一旦1話更新というまで 12時と18時の2話更新で行きます!
押収した輸送艦の端末から拾えた情報は、期待したほど親切なものじゃなかった。受け渡し地点らしい座標が四つ。時刻がいくつか。意味の分からない識別符号。途中から消えている航路記録もあれば、そもそも何を示しているのか判断できない数字も混じっている。
ノエルさんが資料をまとめ終えたのは、輸送艦を確保した翌日だった。
「確実に言えるのは、ここまでです。四つの座標が残っていたことと、そのうち二つに時刻らしい数字が付いていたこと。それから、この符号と同じ形式の通信を連邦軍の監視網が過去数日で三回拾っています」
「同じ連中?」
「それはまだ分かりません。同じ通信方式を使っている、というところまでです。ただ、一番近いこの地点なら受け渡し予定と思われる時刻まで二日あります。監視記録にも、周辺を通った所属不明艦が一隻残っています」
「なら、まずそこだな」
ブライトさんが迷わず決めた。
「他の三地点まで欲張って戦力を散らす必要はない。一つ確認できれば十分だ。違っていれば戻って次を調べる」
「俺も賛成です」
「じゃあ、先回りしましょう。相手が来るなら、今度は追いかける必要もありませんね」
ノエルさんが頷き、画面を切り替えた。その時、戦況一覧の端に新しい更新が入った。北米方面で、ファントムスイープがインビジブル・ナイツと名乗る残党部隊と交戦したらしい。
また知らない名前だ。
「北米も続いてるんですね」
「はい。ただ、今回の座標との直接の関係は確認できません」
「なら今は気にしなくていい。向こうは向こうの担当だ」
ブライトさんの言う通りだった。こっちにはこっちの仕事がある。
目的の座標は、大型艦が隠れられるほど密集したデブリ帯ではなかった。その代わり、一年戦争中に使われた小型の資材集積所が放棄されたまま残っている。外から見れば壊れたコンテナと骨組みだけで、わざわざ寄る理由もない場所だ。
だから受け渡しにはちょうどいい。レイブンは監視範囲の外へ下がり、リリー・マルレーンも別方向へ回った。パプワはさらに後ろへ置く。近くに艦を並べて待っていたら、相手も馬鹿じゃない以上寄ってこない。
俺たちも最初からMSを外へ出さず、艦内で待った。
予定時刻を一時間過ぎても何も来ない。二時間を過ぎたところで、ノエルさんから呼び出しが入った。
『微弱な推進反応を確認。予定座標から約六千です。艦艇一、MS五。こちらへ向かっています』
「艦種は?」
『パプワ級補給艦です。護衛はザクII二、リック・ドム二、ゲルググ一。現時点では追加反応なし』
そこまで分かれば十分だった。俺とクリスさん、ララァの三機が先に出る。シーマ中佐のところからはゲルググMが二機。アムロたちはレイブンで待機になった。
『少ないんじゃない?』
発進前の通信でリリスが不満そうに言った。
「全員出たら待ち伏せにならないでしょ。何かあったら出てもらうから」
『その何かが起きる前に終わらせないでくださいよ』
「努力します」
通信を切ると、クリスさんの笑い声が少しだけ聞こえた。
俺たちは資材集積所の残骸に隠れて待った。先に見えたのはパプワだった。速度を落とし、護衛の五機が周囲へ広がる。警戒はしているけど、ここに俺たちがいるとは思っていないらしい。
そして補給艦から一機のザクIIが離れ、放置されたコンテナ群の方へ向かった。
「何かありますね」
『あそこ、さっき調べた時には反応なかったわよ』
クリスさんの言葉と同時に、ザクIIがコンテナの陰から小さな機材を引き出した。通信中継器らしい。相手がそれへ接続したところで、ブライトさんの声が入る。
『よし。包囲する。投降勧告を出すぞ』
レイブンから広域通信が飛ぶ。相手の反応は早かった。驚いて固まるでもなく、パプワが即座に後退を始めた。ゲルググとリック・ドム二機がこちらへ向き直り、残るザクIIは――逃げなかった。
「中継器を壊す気だ!」
ザクIIが手にしたマシンガンを下へ向ける。俺が撃つより一瞬早く、横からララァのビームが走った。マシンガンの銃身だけを焼き飛ばしている。
