荷物もしっかり準備して、強欲の街から足を踏み出す。
街の門を守るガーゴイルの視線を頭上から感じて振り返れば、わずかに合った目が外界の光を受けて一瞬きらりと光り、そして来た時とは逆にベールが街を覆っていく。
「マモンの街、か…」
「どうした、ウル」
ベールの向こうに消えていく街を、最後に残ったガーゴイルの瞳が消えるまで見送る。
「強欲の街って言うか……希望の街みたいだなって。みんな、すごく明るかった」
「本当に七魔の街だったんでしょうか…」
人間2人が、まるで夢から覚めたような目をグラナートに向ける。
「………欲がなければ、進歩も発展もしない。欲があるから、それを叶えるために動く。ただそれだけのことだ。強欲も悪いものではないだろう?」
街があった場所に背を向けて、グラナートが歩き始める。
「待ってください。そうであるなら……生ける者にとって大切なものであるなら、なぜそれを司るマモンが七魔に数えられるのですか!」
その背中に、ピスティが叩きつける様に問いかけた。だが
「行くぞ。こんな場所で突っ立っていても何にもならん」
その問いに答えることも、振り返ることすらなく、グラナートは足を進める。
「グルナ!俺も聞きたい。答えてくれ」
ウルラートの声に、グラナートはようやく足を止める。
「それは……」
「「それは?」」
少し考える様に沈黙がおりた。
「…………叛逆者だったからだ」
魔なるものとは、そういうものだろう。
「反逆者……?」
それは、何に対しての……。
やけに静まり返った瞳の魔王がどこを見るともなく、2人に顔を向けた。
「そして、その叛逆をお前たちが知る必要はない。お前たちが、現代を生きる者たちが知る必要のないことだ。かつてその時を生きた人間がそう決めた。その時の勇者がそれを良しとした。だから俺は語らない。この先も、語らずに済めばいいと思っている」
歴史の闇に葬られたことなど、葬られたままでいい。
「お前はずっとそうだ。グルナ。思わせぶりなことばっかり言って、肝心なことは何も話さない。お前を信じてマモン領に来て、何も聞かされないまままた七魔領だ。信には礼を返す、お前はそう言ったはずだぞ。何も言わないのは、その礼に適っているのか?」
ウルラートの言葉にグラナートは少し考える様に目を閉じた。
「すまんな。だが、これ魔王の一存で決めていいことではない」
「では、魔王以外に誰に決定権があるというのですか。魔族は何を隠しているんですか」
詰問するピスティの視線が鋭くグラナートを射抜く。
「行くぞ。野宿をするために時早く出たわけではあるまい」
また会話を打ち切らせてグラナートは歩き出す。
「ウルラート様、やはり、私は魔王を信用できません。あの態度はあんまりです」
ピスティの言葉に、ウルラートもまた、返す言葉を持たない。
「やはり、国に一報出すべきでは?」
「………それでも俺は、あいつを信じたいと思うんだ、ピスティ。あいつが話してもいいと思えるような相手になりたい。魔王だろうとなんだろうと、全部自分でやろうとするようなやつをほっとけない」
魔王のクセに書類仕事を旅先でもこなしているのを見て知っている、魔王城での生活を聞けばスケジュールもきつきつに詰め込んで動いていると聞いた。
普段からそうやっている彼が、この件を飲み込み続けている理由。
「頑固者め」
「本当に」
人間2人の嘆息を背中で聞いて、グラナートは口角を上げた。
(頑固だろうと強情だろうと……願わくば、葬られた歴史が蘇ってくることのないよう)
「だが……俺が思っているより、人間は強くなったのかもしれないな……」
グラナートの口の中で呟かれた言葉は誰の耳にも入ることなく。
勇者一行は強欲の街を離れてようやく歩き出した。
「ところでウル、騎獣の話だがな。ケルベロスとかどうだ」
「………ケルベロスぅ!?」
「高位魔獣じゃないですか!!絶対に危険です!」
ウルラートの驚愕とピスティの悲鳴が同時に鼓膜を打った。
「そんな危険なものを提案するわけないだろう。俺のペットだ。可愛いぞ」
ケルベロスが可愛いとは。
「いや、もふもふしてて可愛いかもしれな……いや、割と剛毛じゃね?」
「そこなんですか、ウルラート様!?」
「いや、思い出したんだがな、俺のペットのケルベロスはルクスリアのところにおやつを貰いに行くことがあるから、もしかしたら会えるかと思ってな。それか、シェルムに行ってルクスリアのところに行かせておくか。それがいいな、そうしよう」
勇者と魔王がマイペースすぎる。
「ケルベロスのオヤツって……」
「あいつ、ルクスリアのところに行くようになってから舌が肥えてな……」
グラナートがため息をついた。
「ちょっと甘やかしすぎたかと心配だ……」
「甘やかし……」
「ケルベロスを……」
魔王がケルベロスを甘やかすとはどういう絵面だ。しかもその魔王がこれである。
「まぁとりあえず、うまくいけばどこかで会うだろう。散歩コースの範囲を広げたからな」
「散歩……」
「ケルベロスの散歩……」
2人の頭の中ではギラギラした目で涎を垂らして暗闇を徘徊する物騒極まりない三首の猛獣が牙を剥いていた。
「ウルラート様、やっぱり危険では?」
「いやでも配下じゃなくてペットって……」
「でも魔王のペットですし……」
さすがのウルラートも沈黙せざるを得ない。
「一応シェルムに連絡しておくか。しかし最近はあの子に思うところがな……心配だ……」
ケルベロスを“あの子”と呼んで心配する魔王。やっぱりよく分からない。
「ケルベロスの何を心配するっていうんだよ、高位魔獣の有名どころだろ……」
「うむ……そりゃ知名度はそうだが……うちの子はまだまだ生まれたてと言っても過言ではない。赤ちゃんだ。つまり、可愛い」
完全に親バカの目をしていた。
「へー」
「ケルベロスの赤ちゃん……」
少し頬が緩みかける。魔獣であっても赤ちゃんは可愛いと相場が決まっている。
「ん?でも散歩コース広げたって……」
「あぁ、まだ生後100年くらいしか経ってなくてな」
固まるピスティとポカンとするウルラート。
「赤ちゃん……?」
「生後100年……?」
2人して顔を見合わせた。
「100年ならもう赤ちゃんではねぇじゃねぇの?さすがに」
「幼いと若いの間くらいの個体にはなるかもしれませんけど、赤ちゃんにはならないかと……」
ドン引きの会話はさすがに聞こえていないらしいグラナートはさっそくシェルムの使い魔を呼びつけて何か言いつけている。いつ呼んだんだ。
「シェルムに言っておいたからな、ルクスリア近辺で会えると思うぞ」
え、あ、そぉ……という間抜けな返答は、歩調の上がったグラナートに完全においていかれた。
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ウルトラマン二次小説も本作も、次は起きたら更新します。
本作は現在41話目まで他サイトにて公開中。12時に42話を更新します。
こちらにも随時全話公開していきますのでよろしくお願いします!