グラナートはクリアールの周りに、相変わらず地面を抉るレベルの結界を張って森を出た。こんなときでも0と100しかない。
「絵本の勇者は、守ってなんかくれなかった」
絞り出された言葉が、ウルラートのもとに近づいていたグラナートの耳に届いた。
足音が止まる。
伸ばそうとした手が止まる。
言葉を紡ごうとした口が止まる。
それを、小さなエルフだけが見ていた。
「ウル……」
小さなエルフが、グラナートの存在を伝えようとウルラートを呼ぶ。
だが、ウルラートが顔を上げる前に、グラナートは踵を返した。そのまま、グラナートはその場を去り、村の住人たちの対応にあたっていたピスティとフィリテのもとに向かった。
「怪我人たちはどうだ」
声を掛けられたピスティが振り向いた。
「問題ありません。命に関わるような方はいませんでした」
「もう一度周囲を確認したが、天使は他にはいなかった。で、ウルラートはどうした」
グラナートが、自分が歩いてきた方を見やった。
「…………クリアールが死んだ」
他の村人たちに聞こえないよう声を潜めた言葉に、ピスティとフィリテが空気ごと凍りついた。
「どういうことだ。あのちっこいエルフたちならまだ分かる。あのエルフたちはまだ戦えないだろうからな。だが、クリアールはそれなりに歳を重ねたエルフだろう」
歳を重ねたエルフの戦闘力はそこそこ高い。しかも、ウルラートを育てたエルフだ。ウルラートの言を見ても弱いとは思えなかった。
「そ、それより、ウルラート様はそれを……」
「知っている」
状況分析を始めるフィリテと違って、ピスティがグラナートを睨みつけた。
「ウルラート様を、一人で放置してきたのですか…!」
ピスティの言葉にグラナートは気まずそうに目をそらす。
「あなた、ウルラート様の響魔なのでしょう……!今そばにいるべきなのではないのですか、これだから魔王など……」
文句を飲み込んで、ピスティが立ち上がる。
「あっちですね。フィリさん、こっちお願いします」
了承を得る間もなく、ピスティはその場を離れてウルラートのもとに向かう。
「………グエラ、貴様、逃げたな?」
フィリテからも目をそらす。そらされたフィリテの目が赤い。
「何から逃げた」
フィリテの圧がグラナートにのしかかる。
「………やはりお前、コレールか。通りで人を探しに行くと言う割に寄り道にも反対しないわけだな」
「話をそらすな。何から逃げた」
全く話が逸れなかった。
フィリテ・コレール。今代のコレール。
「俺たちの神魔大戦は……」
間違っていたのか。正しかったはずだ。
そう迷う言葉を呟くグラナートを、コレールは鼻で笑った。
「神魔大戦が間違っていた、だと?バカなことを」
コレールの契約する七魔は、ルシフェル。
「私たちの行いは間違ってなどいない」
全く揺らがない。
「私はあの戦いを誇りに思う。たとえそれが神の意に沿わぬことだったとしても。私たちの独断だと言われたとしても。私たちの行いは正しい」
傲慢の七魔が魔王を嗤う。
「お前は私より傲慢だな、グエラ」
フィリテの目の色がもとに戻る。ルシフェルが引っ込んだ。
「俺もピスティたちのところに行ってくる。落ち着いたら戻ってくるといい。適当に言い訳はしておく」
歩み去る背中を見送って、グラナートも反対に向けて歩き出した。
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