続・黒いガンダムの宇宙世紀   作:いずりょう

52 / 77
Z本編にやっと入ります。遅すぎてすみません
でもレン連邦軍人だからアーガマ視点になりません本当にごめんなさい


第52話 グリーンノア

 三月に入る少し前から、レイブンの待機位置は少しずつグリーンノア寄りへ移していた。

 

 新型機の慣熟が一区切りついたところで、訓練と巡回の予定を組み直し、しばらくこの周辺で動けるようにしただけだ。二艦を常に並べて飛ばす必要もないので、アルビオン側の予定はシナプス少佐に任せ、レイブンの航路はレイアム大尉が無理のない範囲に収めてくれている。

 

「大佐が指定した範囲なら、しばらくはこちらで回せます。補給予定にも影響はありません」

 

 マウアーから渡された予定表を確認している横で、レイアム大尉が航路表示を切り替えた。

 

「ありがとうございます。じゃあ、そのままで」

「了解しました」

「大佐、この付近にいる理由について追加の説明は?」

「今のところはないです。何か起きたら動きやすい場所にいたい、それだけで通してください」

「分かりました。予定上は通常運用として処理します」

 

 マウアーはそれ以上聞かなかった。我ながら、ずいぶん曖昧な理由だと思う。けれど、三月の初めにここから離れている気にはなれなかった。

 

 グリーンノア

 

 今はそう呼ばれているコロニーを艦橋のモニター越しに見ていると、俺の中では別の名前が先に出てくる。

 

 サイド7

 

 昔、俺が暮らしていた場所だった。見た目はもう、記憶の中にある景色とは随分違う。戦争の傷は修復され、施設も増え、軍関係の区画も大きくなっている。俺が子供の頃に知っていた場所を探そうとしても、外からではほとんど分からない。

 

 それでも、妙に懐かしかった。父さんも母さんも、ここで働いていた。父さんは施設管理と搬送関係、母さんは港と搬入管制。二人とも忙しくて、家族で揃っている時間は多くなかった。俺も俺でアムロと機械を弄っていたりして、今思えば似たようなものだったかもしれない。

 

 あの日、ジオンのMSが入ってきてから、二人は戻ってこなかった。

 

 軍の記録は今も行方不明のままだ。遺体が見つかったわけでもない。生きているという情報が出たこともない。それだけだった。

 

「……ずいぶん変わったな」

 

「何か言いましたか、大佐?」

 

 近くで端末を確認していたマウアーに聞かれ、俺は首を振った。

 

「いや、昔ここに住んでたなって思っただけ」

「サイド7でしたね」

「うん。今見ると、ほとんど別物だけど」

 

 マウアーはコロニーの映像を一度見て、それ以上は聞かなかった。俺も話を続けなかった。ここへ来た理由は昔を懐かしむためじゃない。

 

 三月二日。

 

 日付まで覚えていた。

 

 ガンダムMk-II。ティターンズ。エゥーゴ。そして、カミーユ・ビダン。

 

 細かいとこまで全部覚えているわけじゃない。それに、俺が知っていた流れと今の状況はもう同じじゃない。ライラ大尉もマウアーも、ここにはいないはずだった人間が俺たちのところにいる。それ以外にも、一年戦争から八年の間に変えたものはいくらでもあった。

 

 だから、何がそのまま起きるかは分からない。それでも、この辺りで何かが始まることだけは忘れていなかった。

 

 止めるつもりはない。だからといって、わざわざ遠くにいる理由もなかった。ただ父さんと母さんを思い出して助けれるものは助けるという決意をまた思い出せた。

 

 午前中までは、何も起きなかった。レイブンは通常の監視と訓練予定を続け、格納庫では整備員が次の出撃に備えて各機を確認していた。俺も艦橋と執務区画を行き来しながら、溜まっていた書類を片づけていた。

 

 最初に変わったのは、通信だった。

 

「大佐、グリーンノア方面の軍用回線が増えています」

 

 艦橋へ戻ると、表示の一部に通信経路がまとめられている。緊急回線まで完全に開かれているわけではないが、さっきまでとは明らかに違った。

 

「内容は?」

「現時点で確認できているのは、グリーンノア内でティターンズ所属MSの事故が発生したという報告です。それとは別に、周辺宙域で所属不明のMSが複数捕捉されています。両者が関係しているかはまだ不明です」

「戦闘?」

「それも未確認です。警戒態勢が引き上げられたことだけは確認できます」

 

 来たか。そう思ったが、口には出さなかった。

 

「レイアム大尉、今の位置は?」

「現行航路のままならグリーンノア側の管制区域外を維持できます。ただ、警戒区域が広がれば進路変更が必要になります」

「じゃあ今はそのままで。ノエルさん、通信を追ってください。軍内部の報告と、うちで直接確認できたものは分けて」

「了解です」

 

 シーマ中佐が艦橋へ上がってきたのは、それから少し後だった。

 

「随分騒がしくなってるじゃないか」

「グリーンノアで何かあったみたいです。まだ全部は分かりません」

「あそこの連中かい?」

「ティターンズのMS事故は確認済みです。その他についてはまだ」

 

 俺が答えると、シーマ中佐は鼻を鳴らした。

 

「事故だけでこんなに騒がしくなるかね」

「俺もそう思います」

 

 その直後、ノエルさんが新しい情報を上げた。

 

「所属不明として扱われていた機体の一部について、エゥーゴとする連邦側報告が出ました。ただし発信元がティターンズなので、こちらではまだ独立確認できていません。それと、グリーンノア内部で新型MSが行動中との情報があります」

