続・黒いガンダムの宇宙世紀   作:いずりょう

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第10話 大きな事件の裏だったらしい

 見つけた次の受け渡し地点は当たりだった。ただ、今度は待ち伏せまでして一から付き合う必要はなかった。

 

 予定より早く着いた俺たちが確認した時には、すでに物資の一部が運び出された後で、残っていたのは小さな輸送艇とザクIIが二機だけだった。投降勧告のあと短い戦闘になったものの、それも長くは続かない。残された記録と航路を拾い、さらに二ヶ所。片方は空振り、もう片方ではリック・ドムに護衛された輸送艦を止めた。

 

 同じような符号、似た受け渡し方、それぞれ違う方向へ流れていく物資。全部が同じ部隊のものかは分からない。それでも追うたびに、行き先は少しずつ絞られていった。

 

「少なくとも、この辺りへ入ってくる量は明らかに減ってます」

 

 ノエルさんが数日分の監視記録を重ねた。

 

「私たちが止めた分だけではありません。受け渡し地点が使えなくなったことで、向こうが迂回している可能性もあります。ただ、こちら側で確認できる輸送反応そのものは減少しています」

「じゃあ、ちゃんと効いてはいるんだ」

「はい。どこまで効いているかは分かりませんけど」

 

 そこを言い切らないのがノエルさんらしい。

 

 画面には俺たちが潰した地点と、まだ怪しいまま残っている航路が並んでいた。最初はばらばらに見えていた線も、数が減ると逆に分かりやすくなる。何本かは途中で消えているのに、その先でも似た反応が見つかっていた。

 

 ブライトさんが一番太い線を指した。

 

「この先だな」

「俺もそう思います」

「まだ決めつけるな。輸送先ではなく、さらに別の中継地点かもしれん」

「分かってます。でも調べるならここですよね」

「ああ。ここまで絞ったならな」

 

 その日の戦況報告には、宇宙側とは別にもう一つ変化があった。

 

 北米を中心に動いていた残党部隊の一部が地上から離脱し始め、連邦側も追跡戦力を宇宙へ回している。ファントムスイープもその中に入っていた。インビジブル・ナイツとの戦闘は続いているらしいけど、俺たちの追っている輸送網との直接の繋がりは相変わらず確認されていない。

 

「地上で暴れるのが目的じゃなかったってことですか?」

「その可能性が高くなっています」

 

 ノエルさんが答える。

 

「少なくとも連邦軍は、地上での武装蜂起だけを最終目的とは見なくなりました。残党側が宇宙へ戦力を移している以上、こちらも対応範囲を広げるそうです。ただし、具体的に何を狙っているのかはまだ情報がありません」

「こっちで物を集めてたのも、そのためかもしれないな」

「可能性はあります。ただ、それ以上はまだ」

 

 地上で何をしていて、宇宙で何をするつもりなのか。

 

 俺には分からない。ただ、こっちで追ってきた連中が偶然この時期に大量の物資を動かしていて、地上の残党も同じ頃に宇宙へ上がり始めた。そこまで重なれば、無関係だと思って放っておく理由もなかった。

 

 俺たちは残った航路の中で、反応が最も集中している宙域へ向かった。途中からリリー・マルレーンを先に出し、レイブンは距離を取る。シーマ中佐の方が、この辺りで使われていた旧ジオンの航路を知っているからという理由もあったけど、それだけじゃない。今では連邦艦よりあの艦が前を飛んでいる方が、残党側の警戒が一瞬遅れることもある。

 

『勘違いするんじゃないよ。連中があたしらを仲間だと思ってくれるなんて期待してないからね』

「分かってます。見てすぐ撃たれなければ十分です」

『言われなくても、そのくらいはやるさ』

 

 通信が切れて一時間もしないうちに、リリー・マルレーンから報告が入った。

 

『見つけたよ。今回はちょっと数がいる』

 

 送られてきた観測情報をレイブン側で照合する。

 

 艦艇は三隻。ムサイが二隻、その後方に補給艦が一隻。周囲にはMSの反応が十を超えている。遠距離映像でも、ザクIIとリック・ドムが複数、ゲルググも混じっているのが分かった。

 

「十二……いや、奥に三機追加。MS十五です」

 

 ノエルさんが表示を更新した。

 

「追加艦はいません。今のところ三隻で確定です」

「ここ数日で見た中じゃ一番多いな」

 

