首無し馬に括られた荷車に野党どもが積み上がった。
「魔王様、こいつらどうします?牢に入れときます?」
ガーズがリュックから出した頭を手に持って確認しに来ると、グラナートがその山を眺めながら頷く。オレンジ色のリュックから、全体的に黒っぽい頭が出てくるのは、恐怖と言うよりシュールすぎた。
「そうだな、そうしておいてくれ。この行動に至るまでの経緯を聞き出して、このあたりの被害を調べろ。とはいえ、ケルベロスを知らん訳でもあるまいに。勝てるわけないだろう」
「いやほんとですよね。もしかしたら、ポチたちがおとなしいのを知ってての犯行かもしれません。可愛いですからね。…………たまに俺の馬追いかけ回してますけど。あれホントやめさせてくださいよ、魔王様」
思い出したように苦言を呈する。
「む、それはすまん。だが、ポチ、コロ、タマが楽しそうでな……」
「俺の馬、そのうちストレスで丸ハゲできちゃったらどうすんですか」
ヒン、と、なかなかに情けない鳴き声を漏らして馬が怯えている。お前の首はどこにあるんだ。
「…………デュラハンの馬ってハゲんの……?」
「さぁ……聞いたことないな」
ウルラートとフィリテがボソボソと言い合っている横で、ピスティもまた難しい顔をしている。
「馬として見るか魔獣として見るかで神官としての意見が分かれますね……」
もうだいぶケルベロスという名のワンコに慣れてしまったピスティならではの葛藤である。魔獣でいいだろ、とは誰も口を挟まない。ペルルさえも、賢明に口を噤んでいる。
「とにかく、次に追いかけ回したときはちゃんと止めてくださいね?」
「善処しよう」
「する気がないやつですね。本当にやめてください、シェルム様に言いつけますよ」
断定された。
「シェルムはやめろ!」
「そう言われましても……俺も俺の馬が大事なので……」
それはそう。
「むぅ……分かった、ちゃんと止めよう」
「お願いしますよ?うちのコは繊細なんですから」
デュラハンの首無し馬に繊細も何もなさそうな気はするが、繊細らしい。
「なんなの、魔王城ってペットブームかなにか?ペットバカしかいねーの?」
「…………さぁ……でもデュラハンの馬はペットというよりは存在の一部な気もするが……」
ボソボソゴニョゴニョ。
「まぁ……上がこれですしね……」
上が上なら下も下。つまりそういうこと。ピスティの言葉が真実であった。
「じゃあ、ケツ叩いて締め上げときますね」
「あぁ、頼んだ」
荷車を引く首無し馬に首無しの騎士が乗る。背中のオレンジ色だけがやたらと色鮮やかだった。頭は荷車のほうを向いて設置された。見張りなのかもしれないが、完全にさらし首かホラーである。ホラーのほうがまだいくらか正しい。
首無し馬は重さをものともせず、ゆっくりと地面を蹴って走り出す。そして、少しだけ浮く。デュラハンは浮いて走るものだ。そして、荷車は浮くものではない。
高度に気をつけて走り出した荷車が、傾いている。
野盗たちの手足や首も振動に合わせてガタガタ揺れて。
「あ」
デュラハンの頭とウルラートが声を上げたと同時に、車輪が小石を跳ね上げて一番上の野盗がぽんっと跳ねた。野盗の山が崩れた。
ゴロゴロゴロ……。
「……まぁ、そうなるよな」
フィリテの言葉とともに荷車が止まり、野盗たちが積み直される。そして再び走り出すのを、何とも言えない気持ちで見送った。
鮮やかなオレンジ色だけが、妙な存在感を残していった。
「……………魔王城、どうなってんの……」
「………思ってたのと違う方向に、魔窟な気がしてきました……」
ウルラートとピスティが微妙な視線を交わし合う。
ポチコロタマは、いつも遊んでいる?らしい馬がいなくなって、キョトンとしていた。あれだけ、好奇心いっぱい夢いっぱいの顔をしていたくせに初対面ではなかったらしい。お友達?が遊んでくれずに帰っちゃった。あれぇ?のキョトン顔。からのしょぼん。からの、まぁいっか、主様に遊んでもらおう。お散歩!
尻尾ブンブン。切り替えが早い。
再び一行は谷の渡れそうなところを探して走り出す……走ってはいないな、歩き出したのだった。早く行け。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回更新は水曜日21時を予定しておりますので、またよろしくお願いします!