翌朝、指定された評価区画へ行くと、俺たちより先にジョブが来ていた。
「早いな」
「こっちは乗るだけじゃないからな。レイブンに積んだ後で面倒を見るのは俺たちだぞ」
そう言いながら、ジョブは技術側から渡された資料をめくっている。俺たち五人が揃うと、待っていた技術士官が簡単な説明を始めた。
「これまで提出された運用記録について、主要評価は完了しています。今回確認していただくのは、その結果を反映した次期運用機です。まだ調整項目は残っていますが、搭乗者側で問題がなければ、このまま部隊配備へ移します」
また何日も説明を聞いて、試して、書類を書いてから機体が来るのかと思っていた。もうそこまで進んでいたらしい。格納庫の扉が開く。最初に目に入ったのは、やっぱり黒だった。
五機まとめて並べられている中で、一機だけほとんど光を返さない。全体の形はRAVEN_CUSTOMよりまとまって見えるのに、頭だけは見慣れたガンダムタイプだった。
胸元にある型式表示は、RX-81RC。
「……また黒いガンダムだ」
「そこは外せませんね」
技術士官が真面目に答えたあと、横にいた技師が笑った。
「頭も君用にガンダムタイプにしてある。色も黒でいいんだろう?」
「そこだけ聞くと俺が注文したみたいなんですけど」
「今までの機体を見れば、違う色で出す方が面倒だ」
それはそうかもしれない。
「RCって?」
「Ren Custom。RX-81の最終仕様としてまとめたものの少佐専用機です。RAVEN_CUSTOMで取ったデータが中心ですが、それだけではありません。部隊内で得られた高反応制御、高機動時の姿勢管理、各種実戦記録も反映しています」
俺は機体を見上げた。
対艦刀はない。代わりに用意されているのは、普通のビームライフルとシールド。それにビームサーベル。前の機体より地味と言えば地味なんだけど、不思議とこっちの方が完成した機体に見えた。
「もうデカい剣はなし?」
「必要なら外部装備として検討できますが、標準装備には入れていません。あなたの戦闘記録を見る限り、常時持たせる必要性が低いという結論です」
「まあ、振り回せれば何でもいいわけじゃないしな」
隣ではアムロが、もう俺の方を見ていなかった。その視線の先に、もう一機ガンダムがいる。
「RX-78-8です、ガンダム8号機とでも呼んでください」
技術士官が説明した。
「RX-78系列の最終機としてまとめています。アレックスの運用結果と、レイ中尉の操縦記録を設計段階から反映しています」
「アレックスを改修した機体じゃないんですね」
「別機体です。アレックスでどこまで反応を上げられるかを見る段階は終わりました。その結果を最初から入れています」
アムロは少し近づいて、機体の関節やスラスター配置を見ていた。
「余計な装備は増やしてない?」
「基本的には。要求されたのは高い反応性を維持した汎用機です。特定の兵装を前提にはしていません」
「それならいいです」
即答だった。
「アレックスは悪くなかったけど、途中から僕に合わせて調整していった部分が多かったから。最初からその前提で組まれているなら、そっちの方が確認したい」
「こっちより気に入ってない?」
「まだ動かしてないだろ」
「見た時点では?」
「レンじゃないんだから、色と顔だけで決めないよ」
「俺だってそこだけじゃないぞ」
アムロはもう聞いていなかった。少し離れた場所では、ララァが残る一機を見上げていた。他の四機とは明らかに雰囲気が違う。
「こちらはアレックスの発展形NT用兵器試験機、ネティクスです」
ララァが技術士官へ顔を向ける。
「私の訓練データも入っているんですか?」
「入っています。ただし、機体側が操縦を代行するものではありません。通常の操縦系に加えて、ニュータイプ反応を利用する装置を評価できるよう構成しています」
「今までと操作そのものが変わる?」
「基本操作は連邦系MSから大きく外していません。追加系統については、シミュレーターから確認してもらいます」
ララァはそれを聞いて頷いた。
「分かりました。まず普通に動かしてからの方がいいと思います。感覚だけ先に使っても、機体のどこが動いているのか分からなくなるから」
最初にジム・コマンドへ乗った頃なら出なかった言葉だ。その横には、同じ外見の機体が二機並んでいた。クリスさんはそっちのコクピット周りを先に見ている。
「ジム・カスタムね。操作系は現行ジムと共通?」
「基本配置は共通です。ただ、出力と応答は上がっています。スナイパーIIで取得したデータから、急激な入力に対して制御が遅れないよう調整を入れています」
「特殊な機能は?」
「特には。高性能な汎用機としてまとめています」
「それが一番助かるわ。変な癖を覚えるところから始めなくて済むもの」
クスコはもう一機のジム・カスタムの前で腕を組んでいた。
「私もこれなのね」
「高機動型ゲルググでの評価は終了しています。今後は同じ部隊内で整備規格を揃える意味もあります」
「別にゲルググじゃなきゃ嫌だとは言わないわ。ただ、操作感はかなり違いそうね」
「そのための調整期間です」
クスコは少し笑った。
「なら、乗ってみないと何とも言えないわね」
五機を眺めているだけの時間は、そこで終わった。
