「雨か…」
曇天の中のコンビニで雨粒が落ちる音を聞き、口から言葉が漏れる。怪獣が出てこないと、本当に平和そのものの日常が訪れる。死ぬ前となんら遜色のない光景で、怪獣やダイナゼノン、ウルトラマンがいるなんて到底思えなくなる。
「今日はなにもすることないな……ってか傘、持ってきてないな…雨防げそうな上着とか荷物もないし…どうしよう」
一度コンビニの外に出てみて、すぐには止みそうにない強い雨模様を再確認する。地面に雨粒が叩きつけられる音を聞いていると、聞こえる環境音がそれ一色になり、妙に不思議なひとりぼっちのような感覚に陥ってしまう。
「…ん?あれは、ムジナさん…?」
ひたすら空を眺めていると、反対側の歩道で青い傘を指しているムジナを見つけた。心なしか、こちらをずっと見つめている気がする。
「……」
試しに、手を軽くひらひらーと動かしてみる。するとあちらからも軽く手を振る動作が返ってくる。普通にこういうの返す人なんだと思ったのは秘密である。
「こんばんは、ハルキ君」
「こんばんは、ムジナさん」
何気ない普通の挨拶を交わす。
彼女の名はムジナ。『怪獣ユウセイシソウ』と呼ばれている四人組のうちの一人で、怪獣を操り破壊行為をすることがある。肩書きやしてきたことを振り返ると、やっぱりこんなフランクに接することができるような所業ではないと常々思う。彼女自身も、彼女自身のことがわからないというのは、意外と重い話なのかもしれない。
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「(…なんかなりゆきで酒飲みにきちゃったな)」
ムジナとの邂逅を果たした後、なんやかんやで乗せられ一緒にお酒を飲みにきてしまった。こちらは日本酒タイプで、ムジナはワインをグラスで飲んでいる。
「…そうだ、プールの時には聞けなかったんですけど…ムジナさん言ってましたよね、『自分がなにをしたいのかわからない、自分のことがわからない』って。…てことは、怪獣を操ったりするのもわからないままやってるってことなんですか?」
「……そんな感じだよ。やりたくてやってる…ってより、わかんないけどやらなきゃいけないからやってる。…私って、なんなんだろうね」
グラスを揺らしながら、暗い表情でそう答える。伏された目からは、いつものムジナからは見られないほど重いものだった
「って、ハルキ君に聞いてもわかんないよね、ごめん。……ハルキ君は違うの?」
「え…?」
「あの夜、初めてハルキ君を見た時ね…すごくシンパシーを感じたの。雰囲気とかそういう曖昧なものだったけど、すっごく私と
似てるって」
ムジナと出会った時の夜は、とても荒んでいた。ガンQからの攻撃で、忘れかけていた現実や悪夢を思い出し、今の自分と昔の自分に挟まれそして見失っていた。今はゼットの助言で立ち直りはしているが、悩みは完全に消えていない。不安も感じるし、未だわからない自分を探し続けている。
「いや…俺も、ムジナさんと似たような感じですよ。立ち直りはしましたけど、それで悩みが消えるわけでもない。自分はなんなのか、本当にしたいことってなにか…とか、色々」
「あの巨人に変身して、怪獣を倒すのは、したいことじゃないの?」
「倒して、被害を抑えたいってのはあります。でも、それは…俺があの姿になれるからで。…ムジナさんが、『怪獣ユウセイシソウ』ってやつだから怪獣を操るように、俺も『ウルトラマン』だから怪獣と戦わなきゃいけない……って、思うときもあります。俺だってムジナさんと一緒で、したいことと自分探しの最中なんです」
「…そっか。やっぱり、一緒だね」
「……似てるところはあると思います」
…
……
止む気配のない大雨の中、店を出て自身の家まで歩みを進める。隣には先ほどまで言葉を交わしていた相手であるムジナもいる。傘を持っていないことを見かね、家までついてきてくれるとのこと。
「ハルキ君が傘持ったら、結構広いね」
「それでも一人用の傘なんで狭いですよ」
身長的に、自然とこちらが傘を持つ。さすがに借りている身としてムジナ側に傘を寄せ濡らさないように調整する。
「………」「………」
特に交わす言葉もなく、ただ雨が傘に当たる音と、パシャパシャと鳴る二人の足跡だけが響く。
「…ムジナさん」
「何?」
「俺は自分のこととか、自分のやりたいことがわからないです」
「うん。さっき聞かせてもらったよ」
「はい。でも、わかんないままでもいいと思うんですよ、今は」
「…え?」
かつて、自分がゼットに励まされた時の言葉を思い出す。
『自分っていうのは、必ずしもハッキリしてなきゃいけない物でもないし、それを焦って見つけようとしたり、無理やり作ろうとするものじゃない。そういうふうに、自分でもわからないものだったりする。』
どうしても、一度ムジナにも聞かせたい言葉だった。自分と同じような悩みを抱えているなら、この言葉が響いてくれるかもしれないと一末の希望を見出し口にする。
