栗まんじゅうは、日記をつけている。
今日、どんな酒を飲んだか。
どんな肴(ツマミ)を食べたか。
どこが美味だったか、反省点は何か。
それを記憶して、次の酒に生かすのだ。
○前日
【美味しい地酒を求めて】
草むしりの仕事を求めて、早朝の市場に行く。妙に沸き立っている。特別な島での簡単な討伐というチラシが撒かれたらしい。隣のモブかわが親切に一枚渡してくれた。
100倍の報酬。限定島ラーメン、甘いもの、辛いもの、実質無料。
少し考えざるを得ない。島の地酒やクラフトビールがあるかもしれない。討伐には興味がないが、気分転換を兼ねて島へ向かう事にした。明日の朝、浜辺からチャーター船が出るようだ。
自宅に帰り、特別なお出かけスタイルを決める。頭にサングラスを乗せ、南国感あふれる赤いハイビスカス柄のアロハシャツを羽織る。
前祝に、黒ビールをあけた。ただし、深酒して寝過ごしてはつまらない。浜辺に言ったら、ポツンと自分だけしかいない光景が目に浮かぶ。これはいかん。名残惜しいが、三缶で我慢し、寝床についた。
○道中
【船上の再会と前祝の乾杯】
早朝、眠い目をこすり浜辺にむかう。
チラシの効果は
水平線に登る朝日に照らされて、遊覧船がやってきた。ちいかわ、ハチワレの姿も見かけたが、声をかけるには人が多すぎた。
足取りもかるく、船に乗る。一瞬の足元のグラつきが、これぞ船旅という気分をかきたてる。
乗船後、船室でシーサーとバッタリ遭遇した。シーサーもすっかりリゾート気分で、お洒落なスタイルだ。耳元に真っ赤なハイビスカスを飾り、爽やかな水色のトップスをラフに着こなしている。
デッキへ出ると、心地よい潮風が頬をなでていく。どこまでも広がる青い海と、お互いの華やかな旅行服も相まって、気分が高揚する。思わずパカッ、グイッと一杯飲みたくなる最高のロケーションだ。とはいえ、ここは酒の免許にかけて我慢。島に着いてからが本番だ。キンと冷えたオリオンビール(ノンアルコール)を買い求め、二人で前祝の乾杯を交わした。シュワッと弾ける泡越しに、これからの島旅への期待が高まっていく。
シーサーと「島に着いてからも一緒に行動しよう」と約束した。
○初日昼
【熱気に満ちた歓迎の宴】
南国の美しい島が見えてきた。島の波止場には、遠くからでも住民が群がっているのがわかる。到着すると、我々は歓迎ムードに包まれた。島民たちに腰蓑をつけてもらい、南国の情緒にバカンスモードに切り替わった。
村民に案内されたバンガローは、約束どおりシーサーと一緒だった。荷物を置いて広場に繰り出す。香ばしいテリテリソースの匂いに誘われて屋台へ立ち寄り、出来立ての焼きそばを注文。キリッと冷えたプラカップのビールを流し込めば、旅の始まりに相応しい至福の瞬間が訪れる。ケバブ、唐揚げを肴にしての地ビールは最高だ。非日常なのだから、羽目を外さねばなるまい。
○初日夜
【祭りの宴とキャンプファイアー】
夜になると、島の熱気は最高潮に達した。
心地よい夜風を感じながら、夜空に打ち上がる花火を極上のツマミに、屋台のB級グルメとお酒の梯子を心ゆくまで堪能する。
時が過ぎた。
宴もたけなわになった。
広場では大きなキャンプファイアーが焚かれた。ラッコが奏でるウクレレの優しい音色が響く。村人達、シーサー、モモンガと
暗い沖合のほうから、なにやら不穏で、怪しげな視線を感じたような気もしたが……。まぁ、そんなものはツマミにもならん。
手にした焼き鳥の、香ばしい香りに集中する。ネギま、鳥皮、レバー、タレの絡んだつくね串を交互にほおばり、冷えた酒で流し込む瞬間は、まさに至福だ。
酔いさましには、南国らしくココナッツにストローを挿したココナッツウォーターをゴクゴクと楽しんだ。
ああ、そこまでは鮮明に覚えている。
ただ、どうやって自分のバンガローまで戻ったのか。
サッパリ記憶に残っていない。
シーサーの肩を借りたような気もする。
○二日目朝
【やさしい味と静かな静養】
失敗した。
ズキズキと響く頭痛とともに目覚める。
二日酔いだ。布団から動く気にもなれない。
見かねたシーサーが、テキパキと介抱してくれる。すまないが、シーサーに答えるのもおっくうなのだ。
差し出してくれたのは、ゆし豆腐だった。温かい。ふわふわとした豆腐のやさしい出汁が、疲れた胃にジンワリと染み渡っていく。広場では屋台の配置換えでもしているのか、大きな音がする。ちいかわ達も手伝っているのだろう。時折、バンガローも揺れた。ずいぶんと大がかりな工事らしい。
○二日目昼
【バンガローの香りに癒されるお昼寝タイム】
昼前になった。シーサーの作ってくれた軽食のおかげで、二日酔いの重苦しさが抜けた。意識がすっきりとし、体調が回復してきたのがわかる。
ここで、慌てて動き出すのは素人というもの。酒免許保持者として、無理をしては夜のお楽しみが台無しだ。南国のバンガローで二度寝するのも旅の醍醐味ではなかろうか。
冷房のきいた部屋。
布団の適度な温もり。
リラクゼーションを満喫しながら、乾いた木の温かい香りを胸いっぱいに吸い込む。
