殴る勇者と斬る魔王   作:輝波斗

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52.勇者なんかクソ食らえ

 村の住人たちは容赦がなかった。

 引っ張り出したウルラートを引きずっては、あれをやれこれをやれと、ピスティどころかフィリテすらちょっと引くレベルで作業を言いつけ、ウルラートが放心する間を与えない。

 そしてウルラートが作業をしている間に数人がクリアールの遺体を綺麗にして葬儀の準備を整えていく。そしてついでに、合流したグラナートも当然のように巻き込まれた。魔王なのに雑用に使われた。実に解せない。

「俺は魔王なんだが……」

「そんなところに立ってるからですよ。立ってるものは親でも使えって言いますから、使われてください」

 恐れを知らないエルフたちに言われて、あっさり流された。魔王としてどうかと思う。

 ウルラートが言われた作業をこなしていく。壊された建物を片付け、荒れた畑を片付け。

 壊されたものを、少しずつ認識していく。

 壊れたもの。壊されたもの。失ったもの。

 そして、残ったもの。

 青と銀の炎が消えていく。主である天使が倒れ、持続力を失ったのだろう。

 戦いの残滓が消えて、現実だけが残る。

 家は建て直せる。畑も復活させられる。

 クリアールだけが、決定的に、絶対的に、もういない。

 それでも、ほかの皆は生きている。

 流される間に、クリアールを見送る準備が進んでいく。

 その日1日で最低限の片付けを済ませるほど動けるのは、長命種の精神性によるものかもしれない。

 エルフは森と共に生きる種族。死した肉体は土の糧となり、魂は風に還る。

 

 翌日になって、クリアールの葬儀が行われる。

 涙もあった。懐古もあった。

 一晩明けてなお、グラナートたちはウルラートに掛ける言葉を持てない。

「我らが同胞に」

 葬られるクリアールの体に次々に声がかけられる。

 クリアールは還った。

 村の住人のエルフたちがウルラートの肩を叩いていく。

「ウル、顔をあげんか」

 俯き続けるウルラートを見かけたように、村人の中から大声が飛んできた。

 ウルラートを部屋から引っ張り出したうちの一人。わりと大柄なエルフのおっさん。ドワーフだろお前、と言いたくなるような立派なヒゲを撫でつけ、大柄なエルフが続けた。

「お前が見送らんでどうする。お前はクリアールの息子だろうが」

「そうだぞ、ウル。お前が旅立った日、あいつはどうした」

 追従する声も、ウルラートを部屋から引っ張り出した声。つり目が少しきついエルフがウルラートを睨む。いや、たぶん睨んでいるつもりはないのだろうが、睨まれている気分になる。

「俺が……出た日……」

 とっとと出てけ。独り立ちしろ。そして蹴り出された。

 その声がまた聞こえた気がした。目元が潤む。声が震える。

「…………暴力エルフのクソ親父」

 吐き出された言葉に、その場が静まり返った。

 ウルラートを叱咤した2人は満足げに頷く。

「見てろ、このクソ親父!あんたに教えられたこと、全部持って行くからな!次にここに帰ってくるのは全部……全部終わらせてからだからな、帰ってこいって言われたって帰ってこねぇぞ!」

 声が濡れる。吐き出すように吼えた。

「よく言った」

「それでこそ、クリアールの息子だ」

「あの悪ガキが良くもまぁ」

「誰だ今しれっと悪ガキとか言ったの!!」

 即座に言い返すウルラートの顔が涙と鼻水で濡れている。

 それでも、ウルラートの顔はもう地面を見てはいなかった。

「ウルラート様」

 ピスティがそっと進み出て、勇者の剣を差し出す。

 ピスティが拾っていたらしい。投げ捨てられたというのに、嫌味なほどに勇者の剣は傷一つなくその美しい姿を守っている。

「勇者なんかクソ食らえ」

 それでも、剣を取る。

「ここで立ち止まってるのは性に合わねぇだけだからな」

 なんの言い訳なのかよく分からないが、それでも涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔のまま、勇者の剣を手に取ることを選ぶ。

 それは、ウルラートが自分の意思で決断した立ち止まらない選択だ。




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次回更新は土曜日12時を予定しておりますので、またよろしくお願いします!
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