人が揃っても、艦が完成するわけでも、書類一枚で部隊が出来上がるわけでもない。
旧レイブンの退役処理と並行して、二代目レイブンの建造、アルビオンの修理、人員の訓練と引き継ぎが進んでいった。キョウも新しい生活に少しずつ慣れ、決めた通り勉強をして、身の回りの片付けくらいは自分でするようになった。
そうして時間が進み、宇宙世紀0084年3月10日。端末に届いた大将からの暗号通信の内容を見て、俺はしばらく画面を閉じられなかった。
ガンダム開発計画に関する記録の抹消。計画そのものが表から消されることは覚えていた。だから内容に驚いたわけじゃない。ただ、実際に自分が関わった事件の後で見ると、記憶の中の年表を眺めていた時とはまるで感じが違った。
あれだけのことがあった。核が使われ、コロニーが地球へ向かい、止めるために大勢が動いた。俺たちもできる限りのことをやった。落下被害は減らせた。それでも全部は止められなかったし、その後にはティターンズまで作られた。
そして今度は、計画そのものが記録から整理されていく。戦場で勝てば終わるわけじゃない。分かっていたつもりだったけど、0083でそれを嫌というほど思い知らされた。
その日のうちに、俺はゴップ大将へ回線を繋いだ。
『見たようだな』
「はい。ずいぶん綺麗に消すものですね」
『記録の上ではな。実際に存在した人間や物まで消えるわけではないがね』
「だから余計に気になります。大将、新しいBLACK RAVENのことなんですが、今までと同じでは駄目だと思っています」
『ほう。人を増やして艦を新しくするだけでは足りんか』
「それだけなら、結局は強い実働部隊が一つ増えるだけです。前の戦いで、それじゃ足りないと分かりました」
言いながら、自分の中でも考えを整理する。
「動ける戦力は必要です。でも、それだけではなくて、現場で掴んだ情報や証拠を残せること。正式な経路で上まで届かせられること。装備や補給を一つの都合だけで止められないこと。技術面でも、自分たちで評価して次へ繋げられること。そういうものまで持たせなければいけないと思い知りました」
『つまり、権限を増やせと?』
「そこまでは言えません。管轄外の部隊へ勝手に命令できるようにしてくれ、なんて話ではないのです」
『なら何が欲しい』
「私たちが動いた結果を、簡単に無かったことにされないだけの力です。強いだけじゃなく、連邦の中で簡単には無視できない部隊にしたいのです」
ゴップ大将はすぐには答えなかった。
『……影響力を持つ部隊、か』
「はい」
『覚えておけ。影響を持てば、その分だけ責任も増える。部隊を派閥にするつもりなら認めんし、連邦軍の制度から外へ出すつもりもない』
「分かっています」
『それなら考え方としては悪くない。私がいつまでもお前たちの上にいるわけでもないからな』
「その言い方、やっぱり引退する気ですよね」
『前から言っているだろう。だから今のうちに、お前たちが私抜きでも残れる形にしている』
さらりと言われた直後、今度は別の資料が送られてきた。開いてみると、廃棄予定資産の移管一覧だった。
「……これは」
『ガンダム開発計画が消えれば、表で扱いにくくなる物もまとめて処分される。GP計画関連の残存資産もその一つだ』
「GP04……」
原作ではシーマ中佐が個人的に交渉してたからデラーズ軍に渡らずに残ったのか。
『完成機相当の物だけではない。予備部品、交換装甲、推進器、関節、武装、整備治具、試験部品、資料。残っていた物は可能な範囲でまとめてBLACK RAVEN側へ移管する処理を通した。表にはできんがね』
「随分まとめましたね」
『捨てる物を引き取るだけだ。使える物をわざわざ潰す必要もあるまい』
もちろん、好き勝手に倉庫から持ち出したわけではない。廃棄対象となった資産を別用途の評価資産として受け直すための書類が、一覧の後ろに何枚も続いていた。
『ただし、専用品を今後も好きなだけ作れると思うな。確保した在庫が多いから当面は保つ、という程度だ』
