続・黒いガンダムの宇宙世紀   作:いずりょう

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遅くなりましたすみません。
今日から投稿再開します。基本12時に1投稿
今日明日は18時にも投稿しますよろしくお願いします


第73話 落下軌道

 フォン・ブラウンの奪還確認が一巡した頃、ブライトさんからレイブンへ直接通信が入った。

 

『地球側からブレックス准将の件で正式な詳細報告が届いた。回線で済ませるより、今後の動きも含めて直接話したい。シーマ中佐も一緒に来てもらえるか』

「分かりました。こちらの引継ぎを済ませてから向かいます」

 

 俺とシーマ中佐が揃って艦を離れる以上、ノエルさんに艦橋を預け、レイアム大尉には現在位置と周辺警戒を維持してもらう。連絡艇でアーガマへ移るだけなので、準備に時間はかからなかった。

 

 アーガマの作戦区画にはブライトさんとアムロが待っていた。壁面には地球側から送られた報告が表示されている。最上段にある死亡確認の文字は、分かっていたはずなのに目に入ると重かった。

 

「まず確認済みの部分から話す。ブレックス准将の死亡は正式に確認された。警備はレンが要求した内容を受けて増員済み。移動予定は必要な者に限定し、経路も変更していた。クワトロ大尉も現地で護衛に入っていた。それでも襲撃を防げなかった」

 

 ブライトさんはそこで表示を切り替えた。

 

「実行者の身元や、誰がどこまで指示したのかはまだ確定していない。現地では追跡と調査が続いているが、こちらから断定できる段階ではない」

 

「……俺が言った後の対策は、できることをやってたんですね」

「ああ。少なくとも、こちらで確認できる範囲ではな。警告を軽く扱った結果ではない」

 

 それなら、余計に言葉が出なかった。知っていた。かなり強く警告した。護衛を増やして、予定を隠して、経路を変えて、一人にするなとまで言った。それでも死んだ。今まで変えられたことはいくらでもある。だから歴史が決まっているなんて思わない。それでも、準備したから全部防げるわけじゃないという結果だけは、目の前に残った。

 

「そこで止まるんじゃないよ、レン」

 

 横からシーマ中佐が言った。

 

「守る側は毎回防がなきゃならないが、仕掛ける側は一度通せば終わりだ。戦場なら撃たれても次の手があるが、こういう仕事は一発で結果が決まる。これだけ警戒を上げて抜かれたなら、誰か一人の油断で片づける方が危ない」

 

「分かってます。ただ……嫌になりますね」

「そりゃそうだろうさ。だが、誰が得をしたかと、誰が命じたかは別だ。そこを一緒にするなよ」

 

 ブライトさんも頷いた。

 

「政治側も同じだ。連邦軍全体の指揮をティターンズへ正式に一本化するところまでは進んでいない。ただ、個別の案件で向こうが優先される例は増えている。ブレックス准将がいなくなったことで、反対する側が弱くなるのは避けられん」

 

「クワトロ大尉は?」

「まだ地球だ。現地の事後処理と警備側の確認に残っている。こちらへ戻す話もまだ決めていない。それに、准将が亡くなったからといって、今すぐ誰か一人へ政治も軍事もまとめる状況じゃない」

 

 それでいいと思う。俺が知っている元の流れでは、ブレックスの死はシャアを前へ押し出す大きなきっかけになった。だが、今のクワトロ大尉が同じ位置にいるわけじゃない。アムロもいる。ブライトさんも、ヘンケン艦長も、それぞれ自分の責任で動いている。

 

 その確認を終えたところで、作戦区画の呼出し音が鳴った。

 

『艦長、緊急です。ティターンズ側のMS一機が共通周波数で投降を宣言しています。武装は放棄。パイロットはサラ・ザビアロフと名乗っています』

 

 ブライトさんとアムロが同時に表示へ向いた。

 

「サラ……」

 

 アムロが名前を口にした。フォン・ブラウン周辺での戦闘記録で俺も確認している。ジェリドたちと一緒に出てきて、仲間を一人失ったあとに離脱した少女だ。

 

「受け入れろ。ただし通常の投降手順どおりだ。機体と本人を別に確認して、武装解除が終わるまで近づけるな」

『了解』

 

