着艦誘導灯に沿ってジーラインをレイブンへ滑り込ませる。固定アームが機体を掴む前から、格納庫の床ではジョブたちが待っていた。
「止めたらすぐ電源落とすな。ログ取る。右脚から先に見るぞ」
「どこか悪い?」
「それを今から見るんだよ。降りろ」
言われた通りコクピットを開ける。ハーネスを外して降り始めたところで、艦全体が低く揺れた。遠くで主砲が撃った時の振動だ。格納庫の警報灯は点いたままで、俺の後ろでは補給を終えた別の作業班が弾薬カートを退避させている。
戦闘は続いている。俺だけが戻っただけだ。足場へ降りると、ジョブはもう端末に出たログを追っていた。整備員が右肩、脚部、背面の接続部へ散り、外装を開けていく。
「被弾は?」
「直撃なし。左肩に破片痕、右脚のスラスター系が少し熱い。そこは冷却と点検。ブースター付ける場所は今のところ問題なし」
「時間は?」
「壊れてなければ早い。壊れてたらお前が急かしても早くならない」
「了解」
言い返しても作業が速くなるわけじゃない。俺は邪魔にならない位置へ下がり、上部モニターへ目を向けた。
そこには、艦橋から回された最低限の戦況だけが出ていた。レイブン前方の敵影はさっきより減っている。その代わり少し奥に別の一群が現れ、外に残った四機とシーマ隊がそちらへ向きを変えている。
『前方敵MS群、後退。レイブンは現針路を維持します。第二群との接触まで予測三分』
ノエルさんの放送が流れ、すぐ後に別の声が重なった。
『8号機、弾薬補給はまだ要らない。このまま前を押す』
『ネティクスも継続できます』
『クスコ機、残弾半分。次の交代で戻るわ』
聞いている限り、前は持っている。ジョブが右脚の整備員へ何か指示を飛ばし、そのまま俺へ端末を向けた。
「実戦分の負荷は想定内。右脚の冷却待ちの間に換装へ入る。シールドは外す。ライフルは二丁とも機体側へ固定するぞ」
「二丁?」
「帰り用だ。今使ってた一本と予備を一本。ブースターを捨てた後なら普通に使える。高速加速中に振り回すなよ」
「それはしない。サーベルは?」
「そのまま残す。帰りはライフル二丁とサーベル。シールドは置いていく」
シールドが腕から外され、ラックへ移される。ビームライフルは今まで使っていた一本に予備が追加され、二丁ともジーライン本体側の保持部へ固定された。ブースターを背負っている間は使わない。投射を終え、帰還方向へ速度を変えてブースターを捨てた後、そこで初めて両手へ戻すための武装。
何度も試験架で見た物なのに、実際に機体へ付けるところを見ると妙に大きい。背部から腰の後ろまで機体を包むように接続し、そのさらに下へ推進部が伸びる。普段のジーラインとは完全に別の輪郭になっていく。
その横では、破砕用の投射物が固定架から外されていた。見た目だけなら、驚くほど地味だ。自分で飛ぶわけでも、複雑な誘導装置が付いているわけでもない。ジーラインに抱えられ、十分な速度まで運ばれて、最後に離される。
「こっち、固定入るぞ」
ジョブの声で整備員が位置を合わせる。投射物が機体前面の保持部へ収まり、固定状態が端末に表示された。
また艦が揺れた。今度はさっきより近い。
『敵艦一隻、進路変更。レイブン前方から外れます。航海班、射出軸の再計算を継続』
ブライトさんの声だった。こっちの準備に合わせて艦が止まっているわけじゃない。敵を退かしながら、レイブンそのものも射出に使える位置と向きへ近づいている。
「ジョブ、艦の動き込みで設定変わる?」
「射出時の初期条件は艦橋から随時入る。こっちは機体側がそれを受けられるようにするだけだ。航法まで俺に聞くな」
「聞いてないって」
言ったところで、短い着艦警報が鳴った。
格納庫の反対側へジム・カスタムが入ってくる。クリスさんの機体だった。推進剤と弾薬の補給へ回ってきたらしい。機体を固定すると、すぐにコクピットが開いた。
「進んでる?」
「今ブースターと投射物まで。右脚が少し熱持ってます」
「ログは?」
「ここに」
ジョブが端末を渡す。クリスさんは数値を追い、右脚の記録から背面接続部、姿勢制御へ順番に目を通した。
「模擬荷重の上限には入ってる。接続も大丈夫。右脚の温度だけ下がったのを確認してから出して」
「そのつもり」
「投棄シーケンスは?」
「これから最終確認」
クリスさんは一度だけジーラインを見上げた。
「なら私は戻る。私がここに残ったら、前が一機減るだけだし」
「お願いします」
「レンも確認するところは確認して。速く出ることと、雑に出ることは別だから」
「はい」
それだけ言うと、自分の機体へ戻っていった。補給の終わったジム・カスタムが再びカタパルト側へ運ばれていく。俺の前では、ジョブが最後の接続確認を進めていた。
「兵器側の最終説明、今見るか?」
「お願い」
端末に保存されていた説明記録を開く。昨日までに兵器開発側から送られていた最終版だ。画面にはアイランド・イーズの簡略図と、推進ブロック近くに示された一点が出た。
