ちょっと長いです
レイブンがホンコン沖へ入ると、先に到着していたアウドムラの巨体が海上に浮かんでいた。周囲には補給用の船が付き、陸側との間を小型艇が何度も往復している。軍の基地へ入っているわけではない。独立自治区としてのホンコンの立場と都市の補給能力を使い、必要な物資を揃えているらしい。
レイブンも少し離れた海域で停まり、俺たちは連絡艇で陸へ向かった。シーマ中佐、クリスさん、クスコさん、ノエルさん、レイアム大尉、マウアー、それにキョウも一緒だ。ジョブだけは先に別のルートでA.E.から届いたカラバ用の機体の確認を任せていた。
船着き場へ上がると、ハヤトとアムロがこちらを待っていた。その後ろにはカミーユたちの姿もある。
「ずいぶん大人数で来たな」
聞き覚えのある声に、俺はハヤトの方へ歩いた。その横にアムロがいる。こうして二人が並んでいると一年戦争の頃を思い出す。
「アルビオンは宇宙に残してますよ?」
「聞いてる。だがレイブンが地上にまで来るとは思ってなかったからな」
「俺も、こんなに早く下りることになるとは思ってなかったよ」
アムロが俺の後ろへ目を向け、少し表情を緩めた。
「クリスさん、クスコさん。久しぶり」
「久しぶり。地上でまたMSに乗ってるって聞いたけど」
「俺だって借り物で戦うとは思ってなかったよ」
「借り物でアッシマーを落としたなら十分でしょう」
クスコさんがそう言うと、アムロは少し困ったように肩をすくめた。
「その話、もう回ってるのか」
「レイブンに戦闘記録が来てるからね。それよりララァさんには連絡した?」
「したよ。できるときにしとかないと心配なんだ」
クリスさんが笑い、クスコさんもそれ以上は追わなかった。何年か前ならこのまま格納庫で機体の話が始まっていただろうが、今は互いにいる場所が違う。
ハヤトとはその場で地上側の連絡範囲だけを合わせた。必要なのは、同じ空域へ知らずに入り込まないことだった。アムロは旧知の仲で談話している。あの様子だとララァとの経過報告かな。
「こっちはしばらくここで補給を行う。何か別件で動くなら先にくれ」
「分かった。こっちも動く前には連絡するよ」
そこで、少し離れたところにいたカミーユと目が合った。ヒルダさんをアーガマへ送り届けた時以来だ。
「カミーユ、地上に残ったって聞いたよ」
「残るつもりだったわけじゃないです。戻ろうとはしたんですけど、ヒッコリーで戦闘になって」
「そこも聞いてる。無事ならよかった」
「そちらもわざわざ地上にまで来たんですね」
「放っておける状況でもなくなってきたしやることもあるからね」
カミーユが何か返そうとしたところで、隣にいたキョウへ視線が移った。キョウもそれに気づきカミーユを見返した。
「……何?」
先に言ったのはキョウだった。
「いや。ちょっと気になっただけ」
「女の子をあんまりジロジロ見るのは良くないよ?」
「ご、ごめん」
「冗談、いいよ。別に嫌な感じじゃないし」
そこでキョウは俺を見る。
「お兄ちゃん、この人がカミーユ?」
「うん。前に話した時の」
「母親を助けた時の?」
「そうだよ、その時の」
「それなら分かった。よかったね!お母さん無事で」
「う、うん。ありがとう」
キョウはそれ以上気にした様子もなく、今度はアウドムラの方を見上げた。カミーユも少し驚きはしたが軽くお礼を言うだけで、追って聞くことはしなかった。お兄ちゃん的には恋愛は早いと割り込むつもりだったが特になにもなさそうだ。
そうこう話をしていると、ハヤトが二人のパイロットを連れてきていた。
「こっちはシイコ・スガイとバーナード・ワイズマン。どちらも元軍属で一年戦争経験者だ。今は二人ともカラバでMSパイロットをしてもらっている」
「シイコ・スガイです」
「バーナード・ワイズマンです。バーニィで構いません」
え?この二人カラバにいるのか。バーニィに関してはサイクロプス隊の存在もいたのかどうなったか想像つかなかったけど生き残ってたらしい。シイコさんは一年戦争で名前は聞いたことあったけど、どうなってここにいるんだろう。いや、さすがに聞きにくい。
挨拶の途中でクリスさんが近くを通り、バーニィの視線が一瞬そちらで止まった。クリスさんは普通に会釈しただけだったが、バーニィの返事が遅れる。
「クリスチーナ・マッケンジーです。よろしく」
「え、あ、はい。よろしくお願いします!」
「……バーニィ、美人だからって固まらないの」
「か、固まってないって」
シイコさんが横から言うと、バーニィは明らかに視線を逸らした。クリスさんは理由が分からないまま少し首を傾げたが、追及する前にマウアーの端末へ通信が入った。
