続・黒いガンダムの宇宙世紀   作:いずりょう

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第26話 今度は敵として

 デラーズの宣言から数日も経たないうちに、レイブンへ救援要請が入った。

 

 連邦軍の軍用輸送船三隻が航行中、二隻の艦艇と複数のモビルスーツから攻撃を受けている。護衛艦は応戦中だが、輸送船の一隻がすでに推進系を損傷。襲撃側は通信でデラーズ・フリート所属を名乗っていた。

 

「敵艦は二隻で変わりなし。MSは現時点で八機以上です。護衛艦は戦闘継続可能ですが、敵MSの一部が輸送船へ接近しています」

 

 ノエルさんの報告を聞きながら、ブライトさんは航路表示を切り替えた。レイブンはすでに変針を始め、機関出力も上がっている。

 

「到着まで?」

「現在の加速なら三十四分です」

「機関部、そのまま最大戦速を維持。船団側にはこちらの到着予定を送ってくれ」

「了解」

 

 俺はシーマ中佐たちの位置を確認する。俺たちより近い。

 

「シーマ中佐に繋いでください」

「はい」

 

 ほどなく画面にシーマ中佐が出た。

 

『どうしたんだい?』

「デラーズの部隊が連邦の輸送船団を襲ってます。敵艦二隻、MSが最低八。レイブンは救援に向かってます」

『座標を寄越しな。……近いね。こっちなら二十分ちょっとで着く』

「先に見てもらえますか?」

『いいよ。ただし、聞いてる数と違ったら待つ。わざわざ先着して袋叩きにされる気はないからね』

「お願いします」

 

 座標と船団側の識別情報を送ると、シーマ中佐はそれ以上余計な話をせず通信を切った。

 

「MS隊は出撃準備に入ります」

「まだ敵情が変わる可能性がある。格納庫で待機してくれ。出撃は船団を射程に入れてからだ」

「了解です」

 

 艦橋を出る頃には、レイブンの加速が身体にもはっきり分かるようになっていた。

 

 ◇

 

 ジーラインのコクピットで待機している間に、シーマ中佐から情報が更新された。

 

 敵艦二隻。MSは九機。輸送船そのものを撃沈するより、推進を潰して拿捕しようとしているらしい。護衛側のMSも残っているが、損傷した輸送船を守りながらでは動きが縛られている。

 

『こっちは船団から少し外れたところで待つよ』

 

 通信越しのシーマ中佐は、すでにヘルメットを被っていた。

 

『あんたらが正面から入ったら、敵はそのまま反対へ抜けようとする可能性が高い。だったら最初からそっち側にあたしらがいた方が面倒だろうさ』

「了解。無理に止めなくていいですよ」

『逃げるなら逃げるで構わないさ。ただ、こっちの目の前を素通りできると思われるのは気に入らないね』

 

 通信が切れる。

 

 少しして、ブライトさんから出撃命令が来た。

 

『MS隊、出撃。第一目標は輸送船団の防護だ。敵MSを船団から切り離せ。敵艦への攻撃はこちらで受け持つ』

「了解」

 

 ハッチが開く。先頭のガンダム8号機が飛び出し、続いて俺のジーライン。その後ろからネティクスと二機のジム・カスタムが宇宙へ放たれた。

 

 戦場はすぐに識別できた。輸送船三隻はかなり接近して航行しており、その外側を護衛艦が回っている。敵艦はそこから距離を取ったまま砲撃を続け、MS隊が輸送船へ食いついていた。

 

「アムロ、右側。クリスさんとクスコは護衛隊を助けて。ララァは俺と中央」

『分かった』

『了解』

『任せて』

『はい』

 

 アムロは返事と同時に加速した。輸送船へ接近していた三機のうち、最も近いリック・ドムへ一直線に詰める。敵は輸送船へ向けていた機体を反転させ、バズーカをガンダム8号機へ向けた。アムロは最初の一発を小さくかわし、そのまま速度を落とさない。

 

 二機目が援護に入る。そこで初めてアムロが射撃した。一射が先頭機の盾を削り、続く射撃を避けるために二機が大きく散る。輸送船を攻撃し続けるには、もうアムロを無視できない。

 

『こっちは僕が引き受ける。もう一機は船へ戻ろうとしてる』

「見えてる」

 

