小型高速艇は、思っていたよりずっと早く目的地へ着いた。
窓の外を眺めている時間もほとんどない。ジャブローを出たと思ったら高度を落とし始め、着陸の案内が流れる。戦争中なら移動のたびに敵襲だの航路変更だのを気にしていたから、何も起きずに目的地へ着くというだけで少し変な感じがした。
ただ、着いてしまえば今度は別の問題がある。
人を誘うなんて、前世を含めてもほとんどやった覚えがない。まして新しく作る軍の部隊に来てくれ、なんて話だ。ゴップ大将は簡単に人選を任せてくれたけど、やってみると隊長という立場が妙なところで面倒くさい。
案内された部屋の前で一度立ち止まり、護衛の士官が受付の兵と話している間に息を吐いた。
最初がセイラさんでよかったのか。断られる可能性は高い。というか、軍を離れる方向だと聞いている以上、たぶん断られる。それでも声くらいはかけておきたかった。あとで知って、「どうして私には聞かなかったの」と言われる方が嫌だ。
「イズミ大尉、どうぞ」
「あ、はい」
呼ばれて中へ入る。
セイラさんは窓際の椅子に座っていた。軍服ではなく、簡素な私服に近い格好をしている。最後に見たのは終戦直後だったから、日数にすれば大したことはない。それでもホワイトベースの中以外で会うと、少し遠いところへ来たように見えた。
「久しぶり、というほどでもないわね」
「二週間くらいですかね」
「戦争中なら、十分長かったでしょうけど」
「確かに」
向かいへ座ると、セイラさんの視線が俺の襟元で止まった。
「聞いてはいたけれど、本当に大尉になったのね」
「特務ですけどね。普通の大尉とはちょっと違います」
「十三歳の大尉が普通だったら困るわ」
「俺もそう思います」
セイラさんが少しだけ笑う。これなら話しやすいと思ったところで、何のために来たのかを思い出した。
「それで、今日はお願いがあって来ました」
「新しい部隊のことでしょう?」
「もう聞いてるんですか?」
「詳しくは知らないわ。あなたがゴップ大将の直属で、新しい部隊を任されたというところまで。私のところへ面会の申請を出した理由を考えれば、それほど難しくないでしょう」
そこまで分かっているなら話が早い。
「BLACK RAVENという部隊です。ブライトさんは軍令で艦長に決まってます。アムロとララァもこっちに入ることになっていて……俺が必要だと思う人には、自分で声をかけていいことになりました」
「それで私にも?」
「はい」
俺はそこで少し迷った。必要だから来てほしい。それだけなら簡単だ。でもセイラさんにとって軍に残ることがどういう意味になるのかまで、俺が勝手に決める話じゃない。
「セイラさんが来てくれるなら助かります。ホワイトベースで一緒にやってきた人だし、戦闘だけじゃなくて、色々任せられるのも知ってますから」
「ずいぶん曖昧な誘い方ね」
「こういうの初めてなんですよ」
「隊長なのに?」
「昨日まで隊長じゃなかったので」
今度ははっきり笑われた。少しして、セイラさんは表情を戻した。
「アムロとララァは、自分で決めたの?」
「アムロはまあ……ほぼ軍の方で決まってる感じです。ララァも隊に入ること自体は了承してます。ただ、何をするかまではこれからですね」
「そう」
それ以上は聞かれなかった。少し考えているようだったが、長くはかからなかった。
「ごめんなさい、レン。私は行かないわ」
「やっぱりですか」
「驚かないのね」
「軍を離れる方向だって聞いてましたから。それでも一回くらい直接聞いた方がいいかなって」
「なら、無駄足だったかしら」
「いや、聞かないよりはよかったです」
残念ではある。でも、来ると思い込んでいたわけでもない。
「その後は?」
「まだ決めていないわ」
返事はあっさりしていた。俺もそこで何か案を出そうとは思わなかった。セイラさんなら何をしたらいいだとか、軍に残った方がいいだとか、そんなことまで言うために来たわけじゃない。
「分かりました。じゃあ、勧誘は失敗ですね」
「そういう言い方をするの?」
「一人目ですから。今後の集計上」
「人を数字にするのは感心しないわね」
「冗談ですって」
「分かっているわ」
立ち上がると、セイラさんも椅子から腰を上げた。
「レン」
「はい?」
「あなたがその部隊を引き受けたことについて、私は何も言わないわ。あなたが決めたことでしょうから。ただ、無理に全部背負おうとはしないことね」
「そこはブライトさんにも止められそうです」
