ウルトラマンゼロ
故郷に帰って1人自宅でのんびり過ごすゼロのもとに、唐突に出かけているセブンからウルトラサインが飛んできた。
「怪獣墓場?」
父親からの呼び出し、それも、怪獣墓場に、である。
また何かあったのかと、かつてを思い出してざわりと気配が揺れる。だが、すぐに平静を取り戻し、外を伺う。少なくとも見える範囲に何かあったような慌ただしさはない。
自分が強力な戦力の一人である自覚はある、何かあれば自分がここにいるときは声がかかるはず。首を傾げながら、とりあえず指定の場所に向かうことにした。
宇宙の中でも一際昏い空と、草一本すらない荒野が広がる、色の無い星。
その地にたった一つの色が佇んでいた。
真紅のファイターと呼ばれる鮮やかに燃える赤、その色。
「来たか、ゼロ」
「なんだよ、こんなところに急に呼び出して」
あまりいい思い出のない場所に急に呼び出されたゼロがセブンの隣に並ぶ。戦闘を警戒していたのに、随分と静かだ。
周りの景色さえいいものであれば、穏やかな親子の散歩だっただろう。
セブンは黙ったまま、ゆっくりと歩き出す。
「なぁ、親父?」
慌ててその背中を追いかける。
「お前も地球と関わることが増えたな」
色々な感情を乗せたセブンの声が溢れたのは、どれほど歩いた頃だろうか。
セブンのその声に、融合した相棒や相棒の家族、後輩たちの相棒やその仲間たち。そんな顔が脳裏を駆け抜ける。
「あぁ」
「地球人の……人間の言葉は、正しく理解することはとても難しい」
目の前にいるのはもしかして自称弟子だっただろうか。そんなド失礼な思考が一瞬だけ、ゼットの顔で脳裏に顔を出すが、とりあえずその考えを拳で押し戻す。今出てくんな。
「ここには、俺たちが“殺した”怪獣たちもたくさん眠っている」
セブンの言葉に、ゼロが肩を揺らした。
この父が、“殺した”と明言することを、思っていた以上に動揺したことにゼロ自身驚いた。
「人間の、【たおす】という言葉は、彼らの優しさだ」
父親ではなく、先達の顔でセブンが話す。
『怪獣を倒してほしい』『怪獣を倒してくれてありがとう』
この声援は、真実とても残酷なもの。
『怪獣を殺して』『怪獣を殺してくれてありがとう』
子どもにそんな直接的な言葉を聞かせられないというのも勿論あるだろう。
だが、もう一つ。
自分たちと一緒に地球を守って戦う心優しい戦士たちに、『怪獣を殺した』ではなく『怪獣から人間を助けた』という意識のすり替えを行う言葉なのだ。
あなた達は悪くないのだと。あなた達は私達を助けてくれたのだ、だから気に病むことなどないのだと。
「彼らは、俺たちが怪獣を殺したいと思っているわけではないことを知っている」
だが、人間だけでの戦力では地球を守り切ることは酷く難しい。それが自身で戦うことのできない一般人であればなおのこと。
だから、せめてと。
力を貸してくれる光の戦士たちに刺さるトゲを一つでも減らしたいと。
「地球防衛の任は酷く厳しいものだ。だからこそ、誰でも就けるものではない。だが、それだけではない」
その[[rb:言葉 > 綺麗事]]を履き違えない強さを持たなければならない。
「たとえどんなに【倒す】という言葉を使われていても、俺たちが怪獣や侵略者たちを“殺して”いることが揺らぐことのない事実だ」
たおす、という言葉は、英雄に祭り上げるのに耳に触りいい。
「だからこそ、我々はその本質を見誤ってはならない」
地球人の優しさを大義名分に、[英雄]になってはいけない。
英雄。
その単語に、ゼロは自然と背筋が伸びる。
広い宇宙で、若き英雄、と呼び称えられることが増えたゼロ。だからこそ、ウルトラ兄弟に名を連ねるこの[英雄]は、今自分にこの話をしているのだと察した。
英雄と賞賛されても、決して驕ることのないように。自分が英雄だ、などと、そんなことを思ってしまった瞬間に英雄は愚者に堕ちるのだ。
[[rb:英雄 > 愚者]]なんて、いつでも[[rb:体 > てい]]の良い生贄になってしまえるのだから。
セブンほど長く生きていなくても、たくさんの種族を、星を見てきたゼロはそれは分かっている。
「[[rb:斃 > たお]]すことは、殺すことだ。それを見失うな」
殺す覚悟でもって斃すのだ。
倒す、程度の覚悟で殺すような、そんなことはしてくれるな。そんな戦士にはなってくれるな。
己自身のため。そして自分を応援してくれている存在のためにも。
英雄の先達は、英雄の道を歩き始めた息子にそう願う。
ゼロとて、驕っているつもりはない。自分が英雄だなどと思い上がっているつもりもない。
だが、彼が発した、「俺たちが“殺した”」という言葉に少なからず動揺したのも事実で。
ウルトラマンは神ではない。それでも、他の種族から見て、神のような力を持っていることもまた、客観的な事実であった。
神も英雄も、持て囃す側からすれば大して変わらない。
守るためであれば、英雄であれば、“殺す”ことが罪にならないなど、そんな都合の良いことはないのだ。
どう言葉を飾ろうと、自分の信じる正義を貫こうと、この手が血に濡れ、命を奪うことに変わりはない。
他の誰が赦しても、自分だけは自分の[[rb:それ > 罪]]から目を逸らしてはいけない。許されない。赦さない。
「………………親父。親父は、俺を……英雄、だと思うか……?」
どういう意味で問うたのか、ゼロ自身も分かっていない問いが口をついて出た。
厳しい雰囲気をまとったウルトラセブンが、その空気を緩めて、ふっと微笑む。
「お前は、俺の息子のゼロだ」
父親の言葉に、ゼロの肩からすっと力が抜けた。
「俺は、ゼロ。親父の息子の、ゼロ」
噛みしめるように、胸に刻むように呟く。
「英雄という重荷に飲まれるな。命を奪う重さを忘れるな」
セブンの言葉に、ゼロは頷く。
英雄と呼ばれながら、自分であり続けること。
命を奪う重さを見つめ続けること。命を奪う覚悟を持ち続けること。
これを続けていくということを、苦しいと思う時が来るかもしれない。長く生きるからこそ、難しいことなのかもしれない。
だが、きっと。
セブンの息子のゼロ。この柱を軸にした、たくさんの誰かとの繋がりの柱があれば、きっとこの先も自分を見失うことなく、まっすぐに飛んでいける。