 補給艦の周りには大型コンテナがいくつも浮いていた。一時的に集めただけなのか、ここからまた別へ送るのかは分からない。ただ、俺たちが今まで止めてきた量を考えれば、これだけまとまっている場所がどうでもいい中継点とは思えなかった。

 

 ブライトさんも同じ判断だった。

 

「ここまで追った以上、見つけただけで帰るわけにはいかんな。ただし、鹵獲を優先して無理をする必要もない。あの戦力を残せば、別の輸送路を作り直される」

「投降勧告はします」

「当然だ。応じなければ制圧する」

 

 シーマ中佐も通信へ入る。

 

『十五機なら、あたしのところも全部出すよ。片側は任せな』

「お願いします。俺たちは反対側から入ります。艦を逃がさないのが優先で」

『分かってるよ。あんたらの獲物まで取りに行ったりしないさ』

「別に取り合ってませんから」

 

 少し間があって、シーマ中佐が笑った。

 

『そういうことにしといてやるよ』

 

 レイブンの格納庫では、六機全部の発進準備が進んでいた。今回ばかりは数を隠して待つ必要もない。向こうが十五機いるなら、最初から全部出して押さえた方がいい。シーマ隊を合わせればこちらも十機以上になるし、艦まで含めれば戦力差はそこまで大きくない。

 

「レン、正面から行く?」

 

 アムロが機体を動かしながら聞いてくる。

 

「最初は。向こうがどっちへ逃げるか見てから変える。アムロは俺より少し右、クリスさんは後ろから全体見てもらえます?」

『了解。追いすぎたら止めるからね』

「そこまで先に言わなくても」

『先に言わないとやるでしょ』

「……気をつけます」

 

 通信の向こうでアムロが小さく笑った。

 

 発進すると、敵側もすぐこちらに気づいた。レイブンが広域通信で投降を呼びかける。その間にも、二隻のムサイからMSが離れ、三つのまとまりに分かれていく。

 

 返答はなかった。代わりに、先頭のザクIIがライフルを構えた。

 

『投降の意思なし。全機、戦闘に備えろ』

 

 ブライトさんの声が入る。

 

「了解。黒鴉隊、行きます!」

 

 正面から来たザクII三機の後ろにリック・ドムが二機。さらに右側ではゲルググを先頭にした別の小隊がシーマ隊へ向かっていく。

 

 今までみたいに、一つ止めればそれで輸送艦へ手が届く配置じゃない。俺が最初のザクIIの射線を外した時、アムロはもうその横を抜けようとしていた。けれど奥のリック・ドムがすぐに射線を重ね、簡単には通してくれない。

 

「ちゃんと分けてきたな」

『うん。後ろの艦を守る気だ』

 

 左ではララァとクスコが別の三機を受け止め、リリスがその外側へ回っている。シーマ隊の方にも五機が向かい、残った敵はムサイの近くから動かない。全部がこっちへ突っ込んでくるわけじゃない。前で止める奴と、艦の近くに残る奴を最初から分けている。

 

『レン、敵のムサイが動いた!』

 

 クリスさんの声と同時に、奥にいた一隻が進路を変えた。逃げるのかと思ったけど、違った。艦首が向いた先にいたのは、リリー・マルレーンだ。

 

「シーマ中佐、そっちに行きます!」

『見えてるよ! こっちを舐めてもらっちゃ困るね!』

 

 ムサイの主砲が光り、リリー・マルレーンが大きく進路をずらす。少し遅れてこちらのレイブンも砲撃を始めた。

 

 MS同士だけじゃない。艦まで含めて、完全に戦線が二つに割れた。

 

 正面のザクIIを押し返したところへ、さっきまで後ろにいたゲルググが飛び込んでくる。俺がそちらへ向きを変えると、今度はリック・ドムがアムロの進路を塞いだ。

 

 一機ずつ相手をしている暇はなさそうだった。正面のゲルググがもう一度踏み込んできた。こっちを倒すより、俺とアムロをここから先へ通さないつもりらしい。射撃を散らしながらリック・ドムまで位置を合わせてくる。

 

「アムロ、右のドムを引きつけられる?」

『二機とも?』

「できればそうしてくれるとありがたい」

『できればって……分かった。レンは?』

「こいつをどかす」

 

 アムロが右へ振った。すぐにリック・ドム二機が追い、正面に残るのはゲルググとザクII三機になる。

 

 その瞬間だけで十分だった。

 