「なら安心ね」
「安心するところですか?」
「少なくとも、あなた一人で好き勝手にはできないでしょう?」
否定できない。
「……まあ、それは確実です」
「頑張りなさい。軍へ戻る気はないけれど、あなたたちがどうしているかくらいは気にしているわ」
「はい。また会いましょう」
「ええ」
部屋を出たところで護衛士官と合流した。最初の一人は不参加。だからといって何かが失敗した気もしなかった。
その日のうちに、次はハヤトのいる施設へ回った。ハヤトとはもっと短かった。顔を合わせて近況を少し話し、隊の話を切り出したところで、かなり早い段階から難しそうな顔をされた。
「誘ってくれるのは嬉しいよ。レンやアムロとまた一緒にやれるなら、それはそれでいいと思う」
「じゃあ来る?」
「最後まで聞けよ」
「はい」
昔と変わらない返し方をしたせいか、ハヤトは少し笑った。
「俺は軍には残る。でも、今度は自分で自分の道を探してみたいんだ。ホワイトベースにいた時は、ずっと目の前のことで精一杯だったからさ」
「うちじゃ、それはできない?」
「できるかもしれない。でも、また同じところに集まるより、一度違うところへ行ってみたい」
そこまで言われれば引き留める理由もなかった。
「分かった。じゃあ、そっちはそっちで頑張って」
「ああ。レンもな。隊長なんだろ?」
「その呼び方はやめてよ」
「部下にならないんだから今くらい言わせろよ」
肩を軽く叩かれて、それで話は終わった。
旧ホワイトベース組を二人回って、二人とも不参加。
出だしだけ見ればかなり悪い。
もっとも、セイラさんもハヤトも、来ない可能性が高いのは最初から分かっていた。高速艇へ戻る途中でそこを自分に言い聞かせている時点で、多少は気にしているんだろうけど。
翌日にはオーガスタへ入った。クリスさんの姿を見つけた時は、勧誘より先に少し安心した。終戦直後に無事なのは確認していたけど、こうして普通に歩いているところを見るのは久しぶりだった。
「レン?」
「お久しぶりです、クリスさん」
「ちょっと待って」
挨拶を返す前に、クリスさんの目が俺の階級章へ向いた。
「それ、何?」
「階級章ですよ?」
「見れば分かるわよ。なんで増えてるの?」
「色々ありまして」
「戦争が終わって二週間ちょっとで?」
「俺に聞かれても困ります」
クリスさんはしばらく俺の襟元を見たあと、ため息をついた。
「特務大尉ね。あなた、また変なところへ放り込まれたんじゃないでしょうね」
「今度は俺が隊長なんですよ」
「もっと悪くなってるじゃない」
「そう言われる気はしてました」
案内された部屋へ入るまでに、大体いつもの調子へ戻った。
BLACK RAVENについては要点だけ話した。ゴップ直属の新設部隊で、残党処理や試験機の実戦評価も扱うこと。ブライトさんが艦長になること。そして、俺が人を集めていること。
「それで、私に来てほしいって?」
「はい。クリスさんなら機体も見られるし、実戦も経験してます。それに……」
「それに?」
「俺たちが無茶した時に止めてくれそうなので」
「そこが一番大事なんじゃない?」
「否定はしません」
クリスさんは腕を組んだまま少し考えた。セイラさんやハヤトより長く悩むかと思ったけど、そうでもなかった。
「いいわよ」
「……いいんですか?」
「誘った本人が驚かないでくれる?」
「いや、もう少し考えるかと」
「考えたわよ。試験機を実戦で使うなら、性能が出るかどうかだけ見ていればいい仕事じゃないでしょう。誰かが止めないと、動くから使える、って話になりかねないもの、一回無茶して壊してるし」
「その辺は本当に助かります」
「それに、あなたが隊長なんでしょう?」
「はい」
「だったらなおさら必要そうね」
「どういう意味ですか」
「そのままの意味よ」
クリスさんは笑っていたが、半分くらいは本気だと思う。
「正式な手続きはこれからです。詳細が決まったら軍の方から連絡が行くと思います」
「了解。今度は回収される前に帰ってきてね」
「努力します」
「努力じゃ困るんだけど」
最後にそこだけは真顔で言われた。クリスさんと別れたあと、同じオーガスタ内でノエル・アンダーソン軍曹との面会に回った。こちらは旧ホワイトベースの仲間ではない。前世の記憶と記録と経歴を見て候補に入れた相手なので、部屋へ入った時点から少し勝手が違った。
「ノエル・アンダーソン軍曹です。本日はお呼びいただきありがとうございます」