「そこは分かっています。なら維持できるうちに、次の手も作った方がよさそうですね」
『そのための話もつけてある』
「……どこです?」
『アナハイム・エレクトロニクスだ。政治の話をするつもりはない。整備、部品、武装、推進器、必要なら試験品。商売相手として使え』
「向こうもただでは動きませんよね」
『当たり前だ。金は払え。条件は読め。渡して困る物まで渡すな。その程度は自分でやれ』
「はい」
数日後から、A.E.との実務協議が始まった。担当窓口と契約処理の経路が決まり、最初に動いたのは四号機関連資産の維持と再登録。
届いた見積もりを見れば、当然ながら安い話ではない。それでも、条件を決めて金を払えば、部品や技術支援を受けられる経路が一本できた意味は大きかった。軍の補給だけに頼り、それが詰まった途端に部隊まで止まる形にはしたくない。
技術も、整備も、補給も、これからは戦力の一部として考える。四号機関連の資産は、そのままの名前で表へ戻すことはできない。頭部を中心に外装を変え、登録そのものを整理し直すことになった。新しい型式はEX-01G。名称はガーベラ。
整備区画へ運び込まれた機体を見に行くと、シーマ中佐も先に来ていた。まだ頭部の変更作業前で、機体の周囲には外された部品と点検機材が並んでいる。
「こいつが、例の廃棄品かい?」
「廃棄品って言うには豪華ですけどね」
「見りゃ分かるよ。で、部品は?」
「残ってた分はかなり押さえてあります。専用品を今後も作り続けられるわけじゃないですけど、すぐ部品取りで困るほどではないです」
「なら、まだ使い物にはなるね」
シーマ中佐は機体を見上げたまま、少しだけ口元を上げた。
「ガンダムの名前は消したってのに、こういう物だけ残るんだから面白い話だ」
「残ったなら使いますよ。捨てる方がもったいないです」
「あんたらしいね。それで、EX-01G?」
「登録はその予定です。ガーベラの名前は残るそうです」
「ガーベラねえ……なかなかいいじゃないか」
それ以上、誰が乗るかまでは話さなかった。正式な割り当ては、新しい部隊の形が決まってからまとめて出すつもりだった。シーマ中佐は使う気満々に見えた。
RX-81RCの方も連邦との打ち合わせが進み、任務に応じて換装する追加パッケージが、調達へ移り始めた。使う機体も、それを支える技術も、補給の道も、少しずつ形になってきている。
そして四月に入る頃には、三月の釈放と同時に進められていたコウ・ウラキ少尉の再配置も決着していた。
アルビオンはそのままこちらへ移管され、シナプス少佐が艦長として残る。バニング大尉とキース少尉も受け入れる以上、ウラキ少尉だけを別に切り離す理由も薄い。何より、星の屑を実際に戦い抜き、高性能MSを運用した経験は、これから試験や評価まで抱えるBLACK RAVENでも十分に使える。
人事側から届いた正式な配置資料を確認すると、所属欄には最初からBLACK RAVENと記されていた。ゴップ大将にも確認を入れたが、返ってきた答えは簡単なものだった。
『ウラキ少尉の配置なら、そのままお前のところで処理した。アルビオンの人員をまとめるなら、その方が余計な手間もない』
「ありがとうございます」
『勘違いするな。処分歴を消したわけではないぞ』
「そこは分かっています。処分を受けたことと、この先使える人材かどうかは別ですから」
『ならいい。あとはお前のところで使え』
「はい」
数日後、ウラキ少尉本人がBLACK RAVENの仮詰所へ姿を見せた。
「着任を確認しました。レン・イズミ特務少佐です。よろしくお願いします、ウラキ少尉」
「コウ・ウラキ少尉です。よろしくお願いします、少佐」
「シナプス少佐もバニング大尉もキース少尉もこっちですからね。人事としても、まとめた方がって話だったみたいです」
「そうですか」
少しだけ肩の力が抜けたように見えた。
「処分についてはこちらから改めて何か言うつもりはありません。終わったものは終わったものとして、ここでは普通に仕事をしてもらいます」