「自分って言うのは、焦って見つけようとしたり無理やり作ったりするものじゃない。自分でもわからないもの…… やりたいことだって、それと一緒に見つければいい……って、俺は教えられました」
「……」
話を聞いたムジナはただ真っ直ぐ前を向いて、黙っている。少し目を伏せた後、こちらと目を合わせる。
「それを、どうして私に?」
「……ムジナさんを救いたいと思ったから。俺が、ウルトラマンであるから怪獣を倒すように……ウルトラマンであるから、目の前にいる同じような人を助けたいと思ったから……です」
驚いたように目を少し見開く。自分でも変なことを言っているのはわかっている。別にそんな深い関係でもないし、なんなら本来は敵。
それでも。ウルトラマンなら、自分にウルトラマンとしての力があるなら。目の前の悩める人一人、救ってみたいと思った。
「……変なの」
苦笑しながら目を細める彼女の姿は、やはり敵とは思えないほど、綺麗なものだった。
……
………
「それじゃあね」
あれから家まで会話は一切なかった。考えることがあったのか、それとも引かれたかうざったく思われたか。どっちにしろ何か影響があったのかもしれない
「傘、ありがとうございました。それじゃ」
「……ハルキ君!」
家の鍵を開けて中へ入ろうと別れを告げた時、ムジナから呼び止められた。その表情は不思議と柔らかくなっている
「さっき言ってくれたこと…一応覚えておくから」
「そうですか…それで少しでも前向きになってもらえたら幸いです。それと言っちゃなんですけど、怪獣を操るのをメインにしないこととかって……俺もっと悩んじゃうんで」
「辞めるわけじゃないけど……怪獣以外にも、探してみるかな」
「困ったら言ってください、俺も手伝いますから。一人じゃないんですよ」
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次の日の昼。怪獣優生思想の四人はある一体の怪獣を発見した。
「見た目すげぇな……生き物かと思ったら金属の部分あるし、頭には触覚みてぇなもんもある……変だな?」
「全体的に禍々しい姿ですね」
二足歩行で、片膝をついているこの怪獣。肩や腰、頭部分は金属のような金メッキ。胸部が光っており、爪や肩から伸びる突起はとても鋭い。触覚がまるで虫のようにも見えるし、金メッキや顔の発光体でロボにも見えてくる。
「まぁいいな!見た目も強そうだし、ここは…「私にやらせて」
オニジャが手を向けようとした時、隣から静止の声が響く。声の主はムジナで、いつもとは違う態度に驚く。
「お前、そんなに進んでやるやつだったか?」
「うるさいな、少し考えが変わっただけ」
「そうかよ……ならまぁ、お前に任せるぞムジナ」
「インスタンス…ドミネーション!」
手の平を怪獣へ向け、中指と薬指の間を開く。その間で怪獣に視線が合わさると、ムジナの目が赤く輝く。それに感化されたかのように、怪獣も活動を始めた。胸や顔の発光体が黄色に光り、立ち上がって腕を上げる。
「よぉし!!そのまま暴れちまえムジナァ!!……ムジナ?」
「な、に…っ!今話しかけ、ないで…っ!!」
怪獣を操ろうと干渉したムジナに異変が起き始めた。怪獣を制御しようと体に力を込めている…が、操るどころかますます活力を与えているだけ。
「嘘だろ、操れねぇのか!?」
「嘘っ…!そんなこ…と……」
だんだんと声が霞んでいき、操ろうと干渉し続けていたムジナの腕が力無く垂れ下がる。
「…ムジナ?おい、どうしたんだよ」
『………』
オニジャに声をかけられるも意に介さず、怪獣の方へふらふらと近づく。踏み出せる足場がなくなると、ムジナの体が宙に浮き始めた。そのまま怪獣の胸部にある丸くて赤いクリスタルへ吸い込まれた。
「おいおい嘘だろ……」
「………」
その光景を、ただ静かに見ていたシズム。その心の内はどんなものなのか…
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ムジナが怪獣に吸収されてから。
その怪獣は、猪の類のような四足歩行の怪獣を見つけると攻撃を開始した。恐るべき怪力、胸部からの火球、頭部からのレーザー。多彩な技で怪獣を瞬く間に瀕死にすると、胸部へ怪獣を粒子状にして吸収してしまった。
怪獣を吸収した後、右手を前に出すと黒い霧のようなものが吐き出される。それが収縮すると一体の怪獣として独立した。
太くて大きな角、鋭い牙、強靭な手足。
『ベリアル融合獣 スカルゴモラ』。
そしてムジナを吸収した怪獣の名は、『ペダニウムゼットン』。かつてウルトラマンを倒した強敵と、ウルトラセブンを圧倒した強敵の融合獣である。そんなペダニウムゼットンはスカルゴモラを使役し、街の方へ侵攻を開始した。
デルタライズクローのためにこうしました。許してください。次は戦闘+グリッドナイト登場までになると思います。