続・黒いガンダムの宇宙世紀   作:いずりょう

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ここで一通り研究所の整理終わりです


第67話 残っていた名前

 ナナイとの面談を終えたあとも、確認する相手はまだ残っていた。ただ、同じ質問を順番にぶつけていくようなやり方はしなかった。医療担当にはこれまで何を処置してきたのかを聞き、研究者には担当していた分野と、研究をこちらで続ける意思があるのかを確認する。本人の話と記録が食い違えば、そこで初めて掘り下げる。全員を同じ基準で白か黒かに分けられる話ではなかった。

 

 ローレン・ナカモトとの面談も、その中で済ませた。ナナイほど長い話にはならなかったが、新しい強化人間を作らないこと、能力を引き上げるための投薬や記憶・人格への介入を認めないこと、保護した人間への処置は医療側を通し、本人への説明も必要になることは伝えた。

 

「その範囲で研究を続けろというのであれば、従いましょう。制限が増えることまで歓迎するとは言いませんがね」

「そこは別に歓迎してもらわなくてもいいです。ただ、隠れて別のことをするのはなしでお願いします」

「研究記録も確認する、と?」

「はい。結果だけじゃなくて、必要なら途中経過も見ます。ただ、研究方法まで俺が横から決める気はありません」

「分かりました。その条件であれば従います」

 

 答えだけを聞けば問題はない。それでも、これまでの研究への関わりまで含めて全面的に任せていいのかは、まだ判断できなかった。だからといって、条件を受け入れた人間を不安だからという理由だけで研究から外すのも違う。残すなら、何をしているのか確認できる状態にする。

 

 正直言えばかなり不安要素の多い人物ではある、だがそれだけで処分できるわけがないし。俺の記憶では…でそんなことをするのはさすがにやばい。残らないと言われたらどうするかかなり迷ってたと思うが。こちらで確保できて研究内容を監査できるならまぁいいかと納得することにした。

 

 他の研究員や医療要員については、マウアーとノエルさん、それに医療側へ整理を任せる形に変えた。治療に必要な知識を持ち、そのまま協力してもらえる人もいる。一方で、過去の処置への関与をもう少し調べなければならない人もいた。ペッシェさんについてもA.E.からオーガスタへ来ていた経緯と研究への関わりを確認したが、他の研究員とまとめて扱う理由はない。俺が一人ずつ最後まで面談していたら、それだけで何日あっても足りなかったはずだ。希望する人や降ろすべき人は最寄りの政府施設に無理やり押し付けた。忙しいので心中ですごく謝っておいた。

 

 そしてもう一つわかったことは原作オーガスタのMS研究はしていたみたいだがペッシェはいるがエンゲージガンダムの計画はかけらもみつからなかったことだ。

 

 その整理が進んだ頃、医療側から保護した子供たちの今後を一度説明してほしいと言われた。大人同士では移送先や治療方針の話が進んでいても、本人たちからすれば、知らない軍艦へ連れてこられたところで止まっている。

 

 使われていない共有室を一つ空けてもらい、そこへ向かうと、ヨナ、ミシェル、リタを含めた何人かの子供たちが集まっていた。医療スタッフも一緒にいる。部屋へ入った途端に視線が集まり、研究者と向かい合っていた時より妙に居心地が悪くなった。

 

「少し、これからの話をします。ここから別の研究所へ移して、今までと同じ生活を続けてもらうつもりはありません。身体の調子が悪い人はまず治療します。その上で、生活する場所と、今まで十分に受けられなかった教育を受けられる環境を用意します」

 

 すぐに反応したのは、三人より年下の子だった。

 

「学校に行くの?」

「いえ、普通の学校にはまだいけません。そしてその学校と同じ形になるかはまだ決まってません。でも、勉強できるようにはします。今までどこまで習ってきたかも一人ずつ違うでしょうから、そこを見ながらですね」

 

 年下の何人かが顔を見合わせる。その中には露骨に嫌そうな顔をした子もいて、付き添っていた医療スタッフが小さく笑った。

 

 ミシェルはそちらには加わらず、俺を見たままだった。

 

