「いや、ほんとにうちの村だったとはなー」
尻尾を丸めていたとは思えないご機嫌なウルラートと、なんとなくついてきました感満載なピスティとフィリテ。
ウルラートは勝手に家の扉を開けて中に入り、勝手に椅子を引っ張り出して勝手に二人を座らせ、勝手に鍋の中のスープを仕上げ始めていた。まさに勝手知ったる。それにしたってどうかと思う。
少し遅れて、エルフとグラナートが入ってきた。
「…………お前、もうちょっとこう……」
エルフが額に手を当ててため息をつく。
「そんなことよりさ、自警隊長ってなに」
「それより先に、連れてきたメンツの紹介だろうが、橋渡し役がお前しかいないんだぞ」
キョトンとしたウルラートが、グラナート、ピスティ、フィリテ、育ての親、と視線を滑らせる。
「………それもそうだった。えーと、グラナート、ピスティ、フィリテ、で、親父」
一人ずつ指さして名前を挙げる。
「人を指さすんじゃない」
ゴンッ!と再びゲンコツ。いい音がして、危うくスープに顔を突っ込むところだった。子どものお友達紹介レベル。
「いってぇ!」
「やかましい!全く、お前と来たらせっかく成人して勇者にまでなったってのに」
ブツクサと文句を並べる育ての親に、うわ、また始まった、という顔を向け、姿勢を低くしてスープを飲みながら嵐が通り過ぎるのを待つ。なんとも情けない勇者だ。
「どっかのアホがまともに紹介する気がなさそうだが……改めて、うちのバカが世話をかけていると思う。私はクリアール。エルフだ」
散々アホだのバカだの言われたウルラートはプルプル震えている。
「私……似合わねー…いでっ!」
再びゲンコツが飛んだ。口は災いの元である。
「クソ親父、お前すぐ殴りやがって!エルフのくせに暴力的!」
「黙れクソガキ。黙って飯食ってろ。エルフに殴られるようなことするお前が悪い」
それでも飯は食わせてくれるらしい。
ウルラートは殴られた頭をさすりながら食事に戻る。それをグラナートは顔を背けるだけという雑な隠し方で笑い、ピスティは困惑し、フィリテは笑いをスープで流し込んでいた。
「あ、あの……クリアール、さん……?その、暴力は……」
「あぁ、申し訳ない。見苦しいところを見せてしまった」
ピスティがそっと苦言を呈すると、クリアールは苦笑して是非を流した。
「そんなことより、お二人はウルの友達、かな?」
友達かと言われると答え方に迷うところ。
「えーと……私はピスティと言います。神官として勇者様の手助けをするべく、同行させていただいて……」
なんだか視線を感じてウルラートを見れば、なんだか不貞腐れているように見えた。
「……………はい、友達です」
ウルラートの機嫌が目に見えて直った。ちょろすぎる。
「俺はフィリテ。友達と言えるほど、会ってから時間が経っては……」
じー……っと視線を感じる。
「…………友達……」
ぱっとウルラートの目が輝いた。
「と言えるほどでは……」
しょぼん。
フィリテの顔が、なんだこいつ、面白、という顔になる。オモチャ認定された。
そのへんのやり取りでクリアールも満足したらしい。
「うちの息子が世話をかけているようだが、仲良くしてくれると私としても嬉しい。よろしく頼むよ」
恐らく年長であろうクリアールに軽く頭を下げられて、ピスティが慌てて頭を下げ返し、フィリテも会釈を返した。
「なー、それより、自警隊長ってなんだよ?」
ウルラートが何度目かになる疑問をクリアールに投げる。
「ん?あぁ、ここ数日、少し周りが落ち着かなくてな。何人かで定時見回りするようにしてるんだ」
全員の表情が険しくなった。
「それって」
「昼夜問わず、上空をなんか飛んでたり、魔族領側の谷のあたりで焼け焦げが見つかったりな。青い炎を見たって話もあるが、青と銀の炎なんて聞いたこともないし」
困った顔でクリアールがため息をついた所で、グラナートが口を挟む。
「昼夜問わず、と言ったな。つまり、一度ではない、と」
「はい。不定期ではありますが。不安を煽られている住民も少なくありません」
沈黙が落ちた。難しい顔をするグラナートとグラナートに視線を向けるウルラートとピスティ。
「青と銀の炎って、親父でも聞いたことねぇの?そこそこ長生きだろ」
ウルラートがクリアールに聞いても、クリアールは首を横に振った。
「聞いたことも見たこともない。あんなの、見聞きしたら忘れねぇよ」