続・黒いガンダムの宇宙世紀   作:いずりょう

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長めです
1万字くらいあります


第66話 確認

「大佐、所在が出ました」

 

 ノエルさんからの連絡は、俺がクリスさんのいる研究区画へ戻る途中で入った。

 

『ローレン・ナカモト、ナナイ・ミゲルともに研究区画内です。こちらから移動停止をかけた後も、外へ出た記録はありません。保護対象も照合が進んでいます』

「分かりました。二人は俺が確認します。データの複製はそのまま続けてください」

『了解です。あと、A.E.からの出向者が一名、研究協力者の名簿に入っています。詳細はあとで回します』

「アナハイムから?」

 

 聞き返したところで、誰か気にはなるが今はそっちを掘る時間じゃない。マウアーとクスコさんを連れて、そのまま指定された区画へ向かった。

 

 ローレン・ナカモトとナナイ・ミゲルは端末の前にいた。こちらが入ると二人とも視線を向けたが、慌てた様子はない。

 

「ローレン・ナカモトさんと、ナナイ・ミゲルさんですね」

「そうだが。研究資料へのアクセスが止められている。これはあなた方の指示か?」

「変更と外部移送だけ止めています。閲覧まで全部止めたわけじゃありません」

 

 ローレンが俺の後ろにいるマウアーへ目を向けた。マウアーは携帯端末に査察文書を表示する。

 

「お二人には、査察と記録保全に必要な重要研究人員として一時同行をお願いします」

「同行先はどちらに?」

 

 ナナイが初めて口を開いた。

 

「まずここを出ます。詳しい話は移動してからします」

「拒否した場合は?」

「正式命令での同行です。協力的ならありがたいですが、抵抗するなら拘束程度はさせてもらいます」

 

 二人とも納得した顔ではなかったが、そこで押し問答にはならなかった。必要な個人端末や手元の資料はノエルさん側で確認し、持ち出せるものだけ一緒に回す。

 

「準備してください。長くは待てません」

「ずいぶん急だな」

「こちらにも事情があるので」

 

 ローレンが何か言いかけてやめた。ナナイは俺を一度見たあと、自分の端末へ手を伸ばした。

 

 そのままクリスさんのところへ合流すると、保護対象の確認もかなり進んでいた。検査や投薬の予定表を見ながら、研究所側の医療スタッフとBLACK RAVENの医療班が、移動後も必要な処置だけを拾っている。対象者のほとんどは自分で荷物をまとめて動ける状態だった。

 

「レン、こっちは動かせる。担当を何人か一緒に連れていく」

「お願いします」

「あと治療として必要か判断がつかないものは、記録ごと持っていって外で見てもらう」

「それでいきましょう」

 

 クリスさんから渡された一覧の保護対象欄に、並んでる名前の確認だけした。

 

 ヨナ・バシュタ

 ミシェル・アベスカ

 リタ・ベルナル

 

 よし、三人ともいる。だけどロザミアとゲーツは外に出たままなのか。

 

「俺も確認します」

「うん。こっち」

 

 クリスさんと一緒に回り、三人へ順に同じ説明をした。誰も寝かされたまま運び出されるような状態ではなく、自分の足で立って話を聞いている。

 

「急で悪いけど、ここから移動してもらいます。持っていきたい身の回りの物があるなら、今まとめてください。危ない物じゃなければ持っていけます」

「どこへ行くんですか?」

「まず俺たちの艦です。その先は落ち着いてから説明します」

 

 とりあえずこの場から連れ出せればそれでいい。外にさえでれば保護できる。クリスさんへ引き継いで廊下へ戻ったところで、ノエルさんからさっきのA.E.出向者の情報が届いた。

 

『隊長、出向者の記録を回します。A.E.所属、研究協力とテストパイロット業務。氏名はペッシェ・モンターニュ』

 

 足が止まりかけた。

 