「大佐、ジョブ准尉からです。別ルートから送られてきたカラバへの積荷の搬入が終わったそうです。A.E.側の担当も受領確認を待っています」
「ちょうどいいですね。行きましょうか」
ハヤトとアムロも一緒に格納区画へ向かった。シイコさんとバーニィも今回の荷の受取側なので、そのまま付いてくる。
区画へ入ると、ジョブはすでに機体の前でA.E.の担当者と端末を突き合わせていた。運搬用の固定具はまだ外されておらず、整備員が外装と接続部を確認している。
「遅い」
「合流したばかりなんだから仕方ないだろ。状態は?」
「輸送中の異常はなし。書類と現物の番号も合ってる。細かいところはこれから見る」
ジョブが最初に示したのは、明らかに形の違うガンダムタイプだった。
「アムロ用。デルタガンダム改。A.E.から回ってきた仕様書はコクピットに入れてある。変形機構まで含めて、実際に動かす前に一度確認してくれ」
「これを俺に?」
アムロは機体を見上げたまま、しばらく動かなかった。驚いているというより、外形から何かを読み取ろうとしている時の顔だった。やがて昇降索へ手を掛ける。
「電源は入れていいか?」
「確認だけならな。動かすなよ」
「分かってる」
「その言い方、昔から信用できないんだけど」
クリスさんが横から言うと、アムロが途中で振り返った。
「クリスさんまで言うのか」
「新しい機体を渡された時のアムロを知ってるから言ってるの」
そのままアムロはコクピットへ上がっていった。電源が入り、機体の各部が確認状態へ移る。しばらくすると内部回線からアムロの声が聞こえた。
『操作系は分かる。反応設定はあとで少し見る。変形は実際に外へ出てから確認した方がいいな』
「最初から全部弄るなよ。A.E.側の初期値も残しとかないといけないんだから」
『分かってるって』
ジョブは返事を聞きながら次の機体へ移った。シイコさんにはリック・ディアス、バーニィには今回搬入されたネモの一機。二人とも機体の周囲を回りながら、整備員から必要な確認だけを受けている。バーニィはさっきまでよりずっと真面目な顔になっていて、クリスさんの方を見る余裕もなくなっていた。
俺はデルタガンダム改を見上げた。アムロがまたガンダムタイプのコクピットへ収まっている。それだけでも妙に見慣れた光景に思えた。この世界のデルタガンダムはどうなったんだろう?改というからには改修が入ってるからやっぱ問題があったのかな。
その時、マウアーが俺の横へ来た。
「大佐、中央から返答が来ました。ムラサメ研究所への立入査察要請、承認です。証拠保全と人員保護を含む現地確認まで許可が出ています」
「通った?」
「はい。命令書は受領済みです。秘密作戦扱いなのであちらにはまだ気づかれてないと思います」
「じゃあ、予定を前に詰めよう。レイブンを出します」
ホンコンへ向かうことが決まった時点で、研究所への立入要請だけは先に上げていた。ホンコンに来れば、どうしてもムラサメ研究所とサイコ・ガンダムが頭に浮かぶ。フォウになるはずだった子は、今はキョウとしてレイブンにいる。
キョウがここにいる以上、同じ形にはならない。それでも研究所そのものが消えたわけじゃないし、一人を先に助けたから全部終わったと考える方が危ない。この機会にいくつかのニュータイプ研究所に介入しようと決めていた。
ハヤトへ移動を伝えると、向こうも理由を細かく聞こうとはしなかった。
「日本へ?」
「うん。連邦の研究施設を査察確認する。正式な立入許可が取れたから早めに行きたいんだ」
「分かった。こっちはまだ補給もあるしホンコンに居る予定だ。何かあれば回す」
「お願いします。こっちも連絡を出来るだけ切らさないようにする」
キョウにもレイブンへ戻ることを伝えると、少し不満そうな顔をされた。
「せっかく街に降りたのに、もう戻るの?」
「ごめん。用事ができた」
「帰ってきたら街は見たいな」
「それは約束する」
キョウはそれで納得し、先にレイブンへ戻る車両へ向かった。格納区画では、アムロがデルタガンダム改のコクピットから降りてくるところだった。
「もう行くのか?」
「ちょっと日本まで。その機体、できるだけ早く慣らした方がいいよ」
「簡単に言うなよ。変形機構は初めてなんだ」
「アムロなら大丈夫だろ」
「信用してるようで適当に言ってるだろそれ」
昔と変わらない返しに少し笑い、俺はその場を離れた。レイブンがホンコンを離れたのは、それから間もなくのことだった。