「はい」
「まだ再編中なので、担当機も正式配置もこれからです。それまでは既存メンバーとの訓練と、機体データの確認をお願いします」
「了解しました」
その返事を聞いて、俺もそれ以上は触れなかった。バニング大尉やキース少尉と顔を合わせれば、向こうでも多少話はあるだろう。それまで俺が先回りして何か言う必要もない。案内を引き継いだ隊員と一緒にコウ少尉が出ていったあと、俺は机の上に積まれた資料へ目を戻した。
GP04関連の残存資産は確保した。A.E.との実務線も動き始め、ガーベラを維持していくための道もできつつある。RX-81RCの換装装備についても、こちらは連邦側の開発・調達ルートで準備が進んでいた。人員も、コウ少尉が加わったことでさらに厚くなった。
それでも、まだBLACK RAVENは完成していない。
二代目レイブンは建造途中で、アルビオンも修理の最中。誰がどこで何を担うのか、正式に一つの形として示す仕事も残っている。そして何より、ゴップ大将がいなくなった後でも、この部隊が連邦軍の中で動き続けられる形にしなければならない。
0083で届かなかったものを、次は戦場の外まで含めて届かせる。そのための準備が、ようやく揃い始めていた。
コウ少尉が加わってからしばらくすると、再編後に使う機体も順次こちらへ回され始めた。バニング大尉用のジム・カスタム指揮官仕様に、キース少尉とコウ少尉が使う通常仕様。少し遅れて届いた二機のガルバルディβには、通常の配備書類とは別に評価項目をまとめた資料が付いていた。
量産が始まったばかりの新型を、部隊運用試験の名目で二機だけ先に回してもらったものだ。担当はユウ中尉とライラ中尉。二人とも機体を受け取ったその日から慣熟に入り、整備側と一緒に操縦感覚や推進系の癖を洗い出していた。ここで取ったデータは連邦側へ返すことになるが、それはこちらにとっても都合がいい。新しい機体を触れるうえ、量産機として何ができて何が足りないのかも自分たちで確かめられる。
ある程度それぞれの機体に慣れたところで、今度は五人をまとめて市街地戦訓練へ放り込むことにした。俺が使うのはRX-81RCではなく、クリスさんのジム・カスタム指揮官仕様。相手が新しい機体に慣れたかを見るのではなく、五人が一緒になった時にどう動くかを見るなら、こっちだけ専用機を持ち出す理由はなかった。
訓練区画へ入る前、バニング大尉から通信が入った。
『念のため聞くが、本当に一機でやるんだな、少佐』
「はい。五人で追ってください。俺を落とせばそれで終了です」
『ずいぶん余裕だな』
「大尉がまとめるなら、簡単じゃないと思ってますよ」
『なら遠慮はいらんな。各機、予定どおりだ。少佐を見つけても勝手に追うな。まず出口を潰すぞ』
『了解』
『了解しました』
『了解です』
開始信号と同時に、俺は建物の間へ入った。市街地戦用に組まれた区画は通りが直線で繋がっておらず、少し進めば高い建物に視界を切られる。五機側は最初から一つに固まらず、バニング大尉を軸にユウ中尉とライラ中尉が外側へ広がり、キース少尉とコウ少尉が内側の道路を押さえてきた。俺を見つけた一機が追い回すのではなく、逃げ込める区画そのものを狭くしてくる。
まともに正面から相手をすれば、五機分の射線に押し潰される。だから姿を見せる時間を短くし、建物を挟んで何度か進路を変えながら、向こうが俺に合わせて配置を動かす瞬間を待った。
視界には何もいなくても、建物の向こうから圧が来る。右奥に強い気配があり、その反対側にも別の存在感が動いている。誰がどこにいるのかを正確に見通せるわけじゃないが、こちらへ意識が向いた瞬間だけは分かりやすい。
交差点へ機体の半身を出した途端、正面から訓練弾が飛び込んできた。見てから避けるより先に身体が反応しており、ジム・カスタムを後ろへ滑らせた時には、弾はさっきまで頭部があったところを抜けている。
『接触。西側中央、少佐を確認』
