五人で動くことにも、思ったより早く慣れた。
その日の警戒任務でも、俺たちは予定していた宙域を一周して、怪しい反応を二つ確認しただけで帰ってきた。一つは民間輸送船、もう一つは識別装置の調子が悪かった連邦軍の作業艇。残党どころか発砲する相手すらいなかった。
格納庫へ戻ると、それぞれの機体が順番に収容されていく。最後に入ってきたララァのジム・コマンドも、以前みたいに着艦直前で姿勢を崩すことはなくなった。機体を固定した整備員が普通に次の作業へ移っているあたり、もう誰も着艦するたびに心配して見ているわけじゃない。
俺もコクピットを降りながら、そのことに気づいた。
「ララァ、最後のところ前より早くなったね」
「本当?」
「うん。減速してから合わせ直すの、一回で済んでたよ」
「そこはアムロに何度も言われたから。スラスターを細かく使いすぎると、かえって姿勢が落ち着かないって」
「僕は使うなとは言ってないよ。入れる時間が長いって言ったんだ」
「同じことじゃないの?」
「違うよ」
先に降りていたアムロがすぐ訂正した。ララァも言われっぱなしにはならず、そのまま二人で着艦時の操作について話し始める。少し前ならララァの方が「こう感じた」と説明して、アムロやクリスさんが操縦の言葉へ置き換えていた。今はララァ自身が姿勢制御や推進剤の使い方まで普通に話している。
上達したな、と思いながら俺は先に着替えに向かった。その日の問題は、MSとは全然別のところから来た。着替えを終えて艦橋へ顔を出したところで、ブライトさんに呼び止められた。
「レン、あとで作戦室へ来てくれ。アムロとララァにも声を掛けてある」
「何かありました?」
「戦闘じゃない。人員関係だ」
「……また?」
人事が終わったばかり――なんて知るはずもないが、俺の感覚としては本当にまただった。
作戦室へ入ると、ノエルさんが端末の前に座っていた。アムロとララァもすでに来ていて、俺が座るのを待ってからノエルさんが画面を切り替える。
「連邦軍内部の研究・評価部門から、アムロ中尉とララァ中尉に対する協力要請が届いています。命令ではなく、所属部隊への正式な打診です」
「協力って何をするの?」
アムロが最初に聞いた。
「シミュレーターによる操縦反応の測定、適性検査、医療検査。それから一定期間、研究施設へ出向して継続評価を行いたい、という内容です」
「一定期間って?」
「現時点では三週間を希望しています」
「長いな」
思わず口に出た。アムロは画面を見たまま、あまり嬉しくなさそうな顔をしている。
「またこういうのか」
「しつこいよね」
「何を調べるか分かっていて、普通の検査なら別に全部嫌だとは言わないよ。でも三週間も向こうへ行って、その間どう扱われるかも書いてない。僕はそれなら行きたくない」
はっきりしていた。ララァは少し考えてから、ノエルさんへ尋ねる。
「私は検査を受けること自体は構わないわ。でも、出向すると所属も変わるの?」
「正式な転属ではありません。ただし出向期間中は、先方の管理下で研究日程に従う形になります」
「それは嫌ね。何をするのか分からないまま、三週間向こうにいるのは」
声は静かだったけど、答えはアムロと同じだった。
「ただ、必要な検査なら受けてもいいと思うの。ここでできるものなら、ここでやることはできないのかしら」
「その提案自体は可能だと思います。先方は人員の出向を希望していますが、必須条件とは書いていません」
ノエルさんが要請文の該当部分を開いた。読んでみると、確かに「協力要請」であって「出向を命ずる」ではない。それでも、終戦直後に施設へ入れられていた頃のことを思い出すと、あまり気持ちのいい文章でもなかった。
「クスコさんは?」
「今回、正式な出向対象には含まれていません。ただ、今後の追加評価候補として名前があります」
「なるほど」
そっちまで広がる可能性はあるらしい。俺が文章をもう一度読み直していると、ブライトさんが口を開いた。
「先方の要請自体がおかしいわけではない。アムロやララァのデータを欲しがる部署があるのは当然だろう。問題は、こちらだけで出向まで承認していい話ではないことだ」
