グワデンが沈んだあと、戦場から音が消えたわけじゃなかった。救難信号、投降艦からの通信、収容艇の誘導、まだ動ける艦からの確認が次々に入ってくる。ただ、さっきまで画面を埋めていた砲火だけは、時間とともに確実に減っていった。ようやくついた他連邦軍が次々と拿捕していった。戦闘そのものは終わりかけていても、結果が分かるのはこれからだった。
最初に届いたのは、アイランド・イーズの破片についての更新だった。
『大型片の大半は地球直撃軌道から外れました。大気圏へ入った破片も、多くは途中で崩壊しています。ただし、北米へ落下した大型片を複数確認しています』
ノエルさんの報告を聞きながら、画面に出された簡略図を見る。落下地点の詳細も、被害規模もまだ確定していない。地上から届いている情報も断片的で、今すぐ数字にできる状態じゃなかった。
それでも、一基のコロニーがそのまま落ちたわけではないことだけは分かる。俺の記憶にある北米の惨状とは、比べものにならないほど小さくなっているはずだった。砕いた意味はあったし、間に合った意味もあった。
それでも、落ちた。
「被害の続報が来たら回してください」
『はい』
それ以上は言わなかった。さっきまで散々考えたことを、もう一度繰り返しても仕方がない。
収容作業が進むうちに、アサクラの扱いも次へ進んだ。本部の指示に従って正式な拘束手続きへ移される。艦から押収した端末や記録媒体も、封印を維持したまま連邦軍側で保全された。解析は始まったが、今の段階で分かるのはそこまでだった。何が残っているのか、それが何を証明できるのかは、これから調べることになる。
シーマ中佐にも、そのことだけは伝わっていた。
『本人も記録も、ちゃんと連邦の管理に入ったんだね』
「はい。解析も始まります」
『ならいい。今度こそ途中で消えないようにしてもらわないと困るからね』
声はまだ硬かったが、それ以上は何も言わなかった。本人が生きている。記録も残っている。今はそれで十分なんだろう。その後も、各方面からの報告は途切れ途切れに入ってきた。全部を一度に聞いたわけじゃない。救助と収容の合間に情報が更新され、そのたびに今回の戦いの全体像が少しずつ埋まっていく。
ソーラ・システムIIについても、その中で詳しい経過が分かった。照射が始まった時には、アイランド・イーズはすでに俺たちの攻撃で複数の構造片へ分かれていたうえ、コロニー落としそのものを止めるには限界点を越えていたらしい。照射を受けた破片の一部は焼かれ、さらに細かく崩れたものもあったが、地球へ向かう大型片の軌道を大きく変えるほどの効果は出なかった。照射間もなく大型MAの妨害もあって一時中断。
その後もう一度照射は行われたものの、結果は大きく変わらなかった。ソーラ・システムIIが本来想定されていたコロニー落としの阻止手段として機能するには、あまりにも遅かったということになる。原作通りってところだ。
ただ、それを聞いても無駄だったとは思わなかった。連邦は連邦で止めるために手を出していた。その手が届かなかったところへ、俺たちが用意していた手が間に合った。それだけだ。
「ガトーは?」
『新型MAで交戦を継続し。最終的に連邦艦隊へ突入し、戦死が確認されています』
その報告には、少しだけ目を閉じた。ガトーの最期は、俺が覚えていた流れから大きく外れなかったらしい。向こうで何があったのか、細かいところまではまだ分からない。それを今ここで想像しても意味はなかった。
救命艇の回収、投降艦の武装解除、漂流している機体の捜索は続いた。レイブンもすぐには戦闘配置を解かなかったが、時間が経つにつれて新しい敵反応は消え、各戦域からも戦闘終了の報告が揃っていく。
やがてブライトさんが艦内へ戦闘態勢解除を告げた。その声を聞いて、艦橋の空気が少しだけ緩む。座席へ深く身体を預ける者もいれば、まだ画面から目を離さない者もいる。俺もようやく、次の敵を探さなくていいことを実感した。
艦内時計は、十一月十三日の午前を刻んでいた。
コロニーは砕け、デラーズは死に、ガトーも戦死した。アサクラは生きたまま連邦軍の管理へ入り、残った艦も次々に武装を捨てている。