『今回使用するのは質量投射兵器です。操作自体は難しくありません。十分に加速した状態で、設定された目標へ向けて投射物を真っすぐ離してください。余計な力を与えないことを優先してください』
表示が拡大され、推進ブロックの近くにある主構造接続部が示された。
『ただし、規定速度に到達する前には絶対に離さないでください。同じ質量であれば、衝突時のエネルギーは速度の二乗で大きくなります。規定速度を下回れば、想定した破壊力には届きません』
難しい話じゃない。重い物を速くぶつける。そのために、焦って早く離したら駄目だ。
『狙うのは推進ブロック近傍の主構造接続部です。規定速度以上で、指定した角度から入れば、接続部へ致命的な損傷を与えながら内部を貫通し、最終的には機関部へ到達できると計算しています。ただし、現在の内部損傷を完全には把握できていないため、結果そのものを保証するものではありません』
「規定速度以上まで上げて、ここへ真っすぐ離す」
俺が確認すると、ジョブが画面を閉じた。
「それでいい。撃った後の方は昨日までにやった通りだ。残った推力で帰還側へ少しずつ振る。急に曲げようとするな」
「分かってる」
発射した後まで含めて、やることは決まっている。あとは条件を外さないことだ。
右脚の温度表示が規定内へ落ちた。ジョブが整備員から確認を受け、ブースター固定、投射物保持、射出系、投棄系を順に通していく。試験の時に何度も見た表示が、今度は全部実戦用の値で埋まっていった。
『イズミ少佐、艦橋より。現時点の射出軸を確定しました』
ノエルさんから回線が入る。
「こっちはあと?」
「二分」
ジョブが先に答えたので、そのまま回線へ返す。
「ノエルさん、二分で準備完了です」
『了解。艦長へ伝えます。シーマ隊は側面の敵を押し返しています。MS隊も進路上の敵を排除中。レイブンはこのまま射出位置へ入ります』
床の下から、主推進の振動がわずかに変わった。艦が向きを整え、必要な方向へ速度を乗せ始めている。ジョブが最後の固定表示を確認して、ようやく俺を見る。
「機体側、出せる」
「了解」
ジーラインへ上がる。普段より外側へ張り出したブースターと投射物のせいで、格納庫内の移動速度まで制限が入っている。固定アームが機体をカタパルト側へ送り始める。前方ハッチの向こうでは、まだ味方と敵の光が交差していた。
固定アームが止まり、ジーラインがカタパルトの射出姿勢へ合わせられる。さっきまで正面に固まっていた敵影は左右へ押し広げられていた。
『射出軸周辺、味方機退避中。前方の敵MSは後退しています』
ノエルさんの声に続いて、艦砲の振動が機体へ伝わった。前方ハッチの向こうで敵艦が姿勢を崩し、射出線から外れていく。モニターの端では8号機が射線を横切り、そのまま外側へ離れていた。追ってきた敵機にはネティクスの射撃が入り、こちらへ向いていた機影が散る。
『レン、聞こえるか』
「はい」
『航海班の計算がまとまった。このまま艦を射出姿勢へ入れる。前が空き次第、出す』
「了解です」
『出た後はこちらを当てにするな。予定通り、自分の機体で条件を見ろ』
「分かってます」
ブライトさんの回線が切れると、カタパルトの表示へ新しい航法データが入った。レイブン自身の現在の速度と向きも含めて、射出後の初期条件が更新される。こっちはもう触るところじゃない。艦をどこへ向け、どの状態で俺を放り出すかはブライトさんと航海班の仕事だ。
機体側の表示だけを確認する。ブースター、投射物、帰還用のライフル二丁、投棄系。全部正常。前面の投射物が視界を少し狭くしている以外、やることは昨日までに決めた通りだった。
『右舷側、シーマ隊が敵艦を拘束。前方射出軸、まもなくクリア』
俺は操縦桿を握り直した。急ぐ必要はある。でも、急いで条件を捨てるためにここまで準備したわけじゃない。
射出線の端へ敵機が一機入りかけた。そいつへ8号機が正面から向かうことはせず、横から射撃を浴びせて進路を変えさせる。逃げた先にはクリスさんのジム・カスタムがいて、さらに外へ追い払った。二人ともそのまま俺の前へ残らず、左右へ離れていく。俺を守って並走するんじゃない。ここから先に余計なものを残さないための動きだった。
『前、空いた。僕たちは外へ離れる』
アムロの声はそれだけで切れた。発進の判断をするのはブライトさんだ。アムロたちは、その判断ができる空間を作ってくれている。
レイブンの姿勢が変わる。固定された機体越しにも、主推進の掛かり方がさっきまでと違うのが分かった。敵を追いかけるためではなく、俺を送り出す方向へ艦そのものを整えている。艦砲がもう一度撃たれ、前方に残っていた敵艦も射出線から外れていった。
『射出軸クリア』
『カタパルト、使用可能』
最後にブライトさんの声が入った。
『ジーライン、発進を許可する』
「レン・イズミ、ジーライン、出ます!」