『ウラキはそのまま押さえろ。キース、一本南へ。ユウとライラは外から詰める』
バニング大尉の指示に対する反応は速かった。キース少尉が先の交差点へ向かい、コウ少尉は俺がもう一度顔を出しても撃てる位置を維持する。外側から回っている二機の気配も近づいてきた。
ただ、五人全員が同じ部隊として動き始めたばかりなのは、こういう切り替えの時に出る。キース少尉が次の通りを押さえるため前へ出るのと、コウ少尉がその移動に合わせて射線をずらすのは、どちらも正しい。それでも二人の間にはほんの一拍だけ、同じ場所を誰も見ていない時間ができた。
俺は奥へ逃げるふりをやめ、入ってきた路地を一気に戻った。角を抜けた先でキース少尉のジム・カスタムがこちらを向こうとする。その胴体へ先に照準を重ねて撃墜判定を取ったが、直後にはコウ少尉の射撃が路地へ入ってきたため、その場には残れない。建物沿いに次の通りへ飛び込み、背後から迫る気配を感じながら二つ先の交差点で急減速する。
追ってきたコウ少尉は、俺がそのまま逃げると見ていたわけじゃない。角へ入る前から慎重に速度を落としていたし、機体が見えた時にはもう銃口もこちらへ向いていた。それでも僅かにこちらの準備が早い。正面から撃ち合わず、角を抜けた瞬間だけ胴体へ判定を入れてすぐに下がると、その直後には別方向から飛んできた射撃が建物の壁際を掠めた。
ライラ中尉だった。二機を取られたところで、バニング大尉は追跡を止めた。
『ユウ、ライラ、戻れ。ここからは三機の援護が切れない距離で行く。少佐の誘いには乗るな』
『了解』
『分かりました』
そこから急に動きづらくなった。三機は俺を直接追うより、互いに射線を渡しながら区画を狭めてくる。ユウ中尉のガルバルディが通りの先に一瞬見えたので反対側へ回ろうとしたが、そちらにはまだ姿の見えないライラ中尉の気配があった。
行けばまずい。
理由を組み立てる前に機体を止め、そのまま後退する。直後、交差点の奥へライラ中尉の機体が現れ、俺がそのまま出てくるはずだった位置へ訓練弾を通した。
『……今ので出てこないんですか』
「なんとなく嫌な感じがしたので」
『それで済ませますか』
別の道を使って距離を取り直そうとしたところへ、今度はユウ中尉が踏み込んできた。反応が速い。こちらが建物の陰から姿を見せた瞬間には撃っており、一発目をかわして横へ切った先にも二発目が来る。さらに奥にはバニング大尉がいて、ユウ中尉を避けた先を撃てる位置を取っていた。
左肩の奥が強くざわつく。そちらへ逃げるのをやめ、予定していた進路を捨てて建物ぎりぎりまで機体を寄せると、二方向から伸びた射線がわずかに外れた。シールドに一発だけ軽い判定が入ったものの、本体はまだ無傷だ。
三人とも、もう序盤とは動きが違う。このまま時間を与えれば、俺が使える隙はさらに減る。こちらから崩すしかないか。俺は一度大きく距離を取るように見せてから、建物の裏側を回って逆に三機の内側へ入った。ライラ中尉が俺の動きを確認して位置を変え、ユウ中尉もそれに合わせる。二人の間隔は崩れていなかったが、バニング大尉が援護位置を変えるまでの短い時間だけ、ライラ中尉へ二機分の射線が重ならない。
そこへジム・カスタムを突っ込ませた。
ライラ中尉も即座にこちらへ向き直り、撃ち合いになる。横へ振った俺を追う銃口は正確で、まともに速度だけで振り切ろうとすれば捕まる。建物の角へ機体を寄せ、射線が切れる寸前にさらに一歩だけ踏み込む。照準が互いに重なった時、先に判定を取れたのは俺だった。
その代わり、退路にはもうユウ中尉が来ていた。
『ライラ、撃破判定離脱。ユウ、そのまま押せ。少佐を止めろ』
ユウ中尉は深く追いすぎず、バニング大尉と二方向から俺の移動先を削ってくる。最初の五機より数は減っているのに、相手をしている感覚はこちらの方が重かった。俺が右へ出ればユウ中尉が反応し、左へ振ればバニング大尉の射線に入る。二人の位置を目で確認するより先に、どちらから危険が強くなったかを感じ、そのたびに操縦を変える。