「……ペッシェ?」

『知ってるんですか?』

「名前に覚えがあります。でも、ここにいるとは思ってませんでした。現在地は?」

『研究区画内です。こちらの所在確認に応じて待機しています』

「分かりました。その人も同行対象に入れてください。A.E.との所属関係はあとで確認します」

 

 まさかオーガスタでその名前を見るとは思わなかった。U.C.ENGAGEは少ししてたが。

 

 本人のところへ行くと、ペッシェはどうして自分まで止められているのか分からないという顔でこちらを見た。

 

「ペッシェ・モンターニュさんですね」

「そうですけど。私、出向で来てるだけですよ?」

「記録は確認しました。研究協力の範囲を確認する必要があるので、一緒に来てもらいます。拘束するとかそういう話にはなりません」

「今から?」

「今からです」

 

 露骨に困った顔をされたが、それ以上の説明は移動後でいい。

 

 ノエルさん側で確保した研究記録、医療記録、被験者名簿、アクセスログの複製が順番にレイブンへ回され、持ち出す必要のない固定設備はそのまま残した。研究者も全員ではなく、ローレンとナナイを含む中核人員、治療継続に必要な医療スタッフ、記録の扱いに必要な者へ絞る。一般職員まで連れていけば、それだけ確認にも管理にも時間がかかる。

 

 マウアーから中央の差し止めが来ていないことを確認したところで、俺はエスコラ大佐のところへ戻った。

 

「こちらの搬出対象は決まりました。記録も必要分は保全しています」

「人員までこれだけ持ち出して、研究所が今まで通り動くと思っているのか?」

「今まで通り動かすことを優先してません。ただ、研究所そのものを潰しに来たわけでもないです。一般職員も設備も残します」

「私も連れていくのか」

「いえ、大佐は結構です」

 

 エスコラ大佐が少しだけ意外そうな顔をした。重要人物なら連れていくだろ見たいな顔してるけどこっちとしてはティターンズの大佐なんて面倒でしかない。

 

「残った側の処理をする人がいなくなるので。今回の査察で必要な確認は取りました。今後の事情聴取や責任確認が必要なら、正式な経路で改めて来ます」

「私が証拠を消すとは考えないのか?」

「もう保全した記録とログがあります。それに、今から何か触ればその差異で記録も残るでしょう」

 

 エスコラ大佐は黙って俺を見たあと、視線を逸らした。

 

「好き勝手にやってくれたものだ」

「文句は上に出してください。そっちまで止める気はないです」

 

 まぁここまでした以上苦情なんてティターンズ側の上層部からだから無視するが。

 

 マウアーが残す文書と連絡先を確認し、研究所側へ引き継ぎを渡す。俺たちが施設を出る頃には、先に動かした人員はほとんどレイブンへ入っていた。

 

『隊長、艦側の受入れは終わってるよ。いつでも出せる』

 

 シーマ中佐から通信が入る。

 

「こっちも終わります。俺たちが戻ったら出してください」

『了解。思ったより早かったね』

「今回は遅くしたら意味ないですから」

 

 基地の管制へ離脱を連絡し、レイブンへ戻る。艦橋へ上がると、レイアム大尉が離陸許可を確認していた。

 

「離脱経路、クリアです」

「出してください」

「了解」

 

 機体が浮き上がり、オーガスタの施設が正面表示の下へ沈んでいく。俺はそれをしばらく見てから、艦内の受入れ状況へ表示を切り替えた。

 

 オーガスタから十分離れたところで、乗せた人員の整理へ移る。

 

 未成年と保護対象は生活できる区画へ移し、医療上の確認が必要な人だけ医療班が順に見る。投薬を継続する人には研究所から同行した医療スタッフをつけた。ローレンやナナイを含む研究者は別に待機してもらい、持ち込んだ端末や資料は一度こちらで確認する。牢屋へ放り込む必要はないが、艦内を自由に歩き回ってもらう状況でもなかった。

 

