続・黒いガンダムの宇宙世紀   作:いずりょう

25 / 26
第24話 名乗った敵

 シーマ中佐の隊と本格的に動きを合わせる、と決めたからといって、二隻がレイブンの横へ並ぶわけじゃない。

 

 正式な連邦軍部隊ではない以上、こちらの指揮系統へ組み込むつもりもなかった。必要なのは、デラーズ側から敵として見られる可能性が高くなったシーマ隊を孤立させないことと、何か起きた時に互いの位置が分からない、なんて状態を避けることだった。

 

『常時一緒に動くのは御免だよ。そっちにはそっちの任務があるし、こっちもレイブンの後ろをついて回るために契約してるわけじゃない』

「そこまでしませんよ。定時連絡を増やして、行動する宙域を大まかに共有するくらいでいいです。あと、何かあった時の合流場所を何か所か」

『一か所に決めるのはやめときな。場所が漏れたら、わざわざ待ち伏せ場所を教えるようなもんだ』

「じゃあ複数用意しましょう」

 

 ノエルさんが会話を聞きながら、既存の連絡手順に項目を加えていく。

 

「敵艦を確認した場合の基準も合わせておきます」

 

 ブライトさんが通信へ入った。

 

「追跡可能な規模でも、デラーズ本隊へ繋がる可能性があるなら位置情報を優先してください。こちらも同じ基準で動きます」

『数を見て喧嘩を売るほど若くないよ。見つけたからって、片っ端から突っ込む気はないさ』

「助かります。ただ、敵対行動を受けた場合は別です」

『そこまで聞かなくても分かってるよ、艦長さん』

 

 今までだって共同任務は何度もやってきた。違うのは、今回からデラーズとの戦闘そのものを想定して連絡を組み直していることだった。向こうから話が来るのを待つだけだった頃とは、もう違う。それでもシーマ隊はシーマ隊だ。

 

 そこを変える必要はなかった。

 

 ◇

 

 それから十月末まで、目立った進展はなかった。

 

 黒鴉隊だけでなく、連邦軍全体がGP02強奪後の警戒を強めている。地上では奪取機の追跡が続き、宇宙でも残党勢力への監視は強化されていたが、だからといってデラーズの本拠地が簡単に見つかるわけでもない。

 

 俺たちも通常任務を続けながら、回ってくる情報の中からデラーズに関係しそうなものを確認していた。シーマ中佐とも連絡は続いている。ただ、あの本格招集を無視して以降、デラーズ側から新しい話は来ていなかった。

 

『まあ、当然だろうね』

 

 数日後の通信でシーマ中佐はそう言った。

 

『呼びつけたのに来なかったんだ。向こうからすれば、あたしらが何を考えてるか分からない。今さら作戦の中身なんか教えてくる方がおかしいよ』

「完全に切られたと思います?」

『さあね。切ったのか、後で始末するつもりなのか、単に今はこっちに構ってる暇がないのか。どれでも大して変わらないよ』

「じゃあ、予定通りで」

『そういうことさ』

 

 変わったことといえば、格納庫の片隅で進めていた高加速ブースターが、図面の上だけの話ではなくなってきたくらいだった。

 

「試験用の一基は組み始めてる」

 

 ジョブが作業端末を見ながら言った。

 

「まず接続部と切り離し機構。それが問題なければ、機体を固定した状態で推進系の確認。飛ばすのはもっと後だ」

「了解。急がせるつもりはないよ」

「今はそれでいい。急いで壊したら、結局遅くなる」

 

 もっともだった。デラーズが動いているからといって、こっちの準備まで都合よく早くなるわけじゃない。できることを、できる順番でやる。

 

 そうして十月三十一日を迎えた。

 

 ◇

 

「艦長、緊急放送です。軍用回線だけじゃありません。民間側にも同じ映像が流れ始めています」

 

 ノエルさんの声で艦橋の空気が変わった。ブライトさんがすぐに表示を切り替えさせると、メインモニターへ男の姿が映し出される。資料の中では何度も見てきた顔だった。けれど、本人がこうして地球圏全体へ向けて姿を晒すのは初めてだった。

 

 エギーユ・デラーズ。

 

『地球連邦軍、並びにジオン公国の戦士に告ぐ。我々はデラーズ・フリート!』

 

『所謂一年戦争と呼ばれた、ジオン独立戦争の終戦協定が偽りのものであることは、誰の目にも明らかである!何故ならば、協定は『ジオン共和国』の名を騙る生き残っただけのガルマによって結ばれたからだ。我々は些かも戦いの目的を見失ってはいない。それは、間もなく実証されるであろう』

 

 声を荒らげているわけではなかった。むしろ静かなくらいなのに、迷いがない。自分が正しいと疑っていない人間の声だった。

 

『私は日々思い続けた。スペースノイドの自治権確立を信じ、戦いの業火に焼かれていった者達の事を。そして今また、敢えてその火中に飛び入らんとする若者の事を。』

 

『スペースノイドの心からの希求である自治権要求に対し、連邦がその強大な軍事力を行使して、ささやかなるその芽を摘み取ろうとしている意図を、証明するに足る事実を私は存じておる。見よ、これが我々の戦果だ。』

 

 そこでデラーズの姿が消えた。代わりに表示された機体を見て、ブライトさんの表情が固くなる。奪われた試作ガンダム。巨大な盾を携えたGP02が、複数の角度からはっきりと映し出されていた。