俺たちはそれぞれコクピットへ入った。RX-81RCの中は、RAVEN_CUSTOMとまったく別物というほど違わない。むしろ、見慣れた操作配置が多い。なのに起動した瞬間から少し感覚が違った。
「こちらレン。起動正常」
『各部数値、こちらでも確認しています。まず基本動作だけお願いします』
格納庫を出て、指定された試験区画まで歩かせる。普通に歩く。旋回する。止まる。
それだけなのに、入力した後の機体の揺り戻しが少ない。RAVEN_CUSTOMでも調整を重ねれば同じところまでは持っていけた。でも、あっちは一つ直すたびに別の場所を合わせていく感じがあった。
こっちは最初からそこにいる。
「これ、俺の癖まで入ってない?」
『入っています。正確には、癖そのものではなく繰り返し発生した操作傾向を制御側へ反映しています』
「勝手に動かない?」
『そこはかなり抑えています。自動補正が操縦入力を邪魔した記録も多かったので』
なるほど。
その辺はアムロのデータも混ざってそうだ。少し離れた試験区画では、8号機も動き始めていた。
『レン、聞こえる?』
「聞こえてる。どう?」
『アレックスより素直だ。反応が上がってるっていうより、入力した後に余計な修正が入らない。前は僕が動かした後で機体側の補正とぶつかる時があったけど、それが少ない』
「速い?」
『それは宇宙へ出ないと分からないよ』
言われてしまった。
地上試験で分かることには限界がある。ララァのネティクスも、その日は基本動作までだった。追加されたNT対応系はシミュレーターと地上設備で段階的に確認するらしい。降りてきたララァに聞くと、少し考えてから答えた。
「普通の操縦は前よりずっと楽。ジム・コマンドより反応が早いけれど、動きすぎる感じはしないわ。ただ、追加されている方はまだ分からない。私が動かしているのか、機体が補っているのか、もう少し分けて確認したい」
「最初から全部使えそう?」
「無理だと思う」
「だよな」
それでいい。クリスさんはジム・カスタムから降りてくるなり、技術員と何か話していた。
「どうでした?」
「大きな問題はないわ。入力も素直だし、スナイパーIIから乗り換えても困るところは少なそう。ただ、ペダル側の反力を少し変えてほしい。今のままだと微調整の時に入りすぎる」
「そこまで分かるんです?」
「乗れば分かるわよ」
クスコは逆に、しばらく機体から降りてこなかった。何か問題かと思った頃にハッチが開く。
「どうです?」
「思った以上に軽いわね。悪い意味じゃないけれど、ゲルググのつもりで入力すると最初だけ行きすぎる。私の方を直す部分もありそう」
「機体じゃなくて?」
「何でも機体のせいにしたら、パイロットはいらないでしょう?」
それもそうだった。
そこから数日は、似たような確認が続いた。俺のRX-81RCは姿勢制御とペダル入力を少し調整。アムロは8号機の補正設定を何度も変え、最終的には技術側が用意していた初期値より介入を減らした。ララァはネティクスの通常系とNT対応系を分けて確認し、クリスさんとクスコは同じジム・カスタムでもそれぞれ別の入力調整を入れた。
同じ機体だから同じ設定でいい、とはならないらしい。ジョブは試験中ずっと機体より整備資料を気にしていた。戦争中とは違いしっかり調整の期間は取られていた。
「こっちで面倒見られそう?」
「前よりは楽だ。少なくとも五機の規格が今までほどバラバラじゃない。ネティクスだけは専用部品が増えるけど、それは仕方ないな」
「RX-81は?」
「普通に壊す分には直せる」
「普通に壊すって何だよ」
「お前が乗るんだから言ってる」
何も言い返せなかった。大きな問題は出なかった。最後の確認が終わると、技術側から正式な受領書類が回ってきた。
俺の搭乗機はRX-81RC。
アムロはRX-78-8。
ララァはネティクス。
クリスさんとクスコはジム・カスタム。
それまで使っていた機体は評価段階を終え、ジャブロー側へ戻されることになった。今後どう使うかまでは聞かなかった。格納庫の端にはRAVEN_CUSTOMも残っていた。
まだ動く。今から乗れと言われても普通に出撃できる。でも、こいつで確認するために必要だったものは、もう向こうの黒い機体へ入っている。
「寂しい?」
横からクリスさんに聞かれた。
「ちょっとは。でも、壊れたから降りるわけじゃないですしね」
「そうね」
「ちゃんと使った結果が次に残ったなら、それでいいかな」
クリスさんはそれ以上何も言わなかった。翌日には、新しい五機をレイブンへ収容する準備が始まった。ジョブと整備班は積み込む部品の確認に追われ、ブライトさんは帰投後の任務予定を調整している。俺たちも宇宙へ戻ってからの確認項目を渡された。
地上で分かったのはここまで。あとは実際に使うしかない。格納庫に並んだ五機の中で、黒いRX-81RCの頭だけが妙に見慣れていた。
「結局、またこれなんだよな」
「何が?」
近くを通ったアムロが聞いた。
「黒いガンダム」
「レンがそれでいいならいいんじゃない?」
「そうだけどさ」
俺はもう一度見上げた。名前も中身も変わった。でも乗る側としてやることは、たぶん今までと変わらない。出して、使って、帰ってくる。そのための準備は終わった。
まさかのエターナルでネティクス出るって発表あってうおってなりましたが
ララァにこれ乗せようってのは最初から決まってました