「つまり、私たちはもう研究所の被験者じゃないってこと?」

「少なくとも、研究のために生活してもらうつもりはありません。順番を逆にします。まず生活と治療と教育があって、その上で協力してもらえる研究があるなら頼む、という形です」

「研究自体はなくならないのね」

「はい。研究まで全部止める気はありません。生活と勉強面の面倒を見る、その代わりにこちらに協力をしてもらう。でも、研究することを中心したこれまでのやり方はやめさせます」

 

 リタが少し考えてから口を開いた。

 

「検査や観察は続く?」

「必要な健康診断はします。それとは別に、能力について測定をお願いすることもあると思います。ただ、何を調べるのかは先に説明します。危険な薬を使ったり、限界まで負荷をかけたりすることは認めません」

「断ることもできる?」

「研究ならできます。断ったから扱いを悪くすることもさせません。ただ、なんでもではないです。どうしても協力が必要なものもありますから。そして治療もです。身体を治すために必要な処置なら、医者から理由と必要性を説明してもらって、その上で相談することになります。この薬は苦いからいやだ、などそういうことが全て断れるわけじゃないという感じですね」

 

 ヨナはそれまで黙って聞いていたが、そこで俺を見た。

 

「今はそう言ってても、あとで方針が変わったら?」

「絶対に何も変わらないとは言えません。軍の中にいる以上、俺だけで決められないこともあります。ただ、知らない間に研究内容を変えたり、本人に黙って処置したりできないようにはこれからします。研究記録もこちらで確認するし、何をされるのか分からなければ聞いていい。納得できなければ、その場で止めて相談してください」

 

「あなたに?」

「俺でもいいし、医療の人でも、他の信用できる人でもいいです。俺が近くにいない時の方が多いでしょうから。ですが必ず意見ができる体制にはします、だれかの独裁で強制することはできません」

 

 ミシェルが腕を組んだ。

 

「ずいぶん自由にするのね」

「今までが自由じゃなさすぎたんだと思いますよ」

 

 その言葉には、誰もすぐ返さなかった。

 

 安心したというより、どう受け取ればいいのか考えている顔だった。年下の子たちの中には、学校や部屋のことを隣同士で話し始めている子もいる。その横でヨナたち三人はまだこちらを見ていた。

 

 今日ここで話しただけで信用してもらえるとは思っていない。これから実際に生活して、嫌だと言った時に本当に止まるのか、研究より自分たちの都合を優先してもらえるのか。それを見てもらうしかなかった。

 

 部屋を出ると、廊下で待っていたマウアーが端末を渡してきた。カラバ側との受け渡し調整が終わり、フォウ・ムラサメについても移送可能との回答が出ている。

 

「じゃあ、地上にいる間に引き取りましょう。こっちの処理も、俺が全部見てないと止まる段階ではなくなったし」

「レイアム大尉にも航路を回しています。出発に問題はありません」

「お願いします」

 

 レイブンはその日のうちに進路を変えた。オーガスタから連れてきた人たちの処遇が全て決まったわけではない。それでも、誰を治療へ回し、誰について過去の関与を確認し、誰が今後の研究へ参加できるのかを調べる流れまではできた。残りを全部俺が横から見続けるより、次へ進んだ方がいい。

 

 ◇

 

 カラバの拠点へ着くと、ハヤトが出迎えに来ていた。

 

「思ったより早かったな」

「こっちも長居したくなかったので。フォウは?」

「医療班が見てる。今は落ち着いてるし、移動させても問題ないという判断も出てる。ただ、この先の治療はそっちでも改めて確認してくれ」

「もちろんです」

 

 渡された医療記録は、俺が読んでも薬や処置の細かい意味までは分からない。必要な記録が揃っていることだけ確認し、そのままクリスさんたちへ回した。

 

「ホンコンの方はどうなった?」

「片付いたと言えれば楽なんだがな。街の被害もあるし、こっちはまだやることだらけだ。サイコ・ガンダムはもう使えない用破壊した。カミーユがフォウを連れ出した後は、こっちで保護してた」