一年戦争からずっと、こういう瞬間だけは何度経験しても慣れなかった。何が来るのか分からないのに、今動かなければ間に合わない。頭で考えるより先に身体が選んだ方向へ機体を通し、その判断が正しかったかどうかは一瞬後に飛んでくる弾で分かる。
ユウ中尉の射撃を避けて建物の裏へ回ったところで、正面にいたバニング大尉の気配が横へずれた。俺を追うのではなく、ユウ中尉が押し出した先を取るつもりらしい。なら、その移動が終わる前しかない。
急制動で機体を返す。ジム・カスタムの警告表示が一気に増えたが、姿勢を崩すほどではない。戻ってくるとは思っていなかったバニング大尉の横へ短く射線が開き、そこへ一発だけ撃ち込む。
『ちっ……判定をもらった。ユウ、後は任せる』
最後まで残ったユウ中尉も、一人になったから簡単になったわけではなかった。むしろ他の機体へ合わせる必要がなくなったぶん、動きそのものはさらに速い。数度の射撃を互いに外し、市街地の一区画を使って位置を変えた末、建物の切れ目でほぼ同時に相手を捉えた。
強い危険が正面から来る。
撃つより先に機体を沈ませた。頭上を訓練弾が抜け、その姿勢のままこちらも撃つ。胴体へ判定が入った直後に訓練終了の表示が出て、ようやく操縦桿から力を抜けた。
戻って確認すると、俺の機体にはシールドの軽微判定が一つ。本体への有効判定はなかった。数字だけならかなり差が付いているが、推進剤の消費も機体負荷も普段の訓練より明らかに大きい。
格納区画でヘルメットを外すと、バニング大尉が先に機体から降りていた。
「五人いてその結果じゃ、格好はつかんな」
「最初だったからですよ。途中から全然楽じゃなかったですし、もう一回やったら同じ崩し方は通りません」
「そこは俺も同意見だ。個々の判断より、その間を使われた。誰がどこまで動くか、互いに分かってないところを全部拾われたな」
「なら次はそこが埋まりますね」
「ああ。次は覚悟しておけ、少佐」
五人は記録をかなり細かく見直していたらしく、次の合同訓練ではこちらが同じように誘っても誰も簡単には食いつかなかった。ユウ中尉とライラ中尉のガルバルディについても運用データが蓄積され、評価結果は整備側の記録とまとめて連邦へ返されていく。そうして訓練を繰り返している間に、二代目レイブンの建造とアルビオンの修理も最後の段階へ入った。
宇宙世紀0084年6月17日。
完成した二代目レイブンへ初めて正式な艦長として乗り込むと、同じ名前の艦なのに旧艦とはかなり印象が違った。黒を基調にした船体は以前よりすっきりしており、艦橋もアルビオンから繋がる新しい設計が入っている。それでも格納庫や通路の各所には旧レイブンで使ってきた装備や運用上の工夫が残されていて、まったく別の艦へ移ったという感じもしなかった。
この日付で、部隊そのものの扱いも変わった。命令書から「ゴップ大将直属」の文字が消え、代わりに記されたのは地球連邦軍中央直轄の独立任務部隊という所属だった。連邦軍の外へ出たわけでも、他部隊を自由に動かせるようになったわけでもないが、少なくともゴップ大将一人がいなくなれば消える部隊ではなくなった。
艦橋へ入ると、ノエルさんの肩章も曹長のものから准尉へ変わっていた。レイアム中尉はすでに航法関係の最終確認をしており、シーマ中佐は艦長席の近くから新しい艦橋を見回している。
「これで本当にあんたが艦長かい。出撃するたび空席になりそうだけどね」
「だから中佐とノエルさんがいるんですよ。俺がいなくて中佐が残っていれば中佐、二人とも出る時はノエルさんにお願いします」
「お二人が揃って出撃する前提なのが少し気になりますけど……もう慣れました」
「操艦と航法はこちらで支えます。ノエル准尉には指揮判断に集中してもらった方が合理的でしょう」
「お願いします、レイアム中尉」