 ゲルググの射撃を機体の横滑りで外し、一気に距離を詰める。向こうも近づかれるのを嫌って下がろうとしたけど、その後ろには自分たちのザクIIがいる。動きが一瞬鈍ったところへ体当たり気味に入り、武器を持った右腕を弾き上げた。撃破する必要はない。前へ抜ける隙さえできればいい。

 

『抜けた!』

 

 クリスさんの声が飛ぶ。俺だけじゃなかった。左側でもララァとクスコが敵の三機を押し戻し、その外から回っていたリリスが艦側へ入り始めている。

 

「そのまま艦を押さえて! 深追いはしなくていい!」

『了解!』

『分かってます』

 

 俺も正面の敵を振り切って、その後ろへ出た。残っていた二機がすぐにこちらへ向きを変える。一機はザクII、もう一機はゲルググ。最初から艦の近くに置かれていた連中だ。

 

 そこまでして守っているなら、やっぱり後ろの三隻が中心だ。

 

 右側ではアムロがリック・ドムを引きつけたまま、じわじわと外へ押し出している。撃墜を狙って一直線に追うんじゃなく、進路を塞いで艦から離していた。

 

『レン、補給艦が動く!』

 

 ノエルさんの通信と同時に、後方の艦が進路を変えた。ムサイ二隻が前へ出て、補給艦だけがその裏から離脱しようとしている。

 

「ブライトさん、補給艦が逃げます!」

『見えている。レイブンは回り込む。お前たちは護衛を崩せ!』

 

 レイブンが砲撃を続けながら進路を変える。その動きを見た片方のムサイがさらに艦首を振った。

 

 狙いはレイブンだ。砲撃が交差する。レイブンは正面から受けず、姿勢をずらしながら撃ち返した。すぐに何発かがムサイの周囲で弾ける。

 

 反対側ではリリー・マルレーンも撃っている。

 

『こっちのムサイは押さえる! そっちの補給艦を逃がすんじゃないよ!』

「分かってます!」

 

 シーマ隊の五機が敵小隊を完全に食い止めていた。数では同じでも、少しずつ敵側が押されている。ゲルググMが一機、肩の装甲を削られて下がったけど、戦線そのものは崩れていない。

 

 その間に俺たちは艦側へ近づく。前に残っていたザクIIがこっちへ突っ込んできた。射撃を避けて横へ抜けようとしたところで、別方向からゲルググのビームが走る。

 

「くっ……!」

 

 装甲の端を掠めた。追撃が来るより早く、後ろからクリスさんの射撃がゲルググの足元を通った。機体が反射的に向きを変える。

 

『行って! こっちは見るから!』

「お願いします!」

 

 補給艦まであと少し。でも、そこへ行く前に敵の動きが変わった。

 

 ムサイの一隻が大きく傾いた。レイブンの砲撃を受けたらしい。後部から細かな破片が散り、推進光が一つ消える。その直後、もう一隻のムサイが前へ出た。

 

 援護するためかと思ったが。

 

 違う。傷ついた方を残して、補給艦と一緒に逃げるつもりだ。こいつら逃げてばっかりだな!

 

『敵艦隊、分離します!』

 

 ノエルさんの報告が入る。MS側もすぐに反応した。前で戦っていた敵の一部が一斉に下がり始める。全部じゃない。何機かはそのままこっちを止めに残った。

 

「逃げる方は追わない! 残った艦とMSを押さえます!」

『補給艦もか?』

 

 アムロが聞いてくる。

 

「ブライトさんが届かなければ諦める。ここで戦線崩す方を先にする!」

 

 今までなら、情報を持っていそうな補給艦を何としても止めたかもしれない。

 

 でも今回は違う。目の前にいるのは小さな輸送隊じゃない。十五機と三隻でまとまって動ける部隊だ。ここを崩さないまま一隻だけ追えば、逆に逃げ道を作ることになる。

 

 敵側も同じことを分かっていた。残ったザクIIとゲルググが無理に前へ出てくる。こっちを倒したいというより、後ろが離れるまで時間を稼ぎたいらしい。

 

 なら、その時間を与えなければいい。

 

「アムロ、戻って! 正面からまとめて押す!」

『了解!』

 

 右へ出ていたアレックスが戻ってくる。

 

 それで一気に人数差が変わった。俺とアムロが前へ出て、クリスさんが後ろから援護する。左側で相手をしていたララァたちも、敵が引き始めたことで手が空いてきた。

 

