千鳥と桔梗から遠く離れたカフェ
向かい合って座る二人の間には、参考書とノートが一冊ずつ。
「……ここ、どうしても分からない」
彼女がシャープペンの先で問題文を指した。
「どこ?」
彼が椅子を少しだけ引く。
それだけで、二人の距離が近くなった。
「この条件から、どうしてこの式になるの?」
「そこはね――」
彼が彼女のノートに手を伸ばす。
指先が、彼女の手のすぐ横に触れた。
「……」
「……」
二人とも、何も言わない。
彼はそのまま説明を続けた。
「この数値を一回、こっちに置き換える。そうすると……ほら」
「……あ、本当だ」
「分かった?」
「うん」
彼女は頷いてから、ふっと笑った。
「君に教えてもらうと分かりやすい」
「それはよかった」
「でも」
「うん?」
「近いね」
彼のペンが止まった。
「……そうだね」
「離れる?」
「嫌なら離れるけど」
「嫌とは言ってない」
「じゃあ、このままで」
あまりにも平然と言うものだから、彼女の耳が少し赤くなる。
「……君、そういうところずるい」
「何が?」
「分かってないならいい」
「?」
彼女は小さく笑って、再びノートに視線を落とした。
しばらくして。
「ねえ」
「うん?」
「私たちって、周りから見たらどう見えると思う?」
彼は少し考えた。
「勉強仲間」
「……それだけ?」
「じゃあ、仲のいい友達」
「……それだけ?」
二度目は、彼も少しだけ考える時間が長かった。
「……恋人みたいに見える?」
「…………」
彼女が黙った。
彼も黙った。
図書室の時計の音だけが、妙に大きく聞こえる。
やがて彼女が、小さな声で言った。
「……私は、そう見られてもいいけど」
「僕も」
「……」
「むしろ」
彼は彼女を見る。
「そう見られるくらい、君と近くにいられるのは嬉しい」
彼女は数秒固まったあと、視線を逸らした。
「……それ、反則」
「何が?」
「本当に分かってないんだね」
「うん」
「……もう」
彼女は困ったように笑う。
そして、机の下でそっと彼の靴先に自分の靴先を触れさせた。
ほんの少しだけ。
彼は気づいた。
けれど、何も言わなかった。
代わりに、触れたままの距離をそのままにして、ノートを彼女のほうへ少しだけ寄せる。
「……続き、やろうか」
「うん」
二人はまだ、恋人ではない。
けれど。
少なくとも、もう「ただの友達」と呼ぶには、少しだけ近すぎた。
「えっ?!あれって...朔だよな?保科さんと2人?!」
「しーっ、静かに!凛太郎君!邪魔しちゃ悪いから」
そう言って服の裾を引っ張る和栗さん
知ってたな、コレ
「薫子さん、ズルイよ。先に教えてよ」
「ふふ、ごめんね?凛太郎君、昴が言ってたこと本当なのかなって心配になっちゃって」