「カミーユは?」

「もう宇宙だ。Mk-IIも一緒に上げた」

「やっぱり戻りましたか」

「アムロも行ったぞ」

「え、アムロも行ったって?」

 

 思わず聞き返した。

 

「ああ。鹵獲したスードリに残ってた打上げ用のブースターが二基使えた。二人とも時間をずらして上げたよ。向こうへ着いてからどうするかまでは知らんブライトがどうにかするだろう」

 

 元の流れでは、アムロは宇宙へ戻らなかった。地上で戦いには復帰しても、宇宙へ上がることには強い抵抗を残していたはずだ。

 

 そうか、今のアムロにはララァさんがいて、二人は結婚している。これから子供も生まれる。昔と同じ出来事を経験していない以上、宇宙に対して抱えているものまで同じ訳がないか。今の戦況を見て必要だと判断したんだろう。

 

「何か問題でもあるのか?」

「いや、ちょっと意外だっただけで。上で会ったら本人に聞きますよ」

「そうしてくれ。アムロの考えてることまで僕に聞くな」

「昔から一緒だったじゃないですか」

「お前のほうが長く一緒じゃないか」

 

 その言い方が妙にハヤトらしくて、少し笑った。

 

 フォウは拠点の医療区画にいた。椅子に座って端末を眺めている。部屋へ入るとすぐこちらを見た。

 

「あなたがBLACK RAVENの人?」

「レン・イズミ大佐です。一応、責任者です」

「一応なの?」

「周りが優秀でね。なんでも俺が決めてるわけじゃないので」

「変な大佐ね」

 

 軽く笑った顔を見る限り、安定してるのだろう。

 

「身体のことは、ここの医療班から引き継ぎます。必要な治療を急に止めるようなことはしません。その上で、俺たちのところへ移ってもらおうと思っています」

「研究所には戻らないの?」

「少しややこしい話になります。研究所というより研究艦に移ってもらう予定ではあります。ですがそこは俺たちが管理する。保護や治療と教育をメインにした研究艦として体制が一新されることになります」

「本当に?」

「少なくとも、戦わせるための調整を続ける場所へ戻す気はないです。今後のことは身体の状態を見ながら考えましょう。軍人になる必要も、MSへ乗る必要もありません」

「……乗れって言われると思ってた」

「今は言いませんよ」

「今は?」

「何年か先に自分で乗りたいって言うかもしれないし、二度と乗りたくないって言うかもしれないでしょう。それを決めるのは君です」

「カミーユも似たようなこと言ってた」

「それなら、あいつの方が先ですね」

「そうね」

 

 カミーユの名前を口にした時だけ、少し声が柔らかくなった。そこへ俺が何か聞く必要はない。

 

 フォウ本人にも移動する意思があることを確認し、引継ぎが終わるのを待ってレイブンへ移した。救出はもう終わっている。今必要なのは、研究所から逃げ出した強化人間としてではなく、一人の人間としてこれからどう生活するかを決められる状態まで持っていくことだった。

 

 カラバ側との受け渡しを終えた後も、レイブンはすぐには宇宙へ上がらなかった。地上で済ませておいた方がいい引継ぎがいくつか残っていたし、ムラサメ研究所とオーガスタから回収した残した人員と記録の照合も続いている。

 

 その作業中、ノエルさんから連絡が入った。

 

「大佐、ムラサメ研究所から回収した記録で、No.004に関する照合結果が出ました」

「何か分かりました?」

「No.004として登録される以前の記録と繋がっています。欠落はありますが、身元については複数資料で一致しました」

 

 情報区画へ行くと、ノエルさんが照合した資料を並べていた。被験者番号、医療記録、それ以前の登録情報が時系列で接続されている。その中に、今まで見たことのない名前があった。

 

「アマリ・ガーフィールド……これが?」

「記録上は、本名と判断して問題ないと思います。ただ、いつ『フォウ・ムラサメ』という名前へ切り替えられたのか、記憶処置との前後関係まではまだ確認中です」

「元の資料は?」

「全て保全しています。照合結果だけで上書きはしていません」

「なら、そのまま続けてください」

 

