「お前の剣、俺の剣に似てね?」
素朴な疑問だった。これまで、グラナート単体が戦うのを眺めるということがなかったので、ほとんど気にしていなかったが、グラナートの剣はなんとなく、ウルラートが持つ勇者の剣に似ている気がする。
「まぁでもあれか……飾りが多い分そこまで似てないのか……色も違うし。個人的には、こっちの勇者の剣のほうが触るの怖いし」
普通は逆だ。
「俺の剣を恐れて然るべきだろう。お前それでも勇者か?」
「うるさいな。なんでこの剣、こんなに装飾ゴテゴテで宝石がゴロゴロついてんだよ、普通に怖いわ。あと、装飾の出っ張り多すぎて綺麗にするのも大変なんだよ、なんだこれ」
お前の感想こそ、なんだこれ、である。
「ルシフェルの記憶だと、神魔大戦当時はそんなにゴテゴテしてなかったんだがな……お前の趣味じゃなかったのか」
「断じて違う!」
「え、勇者様の剣って昔からこうでは……?」
ピスティの受けた衝撃たるや、察するに余りある。神官として光の女神を信仰し、教えを伝え、勇者の剣を管理する側だったのだから。
「いや、もっとシンプルだったと思うがな。ルシフェルもそう思うならそうなんだろう。よかった、俺の記憶違いではなかったか」
魔王があろうことか、因縁という意味で馴染みがあるはずの勇者の剣について、自分の記憶を疑っていたことが判明した。知りたくなかったが、知ってしまったものは仕方がない。聞かなかったことにしよう。
「じゃあこれ外しちゃだめ……?」
「ダメですよ!!国に伝わる国宝ですよ!?光の女神様から初代勇者様がお受け取りになられた伝説の!」
ピスティの勢いに押されてウルラートが黙る。
「だめか……」
「ダメです」
「そっか……」
「そうです」
ピスティが強い。
「重いし戦うのに邪魔だし、てっきり初代勇者の趣味かと思ってた」
「それだけは絶対に違う!」
ウルラートのぼやきにグラナートが力強く否定を入れる。フィリテはそのコントに背中を向けて肩を震わせていた。
「そんな力いっぱい否定しなくても……だいたい、魔王が初代勇者様の何を知ってるというのですか。いいじゃないですか、初代勇者様がキラキラしたものをお好みになるご趣味でも!」
ピスティのフォローに、ウルラートとグラナートの視線が、ウルラートの腰でキラキラ輝く勇者の剣に向けられた。
「…………いやぁ……まぁ……うん……でも今それを振るう羽目になってる俺の身にもなって欲しいんだけど」
「振るう羽目とはなんだ、失礼な。………と言いたいが……まぁ確かにこの主張の強い剣を振るのはな……」
権威と実用性が両立しないのは割とよくあることである。そして、権威が実用性をねじ伏せることもままあるのだ。実に世知辛い。
「この、ぴょんって飛び出してる部分だけでもさぁ……こう、ペキッと」
「絶対にダメです!」
「服に引っかかるんだよ!!」
「とにかく絶対にダメです!!」
いつになくピスティの主張が強い。まぁ割と普段から信仰を主張することに関しては強いが。とにかく勇者の剣の装飾をペキッとパキッとやるのは絶対にダメらしい。当たり前だ。
「まぁとにかくだ。俺の剣がその剣に似てるのはまぁ認めるが。単に手に合う剣を追求しただけだ。結果として似ただけに過ぎん」
グラナートの気を取り直した説明に、ふぅん、と納得したようなしてないような、そんな顔でウルラートは倒れている野盗どものほうを振り返る。
「あ、お話し終わりました?」
野盗を積み上げてふん縛って神輿のごとく担ぎ上げる、首のない騎士。
首が、ない。
「………………………………………」
ウルラートがぽかんとそれを見る。それもたぶんこっちを見ている。首がないから分からない。あと、何の配慮か、切断面が見えないように布が掛けてあった。なんか果物の柄が書いてある。何かが致命的に間違っている。
そしてよくよく見ると、離れたところに同じく首がない馬がどこかビクビクした様子で荷馬車に括られていた。
「おぉ、気づかなくてすまんな、ガーズ。………頭どこだ?」
「あぁ、今頭ならリュックの中に」
よく見れば、首無し騎士の肩のところに何か太いヒモが見える。
リュックのヒモだなんて思いたくない。
「リュックに入れると、揺れるから酔うんですけど、両手を使うときはどうしても邪魔なので」
「自分の頭だろう。邪魔などと言うものではないぞ」
果たして問題はそこだっただろうか。
「あー……あれはデュラハンだ。魔王城の警備やってる、んだったかな……すまん、俺は会ったことないし、ルシフェルも最後に会ったのめちゃくちゃ前だから記憶が曖昧だ」
ありがたい解説だが、今じゃない。
ガーズと呼ばれたデュラハンは背中のリュックを揺らしながらにこやかにグラナートと話しつつ、野盗どもを担いで荷馬車にぶち込んでいく。
「…………デュラハンって……高位魔族の……首無し騎士と首無し馬……なんで荷馬車……?」
「なぁ、なんかあの馬、ビビってね?こっちに来ないし。いや、来てほしいわけじゃないけど」
「たぶん、野盗をまとめて運ぶために自分の馬に荷馬車くっつけてきたんだろうな……あと、たぶんあの馬はケルベロスにビビってる」
フィリテの有用解説に、ウルラートとピスティがポチコロタマを見上げると、好奇心いっぱい夢いっぱい!という顔で目をキラッキラさせて尻尾をブンブンさせている。通常運転だ。
「………デュラハンって宙を走るけど……荷馬車ってどうなんだろ……」
フィリテの素朴な疑問は、ものすごく不吉な空気感をその場に溶かし込んでいった。
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