アルビオンも修理を終えて復帰し、シナプス少佐が引き続き艦長を務める。俺が持つのはBLACK RAVEN全体の作戦指揮であって、アルビオンの航行や艦内判断まで横から取り上げるものではない。その線引きも含めて、ようやく二艦を一つの部隊として動かせる形になった。
MSの担当も同じ日付で正式になった。俺のRX-81RC、シーマ中佐のガーベラ、クスコさんのネティクスに加え、クリスさんとバニング大尉が指揮官仕様のジム・カスタム、キース少尉とコウ少尉が通常仕様を使う。春から先行評価を続けていた二機のガルバルディβは、そのままユウ中尉とライラ中尉の担当になった。搭載する艦まで固定するつもりはなく、そこは任務ごとに組み替える。
正式な発効を確認して間もなく、ゴップ大将から通信が入った。
『そちらは終わったか』
「はい。命令書も確認しました」
『なら私の方も終わりだ。今日付で退役する』
「……本当に辞めるんですね」
『何度目だ、その確認は。前から言っていただろう』
「分かってはいましたけど、実際に今日になると少し違いますよ」
『そういうものかもしれんな。だが、もう私の名前を使って仕事を通すことはできん。必要なら自分たちで結果を積め』
「はい」
『それと中央直轄になったからといって、他所へ好き勝手に命令するなよ。お前は正しいと思った時ほど先に動く』
「そこは気をつけます」
『気をつけるだけで済ませるな。手順が必要な時は踏め。それでも間に合わん時にどうするかは、自分で考えろ』
最後まで大将らしい話だった。幼い頃から長く世話になってきた相手だけに、言いたいことはいくらでもあったはずなのに、いざその時になると上手くまとまらない。
「大将。今までありがとうございました」
『もう大将ではなくなるがな』
「通信が切れるまでは大将でいてくださいよ」
『仕方のない奴だ。ではな、レン』
「はい。お元気で」
通信が終わり、それ以降は本当に自分たちで動くことになった。
新体制で任務を重ねるうち、二艦の運用も少しずつ馴染んでいった。春の模擬戦で見えていた新規組の連携の継ぎ目は早い段階で埋まった。ノエルさんが艦長代理として艦橋を預かる機会も増え、レイアム中尉との役割分担も落ち着いていく。ガルバルディβの評価は継続して連邦へ返し、A.E.とはガーベラを中心とした整備や部品調達の実務関係だけを続けた。
大きな戦いばかりがあったわけではない。残党対応や警戒、機体・装備の評価といった仕事を積み重ね、その合間にはキョウの生活も変わっていった。勉強や手伝いがなくなることはなかったが、最初の頃のように俺がいなければ何をしていいか分からない状態でもなくなり、艦や施設で自分がいていい場所を覚えていった。
そうして一年以上が過ぎた。
宇宙世紀0085年7月下旬。サイド1各地で、小規模な反連邦デモが相次ぐようになっていた。まだ現地の治安部隊で処理できる範囲で、個々を見れば特別珍しいものでもない。それでも報告の数は少しずつ増え、集会の規模も大きくなり始めている。
30バンチで何が起きるのかは覚えている。日付も、そこへ至る大まかな流れも忘れてはいない。ただ、それをそのまま理由にして連邦軍を動かすことはできないし、まだこの時点ではティターンズ側が何かを企んでいるという証拠もない。
だから、できる準備だけは先に進めていた。レイブンとアルビオンをすぐ動かせる状態に保ち、サイド1方面へ展開する場合の手順を詰め、記録系や通信設備も確認させてある。表向きは、各地で増え始めた反連邦デモに備えるための通常の警戒強化で通る範囲だ。
そして、その情勢報告の中に30バンチ周辺での集会拡大が混じり始めた。
まだ事件は起きていない。けれど、俺が覚えている流れは、もう始まっていた。
あのメンバーで進むって言ったな 追加しないとは言ってない。
隊員のプライベートには関知しません。休みもあるし(基本長めの連休)だから誰が誰と会ってようがしりません!
Zに早くっておもいつつも間の出来事も飛ばせない気持ちが
そうだ文章量増やして話数減らそう になってます。
先に言っておきます。Z本編は52話からです