続・黒いガンダムの宇宙世紀   作:いずりょう

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第51話 新しい日常

 翌朝から、昨日空けていたはずの時間は本当に消えた。

 

「大佐、A.E.側の搬入予定と連邦側の受領予定が重なっています。整備区画も同時には使えませんから、こちらで分けました。確認をお願いします」

「了解。……確認だけで済む?」

「大佐が今日これ以上予定を増やさなければ」

「努力します」

 

 マウアーは俺の返事に何も言わず、端末へ次の書類を送ってきた。信用されていないらしい。

 

 もっとも、実際に忙しくなるのは少し先だった。四機の評価機が一度にレイブンへ押し込まれたわけではない。搬入のたびにジョブたち整備班が受け取り、A.E.側の技術者と実機を確認し、問題があればその場で止める。連邦側から来る新型も別の手続きで動いていたから、格納庫はしばらく、機体より人と部品箱の方が多いくらいだった。

 

 最初の数日は、乗るより開けている時間の方が長かった。

 

「前よりずっとましだな。奥へ手を入れるのに別の部品を三つ外す、なんて場所が減ってる」

 

 ガーベラ・リファインの装甲を開けたまま、ジョブが中へ頭を突っ込んでいる。その横ではシーマ中佐が腕を組み、機体を見上げていた。黒を基調とした装甲は、光を受けるたびに重ねられたワインレッドが浮かび上がり、見る角度によって深い赤の艶を覗かせる。

 

「あたしは整備屋じゃないんでね。前より速くなって、前より素直なら文句はないよ」

「その素直かどうかを調べるために、こっちは開けてるんだ」

「ならしっかり頼むよ。速いだけで止まらない機体なんざ、使いにくくてしょうがない」

 

 言うだけあって、シーマ中佐の評価は分かりやすかった。最高速を出したかどうかより、加速から姿勢を変えた時にどれだけ余計な動きが残るか、そこから次の攻撃へどれだけ早く移れるか。何度か制御を直したあとには、最初より明らかに機体を振り回す量が減っていた。

 

 少し離れた区画では、黒を基調としたネティクスIIが、照明を受けるたびにダークパープルの艶を覗かせていた。射出されていたビットが次々と戻り、大型有線式ユニットに代えて設けられたビットラックへ順に収まっていく。

 

 クスコさんは展開させること自体には、ほとんど苦労していなかった。問題になったのは、その先だった。

 

「もう一度お願いします。今度は戻す時の追従を少し落として」

「遅くするんですか?」

「ええ。反応がいい時ほど、止めたいところを通り過ぎる感じがあります。動かせるだけなら今のままでもいいですけど、これを実戦で使うなら困りわ」

 

 A.E.の技術者が記録を見直し、クスコさんは再びビットを送り出す。速く、遠く、自由に動くかではなく、狙ったところで止め、戻し、次に備えられるか。その繰り返しだった。

 

 アステリオンも似たようなものだった。マウアーは初めて乗った日の感想を聞かれても、興奮した様子はなかった。

 

「右へ切り返した時だけ、操縦桿に対して少し敏感です。シート位置はこのままで。ペダル側はもう少し重くても構いません」

「それだけ?」

「今のところは。大佐、午後の予定がありますので私は一度戻ります。次の評価枠は明後日です」

「……本当に乗って、そのまま副官の仕事に戻るんだな」

「そちらが本来の仕事ですから」

 

 そう言ってヘルメットを整備員へ預け、そのまま端末を受け取って歩いていった。機体が増えても、マウアーの仕事が減るわけではないらしい。なんか申し訳ない。

 

 俺のアルコルも、基本の評価は順調だった。マットブラックの機体は、格納庫に並んでいるだけなら四機の中で一番地味なくらいだったが、動かすと印象が変わった。加速を掛けてから止めるまでが短い。機首を振った後に余分な揺れが残らず、そのまま照準を次へ移せる。通常のビームライフルからサーベルへ切り替える動作にも妙な引っ掛かりがない。

 

 LBRも俺には合っていた。

 

 大火力をばら撒く武器じゃない。距離が伸びても、狙ったところへ一本を通すためのライフルだ。模擬標的のセンサー部だけを撃ち抜いた時、観測データを見ていたクリスさんが呆れたように息を吐いた。

 

「武器の評価なのかレン君の評価なのか、だんだん分からなくなるわね」

「ちゃんと武器のおかげもありますよ。前ならこの距離だと、もう少し時間かけてます」

「そこを真面目に答えなくていいの。でも、機体としてはかなり良さそうね」

「俺もそう思います」

 

 問題は、その後だった。バイオセンサーを含めた評価は、最初から通常の試験とは切り分けられた。動かし始めてすぐに何かが起きたわけじゃない。加速も減速も、射撃も旋回も普通にできる。何も起きないまま終わる試験もあった。

 

 だからこそ、最初の違和感ははっきり分かった。高速で標的を抜け、反転して次の標的へ機首を向けようとした瞬間だった。操縦入力を入れる、その直前。アルコルの姿勢が動いた。

 

「……今の、俺じゃない」

 

 反射的に手を止めた。

 

『レン君、そのまま試験中止。余計なことしないで戻って』

 

「了解」

 

 クリスさんの指示に従って帰艦すると、その日はそこで終わった。ログを持ち帰って、俺の入力と機体側の反応を何度見比べても、単純な操縦ミスとして片づけるには気持ちが悪かった。ジョブもA.E.の技術者も、すぐに答えを出そうとはしなかった。

