サイコ・ガンダムの腹部が光った瞬間、アムロは機体を横へ振った。同時にビームライフルを撃ち、カミーユへ向きかけた巨体の右腕を叩く。装甲を抜くには至らなかったが、射撃姿勢は崩れた。直後に放たれた複数のビームがMk-IIの脇を通り抜け、その先にあった建物の上層をまとめて吹き飛ばす。
「カミーユ、右へ抜けろ!」
Mk-IIが道路の上を低く滑り、倒れ込んでくる外壁をかわした。
『分かってます!』
アムロはサイコ・ガンダムとの距離を詰めすぎず、巨体と市街地の位置を見ながら側面へ回る。単純に撃破するだけなら、もっと危険な場所を狙えばいい。だが、コックピットにはフォウがいる。だからといって助けることに固執し、市街地への砲撃を許すわけにもいかなかった。
サイコ・ガンダムがMk-IIを追う。アムロはもう一発を脚部へ当て、その注意をこちらへ向けた。巨体が振り返り、指先の砲口がデルタガンダム改を捉える。
「正面から止めようとするな。僕が火力を引き受ける。君は近づける時だけ近づけ」
『でも、フォウが……』
「助けるんだろ。だったら君までやられたら終わりだ。俺もコックピットは狙わない。ただし、街を撃たせそうになったら止める」
『……はい』
アムロは短く加速して高度を変えた。直前までいた空間をビームが抜け、背後で爆発が起こる。デルタガンダム改を追わせたまま、今度はMk-IIから遠い側へ機体を振った。
初戦の時よりも、サイコ・ガンダムの動きは荒い。だが弱くなったわけではない。巨体に似合わない反応で照準を切り替え、こちらが一機だけなら押し切られていてもおかしくなかった。
『フォウ! 僕だ、カミーユだ! 聞こえてるんだろ!』
Mk-IIからの呼びかけが開いた回線へ流れる。サイコ・ガンダムの腕が途中で止まった。
『……聞こえてる』
『だったら、話を聞いてくれ!』
『来ないで!』
『フォウ?』
『あなたが近づけば、私はあなたを撃たなきゃならない』
アムロは二人の会話へ割り込まなかった。返事がある。それだけでもさっきまでとは違う。
『撃ちたいのか?』
『そういう話じゃない! 私はここで戦うの。あなたたちは敵。それでいいのよ!』
『よくないから聞いてるんだ!』
サイコ・ガンダムが再び動いた。
今度はMk-IIへ向けて腕を振る。その動きを見たアムロは腹部の砲口が開くより先に射撃し、照準をずらした。ビームはカミーユではなく道路を抉る。
フォウは話せる。カミーユの声にも反応している。ならば、あとはカミーユ自身がどこまで届くかだ。アムロは機体をサイコ・ガンダムの左側へ回し、脚部へ二射を集中させた。一発が外装を弾き飛ばし、巨体が姿勢を戻すために一瞬だけ動きを止める。
「カミーユ、行くなら今だ!」
Mk-IIが加速した。
アムロはその背中を追わず、周囲へ視線を広げた。カミーユをフォウまで行かせるなら、その間はこちらが外を持たせるしかない。
◇
アウドムラへ続く道路の西側から、ティターンズのMS三機が低空で侵入してくる。
シイコはリック・ディアスを旋回させ、道路と敵の間へ入った。向こうを全機撃墜する必要はない。避難路とアウドムラへ近づけなければ、それで役目は果たせる。
「右の一機は私が持つ。バーニィは道路側を空けないで」
『了解!』
先頭の一機がライフルを構えた。シイコは撃ち合わず、高度を落としながら倉庫群の外周へ回る。敵が照準を追ってきたところで一発を返すと、相手は回避のため外側へ膨らみ、避難路から自分で離れた。
残る二機のうち一機が、その隙を突いて道路へ向かう。
「バーニィ、そっちへ一機行ったわ!」
『見えてます!』
ネモが建物の陰から姿を見せた。バーニィは道路の正面へ立たず、側面から射撃して敵の注意を引く。相手が応射した時にはもう建物の裏へ入り、次に出てきた時には位置を変えていた。
それを追えばアウドムラから離れる。無視して進めば側面を撃たれる。敵は速度を落とさざるを得なかった。
