いつの間にか食料をかっ払われていたウルラートの視線が、フィリテと自分の手を行ったり来たり。
「いつの間に……」
ぽかんとしているウルラートを見ながら、フィリテはあっという間に食事を終えてしまう。
「失礼」
食べ終わり、ハンカチを取り出して口を軽く拭く。そんなことをしたこともなければしようと思ったこともないウルラートは、
(へー、なんか育ち良さそう)
という単純な感想を抱いていた。呑気すぎる。
「こんなところで何をしている?見たところ、響魔もいなさそうだが」
人間一人でうろつくには、少し治安が悪い。ウルラートたちがろくな戦闘もなく進んでいるのは、ひとえにグラナートとポチコロタマのおかげである。
「俺もそれなりに戦えるから問題ない」
存在感のある剣をポンポンと叩いて、フィリテがどこか得意げに肩をすくめた。
「ベルゼブル領に行くなら、一緒に行くか?俺らも行くし」
ウルラートがグラナートとピスティの方を見る。ポチとコロはキョトンとした顔をしているのでノーカウント。タマは前足で顔を洗っている。仕草が完全に猫。色んな意味で論外。
「そうですね……確かに戦えるかもしれませんが、人間が一人で魔族領を歩くのを放っておくのも気が引けますし……」
ピスティが頷く。グラナートも特に異論はない様子で受け入れている。警戒心が来い。
「それに、歩くより断然速いしな」
これが決め手だったらしい。
「そういうことなら、同行させてもらおう」
頷きながら、フィリテはバカデカワンコを見上げる。
ポチがフィリテに鼻を近づけてクンクン。コロはおめめキラッキラさせてフィリテを見ている。タマは相変わらず興味なさそうではある。
「…………ずいぶん……その、なんだ……個性的なケルベロスだな」
言葉を選んだ。選ばざるを得ない。だってケルベロスにしては温厚すぎる、というか、あまりにも犬過ぎた。
「うんうん、そうだろう。うちの子は可愛いんだ。真ん中がポチ、右がコロ、左がタマだ」
グラナートが途端にドヤ顔になって手近なタマを撫でた。気分じゃなかったらしく、普通に顔を背けられた。
「タマは気分屋だなぁ」
慣れた様子でそのままご機嫌にポチを撫でる。いつものことだ。
「…………いつもこうなのか……?」
フィリテがウルラートとピスティの方を見ると、二人は同時に頷く。
「親バカだから」
「割といつもですね」
「そんなことないぞ!俺は心を鬼にしてしばらくこの子達の食事管理をだな……」
グラナートが、ちゃんと考えて世話をするアピールをした途端に、ポチコロタマがしょんぼりした。ご飯が減る。おやつもなし。とても悲しい。
「あー!すまん!そうだよな、お腹いっぱい食べたいもんな、ベルフェゴールには内緒で少しだけ……」
「グルナ」
呆れたようなウルラートの声に、グラナートもしょんぼりした。
「全く……」
「油断も隙も無いですね……」
魔王の評価は下降の一途をたどる。悲しむべきことだ。
「そういえば、俺は名乗ったがそちらの名前を聞いていない」
「………そうだっけ。……そうだった、悪い。俺はウルラート。道中よろしくな、フィリ。ちなみに、あっちでしょげてるのがグラナート」
「私はピスティです。よろしくお願いします、フィリさん」
ついでで紹介されたグラナートは毛玉に埋もれて「ごめんなぁ……」と呟いている。たかがご飯。されどご飯である。
「はぁ……ペットを飢えさせることになるとは……」
「飢えてねぇよ、デブってるんだって、正気に戻れ。で、ベルゼブル領ってどのくらいで着くんだ?」
慣れた様子で流してウルラートが問いかけると、グラナートはため息をついてケルベロスから離れた。ポチコロタマの尻尾が寂しそうに下がる。
「うむ、可愛い」
「分かったから」
扱いが手慣れている。
「ベルゼブル領までか……このペースなら明後日の昼か……いや、夕方くらいか。まぁそのくらいには着くと思うぞ」
これまでの倍以上かかる前提で話している。
「だいぶかかるな……?」
「広いと言っただろう。あと、ポチコロタマのご飯が少ないんだぞ!」
ピスティが額を押さえ、ウルラートはため息をつき、フィリテも呆れ顔になった。
「お前ほんとにさぁ……」
「まぁ……それでも歩くよりは速いか……」
ほとんど諦めの境地。急ぎたいのではなかっのか。いや、急ぎたいがポチコロタマも大事、そういうことなのだろう。たぶん。おそらく。
「とりあえず進むなら乗れ」
ようやく進む気になった。一人増えて少し詰めることにはなるが、それでもポチコロタマの背中に大人が4人。
「つくづくデカいな……」
慣れてきたとはいえ、しみじみと呟く。
「もっとデカくなるぞ」
グラナートはウルラートの呟きに胸を張った。が。
「横に?」
「うるさいぞ!!」
やっぱりコントになるコンビなのであった。