十一月十七日
ゴップ大将から指定された時刻に通信室へ入ると、シーマ中佐との回線はすでにつながっていた。画面の向こうではいつもの艦長席に座ったシーマ中佐が腕を組み、その中央に開いた別窓へゴップ大将が入ってくる。呼び出しの理由は聞かされていなかったが、三人だけを指定した時点で見当はついていた。
『揃ったな。シーマ・ガラハウ、お前と指揮下にある者たちの処遇が決まった。軍だけの判断ではない。政府側を含め、必要な承認は全て通してある』
『……ずいぶん早かったじゃないか。で、結果は?』
『これまでの連邦への協力、デラーズからの招集に応じなかったこと、今回の鎮圧作戦での働きまで全て含めて審査された。お前たち全員に恩赦を認め、連邦市民権を与える。今後、旧所属やこれまでの経歴だけを理由に残党、海賊として追われることはない』
『全員ってのは、あたしだけじゃないんだろうね』
『最初からその条件で話を通している。お前の下にいた者も対象だ。個々の登録手続きは残るが、そこは話をひっくり返すためのものではない』
そこで初めて、シーマ中佐が背もたれに身体を預けた。ほんの少しだったけれど、画面越しでも分かるほど肩から力が抜けている。その言葉が政府の決定として口にされたのを聞いて、俺もようやく息を吐けた。
ゴップ大将は間を置かず、もう一件の書類を開いた。
『アサクラの供述と、押収した記録の照合も終わった。毒ガス使用に至った命令系統と、その後の責任処理まで裏が取れている。シーマ隊だけを責任主体として扱ってきた従来の記録は訂正される。責任をお前たちへ転嫁した経緯も、正式な記録として残す。記録の訂正が完了した後、アサクラには今回確定した死刑が執行される』
しばらく、シーマ中佐は何も言わなかった。通信障害を疑うほど長くはない。それでも普段なら何か一つ皮肉を返している間だった。
『……消されないんだね』
『今回はな。供述だけではない。連邦側が確保した記録と照合した上での決定だ』
『そうかい。なら、それでいい。あたしらが何を言ったところで、ずっと負け犬の言い訳で片づけられてきたからね。あいつらまで同じものを背負わせずに済むなら、十分だ』
ゴップ大将はそれを聞いても慰めるようなことは言わず、これからについて政府が用意した選択肢があると続けた。サイド5、ルウム方面で進んでいる復興コロニーへの移住。戦争で壊された地域を立て直す象徴として政府がかなりの資金を入れており、移住者には住居と仕事を確保しやすいよう支援が付くという話だった。
『もちろん強制ではない。市民権を得た以上、どこへ行くかはお前たちが決めろ。軍に入れとも、そこへ移住しろとも命じるつもりはない』
『今まで散々、人に行き先を決められてきたんだ。最後くらいは自分たちで決めさせてもらうよ。あたし一人で決める話でもないしね』
『そうしろ。まとまったらレンを通して報告を上げればいい』
形式上の話はそこで終わった。ゴップ大将が回線を抜けても、シーマ中佐の窓は残っている。いつもなら次の任務や補給の話へ移るところなのに、今日はどちらからもすぐには言葉が出なかった。
『……長かったねえ』
「そうですね」
『あんたと最初に話した時は、連邦のガキが何を企んでるんだと思ったもんさ。まさか本当にここまで持ってくるとは思わなかったよ』
「俺も、最初から全部うまくいくと思ってたわけじゃないですよ」
『知ってるよ。だからまだ信用できた』
シーマ中佐は笑ってから、艦へ戻って全員と話すと言った。今度は仕事の相談じゃない。軍人を続けるのか、どこかで暮らすのか、それぞれが自分の先を決めるための話になる。
「決まったら連絡してください」
『ああ。……これで契約は終わりだ。次に会う時までには意見をまとめておくよ』
「了解しました」
『可愛げがないね。少しくらい引き留めてもいいんじゃないのかい』
「今ここで引き留めたら、何のために三年やってきたのか分からないでしょう」
『まったく、その通りだよ』
最後はいつもの調子で笑って、回線は切れた。画面が暗くなってから席を立つまでに、少し時間がかかった。シーマ中佐の艦が隣を飛び、何かあればあの声が回線へ入ってくるのが、いつの間にか当たり前になっていたらしい。次もそうだとは、もう決まっていない。