「モンターニュさんは?」

「A.E.所属は記録でも確認できています」

 

 マウアーが端末を見ながら答えた。

 

「研究協力とテストパイロットとしての出向ですね。身柄の扱いについてA.E.側へ正式照会を出せます」

「お願いします。こっちの人員にする話にはしないので、そこは分けてください」

「承知しました」

 

 ノエルさんからは、回収したデータの一覧が送られてきた。複製済みのもの、原本側を保全したもの、治療上先に見る必要があるものまで分けられている。全部を今ここで読む必要はない。

 

「ナカモトさんとミゲルさんは?」

「別々に待機してもらっています。ナカモト氏は研究資料の扱いについて確認したいことがあるそうです」

「それも後で聞きます。二人まとめてじゃなく、個別で」

「どちらからにしますか?」

「ナナイ・ミゲルさんからお願いします」

 

 マウアーが一度だけ俺を見たが、理由までは聞かなかった。

 

「面談に使える部屋を確保します。準備ができ次第、こちらへ来てもらいます」

「お願いします」

 

 少しして、空いている部屋が使えると連絡が入った。俺は持ってきた端末を机に置き、必要な記録だけ表示して、残りは閉じる。

 

「では、ナナイ・ミゲルさんを呼んできます」

「はい」

 

 マウアーが部屋を出ていった。俺は向かい側の椅子を少し引き、机の上に置いた端末の向きを直した。

 扉が開いたのは、それから数分後だった。

 

「大佐、ナナイ・ミゲルさんです」

「ありがとうございます」

 

 マウアーの後ろから入ってきたナナイは、俺が記憶している姿よりずっと若かった。当たり前だ。俺が覚えているナナイは、もう何年か後の姿だった。いや本当に若いな。今18歳なのか俺よりも下だ。

 

「ナナイ・ミゲルです」

「レン・イズミです。座ってください」

 

 ナナイが向かいへ座ると、マウアーは一礼して部屋を出た。扉が閉まり、足元からレイブンの低い振動だけが伝わってくる。

 

「先に一つ。オーガスタで何をしていたかの確認だけじゃなくて、今後も研究を続けてもらえるか、その話もしたいと思っています」

「私に選択肢があるんですか?」

「あります。協力を強制するつもりはありません。ただ、断れば過去の記録が消えるわけでもないし、そこは別です」

「……分かりました。では、何から?」

 

「ナカモト博士の下で、どこまで担当していましたか?」

「ニュータイプ適性とサイコミュ反応の解析が中心です。被験者の反応、機器との適合、調整前後の変化も見ています。私は医師ではありませんから処置そのものの担当ではありませんが、その結果を資料として扱っていました」

「強化人間の研究にも関わってましたか?」

「はい」

 

「その研究は続けたいですか?」

「何を指しているかによります。ニュータイプ能力を観測し、サイコミュとの関係を調べることなら続けたいです。強化人間についても、能力を人工的に再現できるかという研究には価値があると思っています。ただ、今までと同じ方法を続けたいのか、と聞かれているのでしたら違います」

「危険だから全部やめる、という考えではない?」

「はい。危険性を無視するつもりもありませんが、危険があるから分からないままにしておく方がいいとも思いません」

 

 まぁ、その考えは俺と近い。致命的な危険でないならば解明しておかないと怖い。

 

「俺も研究自体を止める気はありません。ただ、新しい強化人間を作るのはなしにしたいんですよ」

 

 ナナイの視線が少し止まった。

 

「方法ではなく、作ること自体を禁止するんですか?」

「はい。薬で無理に能力を引き上げるのも、洗脳も、記憶や人格を弄るのもなし。本人が嫌だと言っている実験を押し切ったり、子供に危険な負荷をかけたりするのも認めません」

