼を羽ばたかせると浄化の光が魔物たちを飲み込んで消し去っていく。
割と真剣に、ちゃんと戦っているのだ。
「うむうむ、なかなかいいぞ。いいか、今戦っているようなものを魔物というのだ。にしても数が多いな…まぁいいか。魔物には浄化は効くが俺たちのような…」
「グルナ!うんちくはいいからお前もこいつら何とかしろ!」
魔王以外は。
「大事なことだと言っているのにいつまでも貴様らが聞かないからだろう!」
「ウルラート様、やはりあの魔王討伐した方がいいのでは?」
抜け抜けと提案してくるピスティ。図太さは健在である。
「俺もその方がいい気がしてきた」
「待て待て待て!貴様勇者ともあろうものが響魔を討伐していいと思っているのか!」
「だって俺勇者だしお前魔王だし」
どちらも正論ではあるのがまた面倒。そんな会話をしながらでも着実に魔物を減らしているのはさすが勇者と神官と言ったところだろうか。魔王は仁王立ちしてそれを眺めている。
「つーか!約束はどうした、グラナート!」
ウルラートがグラナートを睨んだ。
「……ふむ…それもそうだな……ではウル、ピスティ。その魔物どもから離れて俺の後ろまで下がるがいい」
少し思案顔でため息をついたグラナートがそう指示を出す。剣を抜く様子はない。
「さすがにあの数だし、剣じゃ対応しないってことか…?」
「ということはやはり魔術が使えないわけではない、手の内を隠していたという事ですね」
グラナートが指示した位置まで二人が下がると、それまで二人に群がって来ていた魔物たちの足が止まる。
「知性がないとはいえ、やはり分かるか。まぁいい、魔物ども、魔王が命ずる。地に還るがいい」
グラナートがそう呟いただけで、ぞろぞろうごうごと蠢いていた魔物たちがその場に崩れていく。どろりと解けるもの、土くれのようにぼろぼろと崩れるもの、様々ではあるが一様に崩れていった。
「なんだ…?何をした?」
「魔力の放出も感じられませんでした」
さっきまで頑張って戦っていた2人があっけにとられたようにグラナートの背中を見つめる。
「所詮は仮初、意思も知恵もない魔物なら魔王である俺が滅びろと言えば命令に従って自壊する。それだけのことだ」
何を当たり前のことをとグラナートが魔物の自壊を見届けるまでもなく振り返る。
「いや、だったらもっと早くやってくれよ」
あっさりと魔物の群れを片付けてしまったグラナートにウルラートが不満そうに苦言を呈した。
「全くです。実は背後を狙ってた、とかだったら許しませんよ」
「そんなことするか。ただ……やはり気持ちのいいものではないのだ、少なくとも俺は好かん」
ピスティににらまれたグラナートは視線をそらすようにちらりと魔物の群れがいた場所を振り返る。
「やるとなれば躊躇いはせんがな」
ほんの少し、冷たい色がグラナートの赤い瞳に走ったような気がした。
「まぁやりたくないなら無理にとは言わないけど…せめて手助けはしろよ。見てるだけってお前…」
「ウルラート様は魔王に甘すぎます、自壊させるなんて楽な手があるなら積極的に使って頂きたいですね。ご自分の立場を少しでもよく保つように立ち回ってもらわねば」
己の立場とやらにはかけらも興味がない様子のグラナートはピスティの言葉を聞き流す。
「さすがに魔物が増えてきたな…人間領の境界までは来たか」
特に境界らしい印も何もないが、魔物の出現による戦闘の頻度は少しずつ上がってきている。
マンティコアの双子以来、会話が成立するような魔物には出会っていないためか、ウルラートやピスティが戦闘に苦戦するようなこともなく、特にピスティは戦闘経験の浅い神官と言う立場でありながら冷静に立ち回っていた。
「この先にはマモン領まで建物の類はないが…」
「今更だろ。というか、それも考慮の上だ。一応の寝具や食料も当面の分はあるしな。特に食料はどっかの誰かの試食荒らしのせいで」
明らかに藪蛇ったという顔をするグラナートを笑ってウルラートはピスティに向き直る。
「ピスティ。ここからはもう人間領じゃなくなる。本当に引き返さなくていいんだな」