「そのまま引きつけて。追いすぎなくていい」
『分かってますよ。ここを抜かせなきゃいいんでしょう?』
「そういうこと」
シイコが相手にしていた機体が再び道路側へ向こうとする。リック・ディアスを後ろへ回し、推進器を狙って撃つ。敵は直撃を避けたものの、大きく上昇して進路を外した。
その時、別方向からビームが走った。
『シイコさん、下!』
バーニィの声とほぼ同時に機体を沈める。ビームがリック・ディアスの肩口を掠めて抜けた。
「助かったわ」
『借りにしといてください』
「言うようになったわね」
ネモを追っていた敵がこちらへ向きを変えた。バーニィはその背後へ回ろうとはせず、避難路側へ機体を戻す。シイコも深追いをやめ、二機で守る範囲を崩さなかった。
遠くにはサイコ・ガンダムの巨体が見える。その周囲をデルタガンダム改とMk-IIが動き続けていた。向こうがどうなっているかは気になる。だが、ここを離れれば通常部隊がアウドムラへ届く。
「バーニィ。向こうは向こうに任せる。私たちはこっちを守るよ」
『了解。こっちもまだ終わってませんからね』
敵の一機が再び高度を落とした。
シイコはその動きへ合わせ、リック・ディアスを前へ出した。
◇
アムロが作った一瞬の隙へ、カミーユはMk-IIを突っ込ませた。サイコ・ガンダムの右腕が持ち上がる。指先の砲口がこちらを向くより早く懐へ入り、そのまま巨体の上半身へ機体を上げた。
「フォウ! 撃つな!」
『来ないでって言ったでしょう!』
「聞けない! 僕は君と話す!」
Mk-IIが装甲へ手をかける。
『何考えてるのよ、馬鹿!』
フォウの声は怒っていたが、至近距離のMk-IIへ砲撃は来なかった。カミーユは機体を固定し、コックピットを開く。風が一気に入り込み、警報音が耳へ刺さった。
『カミーユ、何をする気だ!』
「話します!」
『……分かった。外は僕が持たせる。ただし長くは無理だ。危ないと思ったらすぐ戻れ』
「はい!」
命綱を固定し、Mk-IIからサイコ・ガンダムへ移る。巨体の振動が装甲越しに身体へ伝わってくる。外ではデルタガンダム改の射撃音が続き、ティターンズ機が近づくたびにアムロが撃墜するか押し返していた。
コックピットブロックへ辿り着くと、カミーユはハッチの近くへ身体を寄せた。
「フォウ、開けてくれ。ここまで来たんだ。ちゃんと顔を見て話したい」
すぐには反応がなかった。
外で爆発が起き、機体全体が揺れる。時間がないことは分かっている。それでも、ここだけはフォウが決めなければならなかった。
やがてロックが外れた。
ハッチが開き、カミーユは中へ身体を滑り込ませる。フォウが自分でハッチを閉じると、外の戦闘音が遠くなった。
「本当に入ってくるなんて」
操縦席に座ったフォウは、呆れたようにこちらを見ていた。市街地で会った時と同じ少女だったが、今はパイロットスーツを身につけ、額には汗が浮かんでいる。
「開けてくれたじゃないか」
「開けなかったら、そのまま外にしがみついていそうだったから」
「それもそうか」
「馬鹿ね」
「それ、今日何回目だよ」
フォウは言い返しかけたが、途中でやめて正面へ向き直った。
「それで? 戦うのをやめろって言いに来たの?」
「それもある。でも、先に聞きたい。どうしてここへ戻ったんだ」
フォウの表情が硬くなる。
「あなたには関係ないでしょう」
「分からないから聞いてるんだ」
カミーユは言い返した。
「全部知ってるわけじゃない。君が何をされてきたのかも、何が必要なのかも知らない。だから、知ったようなことを言いたくない」
フォウはしばらく黙っていた。視線だけが、操縦盤の上を彷徨う。
「……薬を飲まなかった日はないわ。検査も、調整も。決められた時間に受けて、それでずっとやってきた」
そこで一度言葉を切り、自分の手を見る。