 中央から抜けようとした一機へジーラインを向ける。相手もすぐに俺へ気づいた。バズーカの一発目を横へかわしたところへ、少し角度をずらした二発目が来る。回避先を読んで撃っている。

 

「上手いな」

 

 機首を沈めて二発目を外し、そのまま距離を詰めた。相手はさらに撃つより先に間合いを取り直そうとしたが、ジーラインの加速の方が速い。ビームライフルの一射で右肩を抜くと、リック・ドムが大きく姿勢を崩した。追撃しようとしたところへ別方向から光が走り、俺は反射的に機体を捻った。

 

『レン、左』

 

 ララァの声と同時に、ネティクスの有線ビットが俺を撃った敵機へ向かう。敵は正面のネティクスだけなら対応できたはずだ。けれど、離れた位置から回り込んだビットにも同時に狙われれば、照準を続ける余裕はない。機体を翻して一本目をかわした直後、ネティクス本体の射撃が脚部へ入る。

 

 片脚を失った敵機が回転しながら離れていった。

 

『追う?』

「いや、船団優先。戻れそうなら後で見る」

 

 輸送船の近くでは、クリスさんとクスコがすでに戦闘へ入っていた。護衛側の一機へ二機の敵が食いついている。クスコがその片方へ側面から突っ込み、至近距離から射撃を浴びせた。敵は護衛機への攻撃を続けられず、クスコへ向き直る。

 

 もう一機は輸送船へ接近しようとしたが、クリスさんが後方から追いついた。

 

『そっちへ行かせないわよ』

 

 敵機が振り返って撃つ。クリスさんは速度を殺さずに射線を外し、さらに距離を詰めた。輸送船を狙うなら背中をクリスさんへ晒す。クリスさんを相手にするなら輸送船から離れるしかない。

 

 敵は後者を選んだ。

 

『クスコ、護衛機の方は?』

『動ける。こっちの一機を任せても大丈夫そう』

『なら私はこのまま行くわ』

 

 役割が決まれば早かった。

 

 正面ではレイブンも射程へ入っている。敵艦の一隻がレイブンへ主砲を向けた直後、こちらの砲撃が先に届いた。一本目は外れたが、二本目が艦体側面を掠めて装甲を吹き飛ばす。敵艦は輸送船への砲撃を止め、レイブンへ艦首を振った。

 

『敵艦の火力はこちらへ向いた。輸送船はそのまま離脱を続けろ』

 

 ブライトさんの声が入る。

 

 レイブンは敵艦へ接近を続けていた。輸送船と敵艦の間にただ割り込むのではなく、相手がこちらを無視すれば側面を晒す位置へ入っている。敵艦もそれが分かっているのか、船団への攻撃よりレイブンへの対応を優先し始めた。

 

 その間に護衛艦が損傷した輸送船へ寄り、船団全体が戦場から離れていく。

 

『レン、もう一隻が離れる』

 

 アムロの声で視線を移す。敵艦の一隻が戦場から離脱し始めていた。MS隊の一部もそれに合わせて後退している。

 

「ブライトさん、敵艦一隻が離脱」

『追う必要はない。今は船団を守れ。残った一隻を無力化する』

 

 その判断が出た直後だった。離脱を始めた敵艦の進行方向、その少し外側から新しい識別反応が現れた。

 

 リリー・マルレーン。

 

 別方向から回り込んでいたシーマ隊が、ちょうど敵艦の離脱先に近い位置へ出てきた。正面を塞ぐように止まっているわけではない。相対速度を乗せたまま斜めから接近してくる。敵艦がそのまま進めば、シーマ隊の艦砲とゲルググM三機へ側面を晒す。敵側もすぐに気づいた。

 

『シーマ艦だと……?』

『何であいつらがここにいる!』

 

 敵艦が針路を変えようとする。その間にもシーマ隊との距離は縮まった。

 

『あたしらのことは後で考えな! 今は前見てな!』

 

 シーマ中佐のゲルググMが先頭で飛び出した。敵MS二機が迎撃に向かう。シーマ中佐は真正面から一機へ撃ち込み、もう一機を僚機へ任せた。リリー・マルレーンも敵艦へ砲撃を始める。

 

 敵艦にしてみれば、レイブンから離れようとした先で別の戦力と交戦する形になっただけだ。それでも、今さら元の針路へ戻れば再びレイブンへ近づくことになる。

 