 ブライトさんが返答を切ると、シーマ中佐が椅子へ背を預けた。

 

「ずいぶん忙しい日だね。しかも、ただ逃げてきた顔じゃなさそうだ」

 

「まだ顔も見てないでしょう」

「このタイミングでわざわざ名乗って投降だ。何か持ってると考える方が普通さ」

 

 その通りなんだけど知ってる俺と違ってここまで正確に予想できるのは流石だな。安全確認を終えたサラが作戦区画脇の会議室へ連れてこられた時、最初に口にしたのは自分の処遇ではなかった。

 

「グラナダに、コロニーを落とす準備が進んでいます」

 

 一瞬、部屋の中が静かになった。グリプス戦役でグラナダを狙ったコロニー落としがあったことは俺は覚えている。そして俺は、一度すでに本物のコロニー落としを経験している。

 

「どこまで知っている?」

 

 ブライトさんの問いに、サラは少し迷ってから答えた。

 

「全部ではありません。私は作戦を立てる立場じゃないです。移送に使うコロニーの進路変更が始まっていることと、目標がグラナダだということ、護衛戦力をつける準備が進んでいることは聞きました。正確な艦の数や配置までは知りません」

 

「開始時刻は?」

「最終時刻までは。ですが、もう動き始めているはずです。私が知っている移送予定域と、関係する部隊の識別情報は出せます」

 

 ブライトさんはすぐに担当へ回すよう指示した。サラから受け取った位置情報と識別情報を、アーガマだけで判断せず、ラーディッシュ、レイブン、アルビオン、それに月側の観測情報と突き合わせる。

 

「なぜ持ってきた?」

 

 今度はアムロが聞いた。

 

 サラはすぐには答えなかった。

 

「私は……シロッコ大佐を否定したいわけではありません。でも、グラナダに人がいることを知っていて、何も言わないまま落とすのを見ているのは違うと思いました。シドレが死んだことも、フォン・ブラウンで見たことも、関係ないとは言えません。でも、それだけが理由でもありません」

 

「AEUGへ入るつもりで来たのか?」

「分かりません。そこまで決めていません」

 

 少なくとも、用意された答えを言っているようには見えなかった。だから信用できる、という話でもない。

 

「シロッコ大佐は、あなたがここへ来ることを知っていますか?」

「分かりません。私は誰にも許可をもらっていません」

 

 俺がそこを聞くと、サラは少しだけ表情を硬くした。

 

「疑っているんですか?」

「情報は使います。でも、この情報が俺たちへ届くことまで含めて誰かが考えている可能性は捨てません。あなたが嘘をついていると言ってるわけじゃないですがすぐに信頼できる話じゃない」

 

 サラは納得した顔ではなかったが、反論はしなかった。

 

 しばらくして、照合結果が返ってきた。月側の観測記録に、大型構造物の航跡と複数の随伴艦が引っかかっている。通常の移送と見るには進路変更が大きく、サラの示した予定域とも重なった。まだ全ての航路が確定したわけではないが、現在の加速と進路を延長するとグラナダ側へ寄る。

 

「本物と見た方がいいな」

 

 ブライトさんが表示を見ながら言う。

 

「はい。少なくとも、ただの脅しとして待つ理由はないです」

 

 0083の時も、落ち始めてからでは使える手が急激に減った。大質量物は、最後に火力を集めればどうにかなる相手じゃない。

 

「ただ、この情報が本物でも、出てきた経路まで偶然とは限りません。シロッコが知っていて流させた可能性もあります」

 

「目的は?」

 

 アムロに聞かれたが、そこは分からない。

 

「そこまでは分かりません。別のティターンズ系統の作戦を潰したいのか、俺たちをグラナダへ引っ張りたいのか、それとも本当にサラさんが単独で来ただけなのか。今はどれも断定できません」

 

「だったら、罠を疑いながら止めるしかないね」

 

 シーマ中佐が表示へ目を細める。

 

「嘘の餌より、本物を餌にした方が相手は食いつく。コロニーが本当にグラナダへ向かってるなら、情報をくれた相手の腹を読むのは後だ。出てくる護衛と、別方向から来る部隊を警戒しておけばいい」

 

「同感だ。グラナダへはすぐ警告を出す。避難準備も始めてもらう」

 