「サイコミュの軍事利用まで禁止するんですか?」

「そこまでは言いません。軍とは使える戦力を無視することはできませんから。でも、軍事利用するために人間を壊すのはなしです」

「投薬まで制限するという意味ではありませんよね?」

「治療のためならもちろん止めませんよ。止めたいのは、能力を上げるために人間の方を壊すやり方です」

「では、今いる強化人間は?」

「まず治療です。状態を安定させて、生活を取り戻す。その過程で治療法を調べる必要があるならやる。ただ、保護したから自由にデータを使える、にはしません。戦争孤児を保護したから自由にしていい今までが異常なのです」

 

 ナナイはそこで少し考えた。

 

「治療法を作るには継続した記録が必要です。天然のニュータイプも、長く見なければ分からないことがある。本人の意思を優先するという理由で、観察や測定まで毎回止められると何もできません」

「そこまで止めません。本人が何をされるか分かっていて、嫌なら断れることが前提です。ただし嫌だから全部というわけではないです。ちょっとした測定まで全て嫌で断られてもいけませんから。基本的には生活や教育を先にする保護に対する比重をかなり強めに置きます。そして協力を頼むのです。測定をどう組むかは、医療の人も入れて決めてください」

「大佐が決めるのではなく?」

「俺は研究者じゃないので。越えちゃいけない線は決めますけど、測定方法まで俺が決める気はありません。わかってない人があれこれ言ってくるのが一番面倒でしょう」

 

 ナナイの口元がほんの少し緩んだ。

 

「それなら、こちらからも条件があります。計画を立てるたびに軍人の許可を取る形にはしないでください。決められた範囲の中では、研究班自身で内容を決めたいです」

「それは認める方向です。人道、安全、機密。その線を越えない限り、俺たちがテーマを一つずつ決める気はありません」

「途中で軍に都合が悪くなったから止めろ、と言われた場合は?」

「安全上の問題や正式な命令があれば止まることはあります。絶対に止めないとは約束できない。ただ、理由も説明せずに成果ごと潰すつもりもありません」

「停止するなら、責任者には理由を説明してください。反論する機会も必要です」

「そこは大丈夫です。最終判断まで研究班に渡すわけにはいきませんけど、話を聞かずに切る形にはしません」

 

 そこまで確認すると、ナナイは次へ進んだ。

 

「人員の選定には意見を出せますか?必要な分野の人間をこちらから推薦できなければ困ります。それと設備です。必要なものを要求する経路も欲しいです」

「推薦はしてください。正式に誰を入れるかは、全て確認してから決めます。設備の要求経路も作る。ただ、オーガスタと同じ規模の人員や予算をすぐ用意できるとは思わないでください」

「今より研究能力が落ちる可能性がある、と?」

「あります。軍の大きな研究所を、そのまま別の場所へ移す話じゃないです。受け皿もこれから作る部分がある。必要なものは取れるように動きますけど、全部すぐ揃うとは約束できません」

「かなり不便ですね」

「そこを誤魔化して引き受けてもらっても後で困るので。その代わり、人を壊さない、隠れて別のことをしない。その線を守るなら、内容への制約はできるだけ薄くしますよ」

「設備がないことも、研究者には立派な制約です」

「それはそうですね。だから必要なものは出してください。通らない時は理由も返します」

 

 ナナイは一度頷いたが、まだ終わりではなかった。

 

「データへのアクセスは?」

「今回回収したもの全部を自由に、は無理です。個人の医療情報も、証拠として保全する記録もあります。ただ、正式に研究へ使えると決まったものは必要な範囲まで見られるようにします」

「成果だけ渡されても検証できません」

「元の記録が必要なら、その必要性を出してください。逆にこちらから確認する時も、まとめた結論だけじゃなく、元データまで見られるようにしてもらいます」

 

「監視ですか?」

「今までの何をやっているか分からない研究所には戻しません」

「内容には口を出さないと言いながら、記録は全部見せろと?」

「見られる状態にしておくことと、横から指示することは別です。隠し研究をしない。報告していない人体処置をしない。記録を後から都合よく直さない。そこは譲れません」

「……研究の自由と、秘密にしていい自由は別、ということですね」

「そういうことです」

 