「だから分からないのよ。どれをやめていいのかなんて、私に分かるわけないでしょう。ここを出て薬を飲まなくなって、身体がおかしくなったら? 頭が割れそうになったら、動けなくなったら? 今までされてきたことの中に、本当に必要なものがあったらどうするの?」
カミーユはすぐには答えなかった。
「……それは、僕には分からない」
「でしょう?」
フォウが笑った。乾いた、短い笑いだった。
「それに私、人を撃ったのよ。街も撃った。ティターンズに言われたからって、それでなくなるわけじゃない。あなたたちのところへ行って、捕虜にでもなれば全部終わるの?」
「終わらないよ。君が撃ったことまで、なかったことにはできない」
今度は迷わず答えた。
「だからって、分からないことまで僕が勝手に決めていいとは思わない。君の身体に何が必要なのかも、薬を止めていいのかも、今までの調整がどこまで必要だったのかも僕には分からない」
「だったら、ここにいるのと同じじゃない」
「同じじゃない」
思わず強く返してから、カミーユは言葉を探した。
「ここにいたら、その薬が君のために必要なのか、君を戦わせるために必要なのか、それを君が聞くことすらできないだろ。身体がどうなるかより、次に戦えるかどうかを先に決められる。今までだって、そうだったんじゃないのか?」
フォウは何も言わなかった。
「外へ出れば全部うまくいくなんて言わない。でも、痛いなら痛いって言えるし、もう嫌だって言うこともできる。それを聞きもしないで戦わせようとするなら、おかしいって言える」
フォウの視線がゆっくり上がった。
「……そんなこと、一度だって聞かれなかったわ」
カミーユは返す言葉を失った。
しばらくして、フォウが小さく続ける。
「あなたは違うっていうの? 私が嫌だと言ったら聞くの? あなたたちを信用できないと言っても?」
「聞くよ。信用できないなら、それでもいい」
フォウが怪訝そうに眉を寄せる。
「まともに話したのだって、まだ二回目だろ。そんな相手に、いきなり全部任せろって言われた方が怖いよ。僕だって逆なら信用しない」
「……変な人」
「それは前にも聞いた」
フォウの口元がわずかに動いた。
その瞬間、外で爆発が起こった。サイコ・ガンダムの巨体が揺れ、警告音が重なる。フォウの右手が反射的に操縦桿へ伸びる。だが、触れる寸前で止まった。
カミーユはその手を見ていた。
「君に撃たれた時、本当に何度も死ぬかと思った」
フォウの表情が固くなる。
「……だから何? やっぱり許せないって言いたいの?」
「怒ってないなんて言わないよ。でも、それと君をこのまま戦わせることは別だと思ってる」
「私、あなたの敵なのよ」
「今はね」
カミーユは否定しなかった。
「だから戦った。でも、敵なら死ぬまで戦わせていいなんて思わない。まして、君が自分で戦いたくてここにいるのかも分からないのに」
フォウの目がわずかに揺れる。また衝撃が走った。今度は近い。コックピットの表示が一瞬乱れ、赤い警告が増えていく。それでもフォウの手は操縦桿へ戻らなかった。
カミーユはその様子を見てから、静かに口を開いた。
「だから、一つだけ聞きたいんだ。研究所がどうとか、ティターンズの命令とか、戻ったらどうなるとか、そういうのを全部抜きにして」
フォウがこちらを見る。
「君は今、この機体に乗って僕たちと戦いたいのか?」
「……そんなわけないでしょう」
「街を撃つのも?」
「やめて」
「だったら――」
「戦いたくない!」
フォウの声がコックピットに響いた。言った本人がいちばん驚いたように目を見開く。カミーユは何も言わなかった。警告音だけが狭い空間に響き続けている。
やがてフォウが俯き、小さく息を吐いた。
「……戦いたいわけないじゃない。最初から」
「だったら、まずそれをやめよう」
フォウが顔を上げた。
