五月に入る頃には、アーガマが月方面へ移ったという話も、アンマンで補給と人員の整理を進めているという話も入ってきていた。BLACK RAVENはそのまま通常運用を続けている。動向には注視してるがなんでもかんでも介入すればいい話でもない。前に流したジャブローの未確認情報についても、受領したという返答以外は特に来ていなかった。
その日の予定を一通り片付けていたところで、マウアーが通信を回してきた。
「大佐、アーガマから通信です。ブライト・ノアさんが出ています」
「ブライトさん? 繋いでください」
執務端末へ切り替えると、少し遅れて見慣れた顔が映った。制服は見慣れた連邦軍のものではない。背景も、以前ブライトさんがいた勤務先とは明らかに違っていた。
「久しぶりだな、レン」
「お久しぶりです。……その格好を見ると、何となく話の中身が分かる気がしますけど」
「そうかもしれん。私は今、アーガマにいる」
「やっぱりそっちへ行きましたか」
口にしてから、少しだけ変な感じがした。覚えていた流れではそうなる。けれど、今まで変わったものを考えれば、本当に同じところへ戻る保証なんてなかった。むしろ原作と違い後方勤務になり前回会ったときは地球にいた。もちろんテンプテーションの艦長の職ではなかったはずなのになんでいるんだろう。え?なんで?
「少し前にグリーンノアに呼び出されてね。その後色々あって移動中にアーガマと接触してな。そのまま話をして参加することになった。ヘンケン中佐は月へ戻る。代わって、私がアーガマの艦長を任されることになった」
「そんなことがあったんですね」
「偶然だがな。ティターンズには思うところもあるし俺でも力になれるならと決めた」
「ブライトさんって結局そこに戻るんだなと」
「私としては、そう簡単な話でもないんだがな」
呆れたように返しながらも、声は落ち着いていた。
「それで、報告だけじゃないですよね」
「ああ。近く、エゥーゴはジャブローへの降下作戦を行う。アーガマは宇宙に残るが、所属MSを含む降下部隊を出す予定だ」
あの情報を言ってもどうせするんだろうなって気持ちはあったが、実際に聞くと嫌な感じがする。ジャブロー。もう攻略して価値のある基地じゃない。その上、最後には基地ごと吹き飛ばす。通信の向こうにいるブライトさん自身は宇宙に残るとしても、送り出す側になることまで含めれば他人事ではない。
「カミーユくんも降りるんですか?」
「ああ。クワトロ大尉、エマ中尉たちも参加する」
「そうですか」
少し考えてから、前に流した話を確認する。
「ジャブローの件、こっちから送った未確認情報は届いてます?」
「届いている。一応こちらでも確認はしたが、主要機能の移転を裏付けるところまでは行かなかった。情報源も不明のままだ。エゥーゴの支援者はジャブローさえおとせばと言ってきかん」
「まぁ、そうですよね」
当然の答えだった。俺だって確認済みだとは言っていないし、裏付けになる証拠も付けていない。
「あれは頭の片隅には置いておいてください。現地へ入って、思ったより人がいないとか、防衛が薄いとか、何か変だと思った時に判断材料の一つにはなるはずです」
「分かっている。君が根拠のない話をわざわざこちらへ回したのは珍しいからな」
「未確認扱いにしたのは、そのためです。そこから先はブライトさんたちで判断してください」
「ああ、了解だ。参考程度にさせてもらおう」
それでいい。核まで知っていると伝えれば、話は別になるかもしれない。けれど、どうして知ったのか説明できない。それに、作戦そのものを消してしまえばいいとも思えなかった。
カイさんはジャブロー周辺へ入っているはずだ。もし捕まっているところまで同じなら、降下部隊が来なければ助からない可能性もある。全部知っているから全部止める、で良くなるとは限らない。とレコアさん先におろしてるのかな?