 ナナイは椅子の背へ少し体を預けた。

 

「でも、その条件では人間側の能力を積極的に引き上げる研究はかなり狭くなります。サイコミュを発展させても、適応できる人間の幅には限界がある。そこはどうするつもりですか?」

「人間を機械に合わせるんじゃなくて、機械の方を人間に合わせる研究を増やします」

「それは理想論です」

「実機データがあります」

 

 俺は端末に保存していた評価記録の要約を開き、ナナイへ向けた。

 

「これは?」

「俺のMSに積んでいるバイオセンサーです。アナハイムが持ち込んだニュータイプ向けの試験装置で、簡単に言えば、サイコミュの感応をビットみたいな外部兵器じゃなくてMS本体の制御へ使おうとしているものです」

 

 ナナイの目が端末から俺へ戻った。

 

「機体そのものをサイコミュで補助して、パイロットの意思を操縦系へ反映させる?」

「そういう方向です。ただ、完成した技術じゃありません。通常のMSとして動かす分には問題ないんですけど、バイオセンサーを使った時にどこまで機体制御へ影響しているのかは、まだ実機で評価している途中です」

 

「それが、人間側を強化しなくてもサイコミュを発展させられる実例だと?」

「実例と言い切れる段階じゃないです。でも、少なくとも人間の能力を薬で引き上げなくても、機械側からできることがあるかもしれない。その材料にはなると思っています」

 

 俺はそれ以上説明せず、試験記録の一部を開いた。全部こっちから答えを教えてしまっても仕方がない。この手の記録を見せた時、ナナイが何を拾うのかも見ておきたかった。

 

 端末を自分の方へ寄せたナナイは、操縦入力、姿勢制御、生体反応、バイオセンサー側の動作記録を順番に確認していった。

 

「同じ試験の記録を同期させているんですね。操縦入力がこれで、機体側の姿勢制御がこっち。生体反応とバイオセンサーの記録も同じ時間軸にある……」

 

 俺が頷くと、ナナイは表示範囲を広げ、そのまま何度か時間軸を動かした。しばらく無言で見比べていたが、やがて一か所で指が止まる。

 

「……この部分は確認していますか? 姿勢変更が始まった時点では、まだ操縦入力が入っていません。通常の自動姿勢制御が先に働いた可能性もありますが、少なくとも記録上は、パイロットの操作より機体側が先に反応しているように見えます」

「そこです。俺たちも引っかかりました。その時の俺には姿勢を変える操作をした覚えがない。ただ、毎回起きるわけじゃないし、自動制御や別の要因もまだ切り分け切れてません。条件を変えて試してますけど再現性も安定してない。バイオセンサーを外した状態では、今のところ同じ現象は確認されていません」

「それなら、バイオセンサーが原因だと断定するには早いですね。むしろ、この要約だけで結論を出す方が危険です」

 

 ナナイはそう言いながら、今度は前後の生体反応まで表示させた。

 

「元の実機ログは残っていますか? 操縦入力と姿勢制御だけでは足りません。バイオセンサー自体の動作記録、生体反応、それから現象が出なかった試験やバイオセンサーを外した状態との比較も必要です。できれば実機も確認したい」

「全部あります。評価時に取れたログは残してますし、比較記録もあります。実機も俺のMSに積んだままです」

 

 そこでナナイが端末から顔を上げた。

 

「それを私たちの研究対象にできるんですか?」

「正式にこちらで研究を続けてもらえるなら、担当する研究班には必要な範囲で開放します。元ログも比較記録も出しますし、安全面の条件を整えた上で実機を使った確認もできるようにします。ただし、アナハイムが持ち込んだ試験装置でもあるので、外へ好きに公開したりデータを持ち出したりはできません」

 