「レン・イズミ特務大尉です。急に呼び出してすみません」
「いえ。ただ……失礼ですが、本当にイズミ大尉ご本人なんですね」
「たぶん、その反応が普通だと思います」
「申し訳ありません」
「いや、こんな子どもが来たら俺でも確認しますから」
堅かった空気が少しだけ緩んだ。俺は隊について必要なところだけ説明した。特殊な人員と試験機を抱えて実戦へ出ること。まだ人員を揃えている途中であること。そして、パイロットだけでは部隊が動かないから、情報や通信を整理できる人間が必要なこと。
「私を選ばれた理由を聞いてもよろしいですか?」
「勤務記録を見ました。俺はパイロットなので、戦ってる最中に入ってくる情報を全部自分で整理するのは無理です。必要なものを必要な時に出してくれる人が欲しかったんです」
「作戦参謀、という意味でしょうか?」
「そこまでは決めてません。というか、勝手に役職を決めるとあとで怒られそうなので。今言えるのは、オペレーション側で来てほしいってところまでです」
「正直ですね」
「まだ部隊そのものが出来上がってないですから」
ノエル軍曹は少し考えたあと、確認するように聞いた。
「通常の部隊とは、かなり違う仕事になるんですよね?」
「たぶん。残党相手だけじゃなくて、試験とか、普通の部隊が扱いにくい案件も回ってくると思います。俺自身、全部どうなるかはまだ分かってません」
「分からないことまで分かったふりはしない、と」
「そこまで器用じゃないです」
「でしたら、私は参加します」
思ったより早い返事だった。
「いいんですか?」
「はい。どんな仕事になるか分からない部分はありますけど、必要とされている役割は分かりました。それなら十分です」
「ありがとうございます。正式な手続きはこちらから進めます」
「了解しました。では、今のうちに確認しておきたいことがいくつかあるんですが――」
ノエル軍曹は手元の端末を開き、こちらへ画面を向けた。俺も椅子へ座り直して、表示された項目へ目を落とした。並んでいたのは着任時期と手続き、それから今の勤務をいつまで続ければいいのかという確認だった。どれももっともな質問だけど、今の俺に答えられることはあまり多くない。
「正式な配属命令は軍から出ます。時期はまだ決まってません。俺も人を集めてる途中なので、今の勤務をいつまでってところもたぶん後から連絡が行くと思います」
「では、それまでは現状の任務を継続で?」
「はい。それでお願いします。……というか、その辺は俺が決めるより今の上官から命令を出してもらった方がいいですよね」
「そうですね。その方が助かります」
ノエル軍曹は端末に何か書き込んでから、もう一つの項目を指した。
「事前に準備しておく資料などはありますか?」
「それもまだ……あ、今のところはないです。必要になったら連絡します」
「了解しました」
「決まってないことばっかりですみません」
「新設部隊なんですから、そんなものじゃないですか?」
さっきまでより少し砕けた言い方だった。俺よりずっと軍人らしく質問されているうちに、こっちが申し訳なくなっていたので助かる。
「では、正式な連絡を待っています」
「はい。よろしくお願いします」
そこでノエル軍曹との話は終わった。
オーガスタを出た後は、また高速艇で次の候補のところへ向かった。セイラさんとハヤトには断られ、クリスさんとノエル軍曹には来てもらえることになった。今のところ綺麗に半分だけど、別に人数を当てる賭けをしているわけじゃない。
次の相手については、むしろ返事より会ってからの方が問題だった。
リリス・エイデン少尉。
記録を読んだ時点で腕は疑っていない。一年戦争中の撃墜数もそうだし、新型を回される程度には軍から評価されている。問題は、その記録の途中に混ざっていた無茶の量だった。昔よりは落ち着いたらしいけど、本当にどのくらい落ち着いたのかは紙を読んでも分からない。
実際に会ってみると、少なくとも最初から喧嘩を売られることはなかった。
「で、私をその隊に誘いに来たと?」
「はい。パイロットとして来てほしいです」
必要な話を簡単にすると、リリス少尉は途中で何度か質問したものの、嫌そうな反応はしなかった。残党相手の任務もあると説明した時だけ少し目つきが変わったが、そこで話を遮ることもない。
「試験機も使う。残党相手にも出る。普通の部隊じゃ面倒がる仕事も回ってくる、と」
「大体そんな感じです」