「レン?」
「あ、すみません。一つ聞きたいんですがジャブローに先行して偵察とかってしましたか?誰かを送り込んだとかそういうの」
「いや、そういう話はなにも聞いてないが」
「そうなんですね、調べずに強襲かけるのはなかなかの度胸ですね」
「十分にいける戦力と上は判断したんだろうな」
少しだけ笑ってから、ブライトさんは表情を戻した。
「作戦が終われば連絡する。状況によってはすぐには無理かもしれんがな」
「分かりました。こっちはこっちで動いてます」
「ああ。また連絡する」
俺の送った情報で少し変わった部分がレコアさんなのかな?原作通りだと酷い目に会うことになってたし無くなったならよしとしよう。これきっかけでティターンズに行かないなら助かるしよし。
BLACK RAVENはジャブローへ向かわなかった。レイブンもアルビオンも、それぞれ予定していた哨戒と訓練を続ける。ベースジャバーの搭載確認も進めたが、それはジャブローへ降りるためじゃない。地上で動くことになった時に困らないよう、用意しているだけだ。
数日後、エゥーゴの降下部隊が地球へ向かったという連絡が入った。アーガマ本艦は予定通り宇宙側に残っている。
そこから先は待つしかなかった。ノエルさんも途中経過を拾ってはいたが、断片的な情報を確定扱いせず、こちらへ上げる時には確認済みと未確認を分けていた。
最初のまとまった報告が来たのは、その日の予定を変更するほど大きな情報が外部回線を流れ始めてからだった。ノエルさんが艦橋の表示を切り替え、南米方面の情報をまとめて出す。
「大佐、ジャブローで大規模な爆発が確認されています。複数の観測情報から、通常兵器によるものではないと見られています」
「核か?」
「現時点では断定報告待ちです。ただ、規模から見てその可能性が高いです。エゥーゴ側との回線にも照会を出しています」
知っていたはずなのに実際の報告として聞くと胃の奥が重くなる。主要機能を抜いて、侵入させてから基地ごと消す。降下した連中はその直前まで逃げ回っていたはずだ。
「降下部隊の状況は?」
「まだ確認できていません。アーガマ側にも照会を出していますが、向こうも地上からの連絡待ちです」
「そっか……」
核爆発の規模なら、遠くからでも観測できる。だが、そこで誰が逃げ切ったかまで分かるわけじゃないが。流れではカミーユたちは脱出している。だから大丈夫だと決めつけるわけじゃないが。
「何か入ったらすぐ教えてください」
「はい」
それ以上はどうしようもない。俺が地球まで通信を飛ばしたところで、現地との回線が繋がっていないなら情報が増えるわけでもなかった。
その後、爆発が核によるものだったことは比較的早く確認された。一方で、エゥーゴ降下部隊の安否については情報が錯綜したままだった。ジャブロー周辺から離脱する機体を捉えたという報告もあれば、被害規模から多数が巻き込まれた可能性を挙げるものもある。ノエルさんも、裏の取れない情報はそのまま脇へ分けていた。
アーガマからまとまった連絡が入ったのは、それから数時間後だった。
「大佐、アーガマから通信です。ブライト艦長が直接話したいとのことです」
「繋いでください」
回線が開くと、前に話した時より明らかに疲れた顔のブライトさんが映った。
「レン。待たせたな。ようやく地上側からまとまった連絡が入った」
「降下部隊は?」
「ジャブローからは離脱している。まだ全員の確認が終わったわけではないが、こちらが把握している主力は核爆発の前に退避した」
「カミーユくんたちは?」
「カミーユ、クワトロ大尉、エマ中尉の無事は確認できた」
「よかった……」
思っていた以上に力が抜けた。覚えている通りになるはずだと思っていても、実際の報告を聞くまでは別だったらしい。
「それと、君が流してきたジャブローの情報だが」
「主要機能の移転?」
「ああ。現地から上がった報告では、その通りだった。基地内の主要区画はかなり移転が進んでいたらしい。降下部隊が侵入した後、自爆準備が判明した」
「核だったんですね」
「そうだ。地上側も直前まで確証を持てていなかったようだが、脱出後の爆発で間違いない。ジャブローは事実上失われた」