すっと表情を引き締めるピスティ。
「無論です。私がこの旅の同行に選ばれたのはきっと神の思し召しなのですから。それに、ウルラート様を魔王を2人きりになんかさせられません。マモン領にいるという人間の事も捨て置けませんし。魔族の言う事なんて信用できない。本当に人間がいるのか、望んでそこにいるのか。私はそれを見極めなければならないと思っています。
どこまでも魔族と相容れるつもりのないピスティの主張にウルラートは頭が痛そうな表情を隠そうともしない。反対にグラナートはそれを聞いても表情一つ動かさなかった。
「まぁここで引き返されても送って行ける距離ではないからな」
冷めた調子でグラナートは明後日の方を見ている。
「ところで、そろそろ移動せねばまたここで戦う羽目になるんだが……」
「出来るだけ戦闘は避けたいし、さっさと行こう」
グラナートの進言にウルラートは即決で答え、3人はまた歩き出す。
数時間歩いたところでウルラートが首を傾げた。
「人間領からそんなに離れてないとはいえ、七魔領ともそんなに離れてないんだろ?魔物少なくないか?」
「この程度の距離の所で魔物が多く発生すればあぶれたものが人間領に行くだろう。それは俺の望むところではないし、マモンの望むところでもない。だが、マモン領を過ぎて向こう側に行けば、お前が想像しているように魔物が巣食っている道も多い」
本番はそこからだ、とグラナートは当然のように答えた。
「魔物を食料にする魔族も多いから向こう側ではそういう狩りも見られるだろうよ。巡り合わせがあればな」
「魔物を食べる魔族…同族食いだなんてなんて汚らわしい……」
ぼそりと嫌悪を露わにピスティが吐き捨てる。
「ピスティよ、他の魔族の前でそれは言わない方がいいぞ。自らの無知を露呈して無闇に敵を作りたくなければな」
グラナートの忠告にピスティは返事をすることなく、3人はそのまま進んでいく。
「このペースであとどのくらいかかる?」
「そうだな……」
さっと周りを見てグラナートは首を傾げる。
「人間領を出て大して歩いていない。人間領からすれば一番近い魔族領になるわけだが、それでもこのペースならぶっ通しで4日はかかるな。5日もすれば着くだろう」
「移動魔術とは言わないけどもうちょい移動手段も発達させておいてほしかったなぁ…舗装されて無くても走れる魔動車とか」
「人間領は必要な分だけ舗装されてますしね…魔族領もそうして頂きたいです」
ちらっと魔王を見る人間二人。どことなく恨めしそうな視線に見えなくもない。
「俺達には必要ないからなぁ」
人間より速く強靭に駆ける魔族の王としては舗装の必要性を感じないらしい。
「まぁ住まう魔族によっては馬車を使う領もあるがな。デュラハンとか。まぁあれは空を駆けたりもするから舗装してなくとも走るが、舗装してあった方が楽らしい。あとは景観にこだわったりすれば」
「あまり期待できなさそうですね」
「だな。グルナ、変化魔術とかで俺らを乗せて、とかできないのか?」
無理の無いペースで進んでいるおかげでピスティもついてこれてはいるが、いかんせん歩きだともどかしいほどに進まない。解決すべき目標が見えない以上急ぎたい気持ちもあるが、第一にただ歩くだけなのは飽きたのが本音である。
「…………前にも言っただろう、楽を覚えるとろくなことがないぞ、勇者」
即答での拒否じゃないあたり、出来るのは出来るのかもしれない、とウルラートとピスティは視線を交わす。
「つーかグルナ、そろそろ何が出来るのかのすり合わせもしといたほうがいいよな。お前が何が出来るとか俺も全然知らないしさ」
ウルラートがグラナートにそう投げかける。途端に、グラナートはウルラートからするりと距離を取った。
「?おい?」
ピスティの機嫌を保つためにグラナートが二人から距離を取ることはままあることで、見慣れた光景になりつつあった。しかし今、グラナートはウルラートから距離を取った。
触れてはいけない話題だったかとウルラートがグラナートを伺う。
「情報の共有は大切です。話に応じて下さい」
