「ポチぃぃぃぃぃ!コロぉぉぉぉぉ!タマぁぁぁぁぁぁぁ!」
谷底に悲鳴が響き渡るのを、ウルラート、ピスティ、フィリテは冷たい目で見つつ、3人で会議を開いていた。
「で、どーする?」
「あれ、完全に気に入りましたね……」
「そんなことより橋だ、橋」
ポチコロタマは、とても楽しそうに谷底に落ちていく。何度も繰り返され、そのたびにグラナートが悲鳴を上げている。そろそろ本当にうるさい。
「このままだと2択だぞ」
フィリテが指を2本立てた。
「2択?」
「そうだ」
フィリテが無駄に重々しく頷いた。
「一つ目。ポチコロタマに乗って、この谷を一気に駆け下りる。そして、一気に駆け上がる」
「絶対嫌です」
ピスティが秒殺でその案を却下する。
「二つ目。ポチコロタマに乗って谷をジャンプで飛び越える」
「どっちも落ちたら死ぬだろ」
ウルラートも瞬時に口を挟んだ。
「1つ目のほうがまだマシ……か……?落ちたらたぶんポチコロタマが回収してくれる。まぁ、降りるときは落ちるやつに合わせて走るポチコロタマに乗ってるわけだから、加速する。登るときは……ノータイム180度方向転換で振り回される」
「死ぬじゃん」
「それな」
それな、ではない。
「とはいえ、橋がない」
橋があったはずの場所に目をやれば、またにゅっと黒い頭が3つ。谷底から戻ってきたらしい。またびしょ濡れになっている。
水滴と犬(ケルベロス)の毛が飛んでくるが、もう誰も気にしない。
「ケルベロスの毛って、素材としてはかなり高額になると思うんですけどね……」
そのへんに落ちている黒い毛を眺めながらピスティが呟いた。
「勇者になってから身の回りのものが高いものになっていく……」
「目の前のゴミすら高額品に化けるからな」
「光の女神様が人間に与えてくださった恵みですから……」
魔物を否定する教義であっても、人間にとっての有益なものがあれば自然の恵みにカウントする、都合のいい信仰である。後世で誰かが教えを変えたのかもしれないが、そんなことはそれこそ、神のみぞ知る、というやつである。
「…………拾っといたほうがいい?」
躊躇いなくしゃがみこむウルラートにピスティが慌てて声をかけた。
「ウルラート様……さすがにちょっと……勇者様ともあろう方が地面に落ちたケルベロスの毛を拾うのは絵面が……」
でもウルラートの手はケルベロスの毛をつまみ上げている。目の前のゴミが金になる。堅実な仕事に就いて稼ぎたかったウルラートとしては、とても美味しい。
「………………ピスティ、とりあえずどうやって向こうに渡るかを考えないと」
フィリテは見切りをつけた。蹲ってケルベロスの毛を拾い集める勇者と、ニッコニコで谷底に落ちていくケルベロスに悲鳴を上げている魔王。全くもって役に立たない。
そして、何度目かのポチコロタマの谷底ダイビングに、グラナートが恒例になっている悲鳴を上げた直後。
ズッ、と、重いものが動く音がした。
「なんだ……?」
ケルベロスの毛を片手に鷲掴んだまま、ウルラートが立ち上がる。グラナートも即座に立ち上がり、谷底を覗き込んだ。フィリテも谷に目を向けて動ける体勢を整える。
ズ……ズ……という音とともに、黒い毛玉を乗せた何かがぬうっと現れた。
「ゴーレム……?」
「………カツラ被ったゴーレムだな」
「いえ、カツラじゃなくてケルベロス乗っけたゴーレムですね」
「ポチ、コロ、タマ、降りなさい!こら、舐めない!ぺ、しなさい!」
でかいゴーレムの頭の上にでかいケルベロスが乗っているせいで、いまいち深刻になれない。
だが、ポチコロタマは嬉しそうに尻尾をブンブンさせている。こいつの気質は多分ゴールデンレトリバー。
それは置いておいて。ゴーレムがのそのそと動き出す。頭の上のポチコロタマも放置。見上げているウルラートたちも無視。
橋があったはずの場所に向かい、落ちている岩を拾いあげ、川底の土を捏ね、のそのそえっちらおっちらと橋を修復しようとしている。
警戒態勢に入ったウルラートたちは完全放置。多分認識すらされてない。
のそ……のそ……こね……こね……。
「……………ガン無視!」
「橋の保全のために造られたゴーレムなのか、自然発生して響魔になったタイプか、それが問題だな」
「それより、ポチコロタマを降ろさなくていいんでしょうか……」
ものすごく冷静な観察を続ける3人と、
「ポチ、コロ、タマ、降りろ!降りなさい!ハウス!あ、違う、ハウスは違う!」
どう考えても間違っている1人。勝手に盛り上がっているが、ハウスと指示されたポチコロタマはゴーレムの頭の上ですくっと立ち上がり、そそくさとグラナートのそばに戻ってきた。
「よーしよし、偉いぞ!なんか違うけどとりあえずハウスできて偉いな!!」
なんか違う自覚はあるらしい。ポチコロタマも、ハウスできた!ただいま!みたいな顔をしているので、もうこの主従は放っておくことにする。
そうしている間に、ゴーレムは岩と川底の土をこねている。
谷底を覗けば、あったはずのデカい岩がごっそりなくなっているため、そこにゴーレムがいたのだろう。
「なんかよくわかんねぇけど、橋、渡れそうかな……」
よく分からんままに道ができているのをウルラートたちはおとなしく見学するのであった。
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