開始は前作の最後の直後です
一年戦争が終わって、二週間ほどが過ぎた。
戦闘の警報に身構えることも、今日乗る機体の状態を気にすることもなくなった。それだけなら平和になったと言っていいはずなのに、俺とアムロとララァの生活は思っていたほど変わっていない。
場所はジャブロー。地球連邦軍の中枢まで戻ってきたというのに、俺たち三人が自由に歩ける範囲は戦争中より狭かった。決められた時間に検査を受け、外へ出るには許可が必要で、連絡にも制限がある。保護、待機、追加検査、機密保持。説明はいくつかあったが、要するに勝手にどこかへ行くなということだった。
そんな生活の中で、その日初めて俺だけに外へ出る命令が来た。上級司令部への出頭。呼び出したのはゴップ大将だった。そして数時間後。行きと同じ軍用車両で管理施設へ戻りながら、俺は膝の上に置いた書類へもう一度目を落としていた。
BLACK RAVEN。
新しく作られる部隊の名前。そこまではいい。問題は、その下だった。
特務大尉、レン・イズミ。
「……十三歳なんだけどな」
小さく言ってみても、印刷された文字は消えなかった。しかも隊長だった。
戦争中だって色々おかしなことはあった。十二歳でモビルスーツに乗り始めて、そのまま一年戦争を最後まで戦った時点で今さらなのかもしれない。それでも、終戦したと思ったら今度は自分の部隊を持たされるとは思っていなかった。
車両が止まり、護衛についていた士官へ礼を言って降りる。もう見慣れてしまった管理施設へ入り、部屋の扉を開けると、アムロがすぐに顔を上げた。ララァも読んでいた本を閉じる。
「おかえり、遅かったね」
「ちょっと話が長くなった」
「誰だったの?」
「ゴップ大将」
「……それは長くなりそう」
アムロの返事が妙に納得していて、少し笑いそうになった。ララァは俺が持っている書類を見ている。
「何か決まったの?」
「色々とね」
机まで行って書類を置く。
「とりあえず、ここで検査だけ受け続ける生活は終わりそうだ」
「やっと自由になるのか?」
「そこまで都合よくない」
アムロの期待が少しだけ引っ込んだ。
「じゃあ何が変わるんだ?」
「管理される場所が変わる、かな。俺たちみたいなのをまとめて置く部隊を作る。連邦軍の正式部隊で、ゴップ大将直属」
「部隊……」
ララァが一番上の文字を読む。
「BLACK RAVEN?」
「ブラックレイブン。そういう名前らしい」
残党、試験兵器、特殊な人員。普通の部隊では扱いにくいものをまとめて引き受ける。研究施設に一人ずつ放り込まれるくらいなら、その管理枠ごと外へ動けるようにした方がいい。その程度まで話すと、アムロはだいたい分かったらしい。
「つまり、監視されなくなるわけじゃないんだ」
「うん。首輪が外れるんじゃなくて、紐がちょっと長くなった感じだってさ」
「誰が持ってるの?」
「ゴップ大将」
「分かりやすいね」
「本人も似たようなこと言ってたよ」
ララァが少し笑う。
「でも、外には出られるのね」
「任務とか部隊の仕事ならな。少なくとも三人別々の研究施設に送られるよりはいいと思う」
そこは二人とも否定しなかった。アムロとララァがどう扱われるか。それを完全に自由にできたわけじゃない。俺だって同じだ。ただ、誰かが勝手に三人を分けるのを待つだけではなくなった。
「それで、その部隊にレンも入るんだよね?」
「入るというか……」
言いたくないわけじゃない。ただ、自分で言うと改めておかしい。
「隊長になった」
「……レンが?」
「俺が」
アムロが数秒黙った。ララァもこっちを見ている。
「あと特務大尉」
「大尉?」
今度は即座に返ってきた。
「そこは俺も聞き返した。普通の大尉とは違って、BLACK RAVENを動かしてる時だけの特殊な権限らしい。この部隊の中だと大佐相当」
「レンが大佐……」
「その言い方やめてくれない? 自分でもまだ受け入れられてないから」
ララァが口元を押さえている。笑ってるな。
「艦は?」
「ホワイトベースを使う。今ジャブローで全面改修中。というか資料を見る限り、ほとんど作り直しだな。完成したらレイブンって名前になる」
「ブライトさんは?」
「艦長。そこだけはもう軍令で決まってる。強制らしい」
「……ブライトさん、断れないんだ」
「俺も同じこと聞いた」
ゴップ大将は安心していいと言っていたけど、ブライトさん本人にはあまり安心できる情報じゃないだろう。
「他の人は?」
「俺が選ぶことになった」
言ってから、それが一番重いところだったと気づいた。アムロも気づいたらしい。
「レンが選ぶのか?」
「必要だと思う人に俺から声をかけていいってさ。軍人だけじゃなくて、条件次第じゃ捕虜も候補にできる」