 最初は三つに分かれていた戦線が、少しずつ一つへ寄っていく。敵のザクIIが一機、武器を失って止まった。もう一機のリック・ドムは推進器を壊され、その場から動けない。

 

 それでも残った連中はしばらく抵抗を続けた。傷ついたムサイが砲撃を止めたのは、それから少し後だった。

 

『敵ムサイから停戦信号!』

 

 ノエルさんの声が入る。

 

「撃つの止めて! 投降確認!」

 

 こちらの射撃が途切れる。MS側でも変化が起きた。武器を捨てる機体が二機、三機と増えていく。まだ動ける敵の何機かは、離脱したムサイと補給艦を追ってそのまま逃げた。

 

『追わなくていい』

 

 ブライトさんが先に言った。

 

『こちらの目的は達した。投降した連中の収容と、損傷艦の安全確保を優先する』

「了解です」

 

 俺も追うつもりはなかった。遠ざかっていく推進光を見ながら、ようやく息を吐く。戦闘が終わって確認すると、思ったより被害は出ていた。

 

 こちらも何機か装甲を削られ、シーマ隊のゲルググM一機は片腕を失っている。レイブンにも砲撃が一発入っていたけど、航行や戦闘を続けられないほどではない。リリー・マルレーンも外装の一部を損傷していた。

 

 人的被害は軽傷が中心だった。

 

 敵側は損傷したムサイ一隻とMS数機が投降。動けなくなった機体も回収対象になった。逃げたムサイ一隻と補給艦、それに数機のMSまでは追わない。

 

 その後の処理だけでもかなり時間が掛かった。投降者を収容し、負傷者を分け、壊れた機体を回収する。敵も味方も関係なく救難を優先したから、全部終わった頃には戦闘開始からかなり時間が経っていた。

 

 艦内へ戻った俺がブリーフィングルームへ入ると、ノエルさんが回収資料を整理していた。

 

「やっぱり、この部隊がかなりの量をまとめてたみたいです」

「どこへ送ってたかは?」

「分かりません。ただ、これまで見つけた中継地点のうち三ヶ所と接続記録があります。それ以外にも別の符号がいくつか。少なくとも、この辺りの輸送をまとめる役割は持っていたと思います」

「じゃあ、ここを止めた意味はあったんだ」

「はい。こちら側から宇宙へ流れていた輸送量は、かなり落ちるはずです」

 

 それ以上のことは、やっぱり分からなかった。誰が命令していたのか。何のために宇宙へ集めていたのか。この部隊が全体の中でどれくらい重要だったのか。

 

 そこまでは資料にも捕虜にも残っていない。

 

 でも、それでよかった。俺たちの仕事は敵の事情を全部理解することじゃない。自分たちの担当で動いている武装部隊と補給線を止めることだ。

 

 その日の終わり頃、さらに戦況更新が入った。地上から宇宙へ移っていた残党戦力を追って、ファントムスイープも宇宙で交戦を続けている。そして、その先で戦闘は月方面まで広がったらしい。

 

 俺たちはそこへ向かわなかった。投降した人数も多いし、損傷艦もある。逃げた連中が周辺へ戻ってこないか確認する必要もあった。月方面の続報が届いたのは、その後だった。

 

「今回の一連の出来事、終結したそうです」

 

 ノエルさんが読み上げる。

 

「月方面で残党部隊の大規模攻撃計画が阻止されました。主力は壊滅または戦闘能力を喪失。各方面でも撤退、投降、散開が確認されています。連邦軍は一連の残党活動について、組織的な戦闘は収束へ向かったと判断しています」

「……終わったのか」

「少なくとも、大きな動きは」

 

 何だったのか、最後まで全部は分からなかった。地上で蜂起して、宇宙へ上がり、その裏で俺たちが追っていた補給線まで動いていた。思っていたより、ずっと大きな話だったらしい。ブライトさんが戦況表示を閉じる。

 

「こっちも残敵確認が終われば通常任務へ戻る。まずは艦と機体を直すぞ」

「はい。しばらく大人しくしてます」

「お前がそう言っても信用できんな」

「ひどくないですか?」

 

 クリスさんが笑い、アムロまで何も言わずにこっちを見る。

 

 反論しようとして、やめた。とにかく、俺たちの担当は終わった。

 

 それで今は十分だった。

 




水天の涙決着!
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