◇
レイブンが見えなくなってからしばらく後、アムロはデルタガンダム改のコクピットで実際の動きの実施確認をしていた。地上での運用を考えれば、機体だけで飛行形態へ移れるのは大きい。だが変形を挟んだ時の入力感覚は、さっきまで使っていたリック・ディアスとはまるで違う。
「変形時の無防備時間が長いのか……」
『カタログでもそこに注意するよう書いてありますね。ベースのデルタガンダムも変形に問題があったみたいです。戦闘中切り替えながらは難しいので移動専用ですね』
「なるほどな。そこを無くしたのが百式で、これは戦闘変形を諦めて移動で残した形ってわけか」
通信を返した直後、格納区画に警報が響いた。
外部映像を切り替える。ホンコン市街の一角で爆発が起き、続けて別の場所から煙が上がる。最初は航空機かと思った影が建物の向こうへ回り込み、その全体が見えた瞬間、アムロは言葉を失った。
「何だ、あれ……」
モビルスーツと呼ぶには大きすぎる。巨大な機体が市街地の上を移動し、そこから放たれたビームが道路脇の建物を吹き飛ばした。機体はそのまま形を変え、地上へ降りる。立ち上がった姿は周囲の建物と比べても異様なほど大きかった。
ハヤトから回線が入る。
『アムロ、そのまま向かえるか?』
「行ける!」
『カミーユもMk-IIで出す。シイコとバーニィも出す。市街地で無理に追い回すな』
「了解」
初めて実戦へ出す機体で迷っている時間はない。すぐ飛行形態へ移す。変形そのものは滑らかだったがすぐというわけではない、タイミングを間違えたら撃墜されるだろう、しかし移動と加速が予想より一段強い。操縦桿へ余計な力を入れず、速度が乗るまで待ってから市街地へ向きを変えた。
少し遅れて、ド・ダイ改に乗ったMk-IIが上がってくる。
『アムロさん、見えますか?』
「ああ。正面から近づくな。攻撃手段が分からない」
言った直後、巨大機から複数の光が走った。
アムロはデルタを横へ滑らせる。背後でビームが空を裂き、さらに一発が道路へ落ちる。爆発で車両が跳ね上がった。
「カミーユ、上へ引くぞ。街から射線を外す!」
『分かってます!』
Mk-IIが上方から射撃し、巨大機の意識を自分たちへ向ける。相手はすぐ上体を回し、今度は二機へ向けて撃ってきた。機体が大きいから鈍いと思うのは間違いだった。姿勢を変える速度そのものは速く、射撃の範囲も広い。
アムロは少し遠めに離れてからデルタを変形させ、MS形態へ戻す。上空からライフルを撃ち、巨大機の腕へ当てた。直撃はした。だが機体は止まらない。
「硬い……!」
巨大機が腕を上げる。アムロは再び上昇し、続く射撃を外した。操作系は素直だが、機体の反応が自分の予想より先へ行くことがある。慣れればもっと詰められる。それでも今は、街の中で限界を試す場面ではない。
Mk-IIが別角度から接近した。カミーユは建物を背にしない位置を選び、巨大機の頭部近くへライフルを向ける。その瞬間、通信に低い声が漏れた。
『……待って』
「どうした?」
『あの中……何か……』
言葉が途切れ、アムロにも遅れて妙な感覚が触れた。敵意とは違う。強い圧迫感があり、その奥で何かが無理に引き伸ばされているような、落ち着かない感覚だった。方向は巨大機から来ている。それ以上は分からない。
「カミーユ、止まるな!」
『でも、あのパイロット……!』
Mk-IIの射撃が一瞬遅れ、ほとんど同時に巨大機の動きも止まった。ほんの一瞬だったが、それまで街と二機へ向け続けていた攻撃が途切れる。巨大な頭部がMk-IIの方へ向き、別の目標には反応しない。
『聞こえるのか……? 僕の声が』
返事はなかった。代わりに巨大機の腕がゆっくり上がる。嫌な感覚に、アムロはデルタを前へ出した。
「カミーユ、下がれ!」
ビームが放たれる。Mk-IIはベースジャバーを急降下させて避けたが、今度の射撃はさっきまでと違い、狙いが明らかにカミーユへ集中していた。
アムロは巨大機の側面へ回り込み、ライフルを撃ち込む。二発目が肩の外装を削り、相手がこちらを向く。その間にカミーユが距離を取った。
『アムロさん、あの人……苦しんでる』
「分かるのか?」
『すごく近くにいる感じがする。何を考えてるかまでは分からないのに』
アムロは答えなかった。自分にも何かは感じる。だがカミーユほど近くない。二人の間に何があるのか、外から決めつけられるほど分かってはいなかった。
その時、避難路側から上がってきたリック・ディアスの射撃が巨大機の脚部外装を掠めた。アムロも続けて肩口へ一発を当てる。巨大機の挙動が大きく揺れ、次の瞬間には変形を始めた。形を変えながら上昇し、市街地から離れていく。