少なくとも、戦う相手はいなくなった。星の屑は、軍事作戦としてはここで終わった。残ったものをどう片付けるかは、これからだった。
◇
十一月十六日。
戦闘が終わって三日が過ぎても、軍の回線は静かにならなかった。救難や戦況報告の代わりに流れてくるようになったのは、査問、処分、部隊再編、それに今回の事件をどう扱うかという話だった。
その中にバスク・オムの演説があった。デラーズの行動をジオン残党全体の脅威として強く押し出し、より強い取り締まりと軍事的な対応が必要だと訴える内容を最後まで聞いて、俺は端末を閉じた。
前世で覚えている流れでティターンズが来た。ガルマは生きているし、ジオン共和国の立場も違う。シーマ中佐たちもデラーズには加わらず、コロニー落としの結果も変わった。
それでも、強硬なやり方を押し出すための理由まで消えたわけじゃない。核攻撃もコロニー落としも起きた。被害が元より小さくなったところで、残党の脅威を強く訴えたい側には十分な材料になる。
「……そっちは残るか」
演説そのものに俺ができることはない。そう思って端末を戻したところで、未処理の軍内通達が一件増えた。何気なく開き、そこにあった部隊名で手が止まる。
アルビオン隊。
事件中の命令違反、軍規違反について関係者を拘束。軍事裁判にかけられる予定。閲覧できたのは概要だけだった。部隊単位で拘束され、裁判へ回される。それで十分だった。
シナプス艦長。あの人はこのあと処刑される。コウも処分を受け、GP計画そのものまで消されて、アルビオン隊の戦いも表からほとんど消えていく。
画面に残った「軍事裁判」の文字を見ながら、今回の戦いを思い返す。俺はGP02が奪われることも、観艦式が狙われることも、最後にコロニーが地球へ向かうことも知っていた。だから警告したし、準備もした。シーマ中佐とも組み、最後の手段まで作った。
それでも全部には届かなかった。俺がコロニーへ向かっている間、デラーズ本隊を押さえていたのはアムロたちだった。別の場所ではアルビオンがガトーを追い、ソーラ・システムIIも動いていた。誰か一人が強ければ全部解決するような戦いじゃなかった。
知っているだけでは足りない。その場所へ行ける艦がいて、動ける人間がいて、実際に動かせる立場があって、初めて知識を現実に変えられる。
今の黒鴉隊は強い。それでもレイブンは一隻しかない。
「……アルビオンか」
助けたい、というだけなら理由はある。けれど今はそれだけじゃない。あの艦と、事件の最前線を最後まで走った人間たちが、このまま処分されて散らされる。それなら、うちで受けられないか。
少なくとも、考える価値はあった。俺は通達を閉じ、ゴップ大将への面会を申請した。返事は思ったより早く、その日のうちに専用回線がつながった。不謹慎だがいつも早く繋がると暇なのかな?と場違いの感想が浮かぶ。画面の向こうのゴップ大将は、いつものように先に話を聞いてから判断する顔でこちらを見ている。
『それで、急ぎの相談とは何だ』
「アルビオン隊の件です。軍事裁判に回されるという通達を確認しました」
『見たか』
「はい。裁判そのものに口を出せる立場じゃないのは分かっています。その上でお願いがあります」
俺は一度言葉を切った。
「アルビオンと、残せる人員をBLACK RAVENで引き取れるように動けませんか」
ゴップ大将はすぐには答えなかった。
『ずいぶん大きな話を持ってきたな。隊まるごとだぞ』
「分かっています」
『しかも連中は命令違反を問われている。戦功があるから全部帳消し、とはならん』
「それも分かっています。裁判を止めてほしいとは言いません。ただ、重い処分だけで切るのは惜しいです。実際にコロニー阻止のため最後まで戦った部隊です」
『それだけか?』
俺は少し考えてから首を振った。
「違います。今回、部隊の限界も分かりました」
『ほう』
「レイブンと今のMS隊は強いです。でも一か所にしかいられません。別方面まで同時に手を伸ばすことはできませんでした」
ゴップ大将は黙って聞いている。