「面白そうですね」
思っていたより反応がいい。
「じゃあ――」
「ただ、一つ条件を」
そう簡単にはいかなかった。
「レン大尉と一回やらせてほしい」
「……やる?」
「模擬戦。私もパイロットで誘われてるんでしょう?だったら隊長がどのくらい乗れるのか見させて頂きたい」
理由を聞けば一応筋は通っている。ただ、俺の記録も見ているはずなんだけど。
「戦闘記録じゃ駄目ですか?」
「記録と自分でやるのは違うでしょ」
「まあ、それはそうですけど」
断る理由も特になかった。
実機を持ち出す話にはせず、使ったのは基地にある訓練用のシミュレーターだった。条件も同じ。機体性能で差がついたと言われないように、同じ設定に合わせてもらった。
始まってすぐ、リリス少尉を候補に入れた判断が間違っていなかったことだけは分かった。
速い。
開始直後から待つ気がなく、一気に距離を詰めてくる。射撃で動かして、その逃げ先へ自分から入ってくる。突っ込むだけなら対処は簡単だけど、こっちの射線をちゃんと避けながら攻めている。実戦で撃墜数を積んだ人間の動きだった。
ただ、攻め方が分かりやすい。前へ出ることをためらわない分、一度こちらが下がると次に欲しがる位置が見える。そこへ行かせる前に進路をずらし、撃たずに牽制だけ入れる。リリス少尉が回り込もうとしたところで逆に距離を詰めた。
『っ!』
通信から声が漏れる。一度近距離へ持ち込んでからは、こっちの方が楽だった。正面から付き合う必要はない。攻撃を受ける前に機体をずらし、踏み込みを外させる。振り向くより先に背後へ回り、射撃判定を一発。
一機目。
『まだ!』
再開してもやることは大きく変わらない。今度は同じ手を警戒して距離を残してきたので、射撃で逃げ道を減らした。反応自体は速い。こっちが想定したより一歩早く抜けてくる場面もあった。
それでも、次の一手まで全部変わるわけじゃない。
数分後、二度目の撃破判定が出た。シミュレーターを止めて外へ出ると、先に出ていたリリス少尉がこっちを睨んでいた。
「……何なんですか、あれ」
「模擬戦ですけど」
「それは分かってる!」
怒られた。
「途中から私が動く前に待ってたでしょ」
「待ってたというか、来そうなところにいただけです」
「それを待ってたって言うのよ」
でも本気で怒っているわけではないらしい。悔しそうではあるけど、少しすると息を吐いて肩の力を抜いた。
「もう一回って言いたいところだけど、今日はやめときます」
「助かります」
「何でそっちが助かるのよ」
「このまま何回もやる流れかと思ったので」
「……そのうちやります」
やるんだ。
「それで、返事は?」
「行きます。ここまでやられて断るのはおかしいですし。それに、話を聞く限り退屈はしないと思いました」
理由の後半の方が本音に聞こえた。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「次はこんな簡単にやられないから」
「はい」
これはたぶん、何度でも言われるやつだ。
そこから先は、移動そのものを覚えている方が難しいくらいだった。
カイさんに会えた時には、その隣にミハルもいた。生きていること自体は聞いていたけど、本人と顔を合わせるのは久しぶりだった。
「何だよ、わざわざこんな所まで。大尉様になったって聞いたぞ」
「その呼び方やめてくださいよ」
「十三で大尉になっといて何言ってんだ」
「俺が決めたんじゃないですって」
ミハルが横で笑っている。
「レンって、もっと怖い人になったのかと思ってた」
「なんで?」
「大尉なんだろ?」
「ミハルまで……」
カイさんには隊の話をする前から大体察されていた。
「悪いけど、俺はいいぜ」
「まだ何も言ってないんですけど」
「こんなところまで軍の艇で来て、昔話だけして帰るわけじゃねえだろ」
それもそうだ。
「軍には戻らない?」
「ああ。もう十分だ。お前らみたいなのと一緒にいると、またいつ撃たれるか分かったもんじゃねえしな」
「カイ、それが本当の理由なの?」
「うるせえな」
ミハルに言われて、カイさんが少し顔をしかめた。それ以上は聞かなかった。今までなら軽口の裏を考えたかもしれないけど、軍を離れると決めた人を、俺の都合でまた引っ張り戻す必要はない。
「分かりました。でも、何かあったら連絡してください」
「そっちこそな。新聞に名前が載るような真似はすんなよ」
「戦争中にもう載ってそうですけど」