 ブライトさんが通信担当へ指示を回し、俺たちはそのまま作戦表示を囲んだ。

 

「止め方は、まず軌道を変えることを優先したいです」

 

 俺が言うと、アムロが頷いた。

 

「壊せば終わりじゃない。砕いた破片も同じ速度を持ったまま飛ぶ。グラナダの近くで細かくしたら、被害の形が変わるだけになる」

 

「デラーズとの一件で嫌というほど見ました。まず、今使われている推進設備か、曳航している艦が残っているならそこを使って進路をずらせるか確認する。制御を取れるなら取る。それが無理なら、どこへどれだけ力を加えれば衝突コースを外せるか、技術側に計算してもらう」

 

「護衛はこっちを近づけさせないようにするはずだ」

 

 シーマ中佐が続けた。

 

「全員でコロニーへ張りつけば、外から撃たれて終わる。護衛を受ける組と、実際にコロニーへ取りつく組は分けた方がいい。向こうが何を守ろうとするか見れば、使える制御設備がどこに残ってるかの手掛かりにもなる」

 

 ブライトさんは作戦図へ複数の進入軸を出した。

 

「アーガマは迎撃側へ出る。ラーディッシュにも同じ情報を回して、ヘンケン艦長と進入方向を調整する。レンは?」

 

「レイブンも出します。アルビオンには俺から任務目標を回します。外周から護衛戦力と随伴艦の動きを見てもらう。具体的な接近と継戦判断はシナプス少佐に任せます」

 

「分かった。こちらも互いの艦を一か所へ重ねない。まず観測範囲を広く取る」

 

 その間にも計算結果が更新されていく。サラの証言だけだった話が、観測値と重なるにつれて作戦上の現実へ変わっていった。

 

 ◇

 

 サラはアーガマ側の管理区画へ移された。事情聴取を続けるにしても、いきなり自由に歩かせるわけにはいかない。

 

 その移動の途中で、レコアさんと短く接触した。

 

 二人は管理要員の前で数分だけ言葉を交わしたが、俺はその場には残らなかった。投降者だからといって、必要以上に会話を盗み聞きする理由はない。ブライトさんも管理下での短い接触まで止めなかった。

 

 その後、出撃準備のため格納庫へ向かう途中でレコアさんを見かけた。

 

「レコアさん、メタスの方は間に合いそうですか?」

 

 声をかけても、すぐには返事がなかった。手元の端末を見たまま一拍置いてから、ようやく顔を上げる。

 

「ええ。補給と点検は終わってる。出すなら動けるわ」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 それだけだった。疲れて考え込んでいただけかもしれない。ブレックス准将が死んで、次はコロニー落としだ。誰だって普段どおりではいられない。

 

 それでも、俺は引っかかった。俺が覚えている元の流れでは、レコア・ロンドはこの先シロッコへ近づいていく。だからといって、今ここにいるレコアさんが何を考えているかまで分かるわけじゃない。まして、まだ何もしていない人間を未来の記憶だけで疑って処分するなんてできない。

 

 今後やらせそうな単独潜入だけは事前にしないように後で忠告しとくか。

 

 連絡艇へ戻る前に、ブライトさんから最新の軌道計算が届いた。大型構造物はコロニーと見てほぼ間違いなく、現在の進路を維持すればグラナダへの衝突コースへ入る。細部の誤差は残っているが、対応に使える時間は日単位ではなく、数時間単位まで縮んでいた。

 

 レイブンへ戻ると、ノエルさんがすでに共有情報を艦橋表示へまとめていた。アルビオン側にも同じデータが回り、シナプス少佐から外周側へ展開可能との返答が入っている。

 

「隊長、グラナダ側も避難準備開始を確認しました。コロニー周辺の護衛反応は複数。まだ全数は出ていません」

「分かりました。レイブンは迎撃航路へ。アルビオンとは観測情報を切らさないでください。MS班は出撃準備。コロニーを壊す判断は軌道計算が出るまで保留します」

「了解です」

 

 シーマ中佐が自席へ戻りながら表示を見た。

 

「護衛がどう出るかだね」

「はい。まず、コロニーまで辿り着きます」

 

 レイアム大尉の操作でレイブンが進路を変える。正面表示の端では、共有されたコロニーの予測航路がグラナダへ向かって伸びていた。

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