未確認情報として流した話が、そのまま現実になった。いや、俺にとっては最初から知っていたことだ。問題は、今の世界でも同じことをやった奴がいて、実際に基地ごと吹き飛ばしたという方だった。
たぶんカイさんもジャブローから脱出している。ただ、そこまでブライトさんに確認させる必要もない。本人に連絡がつけば済む話だ。
「レン。あの情報、本当に出所は説明できないのか?」
「できないですね」
「そうか」
「すみません。ただ、今後も同じようなことがあれば、確認できてないものは確認できてないって分けて送ります」
「それでいい。今回の件で、君の情報を無条件に信用するつもりもない。だが、無視もできないだろう」
「そのくらいでお願いします」
その方が助かる。俺自身、記憶だけを根拠にBLACK RAVENまで動かすつもりはない。
「地上側はこれから?」
「降下部隊はそのまま地上で行動を続ける。こちらは宇宙に残る。状況が整理できれば、また情報を回す」
「了解です。こっちも少し動き方を考えます」
「ああ。また連絡する」
通信が切れた。
ジャブロー攻略は終わった。基地も消えた。それで戦いまで終わるわけじゃない。エゥーゴの降下部隊は地上に残り、ティターンズも当然それを放置しない。宇宙だけではこっちが見られる範囲が偏りすぎる。いっそ分けるか。
俺はシナプス少佐へ連絡を入れた。しばらくしてアルビオンの艦橋が映る。
「状況は聞いている。ジャブローだな」
「はい。レイブンを地球へ降ろそうと思います」
「そうか。レイブンをということはアルビオンは残すのか?」
「そのつもりです。宇宙側もこのまま静かとは限りません。アルビオンには今まで通り、宇宙側の哨戒と情報収集をお願いします」
シナプス少佐は少し考え、手元の表示を確認した。
「了解した。こちらで運用を組み直す。哨戒範囲や補給予定は、状況を見ながら私の方で調整して構わんな?」
「もちろんです。アルビオンの運用は少佐に任せます。部隊全体で配置を変える必要が出た時だけ合わせましょう」
「了解した」
「MSも今の小隊のままでいいのか?」
「それでお願いします。こちらの小隊はこのまま地上へ持っていくよう装備を整理します」
「了解した」
通信を終え、レイブン側にも準備を回す。
艦橋へ戻る頃には、ノエルさんが二艦間の連絡系統を整理し始め、レイアム大尉も降下に必要な確認項目を出していた。こっちが地球へ降りた後も、アルビオンとの情報共有は続ける。
シーマ中佐が地球を表示したモニターを見ながら、こちらへ顔を向けた。
「今度はあたしたちが下りるのかい?」
「はい。地上で戦線が動き始めた以上、一隻は下に置いた方がいいと思います。それにやっていきたいこともありますしね」
「アルビオンは宇宙か」
「シナプス少佐に任せました」
「なら、こっちはこっちで地上用に積み直しだね」
用意しておいたベースジャバーも、ようやく本来の使い道が来たことになる。これを見越して地上用の他準備もしておいて損はなかった。
「大佐、降下地点はどうしますか?」
「まだ決めません。地上側の補給拠点と情勢を見て、無理なく受け入れられるところから選びましょう」
「了解しました。候補を絞っておきます」
レイアム大尉が答え、ノエルさんも必要な情報の収集先を追加していく。
格納庫では地上へ持っていく装備の確認が始まり、重力下用に様々な位置も改めて調整された。宇宙用装備を全部降ろすわけではない。何を持っていき、何をアルビオン側へ残すかを整備班と補給担当が詰めていく。久しぶりに地球での活動になる。
準備が整ったのは、それからしばらく日数がたってからだった。
「大佐、降下航路へ入れます」
レイアム大尉の報告を受け、正面モニターを見る。地球が画面の大半を占めている。
「お願いします」
「了解。レイブン、降下準備に入ります」
俺たちは地球へ降りる。きっと様々なことが起きるであろう地球に。
迷った結果。
レン以外の視点でも描写する形になりました。エゥーゴに入らないのでどうしても原作側の描写ができないので迷いまくった結果です。
誰かは予想しといてください。