「そんな簡単に言わないで。ここで止めたら、その後どうなるの? 身体がおかしくなるかもしれない。研究所にも戻れなくなるかもしれない。それでも、あなたは責任を取れるの?」
「全部は取れない」
フォウの表情がわずかに強張ったが、カミーユは続けた。
「君の身体を絶対に治せるなんて言えないし、この先何も起きないとも言えない。でも、今ここで全部決めなくてもいいだろ。身体のことは戦うのをやめてから考えればいい。少なくとも今度は、君をまた戦わせるためじゃなくて、君がどうしたいかを聞きながら」
フォウは黙った。
カミーユも急かさなかった。
外ではまだ戦闘が続いている。赤い光がコックピットを何度も横切り、そのたびに二人の顔を照らした。
「……研究所には、もう戻れないかもしれない」
「戻りたいのか?」
その問いに、フォウはすぐには答えなかった。長い沈黙のあと、唇が小さく動く。
「戻りたくない」
声は小さかった。けれど、今度は聞き返す必要がなかった。カミーユは頷いた。
「だったら、戻らなくていい。先のことは、その後で考えよう」
「本当に簡単に言うのね」
「簡単だなんて思ってないよ」
カミーユは首を振った。
「僕には君の身体を治せるなんて約束できない。撃ったことを消してやることもできないし、これから全部うまくいくとも言えない。でも、今ここで君が嫌なのに戦い続ける必要はない。それだけは言える」
フォウはじっとカミーユを見ていた。やがて、その視線が操縦桿へ落ちる。
「……ここで止めたら、私が止めたことになるの?」
カミーユは一瞬、意味を測りかねた。
「あなたに止めさせられたんじゃなくて。命令されたからでもなくて……私が決めたことになる?」
その言葉で、ようやく分かった。
「なるよ」
フォウはしばらく動かなかった。やがて操縦盤へ手を伸ばす。兵装系の表示が一つずつ落ちていった。射撃管制が待機へ移行し、サイコ・ガンダムの腕がゆっくりと下がっていく。低く響いていた駆動音も、戦闘時の唸りから静かなものへ変わった。
フォウは消えていく表示を見つめていた。
「……私が止めたの」
「ああ」
カミーユは、それ以上何も言わなかった。
『カミーユ!何があった!』
アムロから通信が入る。
「フォウが止めました。自分で戦うのをやめたんです」
『分かった。なら機体はそのまま動かすな。ティターンズが近づいている。二人とも早く出るんだ!』
「はい!」
通信を切ると、フォウは操縦席の固定具を外した。
「これで、本当に戻れないかもしれない」
「怖い?」
「怖いわよ」
フォウは立ち上がった。
「でも、ここに残る方が嫌」
カミーユが手を差し出す。フォウはその手を一度見てから、自分から掴んだ。
「連れていってもらうんじゃないわ。私が出るって決めたの」
「分かってるよ」
二人は一緒にMk-IIのハッチへ向かった。
◇
サイコ・ガンダムが完全に停止したのを見て、アムロはデルタガンダム改を巨体とティターンズ部隊の間へ入れた。
二機が接近してくる。だが、カミーユとフォウがまだ中にいる以上、近づけるわけにはいかなかった。
一機がライフルを構えた。
アムロは撃たれるより先に撃つ。機体が弾き飛ばされ、もう一機がそれを見て離れていく。追撃に出ず、自分の位置をずらして再びサイコ・ガンダムとの間へ入る。
『二人とも出ます! フォウも一緒です!』
カミーユから通信が入った。
「分かった。そのままアウドムラへ下がれ。僕が後ろを持つ」
『了解!』
地上側へ目を向ければ、アウドムラへ向かっていた通常部隊も前進を止めている。シイコとバーニィが避難路を守り切り、サイコ・ガンダムまで停止したことで、ティターンズ側の攻勢は明らかに崩れていた。
「残したままでまた利用されても面倒だな」
誰もいない開けられたコックピットにライフルを撃ちこみ破壊した。そして後方では大型機が動き始めていた。
「ハヤト、あの大型機は?」
『スードリだ。敵側の母機の一つだ』