「クスコさん?」
アムロに言われ、頷く。
「そうだね、それは外せない」
そこまで聞いて、ララァが少し考えた。
「私たちも一緒に考えた方がいい?」
少し迷ったが、首を横に振った。
「いや。そこは俺が考えるよ」
「一人で?」
「相談することはあると思う。でも、人を選ぶのは隊長の仕事だろ。俺が隊長やるって言ったんだから、そこまで二人に分けるのは違う気がする」
誰を入れたせいで何かが起きた。誰を入れなかったせいで困った。その時に、三人で決めたから、とは言いたくなかった。アムロは少しだけ視線を落としてから頷いた。
「分かった。レンがちゃんと考えて決めたなら、僕は反対しない」
「私も」
「誰でも?」
「そういう意味じゃないよ」
すぐにアムロから返された。
「レンがその人を必要だと思った理由があるならってこと」
「私も同じね」
ララァが続ける。
「レンが考えた結果なら、最初から反対はしないわ。でも、会ってみて何かあればその時は言う」
「それは言ってくれ」
何でも俺の言う通りにされる方が困る。とりあえず、二人の立場は分かった。問題はここからだった。
◇
最初に浮かんだのはクスコだった。これは人選というより、もう決まっている。
必ず迎えに行く。移送される前、俺がそう言った。ただし、約束したから無条件で部隊へ入れるという話ではない。クスコは捕虜だ。連邦側の審査を通る必要があるし、本人が嫌だと言えばそこで終わる。
俺が約束したのは、勝手に所属を決めることじゃない。選べるところまで連れてくることだ。まずクスコ。
その次に考えたのはミライさんだった。ブライトさんが軍令で来ると聞いたせいもある。でも、それだけじゃない。ホワイトベースにいた時、ブライトさんが指揮を執る横で、ミライさんがどれだけ艦を支えていたかは俺も知っている。操艦だけの話じゃない。余裕がなくなった時に情報を整理して、誰かが突っ走りそうになれば間に入る。
俺が隊長で、ブライトさんが艦長。考えれば考えるほど、その二人だけで全部うまく回る気がしなかった。たぶん、止める人がもう一人いる。
次はクリスさん。これも迷う必要はあまりなかった。俺やアムロに足りないところをかなり持っている。部隊を見る力は信頼できる。俺たちの性格をよくわかってて止めてくれる貴重な存在でもある。中尉として現場も任せられる。何より、信用できる。
そこからは自然にホワイトベースにいた人間が続いた。カイさん。軍を離れる方向だと聞いている。原作からしても来てくれるかと言われると、かなり怪しい。それでも俺は声をかけるつもりだった。腕は十分だし、あの人は文句を言いながらも、本当に必要な時には残る。口が悪いだけでSSRキャラだと思う。シンプルにいい人なんだよな。
ただ、軍を辞めようとしている人間に、別の軍部隊へ来てくれと言うことになる。嫌な顔はされるだろうな。
ハヤトも候補に入る。こっちは軍には残るらしい。それでも黒鴉隊へ来るかどうかは別だ。本人がどんな軍人になりたいのかまで、俺が決める話じゃない。
セイラさんも誘う。軍を離れる方向なのは知っている。正直、無理に残したくはない。あれだけ色々あったんだから、そのまま離れたいならその方がいいとも思う。でも、俺が勝手に「来ないだろう」で終わらせるのも違う。選ぶのは本人だ。
ジョブも必要だな。
パイロットばかり揃えても、機体は勝手に直らない。ホワイトベースで俺たちの機体を見続けてきた人間なら、何をやらかすかも分かっている。……たぶん、そこまで含めて嫌がられるかもしれないけど。
ここまで名前を考えて、手が止まった。知っている人間ばかりだな。黒鴉隊は第13独立部隊を名前だけ変えて作り直す部隊じゃない。ブライトさんがいて、アムロがいて、ララァがいる。それだけでも前の部隊の色はかなり残る。
俺が安心できる相手だけ集めていたら、結局は身内で固めただけになる。外も見た方がいい。そう考えると、前世の記憶から何人か名前が浮かんだ。
最初はユウ・カジマ。パイロットとしてなら、候補に入れない理由がない。ただし、俺が知っているのは元の宇宙世紀での話だった。今のユウ・カジマがどこにいるのか。どんな部隊にいて、その部隊が戦後どうなっているのかまでは分からない。
フォルド・ロムフェローも思い出せた。
実戦だけでなく試験機にも関わったパイロット。黒鴉隊が高性能機や試験機を扱うなら、そういう経験がある人間は使いやすい。
続いてミユ・タキザワ。フォルドと同じサラブレッド隊のオペレーター、作戦や情報を扱える人間が必要になる。ブライトさんやミライさんがいるから全部任せればいい、では艦から離れた時に困るし負担も増えるだろう。ただでさえWBの時に負担をずっとかけていたし。
