宇宙へ戻って最初の仕事は、民間輸送船を狙っていた武装集団の排除だった。
ジャブローを出てから機体の確認は何度かやったけど、実際の戦闘はこれが初めてになる。相手は古い輸送船一隻とザクIIが三機。航路を荒らしていた連中を止めに来ただけだ。
『敵MS、輸送船から離れます。三機です』
「了解。投降勧告は?」
『送信済みです。応答ありません』
「じゃあ予定通り。アムロは右。クリスさんとクスコは輸送船側を押さえて。ララァは俺と前へ」
『分かった』
『了解』
『任せて』
スロットルを押す。
地上でも扱いやすいとは思っていたけど、RX-81RCは宇宙へ出てからの方が分かりやすかった。加速して、機首を振って、すぐにもう一度噴かす。うん、シンプルにいい。データを取ることをメインとした試験機じゃなくて初めての俺のための専用機だ。まぁこれのデータもしっかりとられるが。
ザクのマシンガンを横へ流し、ビームライフルを一発だけ返す。胴体は外して右腕を撃ち抜いた。火力を増やした変な装備を背負わせるより、結局こういう機体で普通のライフルを撃つ方が俺には合っているらしい。
『レン、こっちは止めた』
「早くない?」
右を見ると、8号機の前で別のザクが武器を失っていた。
『向こうが真っ直ぐ来ただけだよ。機体は問題ない。懐かしい感じもするけどしっかり最新の機体だ』
「じゃあそっちはそのまま押さえて」
『分かった』
三機目は輸送船へ戻ろうとしていた。ララァのネティクスが、その進路へ入る。
『一つだけ使うわ』
背部から大型有線式ビットが一基離れた。
機体から伸びたケーブルを引きながら横へ流れ、展開したバレルがザクの逃げる先へ向く。ララァはすぐには撃たなかった。相手が進路を変えたところで、ビットから放たれたビームが少し前を抜ける。
「ララァ、無理して二つ出さなくていいぞ」
『うん。まだ一つの方が安定する。戻す時の距離も見たいから、このままにするわ』
有線式ビットが向きを変え、ネティクスの背部へ戻っていく。
『三番機、こっちへ来るわ』
クリスさんのジム・カスタムが輸送船側から回り込み、90mmライフルを向けた。反対側にはクスコもいる。
『武器を捨てなさい。これ以上続けても意味はないわ』
少し間があって、最後のザクがマシンガンを手放した。
輸送船も止まる。結局、戦闘と呼べる時間はほとんどなかった。レイブンへ戻ってからジョブに機体を見てもらったけど、大きな問題も出ていない。
「どう?」
「お前のは異常なし。八号機も同じ。クリス大尉とクスコ軍曹の二機も問題ない」
「ネティクスは?」
「本体は問題なし。ララァ中尉からビットの調整希望が出てる」
「ビットの?」
「ああ。射出はいいけど、展開してから戻すまでの制御をもう少し合わせたいってさ。機械側の不具合じゃない。本人が使いやすいところを探してるだけだ」
少し離れたところでは、ララァ本人が整備員と記録を見ていた。画面には射出したビットの軌道と、回収までの時間が並んでいる。
なら俺が口を挟むことでもない。宇宙へ戻る前は新しい五機だった。最初の任務が終わった頃には、もう次に出す機体になっていた。
◇
シーマ中佐たちの改修申請について返事が来たのは、それから少し後だった。
「全部ではありませんが、かなり通っています」
ノエルさんがブリーフィングルームで資料を開いた。
「電装系の互換部品は指定箇所のみ。通信とIFFは部隊単位で更新可能。火器管制については評価用機器を数セット提供するとのことです」
「全機分じゃないんだ」
「火器管制は評価品ですから。まず複数機へ搭載して結果を取る形になります。問題がなければ追加申請できます」
「壊した時は?」
「通常運用中の故障・破損については評価損耗として処理されます。ただし契約外運用による破損は別です」
「データは?」
「指定された評価項目だけです。戦闘記録全体の提出義務はありません」
シーマ中佐が気にしていたところは、だいたい条件に入っていた。
「じゃあ、それで向こうに回しましょう」
「すでに輸送手配へ入れます」
実際の改修に俺が張り付く必要はなかった。
部品が届いてからは、ジョブがシーマ隊の整備側と何度か連絡を取り、使えるものから順に合わせていった。連邦規格へ寄せるといっても、ゲルググMの中身を全部取り替えるわけじゃない。交換頻度の高い電装や消耗部品、今後も同じ物を確保できるところから変える。