◇
数日後、シーマ中佐から「まとまった」とだけ連絡が来た。レイブンへやって来た彼女は、通信越しの時よりずっと気楽な顔をしていた。
いつものジオン系の軍服ではなく、飾り気の少ない濃紺のジャケットに細身のパンツという実用本位の民間服で、軍服の時ほど刺々しくは見えないのに、不思議と雰囲気は何も変わっていない。
会議室の席に着くなり、持ってきた書類を机へ放り出した。
『ほとんどサイド5へ行くことになったよ。政府の復興コロニーってやつにね。住む場所があって、働き口も当分は困らない。あいつらも最初は話がうますぎるって疑ってたけど、条件を見れば悪くない。復興の看板に使われるくらいなら、今までに比べりゃ可愛いもんさ』
「ほとんど、ですか?」
『ああ。何人か馬鹿がいてね。あたしが残るって言ったら、自分も付いてくると言い出した』
その言い方で、先にシーマ中佐自身の進路が決まっていることに気づいた。問い返す前に、彼女の方が続ける。
『もちろん蹴ったよ。市民権まで取って、住む場所も仕事も用意されてるのに、何でまたあたしについて軍艦暮らしを始めるんだってね。今度逃したら、こんな条件は二度と来ないかもしれない。ルウムへ行って、働いて、好きなところで酒でも飲んでろって追い出した』
「かなり言われたんじゃないですか?」
『そりゃもう。薄情だの、勝手だの、誰のおかげでここまで生きてきたと思ってるんだだの。あたしが言いたい台詞まで先に言われたよ』
悪態を並べているのに、機嫌は悪くない。最後まで付いていくと言った部下たちを説得するのに苦労したのは本当らしいが、それを嫌がっているようには見えなかった。
『結局、あいつらも分かってたんだろうね。もう全員で固まってないと生きられないわけじゃないって。最後は「隊長も好きにしろ」って、笑って送り出されたよ。散々あたしについて来た連中に言われると、腹が立つより先に笑っちまった』
「それなら、よかったです」
『ああ。これであいつらの面倒は見なくて済む。……やっとね』
最後の一言だけ少し声が落ちた。俺から何か言う必要はない気がして、そのまま待つ。シーマ中佐は机に置いた書類を指先で軽く叩いてから、今度は俺をまっすぐ見た。
『で、あたしの話だ。サイド5へ行く気はない。しばらく軍から離れて遊ぶのも悪くないが、どうせ性に合わない。それなら三年付き合って、勝手の分かってるところの方がましだ。あたしはBLACK RAVENに入る。あんたのところで、もう少しやらせてもらうよ』
部下と一緒にサイド5へ行くと言われても、そのまま送り出すつもりだった。それでも、シーマ中佐が自分でこっちを選んだのなら断る理由はない。
「歓迎します。ただ、正式な階級とか役職はこれからですよ。俺だけで決められる話じゃないので」
『分かってるよ。今さらあんたが全部決められるなんて思っちゃいないさ。必要な手続きは踏む。それまではシーマ中佐でいい』
「そこは自分で言うんですね」
『あんたが三年も呼び続けたんだろうが』
思わず笑うと、シーマ中佐も鼻で笑った。昔のことを一つずつ並べる気にはならない。全部終わったからこそ、今こうして次の話ができている。
『じゃあ、正式な話が決まるまで厄介になるよ、少佐』
「はい。シーマ中佐の席くらいは用意しておきます」
『席だけかい? 相変わらず気が利かないねえ』
「まだ給料も階級も決まってない人に、これ以上何を用意しろっていうんですか」
『言うようになったじゃないか』
シーマ中佐はそう言って立ち上がった。俺より先に会議室の扉へ向かい、開いたところで一度だけ振り返る。
『じゃあ、しばらく世話になるよ』
「はい。よろしくお願いします、シーマ中佐」
『だから、その呼び方はもう好きにしな』
肩越しに手を振って、そのまま廊下へ出ていった。
私服と髪形は想像してください。
アサクラはしっかり処されました。当然ですがこの記録は連邦のみならず共和国側にも通達されます。
描写はないのでここでいっときます。
共和国はデラーズに対して関係は完全否定。軍の派遣も打診しましたが無能達が完全拒否しました。裏切られる可能性があるとか色々理由つけて それでも使いようはあったやろがい!