同じ理由で、ノエル・アンダーソンも候補に入った。前世の記憶では知っている。今この時点でどこにいるのか確認しなければ。
カレン・ジョシュワ。テリー・サンダースJr.。確か08小隊はシローが行方をくらましてからは宙ぶらりんになってたはず。地上で長く戦った経験がある人間も欲しい。俺たちは戦争後半になるほど宇宙へ比重が寄っていた。残党を相手にするなら、戦場が宇宙だけで済むとは思えない。
そしてリリス・エイデン。ここは少し迷った。腕だけなら候補になる。でも、気になったのはそこだけじゃない。普通の部隊より、黒鴉隊みたいな場所の方が合う可能性がある。まず存在するかの調査がいる。バトオペからのキャラだったはずだからいるかどうかわからない。もしいたら直接会って、もう少し踏み込んで話してみたい。
そこまで考えて、候補を書き留めた紙を見直した。
クスコ。ミライさん。クリスさん。セイラさん。ミユ。ノエル。カレン。リリス。
「……女性、多くないか?」
思わず口から出た。もちろん男もいる。でも妙に女性の名前が目につく。前世が男だったせいで、女性キャラの方が記憶に残ってるとかじゃないだろうな。
「いやいや……」
それはさすがにまずい。隊長になって最初の人選理由がそれだったら、ゴップ大将に書類を返した方がいい。そこで別の名前を思い出した。
ヤザン・ゲーブル。
男だ。
しかも強い。
……。
「なし」
すぐ消した。
いや、男ならいいという話じゃなかった。能力が高いのは知っている。それ以上に、同じ部隊へ入れる不安の方が大きい。黒鴉隊が問題のある人間も受け入れる部隊だからといって、問題が大きければ大きいほどいいわけじゃない。強い。それだけでは選べない。その辺りまで考えて、ようやく自分が何をしようとしているのか少し分かってきた。
戦闘中なら、誰が強いかは重要だった。でも今選ぼうとしているのは、その場だけ一緒に戦う人間じゃない。同じ部隊に置く人間だ。
それなら、見るところはもっと多い。
◇
候補がある程度まとまったところで、軍の端末から所在照会をかけた。
BLACK RAVEN発足準備用として、俺の認証には人員情報へアクセスできる権限が追加されていた。もちろん何でも見られるわけではない。機密区分に引っかかるものもあるし、戦後処理の最中で所属そのものが動いている人間もいる。でもかなりの範囲を見れるようになっている。
最初に入力したのはクスコ・アル。結果が出るまで少しかかった。表示された内容を見て、思わず画面へ顔を近づける。
「……移送中?」
収監先からジャブローへ。移送命令の発出元を確認して、嫌でも誰がやったか分かった。
ゴップ大将だった。
到着までにはまだ時間がかかる。ジャブローへ入っても、すぐ俺のところへ来るわけではない。収容手続きと審査の準備が必要で、それが済めば面会申請を受け付ける。そこまで用意されていた。
「先にやられたな……」
ありがたい。
ありがたいんだけど、俺がクスコを最初に探すところまで完全に読まれていた気がして、素直に喜びにくい。とはいえ、今から俺が迎えに行く必要はなくなった。到着を待てばいい。
次にブライトさんを確認する。こっちはもっと単純だった。BLACK RAVEN着任のためジャブローへ移動中。艦長としての配属命令まで出ている。その艦になるレイブンも、ジャブローのドックで改修作業中だった。資料を少し開いてみたが、やっぱり「修理」と呼ぶには作業規模がおかしい。
全面改修。便利な言葉だと思う。ミライさんも確認すると、クスコの移送記録に名前があった。移送に付き添う女性士官として同行中。
「なるほど」
ならミライさんも、こちらから追いかけなくていい。クスコと一緒にジャブローへ来る。ブライトさんも来る。先に外を回って戻ってくる頃には、話せる可能性が高い。
その次にユウ・カジマを調べた。
現在の所属を見て、しばらく考える。第11独立機械化混成部隊。戦争が終わったからといって、部隊そのものが消えているわけではない。少なくとも今の記録を見る限り、仲間から切り離されて行き場を失っている状態でもなかった。
「じゃあ、やめとくか」
欲しい人間ではある。でも、だから引き抜くというのは違う。優秀な人間を集めるための部隊じゃない。もう居場所があって、そこで仲間とやれている人間なら、わざわざこちらから壊す必要はなかった。
ユウの名前を候補から外す。他の人間も順に確認した。前世の記憶で知っていた名前が、軍の記録では現在の人間として出てくる。
妙な感覚だった。
フォルド・ロムフェロー。
ミユ・タキザワ。
ノエル・アンダーソン。
カレン・ジョシュワ。
テリー・サンダースJr.