ふと横を見ると、シーサーがハンモックに揺られながら、お酒の本を片手に熱心にメモを取っていた。今日の予定を聞いてくる。ラーメンはわかるが“ゆんたく”とはなんだ? 眩しそうに目を細めながら、嬉しそうに語るシーサーを見ると、酒とツマミ以外にも、この世に良いモノがあるのだと心が和む。
木漏れ日が差し込むバンガローの中で、心地よいまどろみに身を委ねた。
○二日目夜
【月明かりのナイトスイム】
まん丸の月が海面に筋を描く頃、シーサーとともに波打ち際へ向かった。二人でプカプカと夜の海に浮かび、穏やかな波の揺らぎに身を委ねる。シーサーは満天の星空に向かって「最高の旅でーす!」と叫んでいた。完全に同意する。
まだ泳ぐというシーサーを残し、先に海からあがる。椰子の木の根元に置いておいた保冷バッグを開けた。キンと冷えた缶ビールを取り出す。波音をBGМに、缶ビールを傾ける時間は、まさに大人の贅沢そのものだった。
○二日目深夜
【夜更けの爆速カレー】
浜辺から村に戻ってくると、こんな夜更けにもかかわらず島の人々が集まっていた。ラッコやちいかわ達を中心に、なにやらカレー作りを始めていた。すると、料理自慢のシーサーが一肌脱ぐことに。シーサーは料理隊長を拝命した。鮮やかな手なみで島民たちを指揮し、自分も包丁を握ってカレーをつくる。その動きは一流のシェフそのものだ。
邪魔をしてはならない。
住民が差し出したクラフトビールをあおり、タコスのつまみで胃腑を休める。ふむ。ホップをたくさん使っているのか、強い苦みと豊かな香りが南国の夜を彩る。それに、カマロンというシーフードタコスの味も乙なものだ。
すると、シーサーに起こされた。
ビールの飲み比べ、タコスの食べ比べをしているうちに、いつの間にか寝落していたようだ。
味見隊長を拝命し、シーサーが差し出したカレーの出来映えをチェックした。あっという間に完成したという特製カレーは、深夜の眠気を吹き飛ばすスパイシーな辛みが効いていて、病みつきになる美味さだった。
ちいかわ、ハチワレ、ウサギも味見したいというので一口ずつあげる。美味しいが、まだ辛さが足りないと言う。シーサーの指揮下で、ちいかわ達がルーを集めにいった。これ以上辛くするなんて。コップの水をあおりながら、なかなか度胸のある連中だと思う。
○三日目黎明
【朝焼けのセッション】
激辛カレーで目が醒めたはずなのに、また椰子に背中を預けて寝てしまったようだ。広場には、セイレーンという巨大な神獣が鎮座していた。なるほど、日頃の感謝をこめて、村民たちが、島の名産物でつくった料理を奉納しようというのか。島の人々やシーサーたちが必死でカレーをつくっていた理由がわかった。さらに広場では、カレーが完成するまでセイレーンの心を和ませるために、ウサギとモモンガが即席のコンビを結成してセッションを始めていた。
ウサギのやつ、なかなか痺れるビートを奏でるわい。
テンポの良いマイクパフォーマンスに誘われ、飲み終えたばかりのエンプティ缶を手に取り、即興でシャカシャカとセッションへ参戦。神獣は「変なうた、やめて!」と怒った。すまない。歌が好きな神獣と聞くゆえに、セッションに仲間外れにされたのがくやしいのだろう。
一方、シーサー達の方には、島二郎というカレー作りの名人も合流した。ちいかわとハチワレが神獣にカレーを献上したが、辛すぎてセイレーンが悶絶し、のたうちまわっている。村人が心配そうに神獣を取り囲むが、相手が大きすぎて手当の仕様がないようだ。
だから言ったのに……。
ちいかわとハチワレが謝罪したのか、セイレーンは「わかった、わかった、でも、み、水ぅぅぅ」と海に向かって走り去った。あんな辛い目にあっておきながら快く許すとは、心の広い神獣だと思う。
○三日目昼
【貝汁カレー】
島二郎のカツカレーと貝汁が村人全員にふるまわれた。
シーサーと一緒にいただく。
うまかった、です。
○三日目夜
【いつまでも友達でいよう】
島中に笑顔と音が響き渡る。
キャンプファイアーを囲んで、何の気負いも不安もなく、美味しい酒と料理を味わう。セイレーンはいなかった。激辛カレーに怒ったのか、それとも苦しんでいるのか。しかし、心配しても仕方がない事だと気分を切り替える。
村民もふくめて、みんなで合唱する。終わったら、また食べ、飲み、笑う。そして誰かが歌いだし、それに合わせて歌う。ビールをあおりながら、ふと隣で歌うシーサーを見る。
いつまでも、絶えることなく、友達でいよう、か……。
揺れる炎の照り返しが、シーサーの横顔を照らしている。
○四日目朝
【さようなら、島二郎】
島で過ごす最後の日。
チーズナンとスクランブルエッグ、炒めたシャウエッセン、にんじんポタージュの朝食で腹ごしらえ。シーサーが淹れてくれたフルーティーなコーヒーを味わう。
100倍の報酬はなかったが、特産品の土産はくれた。それよりも、形にならない土産をもらった。どこを切り取っても、最高の島旅だった。また近いうちに、必ず訪れたい。
(おわり)
栗まんじゅう視点のセイレーン編(島編)、いかがだったでしょうか? 気軽に読んでいただけたら幸いです。