「そういう意味じゃねえよ」
帰り際にミハルとも短く話して、それで別れた。二人ともこれから先を全部決めているようには見えなかったけど、少なくとも戦争中みたいに明日の生死を気にしてはいなかった。
その後の勧誘はさらに短かった。
カレン曹長は一通り話を聞いたあと、少し考えてから、
「悪いけど、今回はいいわ」
それだけだった。
「理由、聞いてもいいですか?」
「んー……別に大した理由はないわね。今はそこまで行く気がしない。それじゃ駄目?」
「いえ。本人がそう決めたなら」
何か隠している感じでもない。本当に今は行く気がない。それ以上でも以下でもなさそうだった。
テリー・サンダースJr.軍曹は、もっとはっきりしていた。
「話はありがたい。しかし、今は新しい部隊へ移る気にはなれない。申し訳ないが、今回は断らせてくれ」
こちらも引き留めなかった。体格だけ見れば威圧感があるのに、話し方はずいぶん落ち着いている。断る時も曖昧にしない人だった。
フォルド・ロムフェローと話した時は、逆に来るんじゃないかと思った。
「試験機も触れるかもしれないんだろ? 残党相手に実戦もある。面白そうじゃないか」
「なら来ます?」
「いや、今回はやめとく」
返事が逆だった。
「……理由は?」
「そこは聞かないでくれ。ちょっと思うところがあるんだよ」
軽い調子は崩れなかったけど、そこだけは答える気がなさそうだった。
「分かりました」
「悪いな。話自体は本当に面白そうなんだけどさ」
気にはなった。でも、言いたくないものを無理に聞くための勧誘でもない。
ミユ・タキザワ軍曹は、フォルドとは別の意味で断りにくそうにしていた。
「本当に申し訳ありません。せっかく声をかけていただいたのに……」
「いや、そんなに謝らなくても大丈夫です」
「でも、わざわざ来ていただいて」
「断られる可能性も込みで来てますから」
それでも何度か申し訳なさそうに頭を下げられた。理由については本人から話さなかったし、俺も聞かなかった。
最後に回ったのはジョブさんだった。
ここまでパイロットやオペレーターを中心に声をかけてきたけど、機体があっても整備する人間がいなければ動かない。まして、ゴップ大将の話では試験機まで回される予定だ。
「要するに、お前とアムロがいて、さらに試験機まで扱う部隊を作ると」
「はい」
「それで俺に整備をやれって?」
「嫌ですか?」
「嫌っていうか……」
ジョブさんは少し考えてから、こっちを見た。
「お前ら二人を知らない整備班だけに任せる方が怖いな」
「そんなに?」
「一年戦争中、自分が何やったか忘れたのか?」
「色々ありすぎて」
「そういうところだよ」
言い返せない。
「整備長は誰になるんだ?」
「そこは俺が決める話じゃないです。ジョブさんには整備に入ってもらいたいってところまでです」
「艦や新型の詳細もまだ?」
「艦は改修中、新型詳細は俺も知りません」
「人員は?」
「今集めてるところですね」
「……本当に何も出来てないな」
「だから集めてるんですよ」
ジョブさんは呆れた顔をしたあと、仕方なさそうに笑った。
「分かった。行くよ。後になって整備のこと何も考えてなかったって泣きつかれるよりマシだ」
「ありがとうございます」
「ただし、無茶な注文は無茶って言うからな」
「そこはお願いします」
その返事はむしろありがたかった。ジョブさんとの話を終えたところで、予定していた訪問は全部終わった。
高速艇へ戻って座席に身体を預けると、思っていた以上に疲れていた。戦闘したわけでもないのに、数日間ずっと人と会って話していたせいかもしれない。操縦席の方からジャブローへ戻ると声がかかり、俺は返事だけして目を閉じた。
しばらくして機体が降下を始める振動で目を開ける。窓の外には、出発した時と同じジャブローの景色が見えていた。
着陸後、迎えに来ていた士官へ今回の結果をまとめた端末を渡す。
「ご苦労さまでした、イズミ大尉。詳細な手続きはこちらで進めます」
「お願いします」
「それと、戻られたら一度連絡するよう指示を受けています」
「ゴップ大将からですか?」
「大将付きの部署からです。ジャブローへ到着した人員について、確認していただきたいことがあるそうです」
誰のことか聞こうとして、思い当たる顔が一人いた。
「分かりました。荷物を置いたら行きます」
数日ぶりに戻ってきたばかりだけど、部屋で休めるのはもう少し先になりそうだった。