「ウルめ、どこに行ったんだ……」
相方の地元で相方に一方的にかくれんぼを挑まれている気分である。あいつどこ行った。
残骸となった村と、未だ消えぬ青い炎の間を縫ってグラナートはウルラートを探して歩く。
炎に燃やされ、燃え広がるのを防ぐために壊されたような痕跡だけが残る村。逆を言えば、あの天使はただただ炎を放っていただけのように見受けられる。
そこに、何らかの意思はあったのだろうか。
破壊の意思は、攻撃の意思はあったのだろうか。
これまでも壊滅した場所はあったと聞く。だが、死者はいないと聞いていた。だというのに、ザフィロとデゼルトの両親が死んでいた。商談でもベルフェゴール領に担ぎ込まれる程度には重傷者がいた。物的な被害が、人間や魔族への被害に拡大してきている。
残る七魔領はベルゼブル領とレヴィアタン領。その2カ所を回っている暇はあるのか?いっそのこと、魔王城に戻り、七魔たちを呼びつけて話をするべきではないのか。
グラナートはまた空を見る。煙が空を陰らせている様が焦燥感を煽った。
「七魔領を回りたいのは、俺のわがままか……だが……」
全ての街を、神魔大戦の自分たちの選択の結果を、この目で確認したい。しなければならない。でなければ、この戦いに意義を、結末を選べない。同じ決断をするのか、違う答えを探すのか。
ウルラートを探しながら、グラナートがどこか遠くを見る目をする。
意地と覚悟を混同するな、と。
愛を肯定する、と。
行く先の無事を欲する、と。
かつてを共にした者たちは、自分の中に何かを持って、グラナートの背を押した。
間違ってはいなかったはずだ。かつての決断は。かつての選択は。
「ウル!来ちゃダメ!」
奥の方で、高い声が叫んでいる声がグラナートの耳に届いた。
「ウル?」
そちらに足を向ける。小さな森、茂みをかき分けて。
「あぁ、いた。ウル……」
立っているウルラートの後ろ姿は割とすぐに見え、声をかけようと進んでいく。
血の、匂い。鼻をかすめた匂いに嫌な予感を覚えて、グラナートは最後の茂みを抜けた。
赤が。
「………クリアール……」
見ればわかる。もう息はない。少し離れたところに折れた細剣が転がっている。
「………ウルを連れて、少し離れろ」
涙を堪らえようと必死な小さなエルフが頷いて、立ち尽くすウルラートの手を引く。
「ウル、行こう」
ウルラートの足は動かない。倒れているクリアールから、視線が全く動かない。
それを見て、グラナートはウルラートの視線を遮るように前に出た。動くものが視界に入って、ウルラートがはっとしたように目を瞬かせる。
「ウル」
呼ばれて、小さなエルフと足元の赤を交互に見る。
「ぇ……ぁ……で、でも……親父、が……」
「ウル。俺が見ておく。少し休んでこい」
それでも動こうとしないウルラートを、小さなエルフが強めに引いた。それに引かれて、小さな歩幅でウルラートが歩きだす。何度も何度も振り返りながら、理解が追いついていないという顔のままで。
「…………俺のせいか……」
クリアールの血の中に足を踏み入れて、傍らにしゃがみ込む。
「俺が、あの時」
あの時に、選択を間違えたのか。
クリアールの体をそっと血の海から引き上げて、血の汚れがない草むらの上に仰向けに横たえた。
「………青い炎の傷ではない。剣か……何かしらの刃物の傷だ。あの天使どもではないな……」
他にもいた。少なくとも、剣という武器を使う者が。
「………あのエルフが見逃されたのはなぜだ」
見逃された。あるいは隠れていて見つけられなかった。もっとあるなら、
「初めから、狙われたのはクリアールだけだった……武器を持つ天使……新たに、作り出した、のか。なら、戦力を測るための試験運用」
拳を握り込む。
「七魔の代わり、か……」
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次回更新は水曜日21時を予定していますので、またよろしくお願いします。