「え、これ上を通してないんですか?」
「ああ。おれたちは大将直属部隊の所属だ。人員の貸し出しや長期出向を求めるなら、まずそこを通すべきだろう」
言われてみれば、ずいぶん簡単な話だった。俺たちは連邦軍から独立して好き勝手に動いているわけじゃない。逆に言えば、別の部署が欲しがったからといって、勝手に連れていかれる立場でもない。
「じゃあ、本人たちの回答も付けて大将付きへ回しましょう。アムロは出向は希望しない。内容を確認した上で、艦内でできるデータ提供や検査なら協力できる。ララァも同じでいい?」
「僕はそれでいい」
「私も。それなら構わないわ」
「ノエルさん、そういう形で返せます?」
「はい。こちらから拒否するのではなく、長期出向については直属上官の承認が必要だと回答します。研究協力については、本人同意を前提に艦内実施可能な範囲を提示します」
「お願いします」
それで話は終わった。少なくとも、その場では。
大将付きへ送った返答が戻ってきたのは数日後だった。人員の出向については保留。必要なら研究部署側から改めて承認を取ること。代わりに、訓練時の操縦ログと定期検査の一部については、本人の同意と機密範囲の確認を条件に提供を認める。向こうもそれで話を進めることにしたらしい。怒鳴り込みもなければ、誰かが強引に迎えに来ることもなかった。
「思ったより普通に終わったな」
「正式な要請ですからね」
ノエルさんはそう言った。
「先方も、無理に命令へ切り替えてまで人員を必要としていたわけではなかったようです。今回はデータ提供で十分だと回答が来ています。今回についてはこれで終わりかと」
「その言い方ちょっと嫌だな」
「また別の部署から来る可能性までは否定できませんから」
まあ、そうだろう。ニュータイプなんてものを軍が放っておくとは思っていない。うちに集められた時点で、それは分かっていた。
ただ、以前とは少し違う。誰かが「調べたい」と言っただけで、アムロやララァがそのまま施設へ連れていかれるわけではない。まず部隊があって、直属の上官がいて、本人にも聞かれる。
自由というには窮屈だけど、何も選べなかった頃よりはずっとましだった。
その後は、本当にいつもの任務へ戻った。研究部署へ渡すことになった操縦データも、特別な試験を新しく組んだわけじゃない。普段やっているシミュレーターや訓練の記録から、出せる範囲を整理して送るだけだった。その作業の関係で、アムロとララァが訓練区画にいる時間は少し増えた。ある日、俺が自分のシミュレーター予約を確認しに行くと、二人が一つの端末を挟んで座っていた。
「まだやってるの?」
「レン。もう終わるよ」
アムロはそう答えたけど、画面にはララァの操縦記録がまだ広がっている。
「ここ、さっきの回避で入力が重なってる。機体が遅れたんじゃなくて、ララァが次の操作を入れるのが少し早いんだ」
「でも、待ってから入れると間に合わない気がしたの」
「敵がこの角度ならね。でも今回は右へ抜けてるから、先に機首を振る必要はないよ。姿勢を残してから推力を足した方が速い」
「……ああ。だから二回目は余計に流れたのね」
「そう。たぶん最初の回避が上手くいったから、その感覚を次にも使ったんだと思う」
ララァが自分で記録を少し戻した。
「じゃあ、もう一度やってみたいわ」
「今から?」
「駄目?」
「別に駄目じゃないけど、もう結構やったよ」
「アムロが終わると言っただけでしょう?」
「……まあ、そうだけど」
なんとなくアムロが負けた。
「俺、次ここ使う予定だったんだけど」
「あ」
「ごめんなさい、レン」
「別の空いてるところ使うからいいよ。続けて」
端末で隣のシミュレーターを確認すると、幸い空きがあった。
移動しようとして、ふと振り返る。ララァがもう一度座席へ入り、アムロが外から設定を確認している。最近こういうのをよく見る気がした。任務が終わった後も二人でログを見ていたり、食事へ行ったら先に同じ席にいたりする。
ララァが上手くなってきたのも、アムロがよく付き合っているからかもしれない。
それ以上は特に考えず、俺は隣のシミュレーターへ向かった。