 

『このガンダムは、核攻撃を目的として開発されたものである。南極条約違反のこの機体が、密かに開発された事実を以ってしても、呪わしき連邦の悪意を否定出来得る者がおろうか!省みよう。何故ジオン独立戦争が勃発したのかを!何故我等がジオン・ズム・ダイクンと共にあるのかを!』

 

 艦橋では誰も声を上げなかった。GP02が奪われたことも、核運用能力を持っていることも、俺たちはすでに知らされている。問題は、それをデラーズが今、地球圏全体へ向けて公表していることだった。

 

『我々は三年間待った。もはや、我が軍団に躊躇いの吐息を漏らす者はおらん。今、真の若人の熱き血潮を我が血として、ここに私は改めて地球連邦政府に対し、宣戦を布告するものである』

 

 そこで言葉を切ったデラーズは、少しも視線を逸らさなかった。

 

『仮初の平和への囁きに惑わされる事なく、繰り返し心に聞こえてくる祖国の名誉の為に、ジーク・ジオン!!』

 

 デラーズはGP02を隠すどころか、これ以上ない形で使っていた。盗んだ機体を戦力として見せているだけじゃない。連邦が隠していたものを暴き、それ自体を自分たちの正しさの証拠として突きつけている。

 

 最後まで迷いはなかった。

 

 放送が切れた直後、静かだった艦橋へ一気に音が戻った。通信卓に新しい着信が重なり、軍回線の表示が次々と更新される。政府発表を待てというもの、各方面軍へ警戒を引き上げろというもの、デラーズ・フリート関連情報を最優先で共有せよというものまで混ざっていた。

 

「一度整理しろ。緊急度の高いものから回せ」

 

 ブライトさんが通信席へ指示を出し、そのままノエルさんを見る。

 

「こちら宛ての正式命令は?」

「まだです。ただ、総司令部とゴップ大将の幕僚から優先回線の確保要求が来ています。こちらを先にしますか?」

「大将を繋いでくれ。他は受信だけ続けろ」

 

 俺はもう一度、暗くなったメインモニターへ目をやった。知っている流れに近い。そう思う部分はある。それでも、シーマ中佐は今ここではデラーズの側にいないし、俺たちだって存在しなかったはずの部隊だ。この先まで同じだと決めつける理由にはならない。

 

 画面が切り替わり、ゴップ大将が映った。

 

『見たな』

「はい。ずいぶん派手にやりましたね」

『三年間隠れていた男が、自分から顔と名前を出したんだ。こちらも今までと同じ扱いを続けるわけにはいかん』

 

 ゴップ大将は手元の資料へ一度だけ目を落とした。

 

『これまでは、デラーズがどれだけの勢力を持っているかも、何を始めるつもりなのかも確定できなかった。だからお前たちにも監視と追跡を優先させていた。だが本人が組織名を名乗り、連邦政府へ公然と敵対を宣言した。以後、BLACK RAVENは対デラーズ任務を最優先しろ』

「見つけたら?」

『状況を見て叩け。ただし、何でも目についた順に食いつくな。相手の規模と場所、周囲の部隊との兼ね合いは見ろ。お前たちだけで戦争をしているわけじゃない』

「了解です」

 

『それとガンダムだ。奴らがわざわざ核運用能力まで公表した以上、脅しだけで終わると期待するのはやめておけ。発見した場合は最優先で報告しろ。撃てるから撃つ、で近づいていい相手じゃない』

「そこは分かってます。核を抱えた機体と正面から殴り合いたいわけじゃないですから」

 

 ゴップ大将はそれ以上念を押さず、話を次へ移した。

 

『シーマのところとは、そのまま連携して構わん。向こうも今の放送は見ているだろう。ただし、あれは連邦軍部隊ではない。こちらの命令をそのまま渡して従わせるような真似はするな』

「今まで通り、行動を合わせる形でやります」

『それでいい。こちらも各方面との調整を始めている。レイブンには追って移動宙域を送る。それまでに出られる状態へしておけ』

「了解しました」

 

 通信が切れると、ブライトさんはすぐ艦の準備へ移った。

 

「現在の補給作業、完了までどれくらいだ?」

「通常予定なら一時間四十分です」

「できるだけ急がせろ。各部署にも出航準備を伝えてくれ」

「了解」

 

「レン、MS隊は?」

「格納庫に確認します。今すぐ出せない機体があるなら、出航前に分けておきます」

「頼む。ノエルはシーマ隊へ連絡。こちらが対デラーズ任務優先へ切り替わったことと、大将から共同継続の許可が出ていることだけ伝えてくれ」

「はい。軍令ではなく、こちらの行動予定として共有します」

 

 俺は席を立って格納庫へ向かう。通路へ出る前から、艦内放送が整備と補給の予定変更を告げ始めていた。

 

 エレベーターを呼びながら端末を開くと、ジョブからちょうど機体状況の一覧が届く。ジーラインを含め、即応可能な機体には問題なし。残りの確認項目を見ながら格納庫階を指定すると、扉が閉じる直前にブライトさんの声が艦内放送へ重なった。

 

『各員、予定変更。補給終了後、レイブンは出航する。MS隊は即応待機へ移行。詳細は各部署長から確認しろ』

 

 俺は端末を閉じ、下降を始めたエレベーターの表示を見た。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。