十一月十日
午後に入ってしばらくした頃、艦橋から呼び出しが来た。格納庫でジーラインの点検記録を見ていた俺は、そのまま端末を閉じて上へ向かった。艦橋へ入ると、正面表示にはコンペイトウ周辺の戦域図が出ていた。赤い反応が外周にまとまっている。
「何が来ました?」
「デラーズ所属と見られる艦艇とMS部隊だ。コンペイトウ外周の警戒部隊と交戦を始めた」
ブライトさんが表示を拡大する。敵は一隻二隻が様子を見に来たような規模じゃない。迎撃に出た連邦側もすでに撃ち合っていて、外周の複数地点から戦闘報告が上がっていた。
「GP02は?」
「まだ確認されていません」
ノエルさんの返事を聞いた瞬間、頭の中ではほとんど答えが出ていた。
陽動だ。前世で覚えている通りなら、この散発攻撃そのものがガトーを通すための陽動だ。本命はGP02。外周へ戦力を向けさせ、その間にガトーが別方向から入る。そこまで覚えている。ただ、事前に侵入の仕方まで言い切れば、さすがに情報源を問われる。外周攻撃が始まった今なら戦況からの警告として通せる。
「ブライトさん、本命はそっちじゃないでしょう。外の部隊に全部釣られないよう、別方向から入る前提で警戒を維持するよう上げてください」
「ああ。ノエル、こちらの見立てとしてコンペイトウへ送れ」
「了解です」
それ以上は向こうの仕事だった。レイブンからコンペイトウの防衛部隊を動かせるわけじゃないし、俺より現地の司令部の方が自分たちの配置はよく分かっている。
ほどなく返答が来た。
「コンペイトウ側も陽動の可能性を見ています。観艦式直衛は維持。外周への対応は周辺警戒部隊を中心に継続するとのことです」
「分かってるなら、あとは見つけてくれれば……」
そこで言葉を切った。
外周の敵は、陽動だと分かれば無視できるような攻撃をしていなかった。艦艇まで前へ出し、MS隊を複数方向からぶつけている。迎撃側にも敵側にも損害が出始めても攻撃は止まらない。防衛線を本当に破る勢いで来られれば、連邦側も戦力を割かないわけにはいかなかった。
観艦式直衛は残っている。それでも外周戦闘への対応で警戒線の組み直しや情報の引き継ぎが続き、周囲の通信量は増え続けていた。
「外周とは別方向で単機反応。コンペイトウ側が照合に入りました」
ノエルさんの声で、俺は表示へ顔を戻した。
「位置は?」
「外周の交戦宙域からは離れています。識別はまだです」
可能性は高い。けれど、識別までこっちで決めつける必要はない。現地の照合結果を待つ。数十秒もしないうちに表示が更新された。
「機体特徴一致。GP02と確認。現地直衛部隊が迎撃に移っています」
「見つけたか」
そこからは報告を聞くしかなかった。
迎撃部隊が接触する。GP02が応戦し、そのまま観艦式艦隊への接近を続ける。別の直衛が前へ回り、後方からも追撃がかかった。艦隊側にも核攻撃警報が出され、退避と防御行動が始まっている。
今回は無警戒じゃない。陽動も疑い、直衛も残し、GP02も途中で捕捉した。それでもガトーは止まらなかった。
「GP02、直衛部隊と交戦継続。観艦式艦隊への接近を続けています」
「まだ距離はある?」
「あります。ただ、縮まっています」
レイブンから今すぐ出ても間に合わない。それが一番腹立たしかった。俺は前世の記憶として、今日コンペイトウでガトーが核を撃つことを覚えている。だから警告も入れたし、GP02が核を使う可能性まで伝えた。
実際にガトーを止められるのは、今そこにいる部隊だけだった。
「GP02、迎撃線を突破。追撃継続」
「観艦式艦隊、退避行動を開始。直衛残存機が引き続き迎撃中です」
ブライトさんも正面表示から目を離さない。艦橋では誰も余計なことを言わず、通信量だけが増えていった。
報告が途中で切れた。
コンペイトウ方面の複数回線に一斉にノイズが走り、表示の一部が落ちる。ノエルさんがすぐ別系統へ切り替えた。
「強い電磁障害を確認。通信状態悪化」
「核は?」
「確認しています」
長くはかからなかった。
「……核使用を確認。観艦式艦隊に甚大な被害が出ている模様です。正確な損害はまだ分かりません」
その直後から、艦橋の端末に救難信号と損害速報が雪崩れ込んだ。同じ艦について大破と通信途絶が別々に上がり、未確認の数字も混じっている。ノエルさんは重複した情報を落としながら、確定したものだけを別枠へ送り始めた。
「損害集計は後でいい。レイブン宛ての命令と、周辺戦力の動きを優先してくれ」
「了解です」
警告は届いていた。向こうも備えていた。それでも止められなかった。
「ブライトさん」
「ああ。全艦、戦闘配置。機関は最大戦速へ移れる状態を維持。MS隊は発進待機だ。命令が来るまで航路は変えない」
「了解」