固定が外れ、カタパルトが機体を押し出した。
背中からレイブンの艦体が一気に離れる。普段の出撃ならそのまま姿勢を作って戦闘へ入るところだが、今は操縦を増やさない。カタパルトから受け取った動きを崩さず、まず艦から距離を取る。
背後のレイブンが十分に離れたところで、ブースターの点火表示が許可へ変わった。
「始めるか」
第一段を入れる。
背中から押される力が増し、身体がシートへ沈んだ。いきなり最大まで持っていかず、姿勢と接続部の負荷を見ながら出力を上げる。機体前面に大きな質量を抱えた今は、普段のジーラインのつもりで反応を求める方が危ない。余計な入力を抑えたまま、まっすぐ加速させる。
第二段へ移ると、呼吸を意識しないと少し苦しくなる。視線を計器と正面から外さず、必要な修正だけを小さく入れる。ここで蛇行すれば、せっかくレイブンが作った初期条件を自分で崩すだけだ。試験で何度もやった操作なのに、本番では一つ一つの入力がやけに重く感じた。
戦闘の光はすぐ後ろへ置いていかれた。回線には声より雑音の方が増え、誰かに細かく聞きながら飛べる状態ではなくなる。もともと、そのつもりで全部入れてある。
正面の光学画面では、アイランド・イーズが少しずつ大きくなっていた。機体が事前資料と現在の外形を照合し、推進ブロック周辺に候補領域を重ねる。資料にある形のままではない。奪取からここまでに受けた損傷もあるし、姿勢も動いている。それでも、兵器開発側が選んだ主構造接続部の位置は外から追える範囲に残っていた。
ここから先は機械に任せて押せば当たる、なんて話じゃない。予測線を参考にしながら、自分で機体軸を外さないように持っていく。大きな修正はできないから、姿勢制御は小さく、早めに済ませる。正面のコロニーが大きくなるほど、狙う場所は逆に小さく感じた。巨大なものの一部を正確に抜かなければならない。
ブースターをもう一段上げた。
規定速度の表示はまだまだ届かない。目標そのものはもう十分大きく見えている。ここから投射物を離しても、コロニーのどこかには当たるだろう。でも、それじゃ意味がない。
速度が上がる中で、予測線と許容範囲の重なりも変わっていく。大きく向きを変えずに済むよう、ほんの少しだけ姿勢を修正する。推進ブロック近くの主構造接続部が、画面上の予測線へ近づいた。
規定速度まで、あと少し。
身体に掛かる力はきついが、試験で決めた範囲を越えてはいない。接続部にも異常なし。投射物の保持も正常だった。
表示が規定値を越える。
ここからなら、威力の最低条件は満たしている。だからといって、すぐ離せばいいわけでもない。入射角がわずかに外れている。ここで無理に機首を振るより、予定した線へ自然に入る方がいい。ブースターの出力を維持したまま、目標の動きと自機の予測線を見比べる。
規定を越えた速度はそのまま上がる。欲張って限界まで引っ張る必要はないが、条件内で増えた分を捨てる理由もない。見るのは速度だけじゃない。指定点へ、指定した向きで入れられるか。さっき聞いた説明を思い返す必要もなかった。今は表示された条件を外さないことだけに集中する。
指定領域が中央へ寄る。許容角へ入った。速度は規定値を越えたまま上がっている。これ以上引っ張れば、今度は射点を外す。
機体軸を最後に確認した。
「ここだ」
投射物の保持を解除する。
何かを撃ち出す衝撃はなかった。固定が外れた質量体は、ジーラインとほとんど同じ動きを持ったまま前へ離れていく。余計な横向きの力を加えないよう、俺は姿勢を崩さず、そのままブースターの制御を帰還側へ切り替えた。
一気に反転はできない。前へ進み続ける機体の速度を、残った推力で少しずつ横へずらしていく。大きな弧を描くための姿勢へ移しながら、光学系だけは目標方向を追わせる。投射物そのものはすぐに識別しづらくなった。代わりに予測線の先、アイランド・イーズの指定位置が画面へ拡大される。
そこに、最初の変化が出た。
推進ブロック近くの外壁が一点から大きく崩れ、周囲の構造材が外へ噴き出す。単に表面が抉れただけではない。その奥へ向かう線上で外装が続けて裂け、少し離れた箇所からも遅れて破片が飛び出した。少なくとも、損傷が表面の一か所だけで止まっていないことは分かる。
狙った場所には入った。
機関部まで計算通り届いたのか、そこからどこまで壊れるのかはまだ分からない。確認するために、このまま突っ込んでいくわけにもいかない。視線を帰還側の表示へ戻す。ブースターの残量は減り続けている。投棄するのは、帰るための向きを作ってからだ。
俺は残った推力を使い、大きく弧を描く軌道へジーラインを乗せていった。
衝撃イメージとしては 隕石がクレーター作る 感じと思ってもらえれば。
隕石と違い丸い石ではなく三角錐なので衝撃は裂いて進みます。そして大爆発を伴います。これは火薬等ではなく接触面が超高温のプラズマとなって大爆発を起こします。