「撤退する気か」
『そのようだ。こっちから追える戦力は限られている』
「俺が行く。宇宙へ戻るための装備を持っている可能性がある。落とさずに止めてみる」
『市街地へ墜とすなよ』
「分かってる」
アムロはデルタガンダム改を市街地の外へ向ける。十分に距離を取ったところで飛行形態へ移行し、上昇を始めたスードリを追った。大型機から迎撃が来る。正面へ入らず高度差をつけ、側面へ回り込む。スードリの進路はすでに市街地から外れていた。
アムロは外側の推進系へ照準を絞った。一射目で外装が飛ぶ。二射目を受けるとスードリの上昇が鈍り、機体が大きく揺れた。
「それ以上上がるな! 次は墜とすぞ!」
返答はないがスードリは上昇を続けなかった。速度を落とし、市街地から離れた空き地へ高度を下げていく。護衛機も一度はデルタガンダム改へ向き直ったが、攻勢を立て直せないまま退いていった。
アムロは着地するまでスードリを監視した。地上部隊が接近し始めたのを確認してから、デルタガンダム改をアウドムラへ戻した。
*
フォウがアウドムラへ運ばれた頃には、周辺の戦闘音もかなり遠ざかっていた。
カミーユはMk-IIを降りたまま、医療要員に囲まれたフォウのそばにいた。意識ははっきりしているが、戦闘直後ということもあって顔色はよくない。
ハヤトが歩いてくると、まず医療要員へ目を向けた。
「身体の確認を先にしてくれ。研究所で使っていた薬や処置の情報が手に入るなら、それも照合してほしい。必要な薬までこっちの判断で止めるな」
「分かりました」
フォウがハヤトを見る。
「私が誰か、知ってるの?」
「フォウという名前と、ムラサメ研究所の強化人間だというところまでは聞いている。全部を知っているわけじゃない」
「それで、ここに置くの?」
「今は治療が先だ。君は戦闘をやめて、自分から機体を降りた。その状態でティターンズへそのまま返す理由はない」
「私を信用するの?」
ハヤトは少しだけ表情を硬くした。
「信用できるだけの付き合いはまだないよ。でも、信用するかどうかと、治療が必要な人間を診るのは別だ。ここでは一時的に受け入れる。その先のことは、身体が落ち着いてから決めればいい」
フォウはしばらくハヤトを見ていたが、やがて小さく頷いた。
「分かった」
医療班が担架を動かそうとしたところで、フォウがカミーユへ顔を向けた。
「カミーユ」
呼び止められて振り返ると、フォウがこちらを見ていた。
「あなた、宇宙へ行くのね」
問いかけというより、もう答えを知っている声だった。カミーユは少しだけ迷った。それでも、誤魔化す気にはなれなかった。
「うん。Mk-IIをアーガマへ戻さないといけないし、僕も行かなければいけない」
フォウはしばらく黙っていた。
「……私を連れ出しておいて、自分は行くのね」
責めているようには聞こえなかった。だからこそ、カミーユには何も言い返せなかった。
「ごめん」
「違うの、謝ってほしいわけじゃないわ」
フォウは天井へ視線を向けた。
「あなたが残ったって、どうにかなるわけじゃないことくらい分かってる。私の身体のことだって、これからどうなるのか誰にも分からないんでしょう?」
「ああ」
「だったら行けばいいわ。あなたには、あなたのやることがあるんでしょう」
そこまで言ってから、フォウは少しだけ顔をしかめた。
「……分かってるから、腹が立つのよ」
カミーユは思わず苦笑した。
「それなら、しばらく怒ってていいよ」
「そうやって簡単に言うところが腹立つの」
「じゃあ、次に会った時に文句を聞く」
フォウがこちらを見る。
「次?」
「会えたら」
言ってから、カミーユは少し後悔した。会える、と言い切ることはできない自分に。フォウの治療がどうなるのかも、自分が宇宙でどうなるのかも分からなかった。
「……今度は、こんなところは嫌よ」
市街地でもなければ、サイコ・ガンダムのコックピットでもない。