「これからも同じだと思います。何が起きるか分かっていても、そこへ動ける戦力がなければ何も変えられない。だから、うちは今より動ける範囲を増やした方がいい。アルビオン隊を助けられるなら助けたい。それに、今のBLACK RAVENにも必要になり得る戦力です」
『なるほど。救済だけではない、と』
「はい」
ゴップ大将は椅子へ少し深く座り直した。
『ちょうどいい話ではある』
「ちょうどいい?」
『お前にはまだ言っていなかったが、私はそう遠くないうちに軍を離れるつもりでいる』
「……え?」
いつかはそうなると思っていた。でも本人の口から聞くのは初めてだった。
『何だ、その顔は。いつまでもここにいると思っていたか』
「そこまでは言ってませんが」
『ならいい』
軽く返してから、ゴップ大将は話を戻した。
『問題は私が辞めることそのものではない。お前たちだ。BLACK RAVENは今、私の直属という形で動いている。俺がいなくなれば、その状態をそのまま残すわけにはいかん』
「別のところに付け替えられる」
『それで済めばまだいい。欲しがる者もいれば、危険だから分けろと言う者も出る。人員も機体も権限も、まとめて抱えた部隊だからな』
簡単に想像できた。今の黒鴉隊がゴップ大将個人にかなり依存していることくらい、俺にも分かっている。このまま同じ扱いが続くとは思えない。
『だから、今のまま残すつもりはない』
「形を変えるんですか?」
『そのつもりだ。個人の直属でなくても、連邦軍の正式な、それも政府関係の部隊として残せる形にな。まだ詰めることは多いが、準備には入っている』
俺はアルビオンを増やせないかと相談しに来た。向こうはその前から、黒鴉隊そのものを次の形へ移すことを考えていたらしい。
『そこでアルビオンだ』
ゴップ大将が続ける。
『お前が言うように、再編するなら艦も人も必要になる。処分される側にも使える者が残るなら、受け皿を用意する意味はある』
「では――」
『勘違いするな。まだ裁判前だ。判決も出ていない人間を勝手にお前の部隊へ移すことはできん。アルビオンも軍の艦だ』
「はい」
『だが、裁判で実際の戦功と事情が材料に入るよう動くことはできる。処分後に使える人員が出るなら、行き先を先に用意しておくこともな』
それで十分だった。
「お願いします」
『裁判は十一月二十三日を予定している』
「はい」
『なら、それまでに根回しをしておく。どう転ぶかまでは約束せんぞ』
「分かっています」
回線を切る前に、ゴップ大将がもう一度こちらを見た。
『レン』
「はい」
『力が要ると思ったのは間違いではない。ただし、大きくすれば自由になると思うな。艦が増えれば責任も増える。人が増えれば、背負うものも増える』
「……はい」
『そこまで考えておけ。お前が持ってきた話だ』
通信が切れ、画面が暗くなる。
アルビオンが来ると決まったわけじゃない。シナプス艦長たちがどうなるかも、まだ分からない。
薄々分かっていた事だがこの世界は俺が介入していない部分では出来るだけ原作をなぞろうとする力が働いてるらしい。今回で強く確信した。
それでも、何かした分は確実に変わるし、しなければ知っている流れへ近づいていく。
歴史を変えるには、知っているだけじゃ足りない。そして今度は、そのための黒鴉隊の形まで変わろうとしていた。
0083決着!
グワデン側とガトー側の戦場今作ではかなり離れてます。理由としては黒鴉隊が早く到着し早めにデラーズ本隊が止まった為。
ガトーの名前は戦闘中にアルビオンからの報告で上がってます。
コウとガトーの戦闘開始が12日の午前中でガトーの死亡が13日01時くらいだといわれてるので補給を繰り返しながら異常な時間戦闘してます。半日以上戦闘してるおかしい
そして歴史の強制力をレンは自覚しました。
読んでくれてる方は正直気付いておられてると思いますが…
結局やることは変わりません自分ができるだけいいと思える未来のために手が伸ばせるところに手を伸ばすだけです
ここから色々挟みながらZに向かいます
Z本編開始は50話過ぎくらいかな…