グラナートの非情?な催促のおかげで、ポチコロタマの足は早い。
なお、非情?な催促はほぼほぼ情けないお願いであったことを追記しておく。ごめんなぁ……が鳴き声と化していた。一方でポチコロタマはそもそも走り回るのは好きだし大好きな飼い主のお願いだしで大張り切り。尻尾と耳をピコンッと立ててご機嫌で走っている。何回か背中の乗員はふっとばされそうになったが、それはご愛嬌というやつである。
風を切るように走る。
遠くに、山が見えた。
「あの山の少し向こうだな。だが、谷があるから大回りしなきゃならないだろう」
フィリテがそう言うと、グラナートがそう言えばそうだったな、と頷く。
「よく知っているな」
「え、ここだけ地形が悪すぎないか……?」
今まで割と平坦で平穏、強いて言うならアスモデウスのところに山があった程度。それが山に谷が連なるとなるとなかなかの変化だ。
「まぁな。だが、谷底の川がベルゼブルにとっては便利だからな。山も気候をうまく調整する役目があるとかで。聞いてみたら嬉々として語ってくれると思うぞ」
別に農業体験をしに行くわけではない。まぁそれはいい。
「で、谷ってどうすんの?」
「うむ……この子たちだけなら谷くらいどうということはないが……上にお前たちもいるしな……谷壁を駆け下りて駆け上がるのはさすがに……」
普通に死ぬ。
「やめとこう」
「普通に迂回しましょう」
ウルラートとピスティが同時に言うと、グラナートも頷いてポチコロタマに方向転換を促してさらに走る。素直ないい子たちである。めちゃくちゃ楽しそう。
「まぁ、橋までも結構距離があるがな」
「なんでだよ、整備しろよ!魔王だろ!」
「魔王を何だと思ってるんだ!あとこの辺は俺の管轄ではない!ベルゼブルかベルフェゴールに言え!」
そろそろ魔王らしい貫禄を見せてほしいものである。
「まぁでも橋があると助かるがな。ベルフェゴール領に向かうのは怪我人や病人だし。一応渡し役がいるとは言え」
渡し役がいるらしいが、それはそれとして、とフィリテも口添えをする。
「渡し役?」
「あぁ。飛べる響魔持ちが仕事としてやってる。が、数は多くない。ベルゼブルの農地回りはともかく、このあたりとなると魔物も魔獣もならず者じみた魔族もいる。谷周辺は治安はあまり良くないな」
弱った獲物が通りやすい道だからかもしれない。
「むぅ…七魔領はあまり視察できていないからな……考えておこう」
ケルベロスに乗って駆け抜けて安定した旅路を辿ってきたせいで気付かなかったが、改めて周りに耳を傾ければ魔獣らしい声や、バサバサと飛び去る鳥の群れなど、不穏な情報はその辺に転がっていた。
「…………もしかして、ケルベロス効果って強い…?」
「何を今更」
誇らしげなグラナートが腹立たしい。だってただの犬じゃないか。
谷をぐるりと回り込み、だいぶ走った。遠くに見えていた山が角度を変えて、違う形を見せている。
「…………あれ?」
ウルラートが山を見て首を傾げた。
「どうしました?ウルラート様」
ピスティが声をかける。
「いや……なんかあの山、俺が育った村から見える山に似てるな、って」
迷子になったら、あの山を目印にしろ。幼いころ、そう言われた気がする。山の一部が出っ張って、特徴的な形をしている山は分かりやすく目印だった。
「まぁ、人間領寄りではあるか。王都からは少し距離があるが」
「もしかして近いのかな」
そういえば、勇者に選ばれてから逃げるように出てきたので、実家()に戻っていない。そう思うと妙に里心がついた。
「だが、この辺りだとエルフが主になる村くらいしか」
「あぁ、うん。ピスティには言ったけど、俺、エルフに育てられてるから。もしかしたらその村かも」
相変わらず報連相ができない。
「ほぅ、そうなのか。なら、確かにそうかもしれんな」
ポチコロタマが先に進むにつれ、ウルラートがそわそわと周囲を見回し始めた。
「気になるか」
「そ、そんなことねぇし」
しかし、ウルラートだって元気にアホやってるとはいえ、成人の儀式を終えたばかり。それが実家近くに来たかもしれないと思うとソワソワしてしまうのは仕方がないのかもしれない。
「このあたりの状況を聞いておくのはいいかもしれない。青い炎の襲撃者の件もある」
「え」
「もちろん、その村がお前の村かどうかはしらんぞ」
グラナートはそう言って肩をすくめ、ポチコロタマに方向転換を促した。