「ていうか、ケルベロスって一応上位魔獣、だよな……?」
お座りして尻尾をパタパタさせているポチコロタマを見上げながら、フィリテに声をかける。
「まぁ、そうだな。一応は」
タマがポチの頭に顎を乗せてくつろいでいる。ポチはキョトンとした目でウルラートとフィリテの方を見おろし、コロはキラキラした目で野盗をしばき倒している飼い主を見つめている。
一応、上位魔獣のケルベロスがこれだ。
「ケルベロスって個体数少ないよな……?なんであいつら、当然の顔して、ケルベロス高く売れるとかなんとか言ってんの?勝てると思ってんの?」
「さぁ……まぁ、こいつは散歩と称してほっつき回ってるらしいから……」
「ケルベロスじゃなくてチョロ犬として認識されてんじゃん、それ」
ウルラートとフィリテの危機感に欠ける会話を、ピスティは遠い目で聞いている。
ケルベロスといえば、恐怖の具現として神話に伝えられていたはずである。前々からおかしいおかしいとは思っていたが、まさか野盗に舐められるレベルのケルベロスが存在するとは。
「でも多分、じゃれつくだけでもあいつら潰せる。あんなしょぼい武器じゃこいつの毛を切るのも無理。…………たぶん」
「たぶんって」
「ケルベロスの毛並みは本来、こんなにサラサラのふわふわのもふもふじゃない。もっとこう……針みたいな硬い毛のはず……」
もふん。
どう見ても、剛毛からは程遠い毛並みが真っ昼間の太陽光を反射してツヤツヤと輝いている。
「………納得いかない……」
「分かる。俺達も最初に見たときは納得いかなかった」
フィリテの言葉とウルラートの同意にピスティも頷いている。だが、どんなに納得いかなくても、目の前のケルベロスはもっふもふのツヤッツヤで耳をピコピコさせて尻尾はパタパタ。
これが現実である。
「納得いかない……」
「ほんとそれ」
「ケルベロスの亜種……亜種にしてもちょっと……」
誰一人として、野盗をしばき倒している真っ最中のグラナートになど気にもかけない。まぁ大丈夫だろう。親バカだし。いや違う、魔王だし。
一応チラチラと見てはいるが、どう見てもグラナートは野盗たちを討伐したりしそうな感じでもないし、怪我をしそうな様子もない。だんだんと、チラチラが、チラ、チラ、になり、今となっては、チラ………チラ…………………くらい間がある。友達甲斐のない仲間たちである。
「まったく!うちのコに目をつけるなど、目の付け所はいいが、けしからんヤツらだ!」
そんなセリフまでかっ飛んでいる。もう好きにすればいい。
「育つ環境って大事なんだな……」
「でも、こいつの親はまだ魔王城で現役番犬やってるはずらしいぞ。両親ともちゃんと凶暴だ。ってルシフェルが言ってる」
「えっ!?」
「そうなんですか!?」
ケルベロスにあるまじき気性は、親ケルベロスがいないが故にグラナートにクソほど甘やかされて育った結果だと思っていた。だというのに、親は健在らしい。そんなバカな。
「突然変異すぎる」
唖然として見上げてくる人間たちの頭上に、肉球が落ちてきた。
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
「ぶっ……!」
ブニブニブニブニ。ピンク色の綺麗な肉球。かなりの距離を移動してきたにも関わらずである。
「え、ちょ、なに……おいやめろ!ちょっ!」
ウルラートの叱責に肉球が離れた。ポチがキョトンとしている。
「つ、潰されるかと思いました……」
ピスティがちょっと怯えている。
「なんだ、お前たち。ズルいぞ。ポチ、俺にも!」
両腕を広げて肉球を受け止める魔王。ひっどい絵面であるが、野盗はきっちり地面に倒れている。こちらが内容はともかく、真面目にケルベロスについて議論している間にしばき終わったらしい。
「肉球せらぴー………」
ポチにはウルラートたちが疲れているように見えたのかもしれない。だから、飼い主が喜ぶ肉球セラピーとやらをしてあげたつもりらしい。
「肉球セラピー……ケルベロスの……」
「贅沢と言えば……まぁ、贅沢、か……?」
「でも、普通に攻撃では……」
ブニブニブニブニ。魔王の顔面が肉球に埋まっている。両手の指が肉球を堪能している。
「あいつ、そろそろ殴っていい?」
「いいと思います」
「いいんじゃないか」
満場一致。仲間の調和って美しい。
「おいこら」
肉球セラピーを堪能しているグラナートを横から蹴っ飛ばす。
「なにをする!?」
「あれどーすんの」
倒れている野盗ども。このまま放置するわけにもいかないだろう。
「問題ない、峰打ちだ」
「…………魔王の剣って諸刃では……?」
「峰ないな」
「慣用句なのは分かりますけど……」
「言いたいことは分かる」
ピスティとフィリテが頷きあっている。無意味な連帯感が生まれた。
「いや、峰打ちとかじゃなくて。放置してたらそのうち回復して逃げるだろ」
「あぁ、そのことか。それなら、適当に部下を呼んで拘束させる。シェルムは今忙しそうだから……まぁ適当に」
肉球ブニブニ。もう野盗に興味がないのが明らかすぎる。よくよく見たら、魔王の剣は鞘ごとグラナートの足元に。ブニブニしているときに硬いものが刺さったらかわいそうだから、という理由だろう。知らんけど。
ウルラートの目がその剣で止まる。そして、首を傾げながら、その剣を拾い上げた。
「さっきの戦闘……戦闘?見てて思ったんだけどさぁ……お前の剣って、俺が持ってる剣と形似てるよな」
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