その意味は、聞かなくても分かった。
「僕も嫌だよ。次は、撃ち合わなくていいところがいい」
「当たり前でしょう。ほんとムード作りが下手ね」
フォウが笑った。疲れの残る顔だった。それでも、市街地で初めて話した時と同じ笑い方だった。
やがて医療班が担架を動かし始める。フォウは運ばれていきながら、一度だけカミーユを振り返った。
「カミーユ」
「何?」
「次に会う時は、私が決めるわ」
カミーユは一瞬、その意味を考えた。そして笑った。
「うん。わかった」
フォウはもう何も言わなかった。担架が医療区画へ消えていく。これからどこで治療を受けるのか。身体がどこまで戻るのか。その先をどう生きるのか。まだ何一つ決まっていない。
けれど、それを決めるのはもう研究所でも、ティターンズでもなかった。
カミーユはフォウの姿が見えなくなるまでそこに立っていた。それから振り返り、Mk-IIへ向かった。
*
スードリの確保後、内部に残されていた打上げ資材の確認が進められた。整備側の点検を経て、Mk-IIとデルタガンダム改をそれぞれ宇宙へ上げられるブースターが使えると分かった頃には、戦闘終了からかなり時間が経っていた。
カミーユが打上げ準備へ戻ると、すでにアムロとハヤトが機体の近くにいた。
「本当に二人とも上がるんだな」
ハヤトの言葉にアムロが頷く。
「カミーユはアーガマへ戻る必要がある。俺も宇宙へ行くよ。向こうの状況を見てから、その先は考える」
「分かった。アーガマにはブライトもいるし細かいことは全部任せる。こっちは地上を片づけるだけでもしばらく忙しい」
「フォウのこと、頼む」
「治療が必要な人間を放り出したりはしない。ムラサメ研究所を抑えたレンに連絡して今後の相談もしてみるつもりだ」
「それがいい。あいつに聞けば大体はなんとかなるだろう」
少し離れた場所では、シイコとバーニィが損傷した二機の確認に立ち会っていた。
「結局、二人とも宇宙へ行くんですね」
「地上の仕事がなくなるわけじゃないわよ」
シイコが答える。
「それとも、あなたもついていきたいの?」
「いや、今日はもう十分です。ネモも僕も、しばらく撃たれなくていいですよ」
「それが賢明ね」
「そこは素直に褒めてくださいよ」
カミーユはそのやり取りを聞きながらMk-IIへ向かった。乗り込む前に一度だけアウドムラを見る。
フォウはあの中にいる。
この先どうなるのかは分からない。それでも、あんなことをさせるために運ばれたわけではなかった。カミーユはコックピットへ入り、ハッチを閉じる。
『カミーユ、聞こえるか?』
「聞こえてます」
『打上げ後は俺が先行する。軌道が安定するまではブースター側の制御から外れるなよ』
「分かってますよ」
『本当に? 君はさっき、人の機体に取りついてコックピットまで入ったばかりだからな』
「あれとこれとは別です!」
通信の向こうでアムロが笑った。
『ならいい。上で会おう』
「はい」
発射管制から最終確認が入る。
『デルタガンダム改、打上げ準備完了』
『ガンダムMk-II、打上げ準備完了』
ブースターの振動が機体へ伝わり始める。カミーユはシートへ身体を預け、正面モニターを見た。
二基のブースターは間隔を空け、順に地上を離れた。ホンコンの街が急速に小さくなっていく。やがて雲が視界を覆い、地上は見えなくなった。
カミーユは正面へ視線を戻し、上昇を続けるMk-IIの状態を確認した。
アムロ撃墜スコア6 本気で守る気になったアムロのガンダム抜けるわけもなく
ここでアムロも一緒に宇宙に行きます。
未成年一人をブースターで打ち上げるわけないよな!
スードリは鹵獲 乗員はその辺に武装解いて放逐です。ベン・ウッダーまさかの生存
特別生き残らせる気はなかったんですが流れです
特攻はアウドムラのガードが固すぎて(主にシイコのせい)できませんでした
フォウは無事保護