『撃たせませんでした』
「助かった。クリスさん、あそこお願いします!」
『任せて。レンは前を止めて!』
ゲルググがビーム・ライフルを撃ちながら突っ込んでくる。その後ろでリック・ドム二機が左右へ散った。動きに迷いがない。ザクIIが中継器を処分するための時間を作ろうとしている。
俺がゲルググを押さえている間に、シーマ隊がリック・ドムへ回り込む。ララァは中継器の側のザクIIを相手にし、クリスさんが反対側から接近した。
武器を失ったザクIIが今度はヒート・ホークを抜く。
『そこまでして壊したいのね』
クリスさんが前へ入り、ジム・スナイパーIIのシールドで腕を受け止めた。そのまま押し返し、脚部へ一発。ザクIIの姿勢が崩れる。だが、その瞬間だった。離れたところにいたもう一機のザクIIが、中継器へ向けてバズーカを撃った。
「っ!」
弾頭は外れなかった。爆発でコンテナごと中継器の半分が吹き飛ぶ。
『悪い、一つやられた!』
「全部じゃないです!」
ララァが爆風から機体を退かせる。そのすぐ横には、クリスさんが押さえていたザクIIと、まだ形を残している中継器の一部があった。
敵は目的を果たしたと判断したのか、急に後退へ切り替えた。パプワも逃げ始めている。
『追うかい?』
シーマ中佐から通信が入る。
「補給艦はレイブンに任せます。こっちは残った機材を優先します」
『あいよ。欲をかいて両方逃がすよりはマシだ』
レイブンがパプワの逃走方向へ回り込む。敵MSも護衛へ戻ろうとしたが、こちらが完全に追撃をやめたことで逆に動きが鈍った。
そのまま距離が開いていく。ブライトさんも無理には追わせなかった。結局、確保できたのは損傷したザクII一機と、中継器の残骸だった。敵のパプワと残り四機は離脱。戦果だけ見れば取り逃がした数の方が多い。
でも今回は、それでいい。壊れた中継器はレイブンへ運び込まれた。
「記憶部の半分近くは焼けてますね。こっちは物理的に割れてます」
ジョブが開いた筐体を覗き込みながら言う。
「直せる?」
「機械として動かすって意味なら無理だな。でも記録媒体が全部死んでるわけじゃない。読めるかどうかは別の話になるが」
「そこはノエルさんたちに任せよう」
解析に掛けても、出てきたものはやっぱり断片だった。通信内容そのものはほとんど残っていない。誰が命令したのかも、相手がどの部隊なのかも分からない。
残っていたのは接続記録だった。
「この中継器、今回だけ使われたものじゃありません」
ノエルさんが画面へ記録を並べる。
「過去十日ほどで複数回接続されています。発信元は保存されていませんが、接続時刻は残っています。それから、同じ形式の識別符号が四種類」
「四部隊?」
「そこまでは断言できません。同じ相手が符号を切り替えている可能性もあります。ただ……」
別の資料が横へ出る。
「連邦軍が確認した残党活動の時刻と重ねると、三回だけかなり近いものがあります。一つは地球方面。残り二つは宇宙です」
「偶然の可能性は?」
「あります。これだけでは否定できません」
ノエルさんはそこをきっぱり言った。シーマ中佐が通信画面の向こうで鼻を鳴らす。
『けど、連中は逃げるより先にあれを壊そうとした。少なくとも、見られたくないもんがあったのは間違いないね』
「そうですね、問題はそれが何か」
分からないものはまだ多い。誰が動かしているのかも、何のためにこれだけ物資を回しているのかも見えない。それでも、前よりは一つだけはっきりした。
この補給線は一本じゃない。ノエルさんが最後に、一つの符号を画面へ残した。
「この符号だけ、まだ使用されていない受け渡し地点の記録にも残っています。意味は分かりません。でも次に追うなら、ここです」
「時刻は?」
「明日の後半です」
ブライトさんがこちらを見る。
「休めるうちに休んでおけ。次も当たりとは限らんぞ」
「はい」
当たりかどうかは、行ってみないと分からない。
今のところ分かるのは、消される方が早い情報ほど、向こうにとっては残したくないらしいということだけだった。
次でこの事件は終わります