谷を渡れる場所を探してデチデチ。
いや、渡れはする。ポチコロタマなら、谷を駆け下りて駆け上ることもできる。
だが、背中に乗っている一同はその案を絶対に出さない。当たり前である。普通に死ぬ。
ゴーサインが出ないポチコロタマは、なんでだろうなーと思いながらもデチデチ歩く。
お天気が良くてご機嫌。
ポチコロタマの存在と、たまにコントを仕掛けてくる仲間のせいで、ウルラートは素直に落ち込めない。だから動けている面もあるのだが。
「………で、いつになったら向こうに行くんです?」
のんきなお散歩に業を煮やしたようにピスティがグラナートに問いかける。
「……うぅむ……走ればポチコロタマならどこでも行けるが……ジャンプとなるとなぁ……」
「落ちたらどっちにしてもほぼ確実に死ぬがな」
フィリテの忠告が怖い。
「でも、この辺治安悪いんだろ?………あの村で何かあったって話は聞いたことなかったけど」
「そりゃな。エルフのいる村においそれと手を出せるやつは多くはないからな」
グラナートの言葉にポチコロタマの背中の毛をぎゅっと握りしめる。ポチが、痛いんだけど、という目で見てきた。
「あ、ごめん」
慌てて手を離す。
「…………なんであの村が狙われたのかはわからん。だが、こう言ってはなんだが、あの程度の襲撃規模ならアオス・シュテルベンはまだ完全には目覚めていないのかもしれん」
「アオス・シュテルベン」
初めてウルラートがその名前をまともに口にした。青でも赤でも黄色でもなく。危機感が足りなかった時期を通り過ぎた。
「………なぁ、アオス・シュテルベンもだけど、まだ神魔大戦について、話してくれる気はねぇのかよ。お前が話さないなら、フィリでもさ」
グラナートが視線を泳がせる。フィリテは首を振った。
「俺たち七魔にそれを語る権利はない。話さないと決めたのは当時の勇者だからだ」
「だったら、その勇者様はどこにいるんですか。セレニティさん……ベルフェゴールの契約者は、原初の勇者様は生きているのでは、という私の問いを否定しませんでした」
フィリテが目を瞬かせる。グラナートが、え、という顔でピスティを二度見した。ウルラートも寝耳に水でぽかんとしている。
「………セレスめ……」
「それ言っていいやつだったのか?」
脳内でセレニティが微笑む。言っていいと言われていませんが、言ってはダメだとも言われていませんので。そんな声が聞こえてくるようだった。
「ベルフェゴールの差し金だろうなぁ」
「あいつ、サボり魔のくせに仕事はデキるからな……」
頭を抱えるグラナートと、呆れたように笑うフィリテの対比がデカい。
「え、絵本の勇者、生きてんの……?」
嘘つき、守ってくれない、クソ喰らえ。まぁいろいろ言ったが、それは相手に届かないと高をくくっているから出た言葉でもある。
「………………あの、もし会ってもその、俺の発言については……」
子供じみたお願いの自覚はある。あるが、仕方ない。口から出た言葉は引っ込められないのである。
「え、あ、はい……言いません」
ピスティの言葉に安堵するが、グラナートとフィリテは微妙な顔をしている。
「お前、勇者の後継のくせにそんな……」
フィリテの言葉で、呆れられていると判断。
「いやだって数千年前だぞ、生きてるなんて思わねぇじゃん……!」
ごもっともではあるのだが、そんな言い訳に意味はないわけで。
「まぁ、いいんじゃないか。お前からしたらあながち事実無根というわけでもないのだし。怒られることはない」
なだめるようにグラナートがフォローを入れる。フォローになっているかは知らん。
「と、とにかく言うなよ!?というか、会える、のか……?」
ウルラートとピスティの視線がグラナートに突き刺さる。何しろ魔王である。勇者とは浅からぬ因縁があるはず、そうは見えなくても。たぶん。
「うぅむ……」
「会えるんじゃないか。レヴィアタン領まで回っちまえば、さすがに」
言い淀むグラナートの横で、フィリテが口を挟む。
「さすがにそこまで来たら、グラナートも隠し事はできないだろ。というか、本当によく情報伏せられたままこんなとこまで来たもんだ。お人好しが過ぎる」
これまでとは違う種類の沈黙がその場を支配したのだった。
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