「逃げるのか?」
アムロは一度追いかけかけて、下の街を見た。煙の上がっている場所がいくつもある。避難中の車両もまだ動いている。
「カミーユ、追うな。街を見ろ」
『でも!』
「今追って、また街へ戻ってこられたら余計に被害が出る。敵の位置は追わせる。俺たちは下だ」
『……分かりました』
Mk-IIが速度を落とす。巨大機はそのまま遠ざかり、やがて市街地から見えなくなった。アムロは最後まで機影を追ったが、カミーユが感じたものについては何も答えが出なかった。
◇
レイブンがムラサメ研究所の外周ゲートへ着いた時、こちらの命令書はすでに届いていた。それでも中へ入るまでには少し時間がかかった。
「受領確認は取れています。立入範囲も命令書に明記されています」
マウアーが相手側の担当者へ端末を見せている。その横でノエルさんが研究所から出ている通信を整理し、俺はゲートの向こうを見ていた。
『隊長、外周は押さえたよ。逃げる車両が出たら止める。ただし撃つのはそっちから危険行動があった時だけにする』
「お願いします、シーマ中佐。職員は拘束じゃなく確認からで」
『分かってるよ』
クリスさんとクスコさんは保全要員と一緒に先へ入る準備をしている。レイブンは少し離れた位置でレイアム大尉が運用を続け、キョウは艦内に残した。ここへ本人を連れてきて何かを思い出させるつもりはない。
ようやくゲートが開き、俺たちは研究所へ入った。中にいた職員の全員が抵抗したわけではなかった。むしろ命令書を見て黙って作業を止める人間の方が多い。それでも一部の端末では記録削除の操作が走っており、ノエルさんが気づいた時点で保全班が外部回線を切った。
「大佐、研究棟の記録系を分離します。これ以上の上書きは止められます」
「お願いします。消えた分もできるだけ復元で」
「はい」
マウアーは職員の身元と所属を確認し、勝手に退出させないよう手続きを回している。俺はクリスさんたちと奥へ進んだ。医療区画には使われた形跡があった。ベッド、固定具、検査設備。今この場に何人の被験者が残っているのかはまだ分からない。空になっている部屋も多い。
記録を押さえて、人を探して、誰がどこへ送ったか一つずつ追うしかない。
しばらくしてノエルさんから呼ばれた。
「大佐、こちらを見てください」
研究棟の端末に、被験者管理の一覧が開かれていた。名前ではなく番号が先に並び、その中に見覚えのある数字があった。
004
画面を開く。登録呼称――フォウ・ムラサメ。
思わず手が止まった。添付された記録の人物は、キョウじゃない。顔も違う。身体データも一致しない。別人だった。
「……どういうことだ」
キョウを助けたことで、一人分の流れは確かに変わった。けれど研究所は続いていたということか。空いた場所へ別の人間が入った。少し考えればわかる話なのにキョウを保護してそこで満足して思考放棄していた。端末の右端に、直近の移送記録が残っている。
「これ、移送先は?」
「ホンコンです。機体運用試験の随伴要員として――」
ノエルさんの言葉とほとんど同時に、マウアーから通信が入った。
『大佐、ホンコンから緊急報告です。巨大な可変機が市街地を攻撃。アムロ少佐とカミーユ・ビダンが迎撃し、現在は敵機離脱。外形データが届いています』
「こっちへ回して」
端末へ送られてきた映像を開く。黒い巨大機。見間違えるはずがなかった。
俺はもう一度、004の記録へ目を戻した。登録呼称の下に、運用機材の欄がある。
サイコ・ガンダム。
「ノエルさん、この子の移送記録を全部追ってください。ほかの被験者も同じです。残ってる記録と人員は全部押さえます」
「了解です」
俺は端末の表示を閉じず、そのまま次の記録を開いた。
シイコとバーニィは前作の時点でカラバ入りは決めてました。疑惑のシンとかはカラバにいません。
ここからさらに色々変わるので賛否あるとおもいますがよろしくお願いします。
明日から一日12時に1話ずつになりますごめんなさい!
【挿絵表示】
デルタガンダム改のイメージ図になります 例によってAI出力で差異があります 頭部詳細が正式な頭ですウェイブライダー形態も整合性が ん?ってなると思いますがふわっとイメージということでお願いします
デルタガンダムの剛性はクリアしましたが滑らかな変形が難しいなどの問題が発生したため百式と改に分かれました。
カミーユ君のあのデータがA.E.の変形技術のターニングポイントになります。