殴る勇者と斬る魔王   作:輝波斗

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51.何が勇者だよ

 じっとベッドの脇に座って、動かないクリアールを見つめていた。外の部屋のうるささも気にならない。

 間に合わなかった。

 それだけが胸の内を渦巻いている。

「………何勝手に死んでんだよ、クソ親父」

 クリアールが強いから。クリアールがほかの住人たちと一緒に村を守っているから。そう思ったから、目の前の子どもたちを優先したのに。

 間違えた。間違えた。間違えた。

 そう考える自分が嫌だ。

 あの子たちを助けに走ったことすら間違いだったと。

「違う……間違いじゃ……」

 クリアールも同じことをした。同じ判断をした。

 その結果、死んだ。

 勇者の剣を投げ捨てる。最初の頃はあんなに、傷つけるかも、とビビリ散らかして、今までもそれなりに大切に扱ってきた剣を、初めてぞんざいに。

「何が勇者だ。そんなもの、何の役にも立たない……!」

 流されて、その気になったくせに、まだどこか平和ボケしたまま。

「こんなもの、いらない……!」

 結局、勇者の剣を抜いても何も変わらない。

 急に強くなったわけでも、守れるものが増えたわけでもない。

 届かなければ、意味はない。

 勇者になって、勇者の名前を戴いて、守れるものが増えた気になっただけ。

 勇者になんてならなければ、最初の希望通りに傭兵か何かになっていれば。

 守れるものが増えた、なんて、そんな夢物語を描くこともなかったのに。

「儀式なんか、受けに行くんじゃなかった……」

『まったく……勇者選定の儀式はお前たち人間には大事なんだろうが』

 エルフのくせに、人間の慣習に則ってウルラートを育てた、変人エルフ。

『とっとと行ってこい』

 何も蹴っ飛ばすことはねぇだろうと何度も思った。暴力エルフめ、と。

「………勇者なんて……そうなるもんじゃねぇから……すぐ、帰ってくる、って……」

 そう、言ったのに。

「帰ってくれば、家があって、あんたがいるって……思ってたから……」

 ダメだ、と思った。

 このままここにいたら、本当に動けなくなる。頭の片隅で警鐘が鳴る。でも、身体に根が生えたようにその場から動けない。

 外から、村の住人たちが怪我人たちの対応を一段落させ、動ける人員を使って片付けを始めることが少し遠く聞こえる。

 生きている。村の住人たちは。

 クリアールだけが。

「何が勇者だよ……いらねぇんだよ、そんなの……!」

 架空の希望を持たせるだけなら、初めからそんなもの、ない方がいい。

 少しの沈黙。無音。そして。どんどんっと、扉が強く叩かれた。

「おい、ウル!手伝え、やることは山ほどあるぞ!」

 村の住人の一人の声が静寂を破った。

 

 

 

 片付けに動き始めた村の住人たちを、少し離れたところからグラナートが見ている。

「………もう動き出したのか」

 それはそうだ。雨露をしのげる建物を一つでも多く復旧して。無事な食べ物を少しでもかき集めて。

 生きているものは生きるためにまず、今夜を乗り切らなければならない。

 それに、村を守ってきたエルフを悼むための場所を確保しなければ。

 泣きながらでも、痛みを覚えながらでも、動かなければならない。生きているのだから。

「………強いな」

 クリアールの死を前にして。崩れた建物を前にして。あの恐怖を前にして。

 生きることを全うする者たちが、今必死に手足を動かしている。

 数人の村人がクリアールの家の方に向かって行った。グラナートにはその声は聞こえないが、フィリテとピスティが出てくるのは見える。

 そこから少し長めの間があって、遠目にも精彩を欠くウルラートも引っ張り出された。

 村の中を引っ張り回されて、復旧を手伝わされるウルラートを遠目に眺める。

 静かに一人で居たかっただろうウルラートを引っ張り出して手伝わせるのは非情に見えるかもしれない。酷かもしれない。

 だがそれでも、あの部屋で1人、動けなくなるよりは。

 ずっとずっと、良かったのかもしれない。




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次回更新は水曜日21時を予定しておりますので、またよろしくお願いします!
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