 

「大佐が動かそうと思ったから機体が先に動いた、で済ませるには危ないですね」

 

 クリスさんが画面から目を離さずに言う。

 

「俺もそう思います。便利だとは思いますけど」

「そういう問題じゃないの。便利でも、いつ何をするか分からないものは任せられないでしょ」

「はい」

 

 そこは反論する気もなかった。

 

 アルコルそのものは扱いやすい。けれど、あれだけは別だった。試験はそこで終わらず、条件を変えて何度も続いた。何も起きない日もあれば、入力と反応の間にまた妙なずれが残る日もある。俺が分かるのは、それが自分で動かした結果なのか、それとも機体が余計に何かをしたのか、その差があるということだけだった。

 

 どうしてそうなるのかまでは分からない。前に知っていた名前から嫌な予感だけはあったが、実物を触ってみれば、やっぱり分からないものは分からなかった。俺のNT感応を装置が拾って反映してるんだろうけど正直意味わからない。

 

 その間にも、BLACK RAVENの格納庫はさらに様変わりしていった。

 

 連邦側から正式に届いたガルバルディβエース用カスタムと、ジム・カスタムを基礎に連邦正規軍向けへ発展させたジム・レゾルートが並ぶと、今までより一気に軍の部隊らしい統一感が出た。チャコールからガンメタルへ寄せた暗い機体色を基本に、ユウ大尉の機体には濃紺、ライラ大尉の機体には深緑が識別色として入っている。

 

 レゾルートも同じ系統の色だった。クリスさんの機体には淡い青灰色、コウとキースの二機は共通色のままだ。

 

 全部を黒くしたわけじゃない。格納庫の奥でアルコルだけが、はっきりと黒かった。

 

「色を眺めるのは後にしろ。今日から機体じゃなくて隊を慣らすぞ」

 

 バニング大尉がそう言って、個別評価中心だった予定を編隊訓練へ切り替えた。

 

 ここからは俺も全部には出なかった。ユウ大尉とライラ大尉の二機を組ませる日もあれば、コウとキースへ別方向から援護を入れさせる日もある。シーマ中佐が高速で先へ出た後を誰が拾うか、クスコさんのビットを味方が邪魔しない位置へどう組み込むか。アステリオンもマウアーの予定が空いた時間に訓練へ入り、特別扱いせず一機のMSとして編隊へ混ぜられた。

 

「ライラ、追いすぎだ。相手を落とす訓練じゃない。後ろがついて来られる距離で止めろ」

『分かってる。今のはユウが遅い』

『規定位置にはいる』

『そういうところだよ』

「隊長なんだしっかり全体を見て合わせろ」

 

 通信越しでもライラ大尉は遠慮がない。

 

「喧嘩は帰ってからにしろ。次は配置を逆にする」

 

 バニング大尉も相手にせず、そのまま次の指示を出した。

 

 別の日には、俺が抜けた状態で同じ訓練が続いていた。戻ってきて結果を確認すると、最初の頃より修正点が減っている。俺がいなければ回らないなら意味がないとバニング大尉に言われていたが、その通りだった。

 

 二代目レイブンだけでもない。

 

 アルビオン側はシナプス少佐の判断で航行と回収予定を組み、訓練海域では必要なところだけ二艦の予定を合わせる。レイブンの艦橋ではノエルさんが入ってくる情報を整理し、レイアム大尉が訓練海域への出入りと航行条件を詰める。

 

 誰か一人が全部を見ているわけじゃない。俺がアルコルに乗っている間も、艦は動いている。別の機体は別の試験をして、整備班は戻った機体から順番に開けていく。一般のクルーも整備員も、最初の頃とは比べ物にならない人数がそれぞれの持ち場で動いていた。

 

 何度目かの編隊訓練が終わる頃には、新型という言葉をわざわざ付けることも減っていた。

 

 シーマ中佐はガーベラ・リファインの癖を掴み、クスコさんはビットを出すことより戻すことへ神経を使わなくなった。マウアーもアステリオンから降りた直後に、そのまま俺へ翌日の予定を渡してくる。

 

 連邦から来た機体も同じだった。最初は機種ごとに違っていた動きが、少しずつ部隊の動きに変わっていく。

 

 アルコルも、もう新しい機体という感じはしない。普通に出て、普通に戦って、普通に戻せる。ただし、バイオセンサーだけは別だった。

 

「通常運用は問題なし。ただし、あれの評価は継続。勝手に『もう大丈夫』にしないこと」

 

 クリスさんが最後にそこだけ念を押した。

 

「分かってますよ」

「レン君の場合、その返事だけじゃ信用しにくいのよ」

「ひどくないですか?」

「実績があるから」

 

 反論できなかった。

 

 そうして、新しい機体が新しい機体ではなくなった頃には、暦も三月へ入ろうとしていた。




戦争状態でない場合の軍のMS発展はかなり遅めです。レイブンの運用やテスト結果(戦闘だけじゃなくてMSと装備評価自体が仕事なので運用頻度は段違い)によってジムカスタムの発展形が生まれました。クゥエルも原作より性能上がってます。
ガルバルディβに関しては正式量産型が生産されており今回の支給でカスタム機が配備されました。大尉二人にはパーソナルカラーがついたよ!

実はこの時点で(Z原作開始直前)原作ではプロトタイプZ X1~X3が完成してます
A.E.恐ろしい
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