俺も格納庫へ戻ろうとしたが、その前にノエルさんが新しい優先通信を拾った。
「待ってください。別件の緊急報告です」
「どこ?」
「第2次コロニー移送計画の移送宙域です。デラーズ所属と見られる部隊と護衛戦力が交戦開始」
やっぱり、こっちも来た。
正面表示が分割される。片方には通信が乱れたままのコンペイトウ。もう片方には、二基のコロニーと、その周囲で増え始めた戦闘情報が出た。
「二基の状態は?」
「現時点では両方とも連邦側の管理下です。ただ、双方の周辺で敵MSを確認。現地護衛が対応中です」
「どっちが本命かは?」
「まだ判別できません」
前世で覚えている流れなら、この先にコロニー落としがある。だが、シーマ艦隊が敵側にいない時点で担当する部隊は変わっている。二基をどうするかまで同じとは限らない。
「兵器開発部門へ優先回線をお願いします」
「手配します」
ノエルさんが通信を回す間にも、移送側から報告が増えた。護衛はいるし、警戒もしていた。それでもコンペイトウで核が使われた直後だ。救難、再配置、通信の混雑が一気に発生したところへ、事前に用意されていた別働隊がぶつかってきている。
「周辺部隊からの増援は?」
「要請は出ています。ただ、コンペイトウ救難と警戒再編に回った部隊もあり、すぐに揃う状況ではありません」
警戒していたから護衛はいる。それでも、核で削られた時間と戦力までは取り戻せない。
開発部への直通回線が繋がった。
『いかがしましたか?イズミ少佐』
「移送中のコロニー二基、両方の解析を急いでください。構造上の弱点と、全体崩壊まで持っていく条件を優先で。奪われた方が分かったら、そちらへ集中してください」
『了解しています。二基とも基礎資料は取得済みです。ただ、現在の損傷状態はまだ入っていません』
「こっちへ来た情報は回します。必要な投射質量と速度の方もお願いします」
『並行して詰めます。ただし、現時点で成立を保証できる段階ではありません』
「分かってます。お願いします」
通信を切ったところで、ブライトさんがこちらへ振り返った。
「レン、MS隊へ戻れ。出撃先はまだ決まっていない」
「了解です」
格納庫へ向かいながら隊内回線を開いた。
「アムロ、ララァ、クリスさん、クスコ。全員、発進待機。行き先はまだです」
『分かった』
『準備してるわ』
『こっちはいつでも出られる』
『了解』
シーマ中佐のところにも同じ緊急情報は流れていた。
『こっちも出せるよ。今は下手に飛び出さない方がいいんだろ?』
「はい。正式な行き先が出たら共有します」
『分かった。うちはうちで準備だけ済ませとく』
それで通信は切れた。レイブンの五機も、シーマ隊も動ける。けれど、動けることと、勝手に飛び出して間に合うことは別だった。
移送宙域では戦闘が続いていた。
「片方のコロニー周辺、護衛部隊が敵MSを押し戻しています。制御権維持」
「もう一基は?」
「管理区画付近で交戦。姿勢制御系に不正入力を確認。現地が遮断を試みています」
俺は足を止めた。
「その情報、開発部にも」
『こちらで送ります』
ノエルさんの返事が来る。そこからしばらくは、報告が入るたびに状況が揺れた。護衛側が一度押し返したという情報の直後に別区画への侵入が出る。制御系を取り戻したという未確認報告は、数分後には訂正された。
コンペイトウの被害すらまだ確定していない。その横で、もう別の作戦が進んでいる。
「片方は連邦側が周辺を確保。敵戦力は後退しつつあります」
「もう一基は?」
「……管理区画との通信が途絶。護衛側の戦闘は継続中です」
嫌な間が空いた。
そして、正式な更新が入った。
「移送対象二基が衝突を起こした模様、そのうち一基の制御権喪失。デラーズ側が周辺を押さえています。もう一基は連邦側がなんとか確保」
二つとも来た。
俺は兵器開発部門へ繋ぎ直した。
「奪われた方が確定しました。そちらへ解析を集中してください」
『確認しました。対象をアイランド・イーズに固定します。現状資料が入り次第、条件を更新します』
「お願いします」
回線を閉じる。
まだ、そのコロニーがどこへ向かうのかは分からない。前世で知っている流れならその先は地球。けれど、今の世界で同じ軌道を取る保証はない。
ブライトさんの声が艦内回線へ流れた。
『レイブン、戦闘配置を継続。MS隊は発進待機。デラーズ主力と奪取されたコロニーの位置情報を最優先で受ける』
俺は格納庫へ戻り、黒いジーラインを見上げた。
今度は、間に合わせないといけない。
連邦はガチで頭おかしいです。プライドで結局やめませんでした。
原作では一応シーマの裏取引でどうにかなる算段でしたが(敵のこれをあてにしてるのやばすぎ)結局どかん
今作では忠告入れてきたゴップを疎ましく思い黒鴉隊その他ゴップ派閥の人は全部外されています。