 ナナイは再び端末へ目を落とした。さっきまで研究条件を詰めていた時とは明らかに見方が違っている。

 

「強化人間を新しく作ることは認めない。その代わり、人間の能力を上げるのではなく、機械側からニュータイプとの適応を広げる研究をさせる。その具体例として、原因すらまだ分かっていない実機とデータを出す、と。ずいぶん研究者の興味を引くものを持ってきましたね」

「制限を増やすだけじゃ、研究を続けろと言っても納得しにくいでしょう。それに、俺たちだけでこのまま眺めてても分からないことが多いです。人間を弄らなくても研究できるなら、その方を伸ばしたい」

 

「ですが、元データまで見なければ本当に研究する価値があるかは判断できません。今見えている部分だけなら、単なる制御系の異常という可能性も残っています」

「そこから先は、こちらでやると決めてもらってからです。まだ協力するって決まってない人に、機密の実機データを全部渡すほど俺も素直じゃないですよ」

 

 ナナイの口元がわずかに動いた。

 

「なるほど。研究内容を制限する話をした後で、続きが見たければこちらへ来い、と」

「そこまで露骨に言ったつもりはないんですけど」

「やっていることは同じです」

 

 否定はできなかった。

 

 ナナイは端末を返さず、もう一度入力前に姿勢制御が始まっている部分を拡大した。

 

「少なくとも、これは興味があります。本当にパイロットの操作より先に機体が反応しているなら、単なる操縦補助とは違う可能性がある。もちろん、現時点では何も断定できません。元ログも比較試験も見て、それでも残る現象なのかを確認する必要があります」

「それで十分です。最初から答えが分かってるなら、研究してもらう必要もないので」

 

 そこでナナイは端末から手を離した。

 

「研究内容には逐一介入しないという話も、そのままですか?」

「はい。人道、安全、機密の線を越えない限り、研究班で進めてもらいます。ただし記録は残してもらう。成果だけじゃなく元データまでこちらから確認できる状態にすることと、外への無断持ち出し、非人道的な実験への利用は認めません」

「研究する自由はある。ただし、何をしているかを隠す自由はない。それなら分かります」

 

 ナナイは少し考えてから、端末を俺の方へ戻した。

 

「その条件なら協力します。強化人間を新しく作れない以上、これまでと同じ研究はできませんし、研究上の制約が大きいことも変わりません。でも、ニュータイプとサイコミュの研究を続けられて、こうした実機とデータまで扱えるのであれば、別の方向から研究を進める価値はあります」

「ありがとうございます。正式な役職や所属はまだ決めません。ローレンさんとも話しますし、他の人の確認もこれからです」

「構いません。ただ、実際に任せる段階では、責任だけでなく権限も曖昧にしないでください。研究を任されても、必要な判断が何もできない立場では困ります」

「そこも含めて詰めます」

 

 俺はバイオセンサーの表示を閉じた。

 

「最後に、今日協力すると決めたことと、オーガスタでの責任確認は別です。記録を見て必要なら、また話を聞きます」

「承知しています」

 

 呼出しを入れると、間もなくマウアーが扉を開けた。

 

「大佐」

「ナナイさんは、研究協力を前提に次の確認へ進めてください。正式人事はまだです」

「承知しました」

 

 立ち上がったナナイが、机の端末へもう一度視線を向ける。

 

「大佐。設備の要求は、遠慮しなくていいんですね?」

「してください。通らない時は通らないって返しますけど」

「その方が分かりやすいです」

 

 ナナイはマウアーと一緒に部屋を出ていった。扉が閉まってから、俺は面談記録を開き、話した内容を整理し始めた。




ナナイさんは確保必須

更新が停滞してる理由の90%くらいがオーガスタ関連です。でも無視できる内容ではないので進み鈍化しましたがしかたないんです。
次話で基本的な研究所側整理は終わりです。新しい研究施設関連でまた出ますが一旦ね

気になるあの情報も次話でます。
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