「シェルム。俺達は一度戻って、荷物を整えたらベルゼブルのところに向かう。ここは任せた」
グラナートが見た目だけならちゃんと魔王っぽくそう宣うと、シェルムが冷めた目を向けてきた。
「任されますけど、魔力制御ちゃんとしてくださいね。魔王様がちゃんとしてたらこの輪っかの分の補修は必要なかったので」
グサリ。
この側近、本当に魔王の部下なのだろうか。実にふてぶてしい。
グラナートはものすごく自然な足取りでポチコロタマに向かい……でっかい毛玉に顔を突っ込んだ。
「ツライ……」
ウルラートはグラナートの背中に近づいて、その肩をポンと叩いた。
「………まぁでも、魔王なのに魔力制御できてないのがそもそもの原因だし」
グサッ。
「まったく、必要のない仕事を増やして……」
グサグサッ。
「あげくの果てにはペットで現実逃避……」
グサグサグサッ。
魔王様のメンタルは瀕死。なんということだ。自業自得である。
「」
反応がない。とりあえずウルラートはつついてみた。
「…………生きてる?」
「死んでる」
即座に反応があった。自己申告的には死んでいるらしい。
「大丈夫そうですね」
よし、と、3人が頷きあう。ポチコロタマは傷心の飼い主をベロベロ舐めて慰めている。完全に食われる絵面だ。
「シェルム、さっきの鳥魔って……」
とりあえず魔王のことはほっとくことにした。
「………今はまだ調査中だからね、もう少し待っててね」
「本当に?もう本当は何かわかってるんじゃないのか?」
ドストレート。腹芸のできない勇者だ。これだから脳筋は。
ちらりとシェルムがグラナートを見るが、グラナートの渋面を見てため息をついた。
「話すつもりはないようですから。彼の決定を勝手に覆すわけにはいきません」
「じゃあせめて。魔王は、自分に話す権利がない、と言っていました。そして、セレスさんは、話す権利はかつての勇者にある、と。その、かつての勇者様はどこに?」
ピスティの言葉に、ウルラートとグラナートは目を丸くした。
「セレスが言ったのか?」
「はい」
ピスティはまっすぐグラナートとシェルムを見返した。
「どこにいるのですか。生きているのですか?」
グラナートとシェルムが視線を交わし、
「じゃ、魔王様!あとお任せしますね!!」
シェルムは光の速さで全てをグラナートに押し付けた。見捨てたともいう。危機管理能力が高い。
「え、ちょ……おいシェルム!!」
ぽんっと煙を上げてシェルムが消えるのを、グラナートは唖然として見送った。可哀想。
あまりと言えばあまりの行動に、さすがにウルラートとピスティも唖然とし、そして可哀想なものを見る目になっていた。グラナート的には余計なお世話である。
しかしそれはそれとして。
「で?グルナ」
さらなる追求。
「…………………セレスめ……まぁ言ってしまったものは仕方ない。とりあえず戻るぞ。次の街に行かねばならん。次はベルゼブルだ」
ため息をついて元気のない声でポチコロタマを呼ぶ。
「ポチ、コロ、タマ、乗せ……」
ブニッ。
魔王の顔面に肉球が落ちてきた。
「え、ちょ、ポチコロタマ!?」
よもやここに来てあのポチコロタマの反抗かとウルラートとピスティがポチコロタマを見上げる。
ポチは、なに?と言う顔で首を傾げ、コロは楽しそうにブニブニされている飼い主を見下ろし、タマは興味なさそうな顔ではあるものの、チラチラと飼い主を見ている。
「肉球ぅぅぅ……」
すべてを察した。
多分、ポチコロタマなりの励まし方の一つなのだろう。完全に踏まれているが。
「…………本当にどうかと思う」
「同意します。腹立つので、やっぱり討伐しておきません?」
ピスティの案はとても魅力的ではあったが、ウルラートは踏みとどまって首を振った。
「さすがにそれはまずいって。たぶん」
ウルラートの苦笑にピスティはため息をつく。彼らと行動するようになって、明らかにピスティのため息は増えていた。
「おい、グルナ。戻るんだろ、動け」
傷心のグラナートを肉球から引っ剥がしてポチコロタマの背中に乗せて、ウルラートとピスティも乗り込んだ。
「ポチ、コロ、タマ。お昼寝の街に戻ってくれ」
飼い主のお願いに、ポチコロタマの耳がピンっと立ち、大きな体が動き出す。
大きな木に真っ赤な果実。今度は人間領でも見たことがあるものだった。
「…………また……」
「ま、まぁでも、人間領でも売ってるやつだし」
「食料なら十分買い込んでます」
ぐうの音も出ない。(主にグラナートの試食荒らしのせいで)買い込んだ食料はマジックバッグにまだまだ残っている。
「ポチ、コロ、タマ。悪いが、今日は寄り道はなしだ」
グラナートがそう言うと、ポチコロタマはしょんぼりと耳と尻尾を垂らして果実の木をスルーした。
「それだけ、急ぎたいことが起こってるってことか?」
「………まぁ……それもある。それが7割だな」
「じゃあ残りの3割は?」
「セレスとベルフェゴールに、ポチコロタマが太り過ぎだとおやつを禁止された」
あー……、という納得の沈黙。
もふもふの毛の下に手を突っ込んでみるウルラート。
ムニッ。
「…………ケルベロスってもっとこう……筋肉質なイメージだったんだけど」
「うるさい。可愛いだろうが」
「そりゃ可愛いですけども」
空気の読めないポチコロタマは、いろんな意味で深刻そうな飼い主の意に反して、わふんわふんとご機嫌でベルフェゴール領に戻る道を辿るのだった。