リリス・エイデン。……いた。
知っていると言っても、俺が知っているのは別の世界で見た物語の中の人間だ。今の彼らが何を経験して、何を考えているのかまでは分からない。だから会う。それしかなかった。所在と面会に必要な手続きを確認しながら、実際に回る順番を組み直していく。
クスコは向こうからジャブローへ来る。ブライトさんとミライさんも同じだ。なら、その三人は後回しにできる。
最初はセイラさん。軍を離れる方向だからこそ、先に話しておきたかった。
次にハヤト。そこからクリスさんとノエルへ回る。リリスにも会う。その後でカイさん。カレンとサンダース。最後にフォルド、ミユ、ジョブ。
そこまで回ってジャブローへ戻る。ブライトさんと話して、それからミライさんにも俺から直接話す。紙の上に順番を書き出してみると、思っていたより多かった。
「これ、何日かかるんだ……」
隊長というのは、もっと作戦室で偉そうに座っているものだと思っていた。少なくとも最初の仕事は違うらしい。人に会って、説明して、たぶん断られて、また次へ行く。
戦闘より疲れそうな気がしてきた。
◇
移動手段について申請を出すと、それだけは話が早かった。ゴップ大将の側ですでに手配が進んでいたらしい。BLACK RAVEN発足準備の人員調整用として、小型高速艇を一隻、一時的に使用できる。専任の操縦員と護衛、それに最低限の運航要員がつく。俺は乗せてもらう側に近い。人を誘いに行くのに豪華な専用艦で乗りつけるなんて、俺でも嫌だ。
必要な申請を終えて部屋へ戻ると、アムロが端末から顔を上げた。
「決まった?」
「候補はだいたい」
「多かった?」
「いや、そこまでじゃないかも」
ララァもこちらを見る。
「私たちも行くの?」
「二人は残ってていいよ。というか、俺の人集めに付き合わせる理由がない。二人ともこっちで手続きとかあるだろ」
「一人で大丈夫?」
「戦いに行くわけじゃないからね」
言ってから考える。
「……たぶん」
「そこ、たぶんなんだ」
「人を勧誘した経験なんてないし、急に自信なくなってきた」
アムロが少し笑った。
「レンなら大丈夫じゃない?」
「何を根拠に」
「さあ」
適当だ。でも、そのくらいの方がありがたかった。ララァが聞く。
「最初は誰のところへ行くの?」
「セイラさん」
「そう」
それだけだった。どうして、とも聞かなかった。俺が考えて決めると言ったからだろう。だからこそ、ちゃんと話さないといけない。
セイラさんが断るなら、それでいい。カイさんも、ハヤトも同じだ。来てほしい人間へ声をかける。その先を決めるのは本人。
俺ができるのはそこまでだった。
◇
出発当日。必要最低限の荷物を持って管理施設を出ると、昨日までなら当然のようについていた「外出許可」の確認がなかった。
代わりにBLACK RAVEN発足準備の移動命令書を見せる。同じ軍の管理下なのに、紙一枚違うだけで通れる場所が増えている。本当に首輪の紐だけ長くなったらしい。この命令書にも、かなり大きな権限が設定されてるみたいだし。指定された発着区画には、小型高速艇がすでに待っていた。
派手さはない。軍でパイロット人員を運ぶための船でかなりの性能があるらしい、それも納得する外見だった。これ、パイロット適性ないとかなりきついんだろうな。そして操縦員と護衛の士官へ挨拶をして、搭乗前に端末を確認する。
予定表の一番上。
セイラ・マス。
ここから先は、書類の上で人を選ぶだけでは済まない。本人に会って、俺の口から話す。端末を閉じた。
「行きましょう」
操縦員が頷き、俺は小型高速艇へ乗り込んだ。
色々悩みましたが決めた流れで進めようと思います。
感想・評価大歓迎です。
でもお手柔らかにお願いします。