 アマリ・ガーフィールドという名前に俺は覚えがなかった。フォウになる前の本名があるのは当然だが、まぁわかっただけよしとしよう。治療するにもこういうきっかけがあれば早く思い出せるかもしれない。

 

「本人にはどうします?」

「医療側に問題ないか確認してから伝えます。自分の名前なら、隠しておく理由もないでしょう」

 

 その日のうちに医療担当へ確認を取り、フォウの部屋へ行った。移ってきたばかりで荷物らしい荷物もほとんどなく、ベッド脇の机にはカラバから持ってきた端末が一つ置かれている。

 

「また来たの?」

「少しだけ。昔の記録が見つかりました」

「私の?」

「はい。フォウになる前のものです」

 

 端末を渡し、該当部分を開く。フォウは最初、何の記録なのか分からないように画面を追っていたが、名前のところで指が止まった。

 

「アマリ・ガーフィールド。記録では、それがあなたの元の名前になっています」

 

 返事はすぐにはなかった。フォウは表示された名前を見つめたまま、何度か小さく読み返しているようだった。

 

「……アマリ」

「何か思い出します?」

「分からない。知ってるような気もするけど……今ここでそう言われたから、そんな気がしてるだけかもしれないわ」

「それなら、無理に思い出そうとしなくていいですよ。記録の確認もまだ全部終わったわけじゃないし」

「そんな簡単に言うのね」

「俺が急がせたら戻るものでもないでしょう」

 

 フォウはもう一度画面へ目を落とした。

 

「じゃあ、私はアマリなの?」

「そう呼ばれていたみたいです」

「今は?」

「そこまで資料に決めてもらわなくてもいいんじゃないですか」

 

 しばらく考えたあと、フォウは端末を膝の上へ置いた。

 

「……今はフォウでいい。アマリって呼ばれても、まだ私の名前みたいに思えないから」

「分かりました。じゃあ今まで通りで」

「この記録は?」

「持ってていいですよ。元の資料はこっちでも保管してます」

「そう」

 

 フォウはそれ以上何も言わなかったが、端末を返そうとはしなかった。

 

 その後の地上側の処理は、予定していたものから順に閉じていった。オーガスタとムラサメから確保した資料は用途ごとに分け、治療へ必要な記録は医療側が使えるようにする。研究員と医療要員についても暫定的な扱いを決め、責任確認が残っている人間まで研究へ混ぜないようにした。

 

 宇宙へ戻ってから決めなければならないことは、むしろ増えていた。保護した人たちの生活や研究再開する場所の宛は打診してあるが、どこまで設備を用意できるのか。けれど、それを決めるために地上へ留まり続ける理由はもうない。

 

 数日後、レイブンは宇宙帰還の準備を終えた。

 

 艦橋ではレイアム大尉が発進手順を確認し、ノエルさんは地上側との通信記録を整理していた。マウアーも、残った案件を宇宙帰還後の予定へ振り分けている。

 

「地上側との引継ぎは?」

「必要分は完了しています、大佐。追加の照会が来た場合も、通常回線で対応できます」

「保護対象の移動も問題なし?」

「医療側を含めて確認済みです」

 

 レイアム大尉が航法表示から顔を上げた。

 

「大佐、発進準備完了です。予定軌道へそのまま上がれます」

「お願いします」

「了解」

 

 レイブンが地表を離れた。

 

 上昇が続くにつれて地上の色が遠ざかり、窓の外を占めていた青も少しずつ暗くなっていく。やがて艦内表示が大気圏内用から宇宙航行用へ切り替わった。

 

「大気圏離脱。予定軌道へ移行します」

「了解です」

 

 加速が緩み、ノエルさんが宇宙側との回線状態を確認する。

 

「大佐、通常回線を順次復旧します。宇宙側からの通信も入れられます」

「急ぎから回してください」

「承知しました」

 

 レイブンは姿勢を変え、そのまま地球周回軌道へ入った。




アマリ・ガーフィールド が新フォウでした。たぶん予想できてた人いたんじゃないですかね?


次はアムロ視点になります
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