ピスティはその様子に眉を顰めると、グラナートに言いつのった。
「…………俺は……」
初めて見る顔だった。苦悩するような、悔やむような、あるいは、絶望するような。
一瞬だけ顔を覗かせたその色はすぐにまた隠れて表面、表情から消え失せる。
(それも、話してはくれないのか)
口をつぐんだグラナートに、ウルラートはまた壁を感じて一歩を引く。
「だったら、次にねぐら決めたら手合わせしよう。剣士同士だ、力試しといこう」
「ウルラート様、勇者ともあろうお方がねぐらとかガラの悪い言葉言うのやめて下さい…」
ピスティからウルラートに苦言が出ると、グラナートは苦々しさを多少残しつつもいつも通りに「いいだろう」と笑って引き受けた。
「ウルラート様、少し甘くはないですか。何が出来て何が出来ないのかをしっかり把握しなければ、いざというときに対処できない可能性も…」
責めるように言うピスティに言いつのられてもウルラートはそれを聞き流す。
仲間内に不和を生みたくはないが、それ以上に響魔との関係も良好でありたいし、今はまだ譲歩できるタイミングだとウルラートは思っている。響魔であり魔王であるグラナートの事をもっと知りたい。だが、急に詰めて今以上に距離を開けたくないのだ。
「大丈夫だ、ピスティ。本当に必要になったらグルナは自分で言ってくれるし、動いてくれる。な、グルナ」
返ってくるのが沈黙だとしても、今はそれで構わない。だから、ウルラートはグラナートの方を見ずにそう断じた。
微妙な雰囲気が漂うまま3人は歩を進め、日が傾くと夜を明かせそうな場所を探して火を焚く。結論として、その日は手合わせは出来なかった。
魔物の襲撃を考えると、グラナートが直ぐに気付くとはいえ狭い場所や視界が悪い場所は選べず、そしてぎりぎりまで進みたい希望を考えるとなかなか明るいうちに剣を交えられるような時間の調整は出来ない。
なんだかんだと実際にウルラートとグラナートが手合わせの話を実行に移したのは数日後の話であった。
火も焚いてゆっくりと休憩の空気が流れる中で、グルナは今日も抜かなかった剣を手に立ち上がった。
「おい、ウル。行くぞ」
「……は?」
ゆったり休憩モードのウルラートの中に休憩以外の文字はない。ぽかんとするウルラートにグラナートは不機嫌そうに「お前が言い出したことだろう」と膨れた。
「………あ、手合わせか」
「思い出すのが遅い。早めに腰を落ち着けた時くらいしかできんだろう」
話が出た時の微妙な反応から、乗り気ではないのかと思っていた矢先の当人からの誘いに乗らないわけがない。ウルラートは、ニッと口角を上げる。
「今度はあっさり止めさせたりしないからな」
「なんだ、根に持っていたのか」
火の番をピスティに頼み、少し距離を取る。
向かい合って、白い剣と黒い剣が鞘から抜き放たれた。
対照的な色合いの二つの刃が一様に夕陽を受けて美しく輝く。立ち合いを見れば最終決戦だし夕日の下での決闘とみれば一昔前の青春の一ページかとも思われるが、今回は残念ながらどちらでもない。
ふわりとウルラートに魔力がまとわりつき、同化するように溶けて消えた。交わる視線の鋭さが、お互いに戦闘のそれとなる。
ジリ、と身構えたウルラートの足がわずかに動く。グラナートは動かない。緩く構えてウルラートを見据え……それだけだ。
ウルラートのわずかに動いた足に重心が乗り、地面を軽くえぐってまっすぐにグラナートに迫る。グラナートは動かない。
振り上げられ、直撃するかと思われたウルラートの一撃は、グラナートがわずかに剣先を動かしたことであっさりと反らされた。
すんなり通るとは思っていなかったとはいえ、こんなにも小さな動き一つでさばかれる程に見通されていることにわずかに眉を顰めるウルラート。体勢は崩れていないとはいえ、たったこれだけの動きでウルラートの旗色は一気に悪くなる。ウルラートの前に自由に動かせる剣はなく、グラナートの前には構えからわずかに動かされただけの剣がある。