数日後にリリー・マルレーンへ行った時も、外から見たゲルググMはほとんど変わっていなかった。
「見た目じゃ分からないですね」
「見た目を変えてどうするんだい」
シーマ中佐は自分の指揮官機じゃなく、整備中の一般機を見ていた。
「通信は?」
「前よりいい。あんたらと話すたびに変換を噛ませなくて済む。識別も同じだ」
「火器管制は?」
「悪くないね。まだ全部には付いてないが、照準の癖は減ったって言ってる。実戦で問題なけりゃ追加を出すんだろ?」
「その予定です」
「なら先に使わせる。あと、消耗品の方は次も同じ物が来るんだろうね?」
「継続して回せる物だけ採用したって聞いてます」
「それならいい」
それだけ言って、シーマ中佐は整備員の方へ戻ろうとした。
「感想それだけ?」
「使える物が普通に使えるようになったんだ。何を言えっていうのさ」
「いや、もうちょっと何かあるかなって」
「褒めてほしいのかい?」
「そういうわけじゃないです」
笑われた。でも、そのくらいでいいんだろう。機体を強くしたというより、面倒だったところを減らした。それで任務へ出て、帰ってきた時に同じ部品で直せる。
シーマ中佐たちが欲しがったのは、最初からそういうものだった。
◇
その後も仕事は続いた。護衛へ出て、残党が残した補給拠点を調べ、別の航路では武装船を止めた。何も起きないまま何日も航行することもあれば、補給を終えた翌日に出撃することもある。
RX-81RCについてジョブへ細かい注文を出す回数は減った。
アムロも8号機の調整値をほとんど触らなくなった。二機とも艦には予備のビーム・ライフルが多めに積まれていて、相手の数や任務時間によっては二本持って出ることもあったけど、それ以上に妙な武装を増やす話にはならなかった。
結局、俺たち二人は機体そのものがちゃんと動けばそれで十分だった。そしてこの2機体は期待以上に動く。
ララァはネティクスのビットを、最初の頃みたいに一基ずつ確かめながら動かすことが減った。二基を同時に使う時でも、無理に遠くへ飛ばしたりはしない。機体の近くで射線を分けたり、相手の進路を制限したり、必要な距離だけ使う。
射出して、展開して、撃って、戻す。
それを任務の中で繰り返すうちに、整備後の調整記録も少しずつ短くなっていった。
クリスさんとクスコのジム・カスタムも、いつの間にか同じ機体だということを気にしなくなっていた。設定も乗り方も違うし、戦闘中に見ればどっちがどっちかくらいはすぐ分かる。
シーマ隊の方も似たようなものだった。
レイブンとリリー・マルレーンが一緒に動く時、以前なら一度変換を挟んでいた通信がそのまま入る。識別情報も同じ表示で出る。火器管制を変えた機体からは何度か細かい修正要求が来たけど、致命的な問題はなかった。
ある任務でゲルググMの一機が腕部を損傷した時も、戻ってから必要な交換部品がすぐに出た。
「前ならここから倉庫を漁ってたな」
ジョブが部品票を見ながら言った。
「そんなに違う?」
「壊れる場所が分かってて、次も同じ部品が来る。それだけで全然違う。毎回加工から始めなくていいんだからな」
派手な話じゃない。でも、そういうのが積み重なると、前みたいに毎回何かを探し回る必要がなくなる。
そうして任務を続けているうちに、いつの間にか年の後半へ入っていた。新しい機体に乗っていることも、シーマ中佐たちが横でゲルググMを飛ばしていることも、もう誰もいちいち気にしない。
俺も同じだった。
その日も、一件の護衛任務を終えてレイブンへ戻り、報告を片付けていた。ノエルさんから補給予定を受け取って、翌日の訓練を確認する。いつもと変わらない仕事だった。
そこへ、リリー・マルレーンから通信が入った。
「シーマ中佐?」
『ああ。レン、今いいかい?』
「大丈夫です。次の補給の話?」
『違う』
何かいつもと雰囲気が違う。
『大事な話がある』
「今聞きます?」
『いや。この回線じゃ話したくない』
俺は手元の端末から顔を上げた。
「直接?」
『そうしてくれ。あんたと顔を合わせて話したい』
普段なら、契約の話でも補給の話でもシーマ中佐は必要なことをその場で言う。
「分かりました。明日なら時間取れます」
『なら、こっちへ来な。時間は合わせる』
「了解」
それだけ言うと、シーマ中佐は通信を切った。俺は閉じた画面を少し見てから、明日の予定を開き直した。
シーマ中佐が通信で済ませたくないと言うのは珍しかった。