「新型って、機種は?」

「ガンダムタイプ。型式まではこちらへ降りていません」

 

 そこまで揃えば十分だった。

 

 Mk-IIだ。

 

 覚えている流れなら、もうカミーユも巻き込まれている。

 

「隊長、MSは出すのかい?」

 

 シーマ中佐に聞かれ、俺は少し考えてから首を振った。

 

「出しません。まだ相手がいないですから」

「エゥーゴが入り込んでるんだろ?」

「その可能性は高いでしょうね。でも、ティターンズ側の新型機事故とコロニー内の混乱まで一緒になってる。今の情報だけで割り込んでもさらに悪化するかもしれません」

 

 シーマ中佐は俺を見たまま、しばらく黙った。

 

「……まあ、あたしらがあそこの連中の尻拭いをする義理もないか」

「ただし警戒度は上げます。アルビオンにMS隊をすぐ出せる状態にしてもらってください。救難が必要になった時は出ます」

「分かったよ」

 

 近くにいるからこそ、飛び出すことは簡単だった。アルコルなら準備が終わればすぐに出せる。俺が行くと言えば、バニング大尉もシーマ中佐も理由は聞くだろうが、必要な準備はする。

 

 でも、ここじゃない。

 

 俺が今飛び込めば、Mk-IIを確保することだってできるかもしれない。カミーユより先に機体へ手を出すことも、エゥーゴ側の侵入を邪魔することもできるだろう。

 

 だがその先がどうなるかは分からない。カミーユがエゥーゴへ行かなければ、それで全部よくなるなんて話でもない。むしろ、俺が覚えているこの先の流れまで一気に分からなくなる。関与すれば変わることは経験則で理解できてる、だけどあまりにも大きすぎる変化はすべてが悪くなる可能性を含んでいる。

 

 ただそれは勘違いでそもそもカミーユがいない可能性もあるがそれはそれだ。

 

 だから、待った。ただ待つだけにはしなかった。

 

 レイブンとアルビオンのセンサー情報を共有し、周辺の民間航路へ危険区域の確認を回す。アルビオン側にも状況だけを送り、シナプス少佐の判断で艦の位置を維持してもらった。バニング大尉からはMS隊の待機完了が上がってきたが、発進命令は出さない。

 

 その間にも、グリーンノアから届く情報は増えていった。

 

「大佐、新しい報告です。ティターンズの新型ガンダムが一機、正規の搭乗員ではない人物によって運用されている可能性が高いとのことです」

「人物は?」

「まだ確認中です。民間人という報告がありますが、確定していません」

 

 グリーンノア内部で戦闘が継続。エゥーゴ側MSが確認された。ティターンズ側のガンダムタイプが複数動いている。

 

 情報は前後していた。同じ出来事について内容の違う報告も混ざっている。ティターンズ側から出たもの、通常の連邦回線を経由したもの、こちらのセンサーで直接拾えるもの。それをノエルさんが一つずつ分けていく。

 

「外へ出た機体があります。ガンダムタイプ二機。エゥーゴの機体と同方向へ移動」

「追撃は?」

「ティターンズMSが追っています。ただし、こちらから交戦状況の詳細までは取れません」

「了解」

 

 俺はモニターを見た。レイブンから見えるのは、遠くの光点だけだった。今の俺が知っているのは、ここで本当に起きていることのうち、俺たちのところまで届いた分だけだ。

 

「続報です。非正規搭乗者の身元が判明しました」

 

 ノエルさんが一度画面を確認してから、こちらを見る。

 

「カミーユ・ビダン。グリーンノア居住の民間人です。ティターンズの新型MSに搭乗し、その後、機体ごとエゥーゴ側へ合流したとの報告が入っています。本人確認は取れていますが、合流に至った詳しい経緯まではまだ不明です」

 

 カミーユで確定か。ここまで割れてるとなるとぶん殴って捕まって身分確認までされてる流れは原作通りとみていいかな。

 

「ガンダムは?」

「型式名も確認できました。RX-178、ガンダムMk-II。現時点では複数機がエゥーゴ側へ渡った可能性が高いとの報告です。ただし正確な機数は照合中です」

 

 シーマ中佐が小さく舌打ちした。

 

「新型をまとめて持っていかれたって? ティターンズも派手にやらかしたもんだね」

「まあ……そこは俺たちが口出しするところじゃないですし」

「随分落ち着いてるじゃないか、あんた」

「近くにいるからって、俺達が全部拾いに行くわけにもいかないでしょう?」

「たしかにね」

 

 そう答えながら、俺は別のことを考えていた。

 

 カミーユがMk-IIに乗った。エゥーゴ側へ行った。細かなところが同じかどうかは分からない。それでも、大きなところでは俺が覚えている流れと重なっている。なら、この次も近い。フランクリン・ビダンとヒルダ・ビダン。そこは、さっきまでと同じように見ているつもりはなかった。

 

「ノエルさん」

「はい」

「この件に関係する民間人の拘束、家族照会、人員移送が出たら優先して上げてください。確認できてないものは、確認できてないままでいいのでとりあえず教えてください」

「分かりました。関連情報として分離して追います」

 

 それだけ頼んで、俺はもう一度グリーンノアの表示へ目を向けた。

 

 昔住んでいたサイド7のすぐそばで、俺の覚えている出来事は、少なくともここまでは同じ方向へ進んでいた。




そろそろ一日一投稿に変わるかもしれませんよろしくお願いいたします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。