ウルラートの判断は早かった。ここまで接近して無理やり後ろに距離を取るより、そのまま前に体を沈ませてグラナートの懐に潜り込む。力ずくで、先ほど反らされた剣先をグラナートの胴を横なぎに払った。
ほう、と口角を上げたグラナートは軽く地面を蹴って後ろに飛ぶ。ウルラートの入りが深い分、後ろに下がってさえグラナートの胴を白い剣がかすめた。
「やるではないか」
「まぁな。というか余裕かよ」
「余裕だとも。俺とて、だてに長生きしているわけではないからな」
再び距離が開いた2人は今度はお互いに動かずに睨むように相手を観察する。
次に動くのはどこか、力が入る場所、瞬間を見逃すまいと……そしてまたウルラートが動く。まっすぐ突っ込むのではなく、グラナートを中心にした円を描くかのように、時折速度を落としては上げてみたりと、タイミングを計りにくくするように動く。
速度や描く円の大きさを変えながら、今度は見通されないように不規則な動きでグラナートを観察し、グラナートの視界から自分が外れたと判断した瞬間に踏み込んで袈裟懸けに斬り上げる。
ギンッと金属同士が激しくぶつかる音が響いた。
白い剣と黒い剣が、二人の顔の前で鍔迫り合い、互いに押し負けまいと火花を散らす。
ウルラートとグラナートが互いに押し合う様に同時に後ろに飛び退った。しかし、そのまま間髪入れずに着地した足の踵が地面につく前につま先で地面を蹴る。
そこからは息もつかせぬ剣戟だ。視線が、戦意が、刃同士がぶつかり合う。刃同士がぶつかる音がしたかと思えば、次の瞬間には別の場所で火花が散っている。そんな攻防がどれだけ続いたか。
「お2人とも、楽しそうな所申し訳ありませんが、そろそろ日が暮れます。終わりにして下さい」
呆れたようなピスティの声がそれに終止符を打った。
剣をおろした2人は、ピスティの言う通りいつの間にか楽しそうな笑みを浮かべている。
「お前剣強すぎ。魔王のくせに」
「当たり前だ。俺を誰だと思っている。むしろ人間のくせに食らいついてきすぎだろう」
悔し気なウルラートに、グラナートは得意げに笑う。機嫌のよさそうなグラナートに肩をすくめて、第一回勇者VS魔王の腕試しは幕を閉じたのだった。
「くっそ、マジで強かった……」
食事も終えてひと段落したところで、風に当たるとかなんとか適当に理由を付けてウルラートは独り言ちる。
(最初に剣先で反らされた、その時点で俺よりあいつの方が剣は強い。そのあとも、敢えて剣同士でしかぶつからないようにしていたのはあいつの主導だった)
剣士としての力は、グラナートに軍配が上がる。それをはっきり自覚した。
「だめだ、俺が弱いわけにはいかない。もっと強くならないと」
大丈夫だと太鼓判を押して送り出してくれたヴィテスとエレオスに合わせる顔がない。単純にプライドの問題である。
「剣に選ばれた勇者が、剣で魔王に負けてちゃ世話ねぇよな。拳士だから、なんて言い訳はしていられない」
剣を抜く。真っ白い剣が、暗くなった夜闇によく映えた。それを構えると、また魔力がウルラート自身に同化していく。
(自分に同化させるだけじゃだめだ。あいつと渡り合うために俺が使える魔術は強化魔術だけ。剣を武器じゃなくて俺の手足だと思えるくらいにならないと。剣にも強化魔術を伝導できればもっと動けるかもしれない)
勇者になんかなるつもりはなかったが、なったからには。責任は取る、等と大口をたたいたのだ。口先だけのつもりはない。なら、魔王と渡り合える強さを持つことは必須だ。
「それに、あんなにあっさり止められるようじゃあいつの隣に並べないしな」
じっと構えた姿勢のまま魔力を剣に伸ばし続ける。自分にやる様に魔力を同化させようとするが、相手が剣だからか同化させきる前に魔力が弾けて霧散する。
「とりあえずはこれの練習だな。あとは…いつも通りの訓練と…たまにグルナに手合わせ頼もう」
ここ最近さぼり気味だったし、と反省してため息をつく。もう一度、とまたウルラートの意思に従って魔力が動いた。
「ウルよ、お前がいつ寝ようと好きにすればいいとは思うがな、旅というのは寝不足ではなかなか進めぬぞ」