 離脱の速度が鈍った。

 

「アムロ、シーマ隊の方へ二機行く」

『見えてる。一機取る』

 

 ガンダム8号機が加速した。敵のリック・ドムがアムロへ気づき、迎撃射撃を始める。アムロは一発目をかわし、二発目が来る前にビームライフルを撃った。相手も回避したが、その間に距離を一気に詰められている。

 

 リック・ドムがバズーカを捨てて近接武器へ持ち替えた。二機が交差する。次の瞬間には、敵機の右腕が武器ごと飛んでいた。

 

『投降するなら止まってください。これ以上やる必要はない』

『連邦なんぞに!』

 

 残った腕が動く。アムロは一瞬だけ待ったが、敵が武器へ手を伸ばしたところで胴体へ撃ち込んだ。

 

『……駄目か』

 

 俺の方にも別の敵が来ていた。

 

 さっき肩を壊した機体ではない。新しいリック・ドムが正面から突っ込んでくる。バズーカを撃ち切るつもりなのか、距離を詰めながら立て続けに弾を放った。避けながらこちらも撃つ。リック・ドムの左腕が吹き飛ぶ、相手が急に上へ逃げた。追いかけようとして、やめる。船団から離れすぎる。

 

「好きに逃げてろ」

 

 ジーラインを反転させた。敵MSも次々と戦場から離れ始めている。最初から最後まで戦い抜くつもりだった連中ばかりではないらしい。一方、残った敵艦はレイブンと護衛艦から集中して攻撃を受け、機関部から光を噴いていた。

 

『敵艦、推力低下。主砲の発射停止を確認』

 

 ブライトさんの声が入る。

 

『MS隊、深追いするな。船団周辺へ戻れ』

「了解。全機、戻ろう」

 

 クリスさんとクスコも護衛側から離れ、ララァが少し遅れて合流する。俺もジーラインを反転させたところで、左脚の警告表示に気づいた。戦闘中に飛んできた破片を拾ったらしい。姿勢制御にも推進にも問題は出ていない。

 

 なら、後で見ればいい。

 

 ◇

 

 戦闘が終われば、今度は救援の続きだった。損傷した輸送船には護衛艦から作業員が移り、レイブンも応急修理用の資材を回す。機関を止めた敵艦には拿捕要員が入り、脱出した兵も順番に収容された。

 

 こちらのMS隊では、クリスさんのジム・カスタムが左肩に一発。ララァの有線ビットは一本のケーブルを損傷していた。ジーラインの左脚も表面装甲に傷が入っているだけで、戦闘継続に問題はない。

 

 シーマ隊ではゲルググM一機が右腕を失っていた。

 

『死人はなし。怪我人が二人。それだけだよ』

 

 戦闘後の通信でシーマ中佐が言った。

 

「こっちも大きな被害はありません。助かりました」

『こっちが来る前に片づけられてたら、それはそれで腹が立ったけどね』

「間に合ってよかったですよ」

『そういうことにしとくよ。それより、拿捕した艦は使えそうかい?』

「今調べてます。作戦記録と通信記録は回収中です」

『じゃあ結果が出たら回してくれ。こっちは損傷機をパプワへ戻す』

「了解です」

 

 通信を終えてしばらくすると、拿捕艦から最初の報告が来た。

 

 今回の襲撃命令は残っていた。ただし発令元は中継された識別符号だけで、上位部隊の現在位置も次の集合地点も記録されていない。捕虜の証言でも、デラーズの宣言後に参加を決め、指定された場所で補給を受けて今回の任務を渡されたところまでだった。

 

「今のところ、それ以上はありません」

 

 ノエルさんが報告を終えると、ブライトさんは拿捕艦と輸送船団の状態を確認した。

 

「解析は続けろ。まず船団を安全な航路へ戻す。拿捕艦は護衛艦に引き渡して、レイブンは周辺警戒を継続する」

「了解です」

 

 俺も格納庫へ戻る前に船団の表示を確認した。推進系を損傷した一隻も、応急修理を終えてゆっくり動き始めている。残り二隻がその速度に合わせ、護衛艦が外側へついた。

 

 シーマ隊の反応も少しずつ遠ざかっていく。

 

 俺は表示を閉じて、ジーラインを見に格納庫へ向かった。

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