殴る勇者と斬る魔王   作:輝波斗

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なんでこいつらの旅路ってシリアスが長続きしないんだろうな……ずっと愉快な旅してやがる……


60.石橋を叩いて渡る

 何度目かの、飛び降りちゃダメ?というポチコロタマの谷底覗き込みを宥めすかしておやつで釣り上げ、ようやく、渡れそうな場所を見つけた。

 一応ちゃんと整備されている、石造りの小さな橋。

 人が渡る分には問題なさそうだが、ポチコロタマが渡れるかは微妙。途中でムニッとハマりそう。

「これ、壊れたりしないよな?石造りだけど……ちょいちょい欠けてるぞ……ぼっろい」

「これ……渡るんですか……?」

 ウルラートとピスティが恐れ慄きながら橋と谷底を覗き込む。

「石橋を叩いて渡ってみるか?」

 グラナートが剣の柄で軽く橋の手すりを叩いた。欠けた。

 谷底に落ちていく欠片を見送って、沈黙が流れる。

「………まぁ、叩かなければいけるだろう。歩くだけなら」

「一応石造りだしな……」

 気を取り直したようにグラナートが言うと、フィリテも同意した。

「渡るのか?これ……あの辺とかヒビ入ってるけど」

 無駄にいい視力がいらん物まで見せてくる。

 そしてポチコロタマは、行かないの?という目をしていた。キョトンと首を傾げて。

「…………ゆっくり歩けば大丈夫だろう、たぶん」

 まぁそうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。

「…………………だ、誰から行く……?」

 橋を渡るだけである。トラップひしめくダンジョンや、魔物の巣穴に突っ込むわけでもない。

 そんな中で、橋に一歩、足がかかった。

「おい待てやめろ!」

 よりにもよって、ケルベロスの大きなあんよ。

 細い一本橋を、綱渡りでもするように足を並べて尻尾をブンブン。

「ポチ、コロ、タマ!こら!戻れ!戻りなさい!おやつあげるから!!」

 グラナートが悲鳴を上げた。

「ベルフェゴールに怒られるぞ」

「それどころじゃないだろう!」

 冷静なツッコミに即座に言い返してグラナートがキャンキャン吠えている。よく似た飼い主とペットだ。

 そうしている間にも、ポチコロタマは尻尾ブンブンで足を進めていく。足取りに危なげもためらいもない。だが、石橋が割とヤバい。

 具体的にどうやばいかといえば。

 ムチッ。

 詰まった。予想通りである。しかも、橋の真ん中あたりで。

 ポチコロタマが、あれ?という顔で体をよじる。

 みしっと、石橋のヒビが広がった。ついでにグラナートの顔色が青くなった。

「ポチ、コロ、タマ!動くな!頼むから!」

 抜けなくなっちゃった、とペションとした顔で振り返ってくるポチコロタマ。困っている。困っている場合か。

「どうする、アレ」

「どうしましょう……」

 ヒビの入った橋の真ん中で困り顔でもぞもぞしている黒毛玉。もぞもぞするたびにヒビが広がっている。でもじっとしない。だってポチコロタマだから。

 どうやったら抜けられるかな?もぞもぞ。ゴソゴソ。ピキピキピキ……。

「あれ、もう無理だろ」

「フィリもそう思う?俺もそう思う」

「無理じゃないから!!!!」

 バキッ。

 無理だった。

 あれ?というキョトン顔と、あ、というびっくり顔と、あーあ、という呆れ顔が、黒い残像と数本の毛を宙に残して谷底に落ちていった。

「ポチぃぃぃぃぃ!コロぉぉぉぉぉぉ!タマぁぁぁぁぁぁぁ!」

 悲痛な叫びが谷に響き渡る。ダボンッ!と、水に大きなものが落ちる音もセットだ。

「でも、ケルベロスだしなぁ」

「たぶん無事ですよね」

「すぐ登ってくるだろ。それより、この橋どうする?」

 バッシャアッ!と元気な水音が遠くに聞こえた。見向きもしない。グラナートだけが谷底を覗き込んでいる。

「…………あいつちょっと蹴り落としていいかな……」

 なんかちょっとイラッとしたからいつもの提案をしてみるウルラート。

「いいと思います」

 相変わらずの即肯定をかますピスティ。

「お前の相棒なんじゃないのかよ」

 そして呆れ顔のフィリテ。もうパーティのポジションが安定してきている。

「勇者として、崖っぷちで這いつくばってる魔王がいたら蹴っ飛ばすのは自然なことだと思う」

「自然かぁ……?」

 首を傾げるフィリテ。ウルラートだって本気で蹴り落とす気はないが、ドドドドッと元気な破壊魔の足音が壁を駆け上がってきているのに、大袈裟に心配して嘆いているグラナートが面倒くさい。橋、壊れたんだが?

 谷からぬうっと黒い塊が3つ。びしょ濡れで毛がぺっしょりと潰れた、もはや別人、いや、別犬が目をキラッキラさせて上がってきた。

「無事だったか!よかった……!」

 びしょ濡れのデカ犬に抱きつこうとするグラナートの目の前で、上がってきたポチコロタマが思いっきり体を震わせた。

 一瞬で周りも巻き込んで、土砂降りでもあったかのように水滴が、そしてついでに毛も飛ぶ。土砂降りのほうがマシだった。

「………………まぁ、こうなる気はしてたよな」

「そう、ですね……」

「とりあえず上着だけでも脱いでおくか……」

「ポチ、コロ、タマ!心配させるんじゃない!危ないだろう!」

 やっぱりこの飼い主、一回蹴り落としていいかな……という一点で、他3人の心が一つになった尊き瞬間である。

 本当にどうかと思う。




お読みいただき、ありがとうございます!
次回更新は土曜日21時を予定しておりますので、またよろしくお願いします!
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