「分かってるよ…」
珍しく正論でウルラートに苦言を呈するグラナート。ウルラートはどことなく元気がない調子で足を進めていた。
「でも、やっぱ力不足ってのは痛いからな。お前の横に並ぶんだから」
言い訳がましくウルラートがつぶやく。
「………勇者ともあろうお方が、手の内も明かしてくれないような魔王にこんなに甘いだなんて」
「本当にな」
ぼそりと、グラナートはピスティに同意しておく。
「その信頼には応えねばなるまい。だが、少しだけ待ってくれ」
「分かってるよ。魔王の手の内をそうやすやすと明かせないだろうし。俺たちの国で言うところの国家機密レベルだろ」
返ってくるのはただの沈黙。
(国家機密……いや、違うな。そんな大層なものではない。俺たちのエゴだ。俺が剣を使うのも、すべてを明かせないのも)
あれほど嬉しいと、応えたいと思ったウルラートからの信頼は、今はグラナートには重い。
(知らずに済むなら、それがきっといい。かつての人間たちがそう決めた。………それがいつまで正しいのか……)
ぞっとする何かを思い出す前に、その思考に蓋をする。
「ところでグルナ、マモン領からは一応遠くはないわけだよな。今の所アクションらしいアクションはないけど、どう思う?」
気遣いかたまたまか、その話題転換にありがたくグラナートは乗っかる。
「そうだな…俺が領主ならそろそろアクションを掛けたい距離ではあるが、もっと近づいてからでいいと思っているのか、興味がないのか、それかすでにもう見られているか、と言ったところではないか。まぁそんな気配はしないしコソコソ覗き見る必要もないだろうからそれはないだろうが」
「シェルムの伝達ミスで俺らの事が伝わってないってのは?」
少し考えるようにグラナートが沈黙した。
「いや、考える前に否定してやれよ」
「あれはまじめに動いてはくれるんだが……俺に対しての苦言や説教が溜まるとそっちを優先するからな…」
そっと目を伏せた。目が泳ぐよりある意味たちが悪い。
「お前のせいかよ」
「……否定は出来ん、が、とりあえずノーコメントだ」
「いや隠せてねぇよ?全然ノーコメントじゃなかったが?」
あれ、この魔王思ったより仕事してないんじゃ?と新しい疑念がわいてくるが、とりあえず気づかなかったことにした。
「まぁだが、この件に関してはそういう取りこぼしはないだろう。遠隔で見られている可能性がないではないが、敵対しているわけでもあるまいしそんな面倒なことはせんだろう。単に興味がないんじゃないか」
「え、勇者に興味持たないとかそれはそれで大丈夫なのか…?」
俺勇者なのにまさか相手にされてない?とちょっと納得いかない表情のウルラートだが、まぁ魔族との遭遇は少ないほうがいいよな、と若干無理やり納得した。
「大丈夫だろうな。そもそもお前、魔王を倒しに行くぞ、って言ってわざわざ七魔領を回るか?俺のところにまっすぐ直行だろう」
「確かに。わざわざやべーとこに突っ込んで回り道する趣味はねぇし」
「つまり、勇者とかそもそも奴らには関係ないということだ。けして、勇者としてお前が役者不足だから、とかそういったことではないぞ」
さりげないつもりのグラナートのフォローらしい言葉の刃がグサッときたウルラートであった。
「………気にしないようにしてたのに……そーだよ分かってたよ分かってますとも。俺より強い奴なんていっぱいいるんだから…」
しゅーんといきなり凹んだウルラートに困惑した表情を向けるグラナート。本人はあくまでフォローしたつもりである。悲しいすれ違い事故であった。
「ウルラート様はちゃんと強いですよ!そんなにしょげないでください、大丈夫です!」
慌ててピスティが口をはさむ。空気を読んで黙っていた間に勇者が魔王に言葉で沈められたらそりゃフォローの一言もしたくなる。
「ありがとな、ピスティ……俺もっと頑張る…」
対して、勇者の反応はもはや幼児である。しょんぼりしょんぼりしょげたウルラートの機嫌はとりあえずピスティによって放り込まれた